シナリヲ概要

竹取物語より廿四月後。
かの竹取の翁、竹やぶにて再びをとめを見つけたり。
是を養ふことを心に決し、しかと知らず、これより後の悲劇の種となることを。

推奨すべき人数:三至四人なり。
想定される遊戯時間:およそ三時間(オンラインのテキストセッションの場合は九時間)に及びけり。

現代語バージョンはこちら。




本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」


※注意:以下にはシナリオのネタバレが含まれます。























司る者に対する情報

平安の世に乱れを生じんとするなひやるらとほてぷ、夢幻の国の底深く封じられしガグの稚児を地上に連れ出でんとし、その稚児を竹やぶに放ち竹取の翁に養わしめん計を巡らす。かぐや姫の月に還られしのち寂しきを嘆く竹取の老翁、すげなくしてなひやるらとほてぷの罠に陥り、ガグの子を新たなるかぐや姫として育て始むる。
かぐや姫の還り給ふを御知りあそばれし帝、再び姫に御求婚あそばされんと竹取の老翁の所に探索者を遣ふることを欲しあそばしける。然れども・・・。
是れのシナリヲ、クトゥルフ神話TRPGと「平安京怪異譚」に即すなり。『平安京怪異譚』は即ち「クトゥルフ・コデックス」に載せらるる平安京を主題とする職や技、時代の背景などの追加法度なり。是れのシナリヲにおいては、「かぐや姫」讃える和歌を詠むみぎりの現わるる。臨時に歌を思いつくは困難なり。是によりて、司る者は予めプレイヤーに、和歌を詠む可能性ありと告げ、事前に考へ来るよう勧むべし。
新たに探索者を創るにあたり、交渉や人との繋がりに関する技能の他、〈ナビゲート〉、〈オカルト〉(「クトゥルフ・コデックス」を持つならば〈土地勘〉、〈宗教知識〉)、〈芸術:和歌〉など、推奨する技能として示すべし。

和歌

シナリヲの中に於いて、交渉や情報収集などのために運命を定める必要が生じた場合、〈説得〉や〈言いくるめ〉などの運命を定めるに代り、〈芸術:和歌〉に成功することは、雅なる歌にて相手を感動せしめ、情報を探り出したり協力を得たことと見做すてもよし。プレイヤーが実際に和歌を詠んだ場合、司る者は己の裁量によりて、判定に賞賛を加えてもよし。


異国の語を禁ず

是のシナリヲ、平安の時代を舞台とす。然るに、プレイヤーが異国の語を用いてしまうこと、探索する者は己の口より未知の言語を発せしことにより、宇宙の恐怖を感じ、1/1D6の精神の均衡を失ふ。是における異国の語とは、主として片仮名により表記せし、欧米より伝わるる語を指すものなり。細かな定義設けず、現場に在る司る者および探索する者の裁量に委ね、其の場の雰囲気に依りて定める方が、セッションの盛り上がりを増することよろし。又、公平を期するため、司る者が異国の語を用いてしまったついでには、探索する者の精神の均衡を1回復せん。尚、文章の読解を容易にするため、シナリヲ中には従来通り異国の語を使用する。司る者は、セッション中にシナリヲの文章を読み上げる際にも、異国の語に留意すべし。

NPCの立ちたる絵の画像について

NPCの立ちたる絵の画像を用ゐる折には、次のことにご留意くださいますよう、お願ひ申しあげるべし。

・当シナリヲの頁に掲載せしNPCの立ちたる絵の画像の著作権は、おまつりミート@NIPque様に帰属すべし。
・改変、二次配布、他のシナリヲにおける使用を差し控えてくだされば幸ひ。
・リプレイ動画やネット配信などに使用の場合は、著作権者を明記くだされば幸ひ。
・営利目的の使用は差し控へくだされば幸ひ。

NPCの立ちたる絵をダウンロードし給へ


シナリオの導入

此の物語の舞台、平安の世に候ひて、竹取の物語にてかぐや姫の月に帰りし後、廿四月の歳月を経る頃なり。春の陽の巡り夏の日に移りぬる折。竹取の翁、久しく顔を見たく心に思ひを致し、その便りを以て、探索者、竹藪にある彼の屋敷へと歩みを進めむることに始まる。

竹取の翁、竹取の物語に於いて竹藪にてかぐや姫を拾われた人物にして、廿四月の歳月を経てかぐや姫の月へ還られた後は念じてはならずともひとり娘の思いを胸に抱き、竹藪の屋敷にて嫗と共に穏やかに過ごされて居りけり。探索者が竹取の翁より声を掛けられた事由は、竹取の物語にてかぐや姫にまつわる出来事の折りに親しくなり、あるいは古くからの知己にてあるるか、遠縁戚にてあるか、彼の竹取りの業にて縁遠きものありとしも、その如何なる由縁もプレイヤーの心に委ねらるべし。

竹取の翁の屋敷は平安京より歩みて四半時の山中にあり。屋敷に近付きぬると探索者の〈聞き耳〉たる者は、竹取の翁の屋敷より幼子の啼き声を聞くことに気づき給う。屋敷の門前に嫗が探索者を出迎へ、久しぶりの再会を喜ばしむ。竹取の翁は嫗の後ろに白布に包まれた幼子を抱き、生き生きと泣く幼子を心をこめてあやし給ひつつあられる。

実は数週間前、竹取の翁の竹藪にて竹を取りたる折に、再び光り輝く竹の中より幼子を発見せらるるあり。嫗と共にこの子を育てんと決意せられたのである。かくて子の育てを始め給へば、次第に竹取の翁は此の幼子を誰かに誇らしくもって自ら示さんと欲するに至れり。探索者にて旧き日の交わりの間柄なる者は、いつしか思いがけず再び会いたひとの文を綴りたるものなり。しかしこの時、嫗の入り知恵により、幼子のことは一切示さんこととなりしが故、文に幼子の事は全く記されざるに至り。かの竹取の翁および嫗は、かぐや姫の月に帰りしことに心を寄せたまひて、かの神々がこの子を遣わしめたことを信じ給ひ、この幼子を再び「かぐや姫」と名づけ、これに深い愛情をもって待遇せられて居られる。彼等の新しき「かぐや姫」への愛情は厚く、探索者が彼女の存在を疑わしかば或いは子の育てを中断せられんことに忠告を受けしめたりしても、決して心の惑ふことなし。探索者が〈心理学〉や〈精神分析〉、〈洞察〉などにたりしは、彼等のかぐや姫を育てることへの歓びと、その強固な決意を見抜くことができるべし。

◆竹取の翁(たけとりのおきな)
平安京よりやや遠く離れた山間に住まひし者、竹の収穫を業とし、販ひをなす翁。昔竹藪にて赤子を発見し、その子を育て給ひし経験あり。其の子、のちに「かぐや姫」として称ふるに至る。しかるに、やがて彼女、月よりの迎へに連れられ、本来の故郷たる月へと還らざりけり。
かぐや姫が月に還り給ふ後、時は廿四月を経たり。昔ながらの愛しし娘の幸福を祈りつつも、いささかの淋しさを感じつつ、今日も竹藪にて竹を取り、嫗と共に平穏なる日々を送る。背に竹を負ひつつ、かくしていつくしみあふれん。

竹取の翁、竹を取ることを生業とする老人
STR 11 CON 11 SIZ 11 INT 11 POW 11 DEX 11 APP 11 EDU 11
正気度 55 耐久力 11
ダメージボーナス:0
武器:まさかり 70%, ダメージ 1D6
技能:竹を取る 99%, 竹藪で赤ん坊を見つける 99%, 土地勘 80%, 地位 50%, 本草学 80%, 製作(竹細工) 80%, 子育て 70%


◆嫗(おうな)
竹取の翁の妻である嫗。先の竹藪より拾ひ来たる赤子を共に育てた経験あり。人生の学び深き女性なれば、翁にとりては深き相談者なり。心穏やかなり、かつ鋭き洞察力あり。翁は思い立つままに行動せるが、老嫗は時に厳しく、時には優しく接し、夫婦として長き歳月を共に過ごす。

嫗、竹取の翁のよき理解者
STR 8 CON 13 SIZ 8 INT 17 POW 18 DEX 10 APP 15 EDU 18
正気度 90 耐久力 11
ダメージボーナス:-1D4
武器:組みつき 70%, ダメージ 組みつき
技能:言いくるめ 70%, 洞察 80%, 土地勘 80%, 本草学 80%, 医術 70%, 聞き耳 70%, 説得 70%, マーシャルアーツ 70%



探索者は此処にて延々と、竹取の翁よりかぐや姫の話を聞かされんこととなりけり。探索者が真面目に話を聞くならば、次の如くの情報を手に入れむことあり。

■ かつてのかぐや姫は竹取の翁が竹藪にて拾い得たる女の子なり。

■ 彼女の成長することすくすくと、やがてその美しさにて五人の公たちを魅了せしめたり。然れどもかぐや姫は彼らに入手困難なる宝を課題として与えることにて、彼らの好意を跳ね除けたり。

■ やがて帝からも好意を持たれし彼女は三年に渡り文通をせしも、月よりの使者の迎えによりて月に帰りしとされり。

■ 此度のかぐや姫も竹取の翁が竹藪にて光り輝く竹の中より見つけしものなり。

■ 此の竹かつてのかぐや姫の時よりも、直径にして一周りも二周りも大なり。又その竹は銀色に光り輝けり。

■ 竹取の翁と嫗、此の子がかぐや姫の生まれ変わりなると信ずるに至りて再び「かぐや姫」と名付けて大切に育てたり。

此の後、かぐや姫の自慢話を散々聞かされし探索者は夕刻にてようやく帰路につくことを得ん。

帝よりの勅令

竹取の翁の屋敷へ足を運んでから数週間を経て。平安京には次の如き良からぬ噂が広まり始めたり。即ち夜ごとに巨大な怪物が都を徘徊し、行き交う牛車に襲い掛かり、牛やその乗者を食らうとのことなり。此処で〈聞き耳〉、あるいは〈オカルト〉、〈土地勘〉、〈宗教知識〉などに成功せし者は「噂の怪物の恐ろしきこと、鋭利なるかぎ爪を持ちて、顔には縦に開きし巨大な口を有する」との語りを聞いたことありと聞く。この恐るべき怪物の姿を思ひ起こしたり耳にした探索者は、0/1の精神の均衡を失ふ。

一方、此の頃、廿四月前にかぐや姫に見初められた帝の耳にも新たなかぐや姫の帰還の知らせが届けられし。帝は居ても立ってもいられず、再び彼女に御求婚あそばせんとするために彼女を保護せしむる竹取の翁に取次いでもらおうと翁の知己である探索者を招来することに定めたり。帝との謁見は平安京北部に位置する宮城、大内裏の政所にて行はれるべし。政所に踏み入れし探索者は帝の御前へと通されん。政所の最奥に位置せし帝の座には、威厳に満ちたりし姿が座してあり。この高貴なる御方こそが、平安京を統べりあそびし帝なり。帝は鋭き眼光に知恵と権威の象徴の如き髭をたくわえてあり。一挙手一投足は真に雅にてあり、全身が後光に照らされて雅に眩しく輝きあそばしける。

◆帝(みかど)
尊き皇族の子孫にして、平安京の栄華を象徴する者なり。天下を統べる権威と権力を有し、その威厳ある姿は大いなる魅力として、平安京の人々の敬意を集め給う。
かぐや姫の美しさに一目惚れし、三年の歳月をかけて和歌をやり取りし、御求婚まで至るものの、彼女は月の都に帰り給う。その後は、どこか心に何かが欠けたるがごとき喪失感を覚えながら日々を送る。

帝、平安京を統べりし者
STR 13 CON 13 SIZ 13 INT 18 POW 14 DEX 11 APP 18 EDU 21
正気度 70 耐久力 13
ダメージボーナス:+1D4
武器:キック 70%, 1D6+DB
技能:地位 99%, 説得 90%, 経理 90%, 芸術(和歌) 90%, 法律 80%, 宗教知識 70%, 乗馬 70%


帝は穏やかに語りかけ「よく来た」と告げあそばされ、次には興奮気味に語り始めん。「朕が使者より伺ふは、竹取の翁より何やら趣深き話を伺ひ給ふとものか。竹取の翁のかぐや姫と同じくしてふたたび竹の中より赤ん坊を見出し給ひしとか。その子はきっとかぐや姫の生まれ変はりに違はざらむ。かぐや姫の帰り来たるか!」と。
さらに、「朕の心には、廿四月の別れを経て再びかぐや姫に逢ひたく熱き願ひ有る。故に竹取の翁に頼みたきことある。朕が其の新たなかぐや姫に求婚を申し込むことを願ふを、そなたらに竹取の翁へと伝え給へ」と、探索者に依頼す。
成功の報奨として、土地や高価な織物、抑えられた地位などが与へられん。是れは探索者の職業や背景に応じて自由に選ばるべし。いずれを選ぶとも、シナリオの完遂により地位の技量を+1D10%伸ばせる可なり。

是れは帝、至上の者の望みなれば、探索者はこの依頼を拒むことを許されざるなり。もし探索者が拒むならば、護衛の者たちは探索者を刀や槍で威嚇し、「帝のご命令に背くか」と脅かさん。帝は広い心を以って「まあまあ、抑えよ」として、護衛の者たちの興奮を鎮めながら、再び探索者に依頼を請う。キーパーはこれを繰り返せば、やがて探索者は応じるであろう。


翁の屋敷

竹取の老翁の住まう屋敷へ至る山道、その周りには青葉茂み、足下の小道は新緑の葉でおおわれていたり。〈目星〉をもってかの者、あるいは〈生物学〉に長じた者は、この折に竹の葉に隠れし巨大な足跡を見出さん。その足跡、人間のものよりも一、二周りも大きく、その指には獣のかぎ爪の如く、竹取の翁の家と平安京を幾度も往き来した跡であることを聞く。

更に山路を進みて、竹取の老翁の屋敷に至る。屋敷には竹取の翁と嫗が探索者を迎え入れる。かのふたり、以前に会った折とは異なり、何やら困り顔をしていたり。〈心理学〉をもってかの人々の焦れる様から、かぐや姫に何か良からぬことがあったのではなかろうか、と推し測ることができたり。

翁の憂愁

彼らの心を悩ますは、数週前に拾いし新たなかぐや姫なりき。竹取の翁により拾われし後、かぐや姫はいと大きく育ちゆきぬ。今やその背丈も翁や嫗のそれをも凌駕し、仰ぎ見むとても難きほどに至る。然れども彼女の成長に必要なる食欲は益々たけく、屋敷に存る食材を皆喰ひ尽くし、更に竹取の翁の日々取りたてる竹をも余さず喰らい尽くしたとか。屋敷に食べ物乏しくして、また生活を支えし竹材の販売も品不足により売上の落ち、途方にくれにけり。

翁よりの問いかけ

竹取の翁、かぐや姫の凄まじき食欲に、彼女を育てゆく自信を喪ひ、やがては早く月へ還りゆくべしとの念を抱き始めたり。是にて翁、探索者にてかぐや姫を月に還す術を求むる。翁自らかぐや姫に関する情報はほとんどなきにしもあらず。彼が思考する所とて思い得るのはかぐや姫を拾いし竹藪にほかならず。老翁によればかぐや姫の銀色に輝く大きな竹の中より見出されたるとのことなり。探索者、詳しきを問うれば、翁、かぐや姫を発見せし竹の在り処を詳らかにしてくれむ。是れは此より更に山の奥にて四半時の地なり。

帝の意志を伝う

帝、かぐや姫に求婚せんと欲してり。是を竹取の翁と嫗がかぐや姫へ伝えむと、竹取の翁、一言にて快く承諾す。是なる理由、かぐや姫により屋敷の食料を尽くされしが故なり。此の際、キーパーは先の「翁よりの問いかけ」の趣旨を交えて、翁ら、帝よりの求婚につきてかぐや姫を説得せしむるに、探索者に竹藪の探索を依頼すべきかを交渉の条件とせむ。

かぐや姫の正体

是実に、今回竹取の翁が拾いし者はかぐや姫にあらず、なひやるらとほてぷが夢幻の地の底より連れ来たりしガグの子、がぐや姫なり。幼少にて成体の如き力を持たずとも、巨大な口と四肢を有し、食欲旺盛なる恐ろしき怪物なり。育てし親、竹取の翁や嫗は食らわんとするものの、屋敷の食糧を尽くした後、夜ごとに平安京にて襲撃し、牛車や人を喰らうのだそう。

がぐや姫、昼は翁の屋敷の奥にあるかぐや姫の間におる。竹取の翁と嫗によるところの、がぐや姫、恥ずかしがり屋なれば、見知らぬる者には決して顔を見せずとか。彼女に会うを望むれば、〈説得〉や〈言いくるめ〉、あるいは〈芸術(和歌)〉の才をもって成功し、翁と嫗から許しを得ねばならぬ。竹取の翁より許しを得れば、間を窺うこと可し。然るにそこには、着物を纏うる化物あり。此怪物を目撃する探索者、1/1D8の精神の均衡を喪ふ。がぐや姫、うなり声をあげのみ、意思疎通せず。探索者、部屋に入ろうとすれば、速やかに戸を閉じて隠れんとす。

◆がぐや姫(がぐやひめ)
かぐや姫の偽り。月に帰りし後、竹取の翁にて廿四月の歳月を経て竹の中より拾われ、育てらるる者あり。その正体は夢幻の国の底深くにて封じられしガグの幼生なり。邪悪なるなひやるらとほてぷに連れ出され、平安京に解き放たれしといふ。
大いなる口と四つ腕の巨大な怪物にて、夜ごとに牛車を襲い、牛や人を喰らいつつ、ますます成長す。

ガグヤ姫、夢の世界から来たりし怪物
STR 20 CON 18 SIZ 20 INT 11 POW 10 DEX 8
正気度 該当せず 耐久力 19
ダメージボーナス:+1D6
武器:かみつき 25%, ダメージ 1D10
かぎ爪 40%, ダメージ 1D4+DB
正気度喪失:ガグヤ姫を見て失う正気度ポイントは1/1D8


翁の竹藪

老翁、かぐや姫を見出せるる場所、草木茂みし深き竹藪の奥にあり。奥に進みて、四方に高き竹のそびえ立ち、日の光ほとんど遮られて、昼にしても薄暗し。地面、落ち葉に覆われて少し湿り、時折り小さき水たまり見ゆる。新たなる竹と湿気る土の匂い交じりあいて、濃き深緑の香りマイナスイオンを運ぶ。
目的地に無事に至らんと欲する者、〈土地勘〉や〈ナビゲート〉の技をもって成功せねばならず。失敗する探索者、道中に転びたり、木の枝にひっかかりたりすることにて、1D3の耐久を喪ふ。
竹藪を進むと、やがて小さなひらけた場所に達する。是れ、半径10mばかりの円形の小空間なり。不思議なることに、中央に一本を除き、竹は生えず。そして中央には、他の竹より直径にして一周りも二周りもある太き竹あり。此の竹、地面より1mほどの高さにて幹を斜めに切りたるあり、その新しき切断面より、竹取の老翁、かぐや姫を見出せし竹なることを知る。斧や刀剣などの武器の技に成功せば、是れ竹の切断面より、相当なる達人の手によりしものと感じ取ること可し。

夢幻の地への門口

〈目星〉の技に成功せし者や、此の竹の中に手を突けりとも、銀色の奇なる鍵を竹の中に見出しにけり。実は此の鍵、なひやるらとほてぷのがぐや姫を連れて来し折に竹の中に落とせるものなりき。是鍵、この世界と夢幻の地を結ぶ力を有す。銀の鍵を手に取れば、鍵、眩しき光を放ち、周囲の者の突如強き睡魔に襲わることあり。

次に目覚めむと、見知らぬる狭き空間におる。其の空間、部屋とは言へども階段の踊り場の如し。天井は高く、壁や床、石造りにて冷たく触れば冷えたり。前方に延々と続くる下りの階段あり。左右の壁には等間隔に松明をかざり、周囲を淡々と照らしており。階段の逆側の壁には大なる鉄製の扉存する。是扉、閉ざりて押せども引けどもびくともせず、また殴りても一筋の傷付かず。先ほどの銀の鍵、探索者、手に持ちたり。然るに此の扉には、鍵を差し込むような鍵穴は見当たらず。

〈クトゥルフ神話〉の技に成功せし者ならば、此の階段、夢幻の地へと続く七十の階段なることを悟りむ。此の階段を降りゆくれば、四半刻ほどの後、炎の柱が天井までそびえる巨大な洞窟に到達せり。此の炎、赤より橙、紫へと刻々と色を変えゆく。此の地、夢幻の地と人の夢の狭間にある炎の洞窟なり(詳しくは「ラヴクラフトの幻夢境」を参照されたし)。〈宗教知識〉や〈オカルト〉の技に成功せし者、此の場所、何等かの宗教に関わる神殿の如き場所なりきと気づく。

炎の洞窟

此の洞窟、真直に伸び、其の最奥に大なる扉あり。扉の前には神主の如き身なりの男二人立ちたり。彼ら、此の神殿の神官、ナシュトとカマン=ターなり。平素の彼ら、此の場所にてドリームランドに参りし訪れる者の案内を務め給ふれども、今日に於いてはとある事件のため、人の夢と夢幻の地とを行き来する者たちに神経を尖らせつつあり。其の事件とは、しばし前に、なひやるらとほてぷ、夢幻の地の底深く封じられし凶暴なるガグの幼生を人の世界へと持ち出さんとするに及びてのことなり。

此のガグ、竹取の翁が竹藪にて新たに拾いし「がぐや姫」、あるいは、正しくは「がぐや姫」なり。ナシュトとカマン=ター、再び此の如くの出来事が再び起こらんことを祈りつつ、なひやるらとほてぷを警戒し、暫くの間、夢幻の地と地上を結ぶ扉を固く閉ざしておりぬ。

ナシュトとカマン=ターとの対話

探索者、彼らに事情を述べば、ガグの成長するに大なる口と四の手を持つる巨人となり、人々や獣を食み散らかする、と告げり。彼ら非常に親切なりて愛想良き人なりき。然れども、ガグを如何にかする方法を問うると「もはや終わりなり」と頭を抱えり。それにも探索者しきりに尋ねんとすれば、彼ら、覚醒の世界におる本物の「かぐや姫」ならば、ガグに勝つことあろうかと漏らす。彼らの言によれば、かぐや姫のうわさ、此のドリームランドにも聞えており。彼女の非凡なる力ならば、がぐや姫にも対抗せしむるかもしれずとなむ。然し本物のかぐや姫、廿四月前に月に帰りぬるが故、彼女の助けを借りんとすれば、月より呼び戻さねばならず。かぐや姫を呼び戻するための鍵、竹取の翁と嫗の手にありき。ナシュトとカマン=ター、かぐや姫の事ならば竹取の翁と嫗に相談すべし、と探索者に助言せり。

覚醒の世界への帰還

ナシュトとカマン=ター、やり取りを終え、「銀の鍵、我が世界と覚醒の世界を結ぶ大事なりて、それを返すれば我らが探索者を元の世界に帰す」と申す。彼らの求むるままに銀の鍵を差し出せば、探索者、竹藪へと返されん。万一、鍵を返さんと思うならば、鍵が我らに必要なることを説きたり、何かの取引を持ちかけんと欲する。是なる内容、キーパーの判断によりて、その上で〈説得〉や〈言いくるめ〉、又は〈芸術(和歌)〉などの技に成功すれば、銀の鍵を差し出さずとも元の世界に帰ることありぬ。判定、失敗せば、銀の鍵を差し出さざる限り、此の洞窟より出ず。


かぐや姫

元の世界に還りし探索者、竹取の翁の屋敷に向かうと、屋敷の門の内側から破られたるを見ゆ。さらに屋敷より大なる足跡の平安京に向かいて続く。屋敷の内には竹取の翁と嫗、腰抜かして倒れたり。彼らの言によれば、ついさきほどかぐや姫に帝の求婚の話をせしところ、かぐや姫、突然荒れ出でて門を破り、都の方へと猛々しき勢いで走り去りしとのことなり。竹取の翁と嫗、「あの姫、もしやかぐや姫ならず、他の如何にもおぞましき怪物なりけるかもしれぬ」と薄々感じつつ、憂えて落ち入る。

かぐや姫の置き土産

月に還りしかぐや姫を呼びかえす術につき、竹取の翁と嫗に問うれば、しばし考えた後、かぐや姫の去りし際に「この後、私を恋しく思ふときに、手に取ってみよ」と告げ、奇しきものを置き去りたることを思ひ起こす。彼らそれを戸棚に大切にしまひたりと申し、取り出して見せんとす。その物、手のひらほどの長方形なる奇しき鉄の板の如し。手に取れば少しひんやりしており、表面はすべすべして手触り良し。 実はこれ、かぐや姫の月に還るにあたり、離れても言葉を交わせるよう、月の科学技術を込めし新たなスマートフォンなり。しかるに竹取の翁と嫗、その使い方を心得ず、戸棚に収め置かるるのみなりけり。

スマートフォンを調ぶる

其のスマートフォンを手に取りて細密に観察すれば、板の左右に小さき突起ありと知る。是れを携えて〈アイデア〉に成功せし探索者、其れらの突起を押せることに気づく。其の突起は音声や電源の如きボタンなり。電源のボタンを押せば、スマートフォンの電気がともり、表の面に光り微かにして不思議なる絵の如く現れん。然しながら、実はスマートフォンが起動し、画面の現出するのみなり。しかして平安の人々にとりては初めての見物なりし。是れ現れたる絵には、諸方の正方形の箱の如きもの(アプリのアイコン)が並び、各正方形には様々な模様や記号の如きが描かれん。且つ、此の絵の面を指に触れて左右に動かすと、指の移りに従いて写し出されし絵が横へ移り、別の絵に変わることもある。是れらの不可思議なる現象を目の前にした探索者、0/1の精神の均衡を失ふ。

SNSにおける交流

スマートフォンの表面を細かく観察せしは、色とりどりのアイコンが並ぶ中、一つだけげに恐ろしく不吉なるアイコンありと気づけり。其のアイコン、他の色鮮やかなるものとは異なり、背景は漆黒に塗りつぶされ、更にその中央に白色にて大なるバッテンが描かれたりとす。

探索者が勇気を振り絞りて此のバッテンを押せば、板の面に映し出されし絵が変わり、今度はかぐや姫の書き付けしと思わるる日記の如きものが現出す。実は此のアイコン、かぐや姫の用いしSNSのアプリのアイコンにして、起動すればかぐや姫が書き留めし日々のつぶやきを読むことの出来む。かぐや姫の月に帰る前に、竹取の翁らとの交流を保つため、事前に此のスマートフォンにアプリを設置し、翁と嫗のためにアカウントの創り、互いにフォローをしていたりとす。

かぐや姫の書き付けしと思われる日記を詠めば、昔の日付には地上にて人々より称賛を受け、喜びに満ちたる様子が描かれており。然れども月に還るべきとなり、嫌々ながら帰ることになったか。そして近頃の日付には、月にいる彼女が記ししと思われる日記あり。それには次のように記してある。


<プレイヤー資料:かぐや姫の投稿>


かぐや姫の書き記せし、しばしば読めぬ言の葉が交じりけり。然れども、〈心理学〉や〈洞察〉の技に成功せし探求者は、月へと帰りし彼女の淋しき思ひをせむは、承認欲求を求むる心を読みとることができたり。

探索者、日誌を手繰るうちに、やがてこのアプリにして言葉を織りなすことができる可能性に気づくであろう。〈アイデア〉に成功せし探求者は、彼女の望みを叶える文章を送れば、かのかぐや姫が心を開いてくれるかもしれぬと思ひ巡らすこともあるであろう。是より探索者が彼女の承認欲求を養う短歌を詠み、〈芸術(和歌)〉の技に成功すれば、かぐや姫、興味を惹かれ、探索者の投稿に返信せむ。そして、彼女に事情を伝ふれば「夜になれば手助けに行く」との言の葉が返って来る。


◆かぐや姫(かぐやひめ)
竹の中より見いだされ、竹取の翁と嫗の手により育てられし姫。その容貌は瞬く間に見る者を魅了し、神秘の光を放ち給う。地上にあっては多くの求婚者に囲まれ華やかな生活を営みつつあれど、月へと帰れば地上の寂しき日々に終始し、承認欲求を求むる心の飢えゆく。
月へ還りし彼女、寂しさを和らげるため、育ての親なる竹取の翁と嫗に月の知恵の結晶たる最新のスマートフォンを授けたれば、然るべくもその使い方を知らぬ二人より、未だかつて交信は得られず。

かぐや姫、月の代行者
STR 10 CON 12 SIZ 10 INT 18 POW 18 DEX 13 APP 100 EDU 20
正気度 90 耐久力 11
ダメージボーナス:0
武器:破壊光線 90%, ダメージ 10D8
技能:言いくるめ 80%, コンピュータ 80%, 芸術(SNS) 80%, 地位 80%, 写真術 80%, 心理学 25%


帝を救ひ給へ

輝き満ちる月が天空に昇りし時、かのかぐや姫、帝のもとへと舞い降りんと欲しむ。然れども、夕闇の訪れし時刻に候(そ)へども、其の降臨を待つにはなほ少しの間を要す。彼女、探索者に、帝の所へ急ぎ赴き、其の間際を繋ぎ止め給ふよう請わんとす。

平安の都に至るや、破損せし牛車はあちこちに散らばり、傷付けし兵士らは地に伏しており。これらがぐや姫の行為と思はれる痕跡、帝のあそばれる大内裏へと続いておりし。大内裏において、かのがぐや姫、帝を討つべく、その鋭き牙は帝の喉元へと迫り来りし。帝を守護する兵士らはかの怪物の怪力により、幾人もが既に打ち倒されしに及び、僅かなる者のみが何とか生き残りし。尚も帝は其の異形の前に精神の均衡を失ひ、かのがぐや姫に心を奪われたかの如く、目を輝かせり。是れにて初めてかのかぐや姫の姿を見し者は、1/1D8の精神の均衡を失ふ。

探索者、かのかぐや姫の到来まで、三つの回りの間、がぐや姫の注意を引くことを要す(探索者の数が三人より少なき時は、探索者の数に応じてかぐや姫の到来までの回数を減らしても良し)。其のためには次の如き方法がありける:

■がぐや姫と戦闘する:
かのがぐや姫と真正面からの戦ひを望む時、彼女の忍耐を零に導かねばならず、あるいは戦闘の開始より三つの回の終了に至るまで。空に月が昇りし時、月よりかぐや姫が舞い降りんとする。

■和歌を詠む:
がぐや姫の注目を集めんと欲するには、雅なる和歌を詠むが有効なるべし。探索者は一人につきひとたび、〈芸術(和歌)〉の技をもって挑まんとすることができる。この技を一度成功せしめば、がぐや姫の行いを一回り分とどむることができる。しかるに、真にプレイヤーがかぐや姫の心をひきうる雅なる和歌を作りて詠めば、司る者はその〈芸術(和歌)〉の技量に、一〜三割の範囲に於て補正を加へんもよろし。是らの判定に合計して三度成功せしとき、がぐや姫の行いを三回りの間止むることが許され、是れの期間に於てかぐや姫の至るべき時を迎へる。しかるに〈芸術(和歌)〉の成功回数が三を下回れば、その数の間、がぐや姫との戦いを挑み、さらなる時間を稼ぐことを強要せられん。

一定の回りが過ぎたれば、平安京の空に月が昇りし頃となりぬ。その月より巨大な円盤状の飛行物体の、平安京の空に向かひて舞い降りける。是れは大内裏の上空に止まりて、輝く光の柱の地上に向かひて伸ばすものありける。而して、地に到達せし柱より、かのかぐや姫の美しき姿を現せり。彼女は月に代わりてがぐや姫に罰を与えんと曰ひ、右手の指で印を結ぶと、かぐや姫の右眼より放たれしまばゆき光、かのがぐや姫を焼き尽くすのである。

結末

がぐや姫の滅びゆくことにより、此の物語は幸せな終わりを迎える。
役目を終えしかぐや姫、再び月へと還るるにあらんが、竹取の老翁や嫗、帝に関しては、司る者は探索者に後の如何を欲するかを問ひ、是を演出すべし。
何れにせよ、なひやるらとほてぷの邪悪な計略を阻んだことにより、探索者は1D8の精神の均衡を手に入れむ。また、物語の中で実際に和歌を詠みし探索者は、更に1D3の精神の均衡を得る。加えて、参加者らが同意せしは、探索者が詠みし和歌の中より最も心に残るものを議論して選び出せる。然るに、選はれし和歌を詠みし探索者は、更に追加で1D3の精神の均衡を獲得せん。

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