Who am I ?

わたしはだれ?





「きみは誰だ」アーサーは訊いた。「誰だか答えてくれ」
─ダニエル・キイス『24人のビリー・ミリガン』





シナリオ概要

探索者は見知らぬ教会施設で目を覚ます。
そこにいたのは見ず知らずの人物たち──他の探索者と1人の幼い少年だった。
やがて深層心理に潜む魔物が探索者に襲いかかる。

推奨人数:3〜5人
想定プレイ時間:3〜4時間(オンラインのテキストセッションの場合は9〜12時間)




本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」


※注意:以下にはシナリオのネタバレが含まれます。























キーパー向け情報

カルト宗教団体『黒の秘密』では、幼い子どもを誘拐・監禁し、冒涜的な儀式を行っていた。ヨハン・ウィリアムは犠牲者の1人である。
ヨハンは長きに渡る監禁生活の末、解離性同一性障害(多重人格障害と呼ばれていたもの)を発症。彼の精神には複数の人格が生まれる。本シナリオにおける探索者は、彼の中に生まれた人格だ。
一方で、警察は過去十数年に渡り未解決であった誘拐事件に『黒の秘密』が関わっていることを突き止め、教団への強制捜査を開始する。それに対抗するため教団はヨハンを生贄にニョグタを召喚しようと儀式を行おうとするが、儀式は寸前のところで阻止されて、追い詰められた彼らは集団自殺を遂げる。そして不完全に呼び出されたニョグタは実体を持たず、ヨハンの精神世界に留まってしまう。これに気づいた警察、彼を診察した医師や教会の神父、そしてクトゥルフ神話に関わる専門家たちは、ヨハンの中からニョグタを放逐するための儀式を執り行うのだった。
ヨハンの精神世界では、目を覚ました探索者がこのニョグタに襲われることになる。やがて探索を進めながら、探索者は今いる場所がヨハンの心の中で、自分たちが彼の人格の1つであることを突き止めるだろう。そして現実世界でヨハンを助けようとする者たちの協力を得てニョグタと対峙することになる。
このシナリオでは何度か探索者が神格に襲われるシーンが存在する。敵が強すぎると感じるキーパーは、敵のダメージやDEXを下げるなどして調整するといい。あるいは慣れたプレイヤーやキーパーがさらに難易度の高いセッションを望む場合は、いくつかの扉や部屋ににトラップを追加して緊張感を高めてもいいだろう。
尚、本シナリオでは多重人格に関するノンフィクション小説、『24人のビリー・ミリガン』を参考にしたギミックを導入している。世界中で話題をあつめた事件を元に、事件の容疑者で多重人格を主張する青年が語る話、精神鑑定、裁判の行方を細かに記した傑作である。読んでも読まなくてもプレイに支障はないが、キーパーは目を通しておくとよりシナリオへの理解が深まるかもしれない。



NPC

ヨハン・ウィリアム
マサチューセッツ州アーカムの出身。冒涜的な儀式の生贄にするためカルト教団『黒の秘密』に囚えられていた。複数の人格を持ち、それらのいくつかが本シナリオの探索者。
こちらはヨハン本来の人格で、大人しく引っ込み思案の優しい性格をしている。
年齢:8歳 職業:子供
STR 5 CON 9 SIZ 5 INT 14 POW 18 DEX 15 APP 14 EDU 2
正気度 50 耐久力 7
ダメージボーナス:-1D6
技能:隠れる50%、忍び歩き40%、回避80%、目星60%、聞き耳56%



プレイヤー向け情報

時代は現代。舞台の中心はアメリカ・ニューイングランド地方を想定しているが、探索者の国籍や職業、性別、年齢は何でもいい。探索者はお互い会ったことがなく、初対面として作成する。犯罪者や狂信者といった癖のあるキャラクターで挑むのも面白い。
このシナリオでは探索者の国籍や習得している言語によらず、言葉による意思疎通や文章の読み書きはできるものとする。
このシナリオでは探索者がロストする可能性が高い。また特殊な終わりを迎える可能性が高く、探索者を継続して使用することが難しい。プレイヤーはそのことを予め頭に入れ、探索者は必ず新規に作成すること。
シナリオ中に探索者が死亡した場合は新たにキャラクターシートを作成する代わりに、死亡した探索者の兄弟/姉妹などとして名前と年齢に関する部分以外、同一のデータで参加することを選んでもいい。このシナリオに挑むプレイヤーは、凄惨な終わりを迎えるサイコサスペンスやホラー映画の登場人物になったつもりで参加するといいだろう。
探索に必須となる技能は特にないが、〈回避〉を習得しておくと生存率が上がるかもしれない。



導入

時刻は夜。1日を終えた探索者はベッドに入り眠りにつく。 そして探索者が次に目を覚ました時、見知らぬ洋館の食堂にいるという場面からシナリオは始まる。
探索者は円卓を囲むように並べられた椅子に座っていて、自分以外には他の探索者と幼い一人の少年が同じように椅子に座っている。彼らも同じタイミングで目を覚ましたようだ。円卓の上には奇妙な図形の描かれた正方形の布が敷かれている。
探索者は普段着ている衣服以外、何も持っていない。意識ははっきりとしていて、ここが夢の中ではないことは理解できる。しかしなぜこのような場所にいるかは見当がつかず、探索者は0/1の正気度ポイントを失う。
窓の外は闇に閉ざされて激しい雨が降りしきっており、その対面の壁には扉が一つある。探索者と共にいる少年はこの状況に不安そうな表情を浮かべている。探索者が尋ねれば、彼は「ヨハン」という名で年齢は8歳と答える。
キーパーは探索者の自己紹介が終わったタイミングを見計らってマップを公開し、現在地が1Fの食堂であることを探索者に伝えて探索を開始する。
map

<プレイヤー資料:マップ>



探索者の死について

このシナリオではシナリオ中に探索者が死亡する可能性がある。その場合、ヨハンによって新たな人格が形成される。新しく生み出された探索者は、ヨハンの新たな人格として食堂の円卓に座った状態で目を覚ます。












探索パート


食堂

探索者が目覚めた部屋。円卓を中心に椅子が並んでいる。
テーブルの上の布にはいくつかの円と三角形に五芒星が一つ、そして見たことのない図形がいくつか描かれていることが分かる。〈オカルト〉に成功した探索者は、何かの黒魔術的な魔法陣であることが分かる。



玄関ホール

食堂を出た先は広めの玄関ホールになっている。ここには男の死体が転がっている。
キーパーは探索者が玄関ホールに出たところで次の文章を参考に描写を行う。

扉を開けると、ふいに異様な臭いが鼻をつく。いやな予感がした。鈍い恐怖めいたものを心の奥に押し込めながら、ゆっくりと扉を押し開ける。
玄関ホールは薄暗く、燭台に灯された蝋燭の炎だけが周囲を照らしている。飾り気のない灰色のレンガ造りの壁や天井。床には薄茶色の質素な絨毯が敷かれている。
そしてそこは血と臓物で真っ赤に染まっていた。
ホールの中央では仰向けで大の字になって1人の男が倒れている。男の顔は凍りつき、目を見開いて恐ろしく歪んだまま固まっている。左胸部から腹部にかけての部分には大きな風穴が空いており、その下にある床面を覗くことができる。
その中に入っていたものの多くは失われて、いくつかの残骸だけが周囲に散らばっている。

描写の後、男の死体を目撃した探索者は0/1D4+1の正気度ポイントを失う。男は30代ほどの白人の男性で探索者は会ったことがなく、身分証明書なども持っていない。〈医学〉に成功した探索者はこの男がつい数十分前に殺害されたものであると推測できるだろう。

男の死体を調べていると、どこからともなく次のような男の声が聞こえてくる。

”──間違いない、悪魔だ。この中にいる”
”ああ神よ、どうか彼を救いたまえ──”

この声は現実の世界でヨハンの悪魔祓いをしようとしている者たちの声だが、この時点では探索者にはまだ知る由もないだろう。
声を聞いて〈聞き耳〉に成功した探索者は、その声が自分たちの頭上から聞こえてきたように感じる。しかし上を見上げても何もない天井が目に映るだけだ。



玄関と建物外部

玄関の扉には鍵などはかかっておらず開けることができる。外は真っ暗で、打ち付けるような激しい雨が降りしきっている。その先には鬱蒼とした森が見えるだけだ。
外に出れば、探索者がいる建物がキリスト教の教会のような建物であることが分かる。探索者が出てきた扉は裏口のようで、正面には礼拝堂に入るための別の入り口がある。
探索者が教会から逃げ出そうとするのなら周囲を囲む森に入り込むことになる。この森からは決して脱出することはできない。森の中には道はなくどれだけ進んでも抜けることはできない。そしてしばらく進むと再び教会の前に戻ってきてしまう。そして雨に体温を奪われ、体力を消耗した探索者は0/1D3の正気度ポイントを失う。



集会室

会議や集会に使われる部屋。
扉を開けると、異様な光景が目に入る。そこでは黒いローブを着た人物たちが部屋の奥にある講壇を向いてずらりと並んでいる。皆フードを深く被っていて顔は見えない。彼らは皆、手に赤い液体の入った銀の盃を持っている。
講壇には同じく黒いローブを身にまとった人物が立っている。フードからのぞかせる長く白いヒゲから、年老いた人物であることが推測できる。
彼らは探索者を見向きもせず、声をかけたり肩を叩いても反応を示さない。
やがて壇上の老人が盃を掲げると、ローブの人物たちも盃を掲げて一斉に次のように唱え始める。

とふぅぐん はひゅす あにゅふえい
ろふてげるぷ かんれぁく
あふつごいん あんすふ=れつ
いるふぐりん うとぅしだく な や

詠唱が終わると彼らは手にした盃を一斉に飲み干す。すると彼らは皆苦しみだして、壇上にいる男を含めた全員が、血を吐きながらバタバタと倒れていく。そのような光景を目にした探索者は0/1D3の正気度ポイントを失う。
探索者が倒れた彼らに近づいたり調べようとすると、ふいに部屋中に転がっていた彼らの死体が消えて跡形もなくなってしまう。部屋には石畳の無機質な床や壁と講壇だけが残される。床には食堂のテーブルにあったのと同じ、魔法陣のような複雑な図形が描かれている。

講壇を調べたり〈目星〉に成功した探索者は、新聞記事を発見することができる。記事の日付は探索者が覚えている最新の日付よりも数日新しいものだ。


『カルト教団の一斉捜索』
20XX年11月7日、警察は宗教団体「黒の秘密」が一連の未成年者誘拐事件と関与していると判断、教団施設への捜査を開始した。彼らには教義により拉致した未成年者に対し、虐待や暴行を繰り返してきた容疑がかけられている。
教団指導者のブラハム・ビショップは警察の捜査に対して反発し、アーカムから5km離れた森の奥にある教会に信者を連れて立てこもり、徹底抗戦の構えを呈している。

「黒の秘密」について
セイレムの魔女、信じる者たちの流れを組み、ネクロノミコンに記された旧支配者を信仰する。1999年にブラハム・ビショップが創設したもので、20XX年に旧き支配者の再訪を予言していた。
─『アーカム・ガゼット』紙
<プレイヤー資料2:新聞記事>



キッチン

正面には調理台があり、コンロには赤い液体で満たされた鍋が火にかけられたままになっている。鍋からは腐臭と鉄臭さの入り混じった強烈な臭いが漂っている。隣には業務用の大きな冷蔵庫が置かれている。

<調理台>
血の付いた包丁などを発見することができる。包丁は小型ナイフとして扱う。

<冷蔵庫>
冷蔵庫には冷えたプリンが1個入っている。プリンの蓋には赤いサインペンで「食べるな」と書かれている。製造年月日は探索者が眠った日の数日先の日付になっており、賞味期限はまだ切れていないように見える。
このプリンにはPOT14の毒が仕組まれている。不用意に食べてしまう不届きな探索者がいた場合、その探索者はプリンのPOT14に対して自身のCONで抵抗する必要がある。探索者が勝てば普通においしいプリンだが、負けた場合は耐久力に1D6ポイントのダメージを受け、1D3時間の間、手足が痺れて肉体的な行動を伴う判定に-20%のペナルティを受ける。

<鍋>
鍋の中にはネズミの頭、尻尾、内臓や、何だか分からない赤黒い物体などが煮込まれている。鍋を覗き込んだ探索者は0/1D1の正気度ポイントを失う。
さらに探索者が不用意に鍋に近づいた場合、中から真っ赤に濡れた手が伸びて探索者の腕を掴む。鍋から伸びた手は爪が全て剥がされていて、手の甲や手首には魔法陣のような模様が入れ墨されている。その手は強い力で探索者を鍋の中へと引きずり込もうとする。
探索者は〈聞き耳〉と〈回避〉の組み合わせロールに成功すれば、とっさに後ずさって腕を避けることができる。
失敗した場合も、探索者はSTR25に対して自身のSTRで抵抗を試みることができる。これには近くにいる探索者のうち1名までが手助けをして、2人のSTRの合計値で抵抗を試みることができる。
探索者が勝てば腕を振り払うことができるが、負けた場合は煮えたぎる鍋に引きずり込まれ、中身をぶちまけることになる。そして煮えたぎる液体を浴びた探索者は耐久力に1D8のダメージを受け、強烈な臭いに0/1D6の正気度ポイントを失う。

<地下への入り口>
キッチンで〈目星〉に成功した探索者は、床に正方形の切れ目があるのを発見し、その下に地下室があることを推測できる。あるいは鍋の中身が床にぶちまけられた後、探索者が偶然発見したことにしてもいい。この時点では、扉は何かに引っかかっているようでうまく持ち上げることができない。〈アイデア〉に成功した探索者は、何かバールなどの道具があれば無理やりこじ開けることができると思いつくことができる。



ニョグタの襲撃

探索者が集会場とキッチンを探索した後、2Fあるいは倉庫に向かうタイミングで、キーパーは次のイベントを差し込む。
一瞬、周囲に強い光がほとばしり、数秒して大きな雷鳴が響く。大気を引き裂くような爆音に探索者は思わず身をこわばらせる。音が収まると同時に、ふっと周りの明かりが消え室内は完全な闇に閉ざされる。ここで探索者が明かりを確保しようとしてもなぜか携帯電話や懐中電灯は電源が入らずライターやマッチなどには火が灯らない。そうしていると探索者は背後に異様な気配を感じ取る。

ずるずると、何かを引きずるような音が探索者の方へと近づいてくる。さらにそれが近づくにつれて、得体の知れない悪臭が辺りに漂ってくる。
やがてその恐ろしい何かは、探索者のすぐ背後にまでやってくる。

探索者が振り向くと、音は突然静まって周囲は静寂に包まれる。キーパーは一度脅威が去ったように演出して、探索者に安心させるといいだろう。
そして探索者が安心して周りを確認しようとしたところで、再度イベントの続きを差し込む。

唐突にヨハンが叫び声を上げる。そしてドタドタと、何かが壁や床下を何かが駆け回ったり叩いたりする音が響き渡る。
探索者がヨハンを助けようとしたときには、既に彼の姿はどこにもない。またあらかじめ彼の手を握っていた場合にも、いつの間にか握られていた手が離れていることに気づく。 やがて音が収まると、屋敷の中に明かりが戻る。

この時点で、ヨハンはニョグタによって地下室へと引きずり込まれている。屋敷の中にはかすかではあるものの、どこからともなくヨハンの助けを呼ぶ声が聞こえてくる。〈聞き耳〉に成功した探索者はそれが床下から聞こえてくることに気づくことができる。



倉庫

この倉庫ではバールなどの工具や懐中電灯、ロープなどを発見することができる。さらに探索者が望むなら〈目星〉や〈幸運〉などのロールを行わせた上で、キーパーは探索者が武器や使えそうな道具を発見できたことにしてもいい。ただし重火器等は別の場所で入手することができるため、ここでは発見することができない。

地下室

倉庫で手に入るバールを使えばキッチンにある地下室への扉をこじ開けることができる。
ヨハンが拐われた後、探索者が入り口を発見できないでいた場合、キーパーは「キッチンの床下からヨハンの声がする」などとして探索者にヒントを与え、入り口を発見できるように誘導するといいだろう。
地下室は真っ暗で、探索をするには何らかの明かりが必要になる。中は埃が溜まりクモの巣がはっている。雑多なものが押し込まれた部屋の奥を懐中電灯で照らすと、両開きの扉がついた大きな戸棚が置かれているのが分かる。戸棚は子供一人程度なら入れそうな大きさだ。

奥へ進もうとすると探索者が持つ明かりが不安定に明滅しはじめて辺りは暗さが増す。さらにそれまで聞こえていたヨハンの声がしないことに気づく。そして代わりに奥にある戸棚の内側からガタガタと何者かが扉を叩く音が聞こえてくる。探索者が戸棚に向かって声をかけても反応はない。
奥のタンスにはヨハンが閉じ込められている。探索者が近づくと、ヨハンは扉を開けて探索者に飛びついてくる。キーパーは突然得体の知れない何かが飛び出してきたように演出してプレイヤーを怖がらせるといいだろう。戸棚から出てきたヨハンは閉じ込められて出られなかったのだといい、探索者にすがりついて怖かったと泣く。

<ありえべかざるもの>
この部屋には召喚されたニョグタが潜んでいる。しばらく安心したところで、探索者のうち1人の顔にポツリと黒いタールのような液体が垂れ落ちてくる。手で触れれば、その液体からは爬虫類の体臭にも似たひどい臭いがする。探索者が天井を見上げると、ネバネバとしたゼラチン状の触肢が探索者に襲いかかってくる。部屋には吐き気をもよおす悪臭が部屋全体を包む。得体の知れない”何か”に、探索者は0/1D6の正気度ポイントを失う。

<戦闘>
ニョグタは探索者に襲いかかる。部屋の中は真っ暗で、懐中電灯などの明かりだけでは探索者は敵の全容を見ることができない。ニョグタのデータは「クトゥルフ神話TRPG」P.222-223を参照する。
ニョグタは現実世界に完全に顕現するために、魔力の源となる探索者の心臓を狙っている。抗う術を持たない探索者はヨハンをかばいながら部屋から逃げ出さないといけない。
ここから先は戦闘ラウンドに沿って処理を行う。おそらくは最初にニョグタが行動することになるだろう。怪物は探索者に向けて容赦なく触肢を打ち下ろす。

<ニョグタからの逃走>
探索者は自分のターンでDEX×5に成功すれば部屋から逃げ出すことができる。もし探索者の中に囮になろうとする勇敢なものがいたならば、ニョグタはその探索者を優先的に狙う。その場合、他の探索者は逃走のための判定に+20%の修正を得る。探索者の中に死者が出た場合、ニョグタはその死体から心臓をえぐり出して貪り始める。他の探索者はその間に逃げ延びることができるが、仲間が殺される場面を目撃した探索者は1/1D6の正気度ポイントを失う。
全ての探索者が部屋から逃れるか誰かが死亡した場合、戦闘は終了する。



礼拝堂

礼拝堂には建物内からと外からの2箇所の入り口があるが、どちらの扉も内側から固く閉ざされていて開けることはできない。この扉を開くことができるのはシナリオが進み、探索者がニョグタを倒すための儀式の情報を得てからとなる。



2F廊下

2Fにあがると、向かって左手側には廊下が続いていて、右手側には壁に扉のようなものがついている。右側の扉はこれまでのものとは違う金属味のある横開きの真っ白な扉で、 取手はなく内側からロックされている。丁度自動扉のようにも思われる。白い扉の横にはカードリーダーのようなものまで取り付けられている。
左手側の廊下には、奥に木製の扉がある。そしてその扉の少し手前の壁には長方形に塗り固められたような跡があり、かつてそこに扉があったことを推測することができる。



寝室

2F奥の扉の先は寝室になっている。部屋にはベッドと机、壁際には本棚がある。

<机>
机を調べた探索者は、引き出しに大切そうにしまわれている革装丁の400ページあまりの本を発見することができる。表紙には食堂にあったのと同じ魔法陣が記されており、その上に「黒の教義書」とタイトルが記されている。

「黒の教義書」
正気度喪失:0/1d6;〈クトゥルフ神話〉に+2%;研究して理解するために平均10週間/斜め読みに2時間。
さらに栞が挟まったページがあり、そのページだけであれば10数分で読むことができる。

栞が挟まったページを読んだ探索者は、この本がブラハム・ビショップによって記された『黒の秘密』たちの経典で、セイレムの魔女たちの間で行われてきた黒魔術について記されていることに加え、この教会で行われていた儀式について以下の情報を得る。

■多くの子供たちの中から最も「資質」を持った者を選ぶ。
■感受性が高く、暗示や催眠にかかりやすい者ほどよいとされている。
■選ばれた者は暗所に閉じ込められ様々な虐待を加えながら育てられる。
■その結果、「多くの魂を宿した子」が完成する。
■「多くの魂を宿した子」は絶大な魔力を持つため、我らが「黒き神」を呼び出すための最も適した生贄になる。

<本棚>
悪魔信仰や黒魔術に関する書籍が敷き詰められている。1時間ほどをかけてここにある書籍に目を通せば〈オカルト〉技能が+1%上昇する。
この本棚の後ろには隠し部屋へと続く扉があり、周囲には隠し部屋に行く際に本棚をずらした跡が残っている。
本棚周辺をよく調べて〈目星〉に成功した探索者は、これらの跡に気づくことができる。そして探索者が本棚を左右にずらせば、その後ろに隠れた扉が発見できる。

<ベッド>
ベッドや枕の下には拳銃やショットガンなどの銃器が1丁と銃弾1ダースが隠されており、ベッドを調べた探索者はこれらを発見することができる。発見するには〈目星〉の判定に成功する必要があるが、探索者が探す場所を明確に指定する場合は判定なしに発見できたことにしてもいい。どのような武器が手に入るかはキーパーが探索者の所持している技能に合わせて決定するといい。



隠し部屋

寝室の本棚の奥にある隠し扉から入ることができる。窓はなく、天井に設置された薄く白熱灯が部屋を照らしている。
部屋の奥には鉄格子の檻がある。檻の扉には鍵がかけられているが、鉄格子の一部にへし曲げられた箇所があり、そこから出入りすることができる。

<檻>
ここは現実世界でヨハンが監禁されていた場所だ。
檻の中を調べると、床には鎖付きの足枷が放置されていて、さらにその横には真っ白なIDカードが落ちている。
また〈目星〉に成功した探索者は、檻の奥の壁に異なる筆跡や言語で「ここから出たい」「誰か助けて」「両親に会いたい」といった文章が刻まれているのを発見する。さらに〈アイデア〉に成功すると、それらの筆跡のうち1種類は自分の筆跡に似ていると気づく。



???(診察室)

ヨハンの記憶にある病院の診察室。教団から助け出された後に連れてこられた場所で、ヨハンはここで医師の診察を受けて多重人格であると診断されている。
この部屋へは隠し部屋で手に入れたIDカードを使うことで入ることができる。入り口のカードリーダーにIDカードをかざすと、白い扉が自動的に開く。そして探索者の目には思わず疑いたくなるような光景が映る。
部屋の中は真っ白な壁に囲まれている。そこにあるのはパソコンが設置された真新しいデスク、その正面にあるのは清潔な白いベッド。部屋の中にはかすかな消毒液の香りが漂っている。そこはどう見ても最新の病院の診察室だった。
パソコンの画面には電子カルテが表示されている。カルテの名前欄には「ヨハン・ウィリアム」と書かれている。探索者がカルテを読み進めるなら、さらに次の情報を得る。

名前:ヨハン・ウィリアム
年齢:8歳 性別:男 血液型:AB型
傷病名:解離性同一性障害
所見:
集団自殺をはかった「黒の秘密」教団施設内にて保護。
彼の中には少なくとも■■の異なる人格が存在することを確認。
長期間の監禁により重篤な精神的障害を負ったものと考えられる。
<プレイヤー資料3:カルテ>












スポット

探索者が「自分たちが現在ヨハンの心の中の世界にいる」こと、そして「自分自身がヨハンの人格の1つである」ことを認識した場合、探索者は1/1D8の正気度ポイントを失う。そしてさらにその後、次のイベントが進行する。どうしても探索者が気づかない場合は、ヨハンのカルテを見つけた時点で〈アイデア〉ロールを行わせて、ヒントを与えたり気づかせても構わない。

真相に気づいた探索者がいた場合、突然部屋の中央に天井からスポットライトの明かりのようなものが降りてくる。スポットライトは丁度人が1人入れるくらいの大きさがある。このスポットライトはヨハンの精神世界と現実世界とをつなぐ門のようなものだ。このスポットライトの下に立った探索者は、現実世界で目を覚ますことになる。

スポットライトの下に立った探索者は教会の一室に設けられたベッドの上で目を覚ます。目の前には白衣を着た医師、制服の警官、祭服に身を包んだ神父、そして中央にはスーツを着た長身痩せぎすの男が立っている。鏡に映る探索者の顔は、8歳の少年、ヨハンのものだ。そしてスーツの男が探索者が置かれた状況について説明する。

この間、他の探索者からはスポットライトに入った探索者が呆然自失として佇んでいるように見える。キーパーは別室でスポットライトに入った探索者とスーツの男との会話を途中まで進め、その後、他の探索者にスポットライトの下にいる探索者をライトの外に引き戻すかどうか尋ねるというやり取りを何度か行う。
もし他の探索者がスポットライトに入った探索者をスポットライトから引き戻すなら、スポットライトの下にいた探索者はスーツの男との会話の途中で精神世界の方へ戻ってくる。そして別の誰かがスポットライトの下に立てば、男たちは探索者の人格が変わったことに気づいて、探索者の名前や職業、どういう人物なのかといったことを質問し、その後、探索者へ現在の状況についての説明を続ける。

彼が言うには、カルト教団施設で保護されたヨハン・ウィリアムの精神は、度重なる虐待と監禁の末に解離性同一性障害を患っていた。探索者もその中の人格の1人だった。
カルト教団はそこへ儀式によって「ニョグタ」と呼ばれる恐ろしい存在を呼び出そうとする。しかし警官隊の突入により儀式は中断を余儀なくされる。こうして不完全に呼び出されたニョグタは実体を持たず未だヨハンの精神世界に囚われることになった。ヨハンの精神世界に住む探索者らを取り込めば、ニョグタは完全な実体を手に入れて現実の世界に顕現することができる。男はあの怪物を倒すことはできないものの、呪文で退散させることはできると説明し、探索者に儀式の手順を教える。

この儀式を実行する際は、戦闘ラウンドとして処理を行う。それぞれのステップで、いずれかの探索者が「条件」に記された判定に成功すると即座に次のステップへと進む。ただし判定を行うことができるのは1人につき1ラウンド1回までとする。またステップ1に関しては、ニョグタに遭遇した全ての探索者がDEX×5に成功しなくてはならない。
儀式の手順を教えられた探索者は「ニョグタの招来/退散」(クトゥルフ神話TRPG P.263)の呪文を習得する。儀式の手順と呪文は他の探索者に教えることもできる。

1.地下室にいるニョグタを礼拝堂へおびき出す/条件:DEX×5
2.現実世界にいる男たちに合図を送る/条件:1マジックポイントを消費、POW×5
3.現実世界で儀式を行う間、ニョグタを引きつける/条件:任意の攻撃技能
4.精神世界で「ニョグタの退散」の呪文を唱え、ニョグタを退散させる/条件:「ニョグタの招来/退散」

世界の仕組みを知ったことで礼拝堂への扉が開かれる。探索者が処置室からヨハンの精神世界に戻ると、1階からバタンという物音が聞こえてくる。そして1階に降りれば、礼拝堂への扉が開け放されている。












結末


儀式

地下室に向かうとニョグタに遭遇する。ニョグタを目撃した探索者は再び1D6/2D10の正気度ポイントを失う。既に一度ニョグタを目撃したことがある探索者であれば1/1D6の正気度ポイントを失うだけで済む。
ニョグタは探索者に襲いかかってくる。ここで地下室に向かった探索者が全員DEX×5に成功すれば、ニョグタを引き連れて礼拝堂にまで誘導することができる。
礼拝堂に到着したところで、外の世界にいる男たちに合図を送る。そのためには1マジック・ポイントを消費してPOW×5の判定に成功する必要がある。判定を行うのは探索者のうち誰でもいい。
合図をした後、現実世界で儀式が進む間、探索者はニョグタを引きつけなくてはならない。外の世界では男たちが十字架とティックン万能液、そしてヴァク=ヴィラの呪文を使った儀式を行う。
現実世界で儀式が完成すると、精神世界ではニョグタが苦しんで暴れ始める。この段階になると、ニョグタの触肢による攻撃が変化する。
ニョグタは黒い体から幾本もの鋭く伸びた触肢を伸ばし、探索者全員を同時に攻撃する。この攻撃は「100%、ダメージ1D6」として扱う。
儀式の最後にニョグタの退散の呪文が発動すると、無形の怪物は動きを止める。次いで怪物からは腐肉が焼ける不快な臭いが漂ってくる。そしてぐずぐずと剥がれ落ちる不浄な黒い肉塊を撒き散らしながら、地面の下へと消えていく。


エンディングと報酬

ニョグタを退散させると、生き残った探索者とヨハンが教会に残される。ヨハンは探索者を不安そうに見つめ、これからどうしたらいいかと尋ねる。
この先は探索者によって様々な選択があると思われる。ここには想定されるケースをいくつか記しておくが、この他にも探索者が望む結末があるならキーパーはプレイヤーと相談し、エンディングを演出するといい。

<共に生きる>
今後も共に生きるという場合。
探索者はこれからもヨハンの中の1人として奇妙な共同生活を送ることになる。現実の世界には1人ずつしか登場することができないが、互いに協力しながら生きていく。
もしかしたらヨハンの中には他にも凶暴な人格が存在し、それによって別のトラブルに巻き込まれていくことになるかもしれない。
あるいはヨハンの心の中の世界を、自分たちの現実として生きていくのもいいだろう。
いずれにしてもニョグタを撃破した探索者は2D10の正気度ポイントを獲得する。さらにヨハンが生存していた場合、追加で1D6の正気度ポイントを獲得する。

<消えることを望む>
探索者とヨハンの中から1人を選び、残りの人格が消える場合。
残る人格に後を託して、他の者は意識の深淵の彼方に消えていく。プレイ時間に余裕があるなら、キーパーは探索者が別れを告げるための時間を多めに確保してもいい。
消えていく人格はここでロストとなる。残った人格は報酬として2D10の正気度ポイントを獲得する。さらに自身のために消えていった人格1人につき1D4の正気度ポイントをボーナスとして獲得する。

<俺が本当の俺だ!>
探索者が互いに、自分が残ると主張する場合。
この場合、探索者同士が話し合って納得のいく形で決着をつけるといいだろう。
最も単純なケースは、お互いに力で解決することだ。
儀式が終わった後、そのまま戦闘を継続する。そして互いに殴り合い、最後まで生き残った者が勝者となる。死亡した人格は、そのまま無意識の深淵へと消えていく。
勝者となった人格は2D10の正気度ポイントを獲得すると共に体の支配権を手に入れることができるが、その代償として自分が消した人格1人につき1D4の正気度ポイントを失う。

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