シナリオ概要

オーストラリアの砂漠で目撃された古代遺跡の調査のため、ミスカトニック大学は探索者を含む発掘隊を現地へと派遣した。
これはその調査に関わる出来事を書き記したものである。

推奨人数:3〜5人
想定プレイ時間:3〜6時間(オンラインのテキストセッションの場合は9〜15時間)




本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『新クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「新クトゥルフ神話TRPG ルールブック」


※注意:以下にはシナリオのネタバレが含まれます。























キーパー向け情報

時を超える影は今も尚この世界を覆っている。
我々を嘲るように。遥かなる過去、そして未来から──。

ヘンリー・スコップ教授の娘、ルーシー・スコップはイスの大いなる種族のテクノロジーによって20年後の未来から過去の自分自身と精神を交換することで現代にやってきた。彼女がいた未来では、オーストラリアのグレートサンディ砂漠で発見されたイスの大いなる種族のタイムマシンをめぐり大国同士の戦争が勃発、全人類の7割以上が犠牲となり、なおも争いが続いていたのだ。
未来の世界でルーシーと探索者は父親を通じて知り合った旧知の仲である。未来のヘンリーと探索者は自らが発見したタイムマシンが戦争の引き金となったことを悔やんでレジスタンスとして戦ってきた。そしてタイムマシンを強奪し、ルーシーをこの時代に送り込んだのも彼らだ。この際、彼らはルーシーを守るために自ら犠牲となり、願いを託して1人また1人と倒れていったのだ。
現代へやってきた彼女の目的は、遺跡に眠るタイムマシンを破壊することで歴史を変えることだ。とはいえ今の彼女はまだ子供。1人でタイムマシンを破壊するのは困難と考えた彼女は、父親であるヘンリーに「オーストラリアの砂漠で未知の古代文明の遺跡を目撃した」という匿名の手紙を出し、グレートサンディ砂漠へ調査隊が派遣されるよう誘導、自らもその調査隊に参加する権利を得たのだった。
一方で、この時代にやってきたのは彼女1人ではない。彼女を阻止するために、敵国もこの時代にイーサン・ビショップ大佐を送り込んだ。彼は自国に取り入り、秘密部隊を率いてオーストラリアへとやってくる。こうしてオーストラリアの砂漠を舞台に、未来をかけた戦いが始まっていく。


NPC

◆ ヘンリー・スコップ、考古学者
変わり者で知られる、ミスカトニック大学の考古学教授。

年齢:45歳 職業:教授
STR 60 CON 75 SIZ 65 INT 70 POW 75 DEX 60 APP 60 EDU 90
正気度:50 耐久力:14 幸運:50
DB:+1D4 ビルド:1 MP:15 移動:7
攻撃の種類:近接戦闘(むち)、25%、ダメージ1D3+1D2
回避70%
技能:考古学90%、信用30%、目星50%、図書館70%、言語(ハイパーボリア語)25%、運転(自動車)40%、ナビゲート55%、跳躍60%、登攀60%

◆ ルーシー・スコップ、教授
ヘンリーの娘。まだ幼いながらも天才的な頭脳を持ち、ミスカトニック大学の教授にまで上り詰めた。

年齢:10歳(頭脳は29歳) 職業:教授
STR 30 CON 50 SIZ 35 INT 75 POW 80 DEX 75 APP 75 EDU 85
正気度 80 耐久力 8 幸運 70
DB:-1 ビルド:-1 MP:16 移動:9
攻撃の種類:近接戦闘(格闘)25%、ダメージ1D3-1
回避80%
技能:考古学80%、信用20%、目星70%、聞き耳75%、図書館60%、跳躍70%、登攀75%、サバイバル75%

◆ イーサン・ビショップ、大佐
タイムマシンを狙う大国の軍人。ルーシーを追って未来からタイムリープしてきた。

年齢:11歳(頭脳は30歳) 職業:士官
STR 55 CON 70 SIZ 40 INT 70 POW 40 DEX 50 APP 35 EDU 80
正気度 0 耐久力 11 幸運 50
DB:0 ビルド:0 MP:8 移動:8
攻撃の種類:近接戦闘(格闘) 50%、ダメージ1D3
もしくは大型ナイフ(ダメージ1D6+1)
射撃(32口径リボルバー)60%、ダメージ1D8
技能:威圧80%、サバイバル70%、経理60%、ナビゲート65%、心理学60%、跳躍50%、登攀45%、追跡70%


プレイヤー向け情報

時は現代。探索者はミスカトニック大学で考古学教室の教鞭をとるヘンリー・スコップ教授からオーストラリアでの実地調査への同行を依頼される。目的はオーストラリアの砂漠で新たに目撃証言のあった、未知の古代遺跡の調査だ。
ヘンリー・スコップ教授は年齢45歳、地に埋もれた太古のロマンを追求することにすべてを捧げてきた考古学マニアであり、考古学者たちの間でも筋金入りの変わり者と称されている人物だ。そんな彼が指揮を取る調査隊が、今回オーストラリアで目撃証言のあった遺跡の調査に向かうことになったのだ。探索者はあらかじめヘンリー・スコップ教授との知り合い(同僚、教え子、親友、スポンサーなど)としておくと導入がスムーズに進むだろう。
探索者の国籍は何でもいい。ただし日常的な意思疎通を行うため、英語である程度の会話ができる必要がある(最低でも10%)。本シナリオは謎解きよりも、映画のような派手なアクションを重視したシナリオだ。過酷な状況を生き抜くために、戦闘用の技能や〈跳躍〉、〈回避〉、〈ナビゲート〉などの技能が役に立つだろう。また古代の遺跡を探索するため〈考古学〉や〈図書館〉、〈目星〉などが得意な探索者は活躍できる。


シナリオチャート





導入パート


ミスカトニック大学にて

「いやあ、どうしても人手が足りなくってね。まあお金もなんだけれど・・・だけどほら!今度こそ絶対に、すごいものが見つかると思うんだ」

探索者はヘンリーに呼び出されて大学内のカフェへやってくる。そして事前に約束をしていた時間を30分過ぎたころ、ようやくして探索者のところにヘンリーがやってくる。彼は平謝りをしながら、探索者に今回の調査について説明する。
ことの発端は数週間前。教授の元に「オーストラリアのグレートサンディ砂漠で、未知の古代文明の遺跡を見た」という匿名の手紙が証拠写真付きで送られてきたのだ。写真には砂嵐の奥にそびえる巨大な塔や敷き詰められた六角形の石畳、模様が掘られた大理石の石柱などが写っている。
探索者が〈考古学〉ロールに成功すれば、1930年代にもミスカトニック大学がオーストラリアの砂漠で現地人からの目撃談を元に発掘調査を行っていたことを知っている。しかしこの調査の主目的であった遺跡は未だに発見されていない(これはH.P.ラブクラフトの名作「時を超える影」にてダイアー教授、ピースリー教授らによって行われた調査のことを指している)。
今回手紙に記されていた場所はかつての発掘調査とは異なるものである。もしこれが本物であれば考古学史における世紀の大発見だ。ヘンリーはこの手紙に興味を懐き、調査隊の派遣を大学側に申し出た。彼からの熱心な(しつこいとも言う)申し出に、大学側は仕方なく最低限の予算と人員を用意することにしたのであった。
今回の調査にはヘンリーと探索者の他に、彼の娘であるルーシー・スコップ教授が同行することになっている。ルーシーは大学で優秀な成績を修め、若くして博士号を取得すると、みるみるうちに教授の地位まで上り詰めた天才だ。彼は自分の娘のことを「自分に似ず非常に聡明で常識のあるいい子なんだ」と自慢する。
ヘンリーがそこまで説明すると、探索者はヘンリーの背後の背後に見た目小学生ほどの女の子が立っていることに気づく。

「はじめまして。私はミスカトニック大学考古学教室のルーシー・スコップ。ヘンリーの娘で、今年で10歳になりました」

彼女はひょっこりと姿を見せると、可愛げのない事務的な口調で挨拶をする。彼女は子供扱いされることを嫌い、探索者がそのように接しようとすれば不機嫌そうに「子供扱いしないでください」と注意する。
彼女はヘンリー・スコップの娘であり、若干10歳である。以前は小学校に通う普通の女の子であったが、2年前に突然頭角を現して学年を次々に飛び級し博士号を取得すると、現在はミスカトニック大学の教授の地位にまで上り詰めてきた。彼女は年の割には大人びた性格にみえ、あまり自分の感情を表に出すことはなく、周りには常に論理的で理路整然とした話し方をする。


砂漠へ

探索者は飛行機を乗り継ぎながらオーストラリア西岸、ポートヘッドランド国際空港へと降り立つ。トラックに分乗して内陸部を目指す。海岸線から離れるにつれて、探索者の目の前には広大な平野が広がっていく。照りつける太陽の下、延々と東へ延びるハイウェイを進み、渇いた川や短い草しか生えていない荒野、カンガルーの群れを横目に10時間ほどをかけて、ようやく最終補給地点となる鉱山街に到着する。

<プレイヤー資料:移動経路>

探索者はこの街で一晩宿泊し、物資の補給や情報収集を行い、翌日に目的地である砂漠に入る予定になっている。探索者が望むなら、この街で不足している武器やアイテムの補充を行うことができる。またここでは現地の住民から情報収集を行うことで、砂漠に関する次のような民話を聞くことができる。
・砂漠の地下には巨大な石造りの建築物がある。
・その最深部にはぞっとするような風が吹き荒んでおり、ブッダイという年老いた巨人が眠っている。
・原住民は巨人を恐れて砂漠に近づこうとしない。
・かつて砂漠で表面に象形文字のようなものが彫られた巨大な岩石群が発見されたことがあり、巨人の枕ではないかと噂されている。
・過去に一度だけ大規模な発掘隊が砂漠の調査にやってきたことがあるが、大きな発見はなかったのか、以来そのような調査は行われていない。


夜襲

夜の宿泊施設ではイーサン・ビショップによって差し向けられたゴロツキたちの襲撃イベントが発生する。探索者が複数の部屋に分かれて宿泊する場合は、彼らはルーシーが泊まっている部屋を狙う。
ルーシーと同じ部屋に泊まる探索者は夜中に〈聞き耳〉ロールを行い、成功した探索者はベランダから襲撃をかけてくる敵の一団に気づくことができる。相手は3人で、マフラーのようなものを巻いて素顔を隠し、手には銃やナイフを持っていることが分かる。探索者が気づいた場合は、彼らが部屋に突入してくる前に部屋の入り口から逃げ出すことができる。あるいは部屋に入ってくるゴロツキたちに探索者から襲いかかれば、不意を打つことができるだろう。〈聞き耳〉ロールに誰も成功しなかった場合、探索者はガラスが割れた音で目を覚まし、部屋に突入してきた男たちとそのまま戦闘に入る。
ルーシーと同じ部屋に泊まる探索者がいなかった場合は、父親のヘンリーが一緒に泊まることになるだろう。この場合、探索者は夜中にヘンリーが助けを呼ぶ声に目を覚ますことになる。彼らの部屋に向かえば、中からはガラスが割れる音や銃声が聞こえてくる。部屋の入り口には鍵がかかっているため〈鍵開け〉を試みるかドアに体当たりをするなどして破壊する必要があるだろう。後者の場合、近接攻撃や銃器などのロールに成功すれば破壊できたものとする。部屋に入るとルーシーは無事だが、ヘンリーは肩口あたりを手で抑え、わずかに血が滲んでいるのが分かる(彼は3ポイントのダメージを受けている)。彼らの前には3人のゴロツキがいて、探索者が合流すれば戦闘に入る。

◆ ゴロツキたち(データは平均的なもの)
STR 65 CON 50 SIZ 65 INT 50 POW 50 DEX 45 APP 40 EDU 55
正気度 50 耐久力 11 幸運 45
DB:+1D4 ビルド:1 MP:10 移動:7
攻撃の種類:近接戦闘(格闘) 50%、ダメージ1D3+1D4
もしくは大型ナイフ(ダメージ1D6+1+1D4)
回避25%
技能:聞き耳40%、目星45%、追跡30%、隠密25%

ゴロツキたちと戦闘を行う場合、彼らは仲間の1人以上の耐久力が最大値の半分以下になった時点で降参する。探索者が彼らを尋問すれば、彼らは知っていることを包み隠さず話すだろう。彼らはこの近辺に住んでいるゴロツキで、つい先日、ある人物から大金と引き換えにルーシーを襲うように依頼されたのだという。依頼主のことを聞くと彼らは「それは言えない。俺たちも命は惜しい」と言って最初は渋るものの、探索者が脅したりすれば 依頼主が何人か軍人を引き連れたルーシーと同年代くらいの男の子供だったと教えてくれる。彼らは「本当だ、信じてくれ。あれはただの子供じゃねえ。あの目は何人も殺っている、殺し屋のような目だ」と怯えながら答える。〈心理学〉ロールに成功すれば、彼らが嘘をついてはおらず、心底恐怖しているようだと感じるだろう。ゴロツキたちはそれ以上のことは知らず、彼らからその子供や軍人たちの正体について得られる情報は何もないが、問い詰めれば「たしか砂漠に向かうと言っていた」と教えてくれる。
ゴロツキとの戦闘を避けて逃走する場合は、彼らとの対抗DEXロールに勝利するか引き分ければ逃げ切ることができるが、探索者が敗北した場合には追いつかれて戦闘を行うことになる。逃走した場合は、彼らから情報を得ることはできない。




グレートサンディ砂漠の調査

翌日から探索者の一行は砂漠に入り、発掘調査を行うことになる。航空機や衛星写真、目撃証言などに基づく事前調査によって探索すべきポイントは地図に示すA地点〜Cの3箇所に絞り込まれている。探索者は砂漠の入り口にベースキャンプを設置し、そこを拠点にしながら1日につき1箇所を調査することができる。

<プレイヤー資料:砂漠の地図>

A地点

ベースキャンプから最も近いポイントで、砂に露出した岩石が散乱している。〈考古学〉か〈地質学〉のロールに成功すれば、いくつかの奇妙な模様が彫られた岩を発見することができるだろう。これらは長い間砂風に曝されてきたにも関わらず、風化することなくその形状を保っている。岩石を発見したヘンリーは興奮する。〈目星〉ロールに成功した探索者は、その横でルーシーが何か考え事をしていることに気づく。〈心理学〉ロールに成功した探索者は、彼女の表情の裏に隠された、何か張り詰めた緊張感や覚悟のようなものを読み取ることができる。
また幸運ロールに成功した探索者は、砂の中に赤く光る六角形の宝石を発見することができる。この宝石をよく見ると内部にはコンピュータ基盤の配線のようなものが見える。これは後ほど遺跡内の武器保管庫の扉を開けるための鍵になるものだが、この時点で探索者には何に使うものか分からない。
さらに〈目星〉ロールに成功した探索者は、A地点からB地点へと向かう20名近くの集団の足跡を発見することができる。さらに〈目星〉の成功度がハードだった場合、その中に1人、小さめの子どもの足跡が混じっていることに気づく。


B地点

岩石に囲まれた区域にいくらかの草木が見られる。ここではイーサン率いる20人ほどの部隊がキャンプを張っている。この区域に近づいた探索者が〈目星〉ロールに成功すれば、離れた位置から彼らの姿を発見し、警戒することができる。しかし〈目星〉ロールに失敗した場合は、彼らから発見される可能性がある距離まで接近したところで、ようやく彼らの存在に気づくことになる。
彼らは迷彩柄の戦闘服に身を包み、銃器で武装している。さらに〈目星〉に成功すれば、その中でルーシーと同年代くらいの男の子(イーサン)の姿を発見する。続けてINTロールに成功すれば、他の兵士に指示を出したりしている様子から、その男の子が彼らの指揮官なのではないかと気づく。 ルーシーが一緒にいる場合、探索者は彼女が兵士たち(実際にはその中にいるイーサンの姿)に気づいて明らかに動揺の色を浮かべたことに気づく。〈聞き耳〉に成功した探索者は、彼女が「そんな、まさかあの男が。追いかけてきた?」と小さくつぶやいたことに気づくことができるだろう。探索者が何のことだなどと追求しても、ルーシーは答えることはなく、見つかると厄介なことになりそうだからと、一刻も早くこの場を離れて引き返すように探索者を誘導する。
探索者がキャンプに接近する場合(あるいは気づかずに接近してしまった場合)、探索者の〈隠密〉とイーサンの〈目星〉で対抗ロールを行う。探索者側が勝利すれば彼らに見つかることはなく、ある程度接近することができる。彼らに接近した探索者は彼らが地図を広げて何かを相談していることに気づく。さらに〈聞き耳〉ロールに成功すれば、かすかに聞こえてくる彼らの話の内容から「大いなる種族」「遺跡」「タイムマシン」などといった単語を拾い上げることができるだろう。しかしこれよりさらに彼らのキャンプに接近しようとすれば、探索者は彼らに発見されてしまう。
対抗ロールに引き分けするか負けた場合、あるいはキャンプに接近しすぎた場合はイーサンらに発見されてしまう。探索者を発見した彼らは、銃を構えて問答無用に探索者に発砲してくる。探索者がすぐにこの場から逃げ出そうとするのなら、この銃撃戦はフレーバーとして扱って戦闘を行う必要はない。代わりに探索者は逃走時にDEXとCONの組み合わせロールを行い、いずれかに失敗した場合は流れ弾がかすめたり逃走中に転倒するなどして1D3ポイントのダメージを受ける。探索者が逃げようとせず、彼らに近づいたり戦闘を仕掛けたりするのであれば、彼らは手にしたライフルで応戦する。この結果は明らかで、探索者は20数人の部隊を前にまたたく間に蜂の巣にされてしまうだろう。もし探索者が攻撃を仕掛けようとするのであれば、キーパーは探索者にアイデアロールを行わせて、これより接近するのは危険であると教えてあげるといい。


C地点

このポイントには砂漠に露出した大きな1枚岩がある。C地点に到着した探索者は、遠くから大きな砂嵐がものすごいスピードで接近してくることに気づく。そして逃げる間もなく探索者は砂嵐に巻き込まれてしまう。
〈目星〉あるいは〈地質学〉、〈サバイバル〉などのロールに成功した探索者は近くの岩の一部に亀裂を発見してそこに逃げ込むことで難を逃れることができるが、逃げ遅れた場合は砂嵐に呑まれて1D6ポイントのダメージを受ける。
亀裂に避難できたか否かによらず、探索者はこの吹き荒れる砂塵の向こうに巨大な建造物の影を目撃する。砂嵐はしばらくすると収まり、同時に巨大建造物の影も消失する。
建造物が見えたのは現在地点より北東の位置にあたる。キーパーはここで新たな砂漠の地図をプレイヤーに提示し、D地点の探索が可能になったことを伝える。

<プレイヤー資料:D地点の地図>




D地点〜大いなる種族の遺跡

D地点に行くと、先日の砂嵐によっていくつもの象形文字が掘られた柱や6角形の石が敷き詰められた石畳が砂の中から露出している。しかし砂嵐の中に見たような巨大な建造物の姿は見当たらない。
ここで探索者は〈聞き耳〉ロールを行う。成功した探索者は、地面の下から奇妙な笛の音が聞こえてくることに気づく。音を聴いた探索者は胸の奥からこみ上げてくる不快なものを感じ、0/1の正気度ポイントを失う。
キーパーはタイミングを見て次のイベントを発生させる。D地点で探索を行っていると探索者の後方から「見つけたぞ」という声がする。探索者が振り返ると、20名前後の戦闘服に身を包んだ兵士たちがライフルを構えて銃口を向けている。さらに彼らの中央にはルーシーと同年齢くらいに見える金髪の男の子がいて、彼らの指揮をとっている。
男の子は顔立ちこそ幼いものの、その目はぞっとするほど冷たく、口元には不気味に歪んだ笑みを浮かべている。彼は探索者に「私はイーサン・ビショップ大佐だ。貴様ら余計なことはするな。動けばすぐに撃つ。動かなければもう少しだけ長生きができる」と忠告をする。探索者がイーサンから情報を引き出そうとしても、彼は「これから死ぬお前たちには関係がないことだ」と突き放すだろう。宿敵であるイーサンの姿にルーシーは明らかに動揺する。探索者は隣りにいるルーシーが青ざめた顔をして、かすかに震えていることに気づくことができる。

イーサンと対峙していると突然、周囲に奇妙な笛の音が鳴り響く。この音は今度ははっきりと全員に聴こえる。その笛は吐き気を催すような気色の悪い音色をしており、探索者は0/1D3の正気度ポイントを失う。さらに笛の音と同時に、突然激しく乾いた突風が吹き荒れて、その場にいたものは全員が大規模な砂嵐に巻き込まれる。INTロールに成功した者はその風が地面の下から巻き上がってきたものだと気づくことができる。
この風は大いなる種族の遺跡の地下で半覚醒状態にある飛行するポリプが巻き起こしたものだ。砂嵐の中では視界はほんの僅か先までしか確保できない。探索者からは仲間の姿はかろうじて確認できるものの、イーサンたちの姿は完全に見えなくなる。そして砂塵の向こうから兵士たちのものと思われる断末魔の叫び声と銃声、そして「来るな!」「この化け物め」といった声が聞こえてくる。探索者は砂嵐の向こう側で起きている異常な事態を感じ取り、0/1D3の正気度ポイントを失う。

この砂塵の中では乾いた風が探索者の体力を奪い取り、砂のつぶてが皮膚を切り裂く。探索者は1ラウンドごとにCONロールを行い、失敗した場合、1ポイントのダメージを受ける。探索者はこの窮地から脱出するために1ラウンドに一回〈目星〉あるいは〈サバイバル〉あるいは〈ナビゲート〉ロールを行うことができる。成功すれば、砂嵐の奥(兵士たちの声が聴こえるのとは逆方向)に佇む巨大建造物の影を発見することができる。足元を見れば、六角形の石が敷き詰められた石畳がその建造物に向かって伸びているのが分かるだろう。そして探索者が2ラウンドをかけて建物に向かって移動すると、岸壁に建物の内部へと通じる裂け目を発見することができる。裂け目に逃げ込めば、もう砂嵐によるダメージを受けることはない。内部は石造りの人工の通路になっていて、片側は完全に崩れているが、もう片方は奥の方へと続いている。

<時間短縮のために>
セッション時間にあまり余裕がない場合やプレイヤーの人数が多い場合、あるいは時間がかかるオンラインのテキストセッションなどでは、A地点〜C地点の探索を省略してD地点のイベントを早めに起こしてもいいだろう。この場合は砂漠の地図は提示せず、砂漠にやってきた探索者が〈考古学〉ロールに成功すれば砂漠に点在する模様が彫られた岩や石柱を発見することができる。またその過程で幸運ロールに成功すれば、A地点で発見できる赤く光る六角形の宝石(遺跡内の武器庫の鍵)を発見することができるだろう。その後、調査を進めるうちにイーサンたちが現れて、D地点で起きるイーサンの襲撃と飛行するポリプによる砂嵐のイベントを発生させる。これにより探索にかかる時間を節約し、後半の戦闘やチェイスなどのアクションシーンに時間を割くことができるだろう。


ルーシーの目的

砂嵐を逃れて落ち着いたところで、探索者はルーシーの正体について知りたがるかもしれない。探索者から言い出さない場合は彼女の方から「言っておかなければいけないことがある」などと切り出してもいい。ここで彼女は次のような内容を探索者に打ち明ける。
・彼女の正体は意識を過去の自分に転送してこの時代にタイムリープしてきた20年後の彼女自身である。
・20年後の世界ではこの遺跡の地下深くで見つかった超古代文明の遺産であるタイムマシンを巡り大きな戦争が勃発し、多くの人々が犠牲になった。
・彼女は未来の世界で父親や探索者と共にレジスタンスに所属しており、彼らとタイムマシンを強奪してこの世界にやってきた。そしてその際に父親や探索者は彼女を庇い命を落とした。
・彼女の目的はその戦争を止めるためタイムマシンを破壊することである。
・イーサン・ビショップ大佐は未来の世界で大国の軍に所属していた人物。タイムマシンを手に入れるため、自分を追ってやってきたのだろう。

彼女の話を聞いた探索者は、未来に待ち受ける運命と時を超える超常的な技術の存在を知り、0/1D3の正気度ポイントを失う。




記録保管庫

探索者が通路の先に進めば、50mほど進んだところで広大な空間に出る。ここは気が遠くなるほど長い年月によって崩れかけているものの、天井までは10数mほどもあり、果てしなく並ぶ巨大な本棚に、星の数ほどの膨大な蔵書が押し込められている。
ここはイスの大いなる種族の情報集積施設で、神話の時代に彼らが地球上のあらゆる時間からかき集めた知識が保存されている。もしもまだルーシーの正体と目撃が明らかになっていないのであれば、ここに足を踏み入れたタイミングで彼女から探索者に打ち明けるといいだろう。
この広大な図書館の探索は図書館内を4つの区画に区切って行われる。一区画あたりの探索にかかる時間は、一人で探索する場合、1D3時間かかる。複数人で同じ場所を調べる場合はこの時間を人数で割ったもの(端数切り上げ。最低でも1時間)が探索にかかる時間となる。これにはその場所で発見された書物を読む時間も含まれる。

<プレイヤー資料:記録保管庫>


A区画

イスの大いなる種族が彼らの歴史について記した書物が並んでいる。言語を読み解くことはできないが〈考古学〉ロールやハードのINTロールに成功すると、本に記されたイラストから内容を推測することができる。
・超古代に地上に存在した円錐形の生物や宇宙から飛来した虫のような生き物、非ユークリッド幾何学的な建物に囲まれた都市と、そこに鎮座する翼の生えたタコのような神が描かれている。
・その先には円錐体の生物が電撃を放つ銃を持ち、地底より現れたポリプ状の巨大な怪物と戦う様子が記されている。
・円錐体の生物たちは最終的に、ポリプ状の怪物を地下にある円盤状の蓋の下に封印したのだと推測できる。この蓋は地面のレバーによって開閉する仕組みになっているようだ。

これらの書物を読んだ探索者は、神話の時代に関する知識を得たことでただちに〈クトゥルフ神話〉技能を+1D3%獲得し、1/1D3の正気度ポイントを失う。

B区画

ここでは〈図書館〉あるいは〈考古学〉ロールに成功するとイスの大いなる種族の科学技術について記された本を発見できる。
・謎のキューブ状の物体
・電撃を放つ銃についての解説
・奇妙な機械で人間やカブトムシのような甲虫と精神を交換する様子
・精神を交換する装置の設計図らしきもの

これらの書物を読んだ探索者は、イス人の科学技術についての知識を得て〈クトゥルフ神話〉技能を+1%獲得し、1/1D3の正気度ポイントを失う。さらにINTロールに成功した探索者は〈電撃銃〉の使い方を何となく把握して〈電撃銃〉技能を+1D10%獲得する。またこの書物にはタイムマシンを作るための設計図が記されている。これを完全に読み解くには〈物理学〉と〈工学〉に関する専門的な知識と少なくとも6週間が必要で、この場所で解読することはできない。この書物の存在は未来の世界で戦争の引き金になる可能性があるものである。探索者が望むなら該当するページを燃やしたり完全に破壊することでその可能性を潰すことができる。


C区画

様々な時代から精神交換でやってきた者が記した書物が格納されている。ここで探索者は自身が習得している現代の言語で書かれた書物をいくつか発見することができる。
・これらは太古の遺跡で発見された書物であるにも関わらず、近代の出来事や技術、学問などについて書き記されている。
・〈考古学〉に成功すれば、経年劣化の様子から、それらは確かに書かれてから相当な年月が経過したものだと推測できる。
・その他にも〈考古学〉に成功すれば、古代の言語や未知の言語で書かれた書物が多数存在していることがわかる。

さらに探索者が〈図書館〉ロールに成功すると、これらの書物の中から今回の発掘調査に関すると思われる記述を発見する。この書物は現在よりも少し未来、イスの大いなる種族によって精神交換を行われ、太古の時代にタイムスリップした探索者が書き記したものだ。さらにこれは戦争が起きた世界で書かれたもので探索者が未来でミスをしたため戦争の阻止に失敗したことを示唆している。この情報はこの先で探索者が正しい道を選ぶためのヒントになるだろう。キーパーは次の文章を探索者に公開すること。
オーストラリアの砂漠で目撃された古代遺跡の調査のため、ミスカトニック大学は発掘隊を現地へと派遣した。これはその調査に関わる出来事を書き記したものである。私はヘンリー・スコップ教授、ルーシー・スコップ教授らと共にこの隊に参加した。目的は現地で目撃されたという遺跡の調査だ。オーストラリアの西海岸に降り立った我々は広大な荒野を長い時間をかけて移動し、鉱山の街で最後の補給を行う。この際、後述する敵対者により差し向けられたゴロツキに襲撃を受けるものの、どうにか事なきを得ることができた。翌日には目的地となる荒廃した領域へと足を踏み入れる。
ベースキャンプを拠点に事前調査によって絞り込んだポイントの調査を行い、いくつかの古代文明の痕跡を発見する。そこで我々は再度、敵対勢力による襲撃を受けることになった。彼らは我々よりも遥かに多い人数で銃で武装しており、我々は窮地に追い込まれることになったが、突然発生した砂嵐によって救われた。さらに幸運なことは(今にして思えば、これは幸運などではなかったのかもしれないが)、我々がこの砂嵐の中で古代遺跡への入口を発見できたことだ。当時はまさか、自分が”この場所”に来ることになるとは思ってもみなかったのだが。
我々は遺跡の中に足を踏み入れた。そこはまさに驚くべき場所で、巨大な図書館には膨大な量の書物が保管されていた。またもう1つショックだったのは、この時ルーシー・スコップ教授が語った未来の世界についての話だ。彼女によれば未来ではこの遺跡で発見されたタイムマシンを巡る戦争が起き、それを止めるために彼女は未来から過去にやってきたということだった。そして我々を襲撃した男もまた、彼女を追ってこの時代にやってきた者であるらしい。その後、我々はいくらかの書物を読み、瓦礫の先に地下へと続く通路を発見する。その先で我々は・・・
(以下しばらくは文字がかすれて読み取ることができない)
最深部で敵対勢力と交戦。犠牲を払いながらもどうにか彼らを撃退しタイムマシンを破壊することに成功した。しかしやがて遺跡の存在は世界に知られることになり、解読された設計図を巡って戦争が勃発した。結局、我々は戦争を止めることはできなかったのだ。あの時、あの書物を処分していれば。あるいはあの蓋を開けていれば、未来は違ったのかもしれない。全ては後悔であり、私には過ぎ去った過去を変えることはできない。
せめて次の我々がこの記録を読み、正しき手段をとることを願い、これを記す。
<プレイヤー資料:記録保管庫の手記>

これを読んだ探索者は、未来に待ち受ける運命を知ったことでショックを受け、0/1D3の正気度ポイントを失う。

D区画

崩れた瓦礫に埋もれた区画。ここにあるものはほとんど完全に風化して、読むことができるような書物は残されていない。この場所を調査した探索者はどこからともなく吹き込んでくる乾いた風に気づくことができる。〈目星〉あるいは〈聞き耳〉ロールに成功すると、その風をたどって瓦礫の隙間の先に奥へと続く通路を発見することができる。


通路

図書館のD区画の裂け目の先は広い通路になっている。この通路は一方が土砂で完全に埋もれていてるが、もう一方は200mほど進むと地下へと下る斜面に繋がっている。
通路を進むと左手に大きな両開きの扉を発見することができる。扉は分厚く重い石で造られていて、人力ではとても動かすことが出来ない。
この扉の中央には小さな六角形の窪みがあり、そこを中心に複雑な回路基板の配線のような模様が周囲に広がっている。扉はこの窪みに動力源となる宝石をはめ込むことで開くことができる。この宝石は探索者が砂漠のA地点で発見することができるものだ。扉を開くことができれば、その先は武器保管庫に繋がっている。


武器保管庫

この部屋の壁や天井には奇妙な配線が這い回り、部屋の中には大きな金属製の棺のようなものがずらりと並んでいる。棺の蓋は透明なガラス製になっており、中にはまるでSF映画に出てくるような奇妙な銃が収められている。図書館内で〈電撃銃〉技能を獲得した探索者であれば、これがイス人の電撃銃であることが分かるだろう。
ここにある電撃銃は、長年の経年劣化でほとんどがエネルギー切れとなっていて使えないが、〈目星〉ロールに成功すれば、それらの中から最大で1D3丁の使用可能な電撃銃を発見することができるだろう。手に入れた電撃銃には1つあたり24発分のエネルギーパックが装填されている。
電撃銃のデータについては「新クトゥルフ神話TRPGルールブック」P.266を参照する。


地下への道

通路の先には地下の最深部へと続く長い斜面になっている。ルーシーはここを降りた先に目的とするタイムマシンがあるのだと言う。
螺旋階段のようにぐるぐるととぐろを巻いた斜面を地下へと下っていく途中で、後方から追ってくるイーサンたちに気づくかどうか、探索者に〈聞き耳〉をロールさせること。成功すると、後方から何人もの足跡が駆け足で迫ってくる音に気づく。
探索者がすぐに逃げ出すなら、即座にイーサンたちとのチェイスに移行する。この場合はイーサンたちは探索者の3つ後ろの場所に配置する。探索者が彼らの接近に気づかなかった場合は敵に近くまで接近されてしまうだろう。イーサンたちは探索者の2つ後ろの場所に配置する。

<遺跡でのチェイス>
イーサンらは集団で1人の追跡者として扱い、ロールを行う際はイーサンの能力や技能を参照する。探索者がイーサンへの攻撃のロールに成功した場合、彼の部下がイーサンを庇う。これによりイーサンがダメージを受けることはないが、そのラウンドの間だけイーサンにペナルティー・ダイス1つを適用できる。探索者が彼らに追いつかれた場合は、彼らからの銃撃に曝されることになる。

このチェイスでは次のようなハザードが考えられる。これらのロールに失敗した場合(「狭い道」の場合は成功してしまった場合)、1D3の移動アクションを追加で消費する(そのラウンドの移動アクションがマイナスになる場合は、足りない分を次のラウンドの移動アクションから消費する)。〈目星〉ロールに成功すれば、探索者はこれらのハザードの内容と場所を把握することができる。
急な斜面:DEXロールに失敗すると転倒する。
狭い道:スムーズに通り抜けるにはSIZロールをハードの難易度で「失敗」する。成功してしまうと、通り抜けるのに余分な時間がかかってしまう。

さらに探索者は移動アクションとして、次のような行動を取ることができる。
・自身よりMOVが低い相手に対して。自身のSTRと相手のSIZで抵抗ロールを行い、引き分け以上なら、仲間を手助けして相手の移動アクションの残りを+1できる。
・行動不能の相手に対して。自身のSTRと相手のSIZで抵抗ロールを行い、引き分け以上なら、相手を抱えて一緒に移動することができる。失敗しても一緒に移動できるが、移動アクションを余分に1D3消費する。

探索者が3つ先の場所までたどり着けば、チェイスは終了し、次のイベントが発生する。




遺跡の最深部

チェイスの終了条件が満たされるとイベントが発生する。イーサンから逃げ延びたところで遺跡内に強い揺れを感じる。そして直後に探索者の足元の地面が突然崩れる。探索者は崩落に飲み込まれ、地下深くへと落下していく。〈跳躍〉ロールに失敗した探索者は1D6ポイントのダメージを受けてしまう。
探索者は遺跡の最深部で目を覚ます。近くには他の探索者とルーシー、ヘンリーの姿がある。探索者が目を覚ました場所は石壁で囲まれた広いドーム状の空間で、いくつもの大きな円盤状の蓋が地面に並んでおり、さらに手前には大きなレバーが地面から突き出している。地面の蓋は飛行するポリプを地下に閉じ込めておくためにイスの大いなる種族が設置したもので、このレバーによって開閉することができる仕組みだ。そしてこの下には封印された飛行するポリプが今も眠っている。
さらに部屋の中心には台座があり、その上には精巧に作られた奇妙な装置が鎮座している。図書館のC区画で彼らの技術に関する書物を読んだ探索者は、これが異なる時代に精神を投射するための装置であることに気づく。探索者に分からなかった場合はルーシーが、この装置がタイムマシンであることを教えてくれるだろう。さらにこの部屋の両側には出入り口があるのが見える。この出入り口の先はどちらも地上へとつながる通路になっている。

探索者がタイムマシンに近づこうとすると突然銃声が響き渡り、探索者の足元に銃弾が着弾する。振り返ればイーサンが通路の片側から仲間を連れてやってくる。先ほどの崩落に巻き込まれたためか兵士の数は3名ほどにまで減っている(ここでの敵の人数は探索者の強さに合わせて調整してもいいだろう。ただしあまり敵の人数を増やすと戦闘処理に時間がかかるため注意すること)。探索者の前に現れたイーサンは「残念だったな。このタイムマシンは我々のものだ」といって兵士たちに合図をすると、彼らはライフルを構えて探索者に銃口を向ける。

「3分間だけ待ってやる。その間に尻尾を巻いて逃げるなら見逃してやってもいい」

イーサンは右手にリボルバー式の拳銃を構え、左手には手のひら大ほどの立方体状の装置を持っている。この装置はイス人が作った指向性を持つ特殊な停滞キューブで、手元のスイッチを押すことで、自身の前方に1m四方ほどのサイズの時間の障壁を作り出すことができる。この障壁を通過する物体は極端に時間の流れが遅くなる。この力によってイーサンに向かって発射された銃弾は空中で静止し、近づこうとする者は時間が停止して彼に触れることができない。ただしこのキューブは巨大な岩などといった障壁のサイズをはるかに超えるような物体であったり、非実体にも有効なエネルギーや呪文などによる攻撃は受け止めることはできない。図書館でイス人の科学技術の知識を得た探索者がINTロールに成功すれば、この立方体の機能に気づくことができる。


結末

この先の主な展開としては、次のようなものが考えられる。
・イーサンたちと戦闘を行い、力づくでタイムマシンを破壊する。
・蓋を開ける。
・尻尾を巻いて逃げる。
ここにはこれら2つのケースについて記載するが、プレイヤーからの提案があれば、キーパーはプレイヤーの話をよく聞き、自身の裁量で採用してもいい。


力づくでタイムマシンを破壊する

探索者がタイムマシンを破壊しようとするのであれば、イーサンと兵士たちとの真っ向からの戦いになる。彼らは人数が減っているとはいえ銃器で武装しており、探索者も無事では済まないだろう。
タイムマシンは耐久力が13ポイントあり、攻撃を加えて耐久力が0になれば完全に破壊することができる。敵はタイムマシンを攻撃する探索者を優先的に狙う。
またイーサンは指向性停滞キューブの障壁により銃器による攻撃を寄せ付けない。近接攻撃を加えようと不用意にイーサンに接近した探索者は、停滞キューブの結界に接触して時間が停止してしまう。時間が停止した探索者はあらゆる物理的なダメージを受けない代わりに、結界から離れるまでは何もすることができない。探索者がタイムマシンの破壊を試みるのなら、彼はこの効果を利用してタイムマシンを庇おうとするだろう。
イーサンに対しては電撃銃の攻撃が有効である。非物質的なエネルギーはこの障壁を通過して彼にダメージを与えることができる。また探索者がDEX抵抗ロールに勝利すれば、素早く回り込んでバリアに守られていない側面を付くことが可能だろう。〈隠密〉ロールに成功した探索者は、イーサンに気づかれないように彼の背後や側面に回り込むことができる。結界は彼の前方にのみ展開されているため、背後や側面からは攻撃を加えることができる。
タイムマシンを破壊して、さらに彼ら全員を倒すことができれば探索者側の勝利となる。

◆ 平均的な兵士の能力
STR 60 CON 55 SIZ 65 INT 55 POW 50 DEX 60 APP 55 EDU 65
正気度 60 耐久力 12 幸運 50
DB:+1D4 ビルド:1 MP:10 移動:8
攻撃の種類:近接戦闘(格闘) 50%、ダメージ1D3+1D4
もしくは大型ナイフ(ダメージ1D6+1+1D4)
射撃(SKSカービン)30%、ダメージ2D6+1
回避30%


蓋を開ける

床から生えているレバーを動かすことで、地面の蓋を開けることができる。この巨大なレバーを操作するにはそれなりの力が必要で、探索者はSTRロールに成功する必要がある。この操作には最大で3人までが同時に参加することができ、その中で最もSTRが高いキャラクターが代表してロールを行う。このロールにはレバーの操作を手伝う探索者1人につきボーナスダイスを1つ得る(最大2つまで)。レバーを倒せば円盤状の蓋が開き、同時に吐き気を催す口笛を吹くような音が聞こえてくる。キーパーは以下をプレイヤーに読み聞かせる。
その場にいた全員が、音のする方向を目で追いかけた。その視線の先に”それ”はいた。地上から8mもあろう天井の近くに、羽も翼も持たないのに、その巨大な化け物は飛んでいた。この世の物質とは異なる法則に従う半ポリプ状の種族。恐ろしく柔軟な体は常に実体と非実体の境界を漂い、幾本もの触手や口を形成しては分解し、異界の笛の音を発しながら見えたり見えなくなったりを繰り返していたのだ。

飛行するポリプ(「新クトゥルフ神話TRPGルールブック」P.297-298を参照)を目撃した探索者は1D3/1D20の正気度ポイントを失う。飛行するポリプは触手を伸ばして襲いかかる。イーサンや兵士たちがこの怪物の最初に犠牲になる。彼らは飛行するポリプに銃で応戦するがダメージを与えることはできない。さらに怪物の触手は部屋にあるあらゆるものを薙ぎ払い、タイムマシンも例外ではなく一撃で粉々に破壊される。そして飛行するポリプが暴れまわったことで遺跡が崩壊を始める。
ここからは崩壊する遺跡から脱出するためのチェイスを行う。このチェイスの追跡者となるのは「遺跡の崩壊」でMOVは7だ。「遺跡の崩壊」は速度ロールによるMOVの調整は行わず、常にチェイス・ラウンドの最後に行動する。またこの追跡者は探索者が遺跡の出口に到達するまでチェイスから脱落しない。「遺跡の崩壊」を探索者の3つ後ろの場所に置いたらチェイスを開始する。

<崩壊からの脱出>
このチェイスでは次のハザードとバリアーが発生する。これらのロールに失敗した場合、1D3の移動アクションを追加で消費する(そのラウンドの移動アクションがマイナスになる場合は、足りない分を次のラウンドの移動アクションから消費する)。〈目星〉ロールに成功すれば、探索者は「穴」と「崩れた岩」の内容と場所を把握することができる。「強襲」は突発的なイベントとなるため、探索者が事前に把握することはできない。
:道が一部くずれている。迂回せずに進むには〈跳躍〉ロールをする。または〈ナビゲート〉ロールに成功すれば適切な迂回路を見つけて時間をロスしないで済むだろう。
崩れた岩:崩れた岩が道を塞いでいる。進むにはハード難易度のSTRロールに成功するか、岩に15ポイント以上のダメージを与えて岩を取り除く必要がある(誰かが岩を取り除いたら、このバリアーを削除する)。
強襲:飛行するポリプが床を破壊して地下から暴れる触手を伸ばしてくる。電撃銃によって一撃の攻撃で5ポイント以上のダメージ(ダメージが4ポイント以下の場合は装甲によって無効化される)を与えることができれば、飛行するポリプの触手はけいれんを起こして退避していく(このバリアーを取り除く)。これを回避しながら強引に切り抜けるには〈回避〉かハード難易度のDEXロールを行う。これに失敗した場合は移動アクションの消費に加えて耐久力に1D10ポイントのダメージを受ける。

さらに探索者は移動アクションとして、次のような行動を取ることができる。
・自身よりMOVが低い相手に対して。自身のSTRと相手のSIZで抵抗ロールを行い、引き分け以上なら、仲間を手助けして相手の移動アクションの残りを+1できる。
・行動不能の相手に対して。自身のSTRと相手のSIZで抵抗ロールを行い、引き分け以上なら、相手を抱えて一緒に移動することができる。失敗しても一緒に移動できるが、移動アクションを余分に1D3消費する。

探索者が4つ分先まで場所を移動することができれば、遺跡の出口に到達して崩壊から逃れることができる。探索者が脱出すると遺跡は飛行するポリプ共々、砂塵の中に沈むように消えていく。これにより飛行するポリプは再び地下へと身を潜め、眠りにつくことになるだろう。


尻尾を巻いて逃げる

探索者がこのような選択を取る可能性は少ないが、探索者がタイムマシンを諦めて逃げ出すのであればイーサンは言葉通り見逃してくれる。探索者は無事に帰還することができるが、タイムマシンは彼らの手に落ちる。ルーシーは失意のうちに未来に戻る手立てもなくこの時代にとどまることになる。

エンディング

探索者が無事に遺跡から生きて戻ることができればシナリオはクリアとなる。タイムマシンを破壊した場合、ルーシーはいつの間にか年相応の精神年齢に戻っており、未来の出来事はすべて忘れている。これは未来が変わったことが作用した結果として起きた事象であるものの、詳しい原因や因果関係までは分からない(もしキーパーが望むなら、親殺しのパラドクスや多世界解釈などを持ち出し、例えばルーシーはそのまま残るといった他の結果に導いてもよいだろう)。
探索者が未来を変えることが出来たかどうかは、次の条件を達成できたかどうかに依存する。
・図書館でタイムマシンの設計図を処分した上で、地下のタイムマシンを破壊した。あるいは…
・地下で蓋を開き、遺跡自体を完全に破壊した。
上記のいずれかを満たしていればタイムマシンの存在が世間に知られることはなく、戦争を回避することができる。未来の世界を救った探索者は正気度ポイントを1D10獲得する。さらに今回の探検隊に参加したNPC2人を含む全員が無事生還できた場合は、追加で正気度ポイントを1D6獲得する。条件を満たすことが出来なければ、探索者の帰国後にタイムマシンの存在が明るみに出て、数年後にはタイムマシンをめぐり大きな戦争が勃発する。こちらのケースでは得られる正気度ポイントは何もない。やがて探索者も大きな戦いに巻き込まれていくことになるだろう。
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