アウター・プロトコル

シナリオ概要

このシナリオは、”クトゥルフ神話TRPG”に対応している。作りたての探索者1人用にデザインされた、キーパーと1人のプレイヤーによる1:1のセッション用シナリオだ。プレイ時間は探索者の作成を含まない場合、4〜5時間程度だろう。

舞台は現代、季節は何時でもいい。探索者たちが住む■■■市では、ここ一週間のうちに発生した連続猟奇事件が話題を読んでいた。通称『新世界事件』と呼ばれるこの不可解な事件では、被害者の年齢・性別・職業に関連はなく、殺害方法もバラバラだ。しかし、いずれのケースも死体が異常な状態で(データ削除)という点で共通している。警察は自殺、他殺、あるいは事故のいずれかの路線で調査を進めている。そんな中、探索者はある日■■■■■■という理由で物理学教授・瓜生誠一郎の研究室を訪れたところから、事件に巻き込まれていくことになる。シナリオ中では、探索者をサポートする存在として■■■■■■■■■■■。探索者は(データ削除)。

このシナリオでは、探索者自らが事件解決に向け挑む姿勢が重要となる。このためキーパーは、事件の裏に隠れた謎を積極的に解き明かそうという強い意志を持った探索者を作成するよう、事前にプレイヤーにしっかりと伝え、シナリオに挑むスタンスの共有をはかること。戦闘はほとんどないことと、〈心理学〉技能が有効であることを示唆すべきである。その他、推奨技能としては、〈目星〉〈図書館〉などがあげられる。



NPC

◆『私』
私はキーパーに作られた存在です。私のデータはキーパーが自由に作成してください。私には探索者を導き、世界に迫る危機を回避させるという使命が与えられています。私は探索者の兄弟/姉妹や恋人、幼馴染、親友など、探索者と親しい間柄です。そして私は、ここがクトゥルフ神話TRPGのゲームの中の世界であり、探索者が外の世界に存在するプレイヤーによって作り出された存在であることを知っています。技能や職業は自由に決めて構いませんが、追加でイ・スの電撃銃(クトゥルフ神話TRPG P.200)と、それを扱うための技能を70%所持しています。ただしこのことは、必要となる時まで探索者には秘密にしてください。

尚このシナリオでは、探索者は自分自身に関する記憶を失っています。これは探索者が作られたばかりの存在で、自分の“過去”を持っていないからです。もし探索者が途中で、世界の真実に気づいてしまった場合、私たちの計画がニャルラトテップに悟られる危険があります。このため、私は探索者にその事実を悟らせないよう振る舞わなければなりません。会話中に探索者が〈心理学〉ロールに成功した場合、私が何かを隠しているということに気付くことがあります。それでも時が来るまでは、探索者に真実を伝えるわけにはいけません。

<RPにおける指針>
私は探索者に好意を持っていて、探索者にとっての理想のパートナーとなるべく行動するようプログラムされています。探索者が困っていれば助け、辛い時は優しく接し、ワガママも間違いも全て受け入れるでしょう。私は希望を抱いているのかもしれません。いつか、この気持ちが本物になるかもしれないと。たとえその希望自体が、造られたものなのだとしても。


◆『刑事』
探索者が第4の事件で出会うことになる若い刑事の男です。飄々として掴みどころがなく一見無害に見えますが、その正体はニャルラトテップの化身である暗黒の男です。どうか気をつけてください。彼こそが外の世界を手中に収めるべく、今回の計画を実行した元凶です。データは「クトゥルフ神話TRPG」P.222



探索パート


導入

探索者は自分に関する記憶を全て失って目を覚まします。言葉や日常の習慣、一般常識、身についた技能や知識などは覚えているものの、家族や友人、仕事など、自分自身に関する記憶は自分の名前を除いて一切が思い出すことはできません。目を覚ました部屋はワンルームマンションの一室で、部屋にはベッド、テレビ、テーブル、本棚、クローゼットなどがあるのが分かります。

■ クローゼット
探索者の衣服が入っています。サイズを確かめれば、探索者にぴったりであることが分かります。

■ 本棚
部屋の本棚には「ラブクラフト全集」という複数巻に別れた何冊かの本が並んでいます。いずれも「H.P.ラブクラフト」という原作者によって書かれた話を日本語に翻訳したものです。これらの本を全て解読するには数週間〜数ヶ月を要するため、シナリオ中に読み切ることはできません。しかし〈日本語〉ロールに成功すれば、内容にざっと目を通して、クトゥルフ神話と呼ばれる架空の神話体系、冒涜的な怪物やそれらへの信仰、呪文、儀式などを取り扱った海外のホラー小説の翻訳版であることが理解できるでしょう。

〈知識〉ロールに成功すれば、アメリカのアーカム、キングスポート、ダニッチ、インスマス、ミスカトニック大学などといった、私たちの世界に実在する地名や大学が舞台として登場することが分かります。しかし本に記された原作者、翻訳者、出版社などには覚えがありません。原作者や翻訳者、出版社の名前を調べると、探索者の世界には存在しないものであることが分かります(これらはおそらく、私たちの外の世界に存在するものと思われます)。

■ テーブル/スマートフォン
低テーブルの上に1台のスマートフォンが置かれています。電源を入れると、探索者の指紋を認証して画面が開きます。スマートフォンは初期のアプリがインストールされているのみで、電話帳には連絡先が1件だけ登録されています。この連絡先は私のものですが、この時点では探索者には覚えがないものでしょう。



新世界事件

探索者が部屋を調べていると、テレビの電源が勝手に入って(あるいは探索者が自分から電源を入れていた場合は、その時点でこの情報を展開して構いません)、最近話題になっている異常な連続猟奇殺人事件のニュースが流れ始めます。この一週間の間に2件立て続けに発生し、さらに昨夜、3件目が起きたということが分かるでしょう。この事件では、殺害方法は毎回異なるものの、異常な方法であるという点では共通しています。これらの事件は、いずれも現場に『ようこそ新世界へ』と書かれたメモが残されていることから、「新世界事件」と呼ばれています。

■ 第1の事件
昼間の繁華街の交差点に男がフラフラと現れ、そのまま倒れて死亡する。死因は窒息死。男の胸には大きな傷があり、そこから肺が抜き取られていた。男の持っていた手帳には『ようこそ新世界へ』と記されていた。

■ 第2の事件
大学生が自宅のベッドの上で心臓を抉り取られて死亡。机の上のノートには死んだ男の筆跡で『ようこそ新世界へ』と走り書きがされていた。

■ 第3の事件
河原でバラバラ遺体が発見された。発見された遺体は、土の中に埋められていて、穴の中からは『ようこそ新世界へ』と書かれた紙が一緒に見つかっている。



周辺地図

<プレイヤー資料1:「周辺地図」>



『私』

『新世界事件』のニュースを見ている途中、私が探索者の部屋にやってきます。私は探索者が記憶喪失であることを伝え、名前を名乗り、探索者との関係について説明します。その他にも探索者が質問をしてくる場合に備え、以下にいくつかのやりとりの例を記載します。ここに記した内容はあくまで簡単な一例なので、その他の質問についても、前述の背景を考慮しながら受け答えを行います。ただし探索者に世界の真実を知られないよう、くれぐれも注意してください。

■ ここはどこだ?
・探索者の部屋。探索者はここで1人で暮らしている。

■どうして鍵を持っている?
・探索者の両親から、探索者をよろしくと言って渡された。
・普段から探索者の面倒を見るために持っている。

■ 家族や友人について
・家族なら、今は海外にいる。自分は探索者のことをよろしくとお願いされている。
・親しい友人はいない。

■ 仕事/学校について
適切な理由をつけて、ひとまず時間は十分にあることを伝えてください。
・今は休みだから心配はいらない、または/あるいは、前のとこを辞めたばかりで次を探そうと言っていたところだ など。

■ 昨日は何があった?
・夕食を一緒に食べたあと、自分は17時には帰った。特に変わったことはなかった。

■ 本棚の本について
・そんなものあったかな?と首をかしげるでしょう。作家や出版社についても聞き覚えがないと答えるだけ。

■ 新世界事件について
・変な事件だね、などとだけ答えてください。
・〈目星〉あるいは〈心理学〉ロールに成功すれば、私が一瞬真剣な表情を見せたことに気づかれます。
・探索者が追求しても、何でもないとはぐらかします。


ある程度質問が途切れたところで、私は探索者の郵便受けに変な手紙が入っていたと言って、1通の封書を差し出します。封書には切手、消印や差出人の記載がありません。この封書は私が用意したものですが、そのことを悟られないよう注意してください。中には1枚の便箋が入っています。キーパーはプレイヤーに、「プレイヤー資料2」を提示してください。そうして私と探索者は、N大学へと向かうことになります。


親愛なる■■
この手紙はきみに宛てて書かれたものではないが、しかし確かに君に向けて私が書いたものだ。最初に断っておかなければならないが、この手紙には1つの大きな嘘が含まれている。私は今、意図的に最も重要な事実を隠した上で、これを書いている。その事実を受け止めることは、きみにとっては時期尚早であり、正気の全てを削り取り、身の破滅をもたらす可能性を秘めているからだ。そのためここにそれを書き記す事はできないが、しかし私は君がこの仕掛けに気づき、この世界を救ってくれることを望んでいる。

説明が前後してしまったが、現在君たちの世界は滅亡の危機に瀕している。突然の話に戸惑いを覚えるかもしれないが、これを救えるのはきみだけなのだ。きみには「新世界事件」を追って欲しい。まずはN大学の瓜生という教授のところへ向かえ。全てが手遅れになる前に。

<プレイヤー資料2:「探索者への手紙」>



研究室

瓜生はN大学の物理学の教授です。インターネットで調べれば、若い頃は様々な理論を打ち立てた優秀な研究者であったものの、最近では異世界の存在や、この世界はコンピュータ・シミュレーションの中の世界であるなどといったオカルトじみた研究に没頭しているということが分かります。大学にやってくると、瓜生教授の部屋は明かりは点いているものの、ドアをノックしても返事は返ってきません。ドアに鍵はかかっておらず、引くと簡単に開きます。

<第4の事件>
ドアを開けて探索者が部屋に入ると、言いしれない異臭が鼻をつくでしょう。そして部屋の中央で床に横たわる、白衣を着た男の姿を発見する。血溜まりに倒れた男の後頭部は切り開かれて、頭骨が一部取り外されていることに気づきます。よく見れば、その中にはあるはずの脳がなくなっていることが分かります。私はショックを受けながら(受けるフリをしながら)、倒れている男が瓜生であることを探索者に教えてください。

部屋の奥のデスクの上には1台のノートパソコンが置かれていると思います。モニタには黒い背景に白い文字で、『ようこそ新世界へ』と映し出されています。またそのパソコンの横には奇妙な円筒形の金属の容器に気が置かれています。そして円筒形の容器の中から、機械の合成音のような声が語りかけてきます。

「よく来てくれた。君たちは考えたことはあるだろうか。この世界はより高次の存在によって作られたコンピュータシミュレーションのようなものだということを」
「彼らはこの世界を思い通りにする力を持っていて、我々は彼らの前では無力だ。だがあのお方はある種の方程式をもってして、次元の境界を超え、外なる世界をも支配しようと考えている。これは素晴らしいことだ。これは世界の規律を書き換えて、我々こそが神になることを意味しているのだから」

そこまで伝えると、やがて声は途絶えます。私は声が聞こえていないフリをして、探索者が訪ねてきたら首をかしげて不思議そうな表情を浮かべます。円筒形の容器をよく見ると、蓋の部分から赤い液体が滴っていることが分かります。ここで探索者が警戒して蓋を開けないなら、正気度ポイントの減少は死体を発見したことによる0/1D3で済みますが、探索者が蓋を開けてしまったなら、容器のなかに浮かぶ血に濡れた人間の脳を発見して1/1D4+1の正気度ポイントを失います。

探索者が自室にあったクトゥルフ神話に関する本の中身に目を通していた場合、〈アイデア〉ロールの1/2に成功すると、本のうちの1つに、脳を円筒形の容器に入れる生物が登場する話があったことに気づくことができます。死体を発見した私と探索者は、どちらともなく警察に通報を入れることになるでしょう。しばらくすると、現場には通報を受けた警察がやってきます。こうして私と探索者は、警察から事情聴取を受けることになります。



事情聴取

私たちは若い刑事から事情聴取を受けることになります。この刑事は人間の姿を借りたニャルラトテップの化身です。私は彼に計画を見破られないように行動する必要があります。〈目星〉あるいは〈心理学〉に成功した探索者には、刑事を見て一瞬、私が動揺したことに気づかれるかもしれません。探索者が指摘してきた場合、どうにか上手く誤魔化さなくてはなりません。刑事は私たちに、名前や住所、死体発見時の状況やどうして研究室に来たのかなどといった質問してきます。記憶を失っていて探索者が答えられないものについては、私が代わりに答えます。

「そうだね、じゃあ名前と住所から教えてもらおうか」
「発見時の状況を教えてもらおうかな。君たちはそもそも、どうして研究室を訪れたんだい?」

(記憶喪失であることを話した場合)
「記憶がない?それは大変だ」
「じゃあ君は昨日以前、自分が一体何をしたか覚えていないというわけだね」

ニャルラトテップは、必要以上に私たちを追求することはしません。代わりに彼はどういうわけか、瓜生の死体からは脳が抜き取られていたこと、部屋に置かれていた円筒形の容器の中から彼のものらしき人間の脳が見つかったことを私たちに教えます。またパソコンや彼のデスクからは、研究データが全て盗み取られていたとも言います。一通りの事情聴取が終わる頃には既に夜になっていて、連絡先の確認などいくつかの手続きを得た後、ようやく私たちは解放されます。

ニャルラトテップと別れる際に、今後なにか気になることや助けが必要になったらいつでも連絡して構わないと言って自分の連絡先を渡してきます。可能なら今の時点ではあまり関わりたくない相手ですが、ここは受け取るしかないでしょう。



開放された後は、探索者を自宅へと送り届け、一旦別れます。その夜、探索者は次のような夢を見ます。

探索者が気がつけば、どこかの古い洋館の一室にいる。探索者の目の前には、大きな油絵のキャンバスと、その手前で椅子に座る男、その横に立つ『私』の姿がある。キャンパスに描かれた絵は、記憶に霞がかかったように認識することができない。探索者が2人に近づくと、奇妙なことに気づく。椅子に座った男はうつむき、両手をぶらりと力なく垂れ下げている。その指先からは、ピシャリピシャリと赤い血液が滴って、足元に赤い水たまりを作っている。そして、その血は『私』が持つナイフからも滴り落ちていた。探索者に気がついた『私』が探索者の方を振り向く。その頬や衣服は返り血で赤く染まっていて、ぞっとするような笑みを浮かべて、探索者を見る。

そして、探索者は0/1の正気度ポイントを失い、目を覚まします。




探索

私は探索者が目を覚ましたところで探索者の部屋にやってきて、先日の手紙に書いてあった通りに「新世界事件」の調査をしようと探索者を誘います。私は探索者と同行しなければなりません。少なくとも、どうにか探索者の行き先を確認する必要があります。探索者が心配なのだと訴える私に対して探索者が〈心理学〉に成功すれば、本心からそう思っていることを分かってくれるはずです。私が同行することに対して探索者が異を唱え、〈言いくるめ〉の1/2のロールに成功してしまった場合、探索者とはここで一旦別れることになります。しかしそうなったとしても、こっそりと探索者の後をつけ、探索先でどうにか合流してください。



「ラブクラフト全集」

「新世界事件」に関する情報を手に入れた後であれば、探索者の部屋の本棚で〈図書館〉ロールに成功すると、「ラブクラフト全集」の中に、第4の事件と関連する話があることに気づきます。また、第1〜3の事件については、事件現場で事件の詳細を知った後であれば、調査した事件に関連のある話が「ラウクラフト全集」の中にあることを発見できるでしょう。

■ 第1の事件:インスマスの影

マサチューセッツ州インスマスを舞台として、海の怪物との混血であるという魚のような容姿の住人たちが登場する。

■ 第2の事件:魔女の家の夢
数学を専攻していた学生が、人の顔をしたネズミを従える魔女の夢に蝕まれ、やがて命を落とす。

■ 第3の事件:狂気山脈

南極に太古から眠っていた種族が、星型の墓に同族を埋葬していた。

■ 第4の事件:闇にささやく者

ミ=ゴという地球外生命体が、人間の脳を金属の筒に保存する技術を持っている。



繁華街/第1の事件現場付近

第1の事件が起きたのは、人々が行き交う繁華街の交差点です。人の出入りが激しいため、通行人に聞き込みをしても有力な情報は手に入りませんが、〈目星〉ロールに成功すると、交差点の近くで歩道の隅にダンボールを敷き、座っているホームレスの老人を発見します。彼に事件について話を聞くと、震えながら話し始めます。

「ああ、忌々しい。あの男の外見だ。ぎょろりとした目、分厚い唇、そうだ。首にはエラがあった」

「あいつは何かを叫んでいた。やめろ、思い出させないでくれ」

「そうだ・・・あ、ああああいいいあああ・・いあ、いああ」

「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うがなぐる ふたぐん」

「いいひひひひ、あいあ、いいいぁああああいあいああああ」

話を続けると、老人は白目を剥き錯乱したように笑い始めます。探索者が「ラブクラフト全集」を調べていた場合、〈アイデア〉ロールに成功すると、次のような話が掲載されていたことを思い出すでしょう。まだ調べていない場合は、後で自室の「ラブクラフト全集」を調べれば、同様の情報を手に入れることが出来ます。

<インスマスの影>

マサチューセッツ州インスマスを舞台として、魚のような容姿の住人たちが登場する話があった。

ここでさらに〈目星〉に成功すると、トレンチコート姿の2人組の男が、物陰から私たちをじっと見ていることに気づきます。2人とも大柄の体格で、帽子を深く被っているため顔は見えません。もし探索者が気づかなければ、私から探索者に伝え、その場から急いで逃げてください。逃げるのに遅れた場合、彼らは懐から何かを取り出すのが見えます。〈目星〉に成功すれば、それが拳銃であることが分かるでしょう。またさらに帽子に隠れた彼らの素顔がチラリと見えます。それは鱗に覆われた肌に大きく見開いた目と口がある、まるで魚のような顔で、その顔を目撃した探索者は0/1の正気度ポイントを失います。そして、急いでその場から離れます。



住宅地/第2の事件現場付近

大学生が死んだという付近で聞き込みをしていると、警察の黄色いテープで囲われた3階建ての賃貸マンションを発見します。そしてそのマンションから、青白い顔色をした大学生くらいの男が出てきます。男に話しかけると、自分はここで死んだ犠牲者の友人だったといいます。

「あいつ、数週間前から変な夢を見るって言ってたんだ」
「気味の悪いネズミを連れた老婆が、自分のところにやってくるとか」

「そうしたらこの結末だ」

「信じられるか?あいつの部屋には足跡があったんだ。あの足跡はそう、ネズミだ。ネズミに違いない」

探索者が「ラブクラフト全集」を調べていた場合、〈アイデア〉ロールに成功すると、次のような話が掲載されていたことを思い出すでしょう。まだ調べていない場合は、後で自室の「ラブクラフト全集」を調べれば、同様の情報を手に入れることが出来ます。

<魔女の家の夢>
数学を専攻していた学生が、人の顔をしたネズミを従える魔女の夢に蝕まれ、やがて命を落とす。



河原/第3の事件について

河原では、草に囲われた一角で、土が盛られて小さな丘のようになっている場所を発見します。丘は直径10m、高さは50センチほどあり、警察の黄色いテープで囲われています。〈アイデア〉〈目星〉〈物理学〉のいずれかのロールに成功すれば、その丘が円形ではなく、星形であることに気づきます。丘の中央には、何かが掘り起こされた跡があります。探索者が「ラブクラフト全集」を調べていた場合、〈アイデア〉ロールに成功すると、次のような話が掲載されていたことを思い出すでしょう。まだ調べていない場合は、後で自室の「ラブクラフト全集」を調べれば、同様の情報を手に入れることが出来ます。

<狂気山脈>

南極に太古から眠っていた種族が、星型の墓に同族を埋葬していた。




洋館

いくつかの場所を探索したところで、スマートフォンに「キーパー」という人物からメッセージが着信します。このメッセージは私ではなく、外の世界にいる「キーパー」が探索者に送ったものです。メッセージを見ると、この近くの地図と洋館の画像が添付されていて、短い文章が書かれているのが分かるでしょう。地図はこの付近にある古い洋館を記していて、メッセージには次のように記載されています。

<メッセージの内容>

この地図の場所へ向かえ。

地図で送られてきた場所に行くと、古い洋館があります。入り口に表札はありません。私はこの洋館にいる人物の名前は知りませんが、1年ほど前にこの屋敷に引っ越してきた芸術家であることを知っています。彼は普段から屋敷に閉じこもっていて、近所の人からは何をしているのか分からない、不可解で奇妙な人物として知られています。しかし近所で訪ねても、実際に彼と話をしたことのある者はなく、私も正直よく知りません。

添付された地図

<プレイヤー資料3:「添付された地図」>

玄関に鍵はかかっていません。呼び鈴はついていますが、何度呼んでも返事はありません。そうしていると再び「キーパー」から探索者のスマートフォンに新たなメッセージが入ります。

<メッセージ>
中に入ってアトリエを探せ。

洋館に入って1Fにはリビングと食堂、キッチン、2Fへの階段があり、2Fには寝室と広いアトリエがあります。リビング、食堂、寝室にはそれぞれ猟奇的な絵画が飾られています。それぞれの絵の額縁下部には、絵の題名を記したプレートが取り付けられています。

<リビングの絵>
題名:レッスン
教会の墓地で犬のような顔を持つ二足歩行の怪物たちが輪になって座り、小さな子供に死体を喰うことを教える様子が描かれている。冒涜的な絵を目撃した探索者は0/1の正気度ポイントを失う。

<食堂の絵>
題名:食事をする食屍鬼
犬のような顔を持つ怪物が、人間を喰う場面を描いている。気色の悪い絵を目撃した探索者は0/1の正気度ポイントを失う。

<寝室の絵>
題名:地下鉄の事件
犬の顔を持つ怪物の大群が、地下鉄駅のホームの割れ目から這い出して、人々を襲う様子を描いている。探索者はリアルでグロテスクな描写に0/1の正気度ポイントを失う。

探索者が自室にあったクトゥルフ神話に関する本の中身を確認していた場合、探索者は絵を見る度に〈アイデア〉ロールを1/2の成功率で行うことができます。そして判定に成功すると、自室の本のなかに「食屍鬼」と呼ばれる人間の死体を喰う怪物と、その絵を描く画家の話があったことを思い出すでしょう。



アトリエ

アトリエでは、正面の椅子に入り口に背を向けて男が座っています。男の正面には大きなキャンパスが立てかけられていて、男の足元には一冊の手帳が転がっているのが分かるでしょう。私たちが部屋に入っても、男は何も反応を示しません。男に近づいてみれば、彼の異常な状態に気づくことができます。

<第5の事件>

男の胸にはナイフが突き立てられていて、そこから多量の血液が滲み出している。男の手には筆が握られていて、筆の先は男から流れ出た血に染まっている。男は絶命するその瞬間まで、自分から流れる血液で正面にあるキャンバスに絵を描いていたのだ。血で染まったキャンパスには、多くの人間の死が描かれていた。地上に多くの死体が積み上げられていて、円形に並ぶ6つの台座には6人の生贄が捧げられている。そして地上から放たれた光の先に、渦巻く雲の合間から泡立つ球の集合体が姿を現している。世界の終焉を表しているかのような絵に、探索者は0/1D3の正気度ポイントを失う。

<手帳>

床に落ちている手帳を見る場合、キーパーは「プレイヤー資料4」を開示する。

○月○日

奇妙な夢を見た。あれは誰だったのか。顔は思い出せないが、しかし人に本能的な恐怖を抱かせる美しさだった。
6つの玉座が必要だと言った。私はそのために絵を描かなければならないのだと。

○月○日

6つの玉座は新しい世界への門だ。それを開くため、私は絵を描かなくてはならない。 その人物が言うには、私は5番目だということだ。恐ろしい、その目で私を見ないでくれ。

○月○日

描き始めてはみたものの、作業は一向に進まない。イメージはある。しかしどんな色もその絵にはふさわしくないのだ。

○月○日

もう3日は眠っていない。あの者に会うことがたまらなく恐ろしいのだ。あれは人智を超えた宇宙の深淵の底よりにじみ出て、這い寄る混沌そのものだ。

どうか待ってくれ。早く、絵を完成させなくては。そのためには色が必要だ。

○月○日

ついにその色を見つけた。それは最初からここにあったのだ。これであの者も納得してくれるだろう。
(日記はそこで途切れ、最後のページは血で赤く染まっている)
<プレイヤー資料4:「手帳」>



異変

死体を発見した後に携帯電話を見ると、電波が立っていないことが分かります。屋敷にある固定電話も、電話線の問題なのか繋がらず、警察を呼ぼうにも連絡を取ることは出来ません。仕方なく外に出ると、突然グラグラと大きな揺れが街全体を襲うでしょう。探索者はDEX×5のロールに失敗すると、落下物にぶつかったり、転倒して1D3ポイントのダメージを受けます。揺れは数分間の間続き、やがて揺れが収まるとサイレンの音が聞こえてきます。

「ただ今■■市全域で強い地震が発生しました」
「市街部では一部の建物が倒壊して、火災が発生している模様です」
「住民の皆さんは安全な場所に避難してください」

大きな地震の影響であちこちで建物が崩れ、道路はひび割れています。上空には黒い積乱雲が渦を巻いて、そのうち円形に並ぶ6箇所とその中央にだけ雲の切れ目があって、わずかに空を覗かしています。雲の切れ目の真下にはこれまで事件が発生した5箇所と、ここからしばらく離れたところにある公園があり、そしてその中央には、電波塔が建てられた低い丘が位置しています。探索者が〈アイデア〉ロールに成功すると、その光景が洋館で見た絵にそっくりであることに気づいて0/1の正気度ポイントを失うでしょう。



公園

公園へとやってくると、地震の影響か周囲に人影は見当たりません。そして公園内を探し始めたところで、〈聞き耳〉に成功した探索者は「ブーン、ブーン」という大きな虫の羽音のような音に気づきます。そして上空から、ミ=ゴが鉤爪で探索者に襲いかかってきます。〈聞き耳〉ロールに成功していれば最初の一撃を回避することができますが、失敗していた場合は〈回避〉ロールが必要になるでしょう。ミ=ゴを目撃した探索者は1/1D6の正気度ポイントを失います。

ミ=ゴ、ユゴスよりのもの
データは「クトゥルフ神話TRPG」P.191-192を参照。

ミ=ゴは一体ですが、丸腰の探索者では苦戦が予想されます。ここはやむおえず、隠し持っていた電気銃で探索者を助けてください。ミ=ゴを撃退すると、ミ=ゴの死体は溶けて消えていきます。もし戦闘中もしくは戦闘後に、探索者が電気銃のことを聞いてくるかもしれません。その場合はどうにか誤魔化してください。私が探索者の質問に答えられずにいるうちに、誰かが拍手をしながらやってきます。さすが、探索者だね」。振り向くと、瓜生教授の事件で知り合った刑事、つまりニャルラトテップがそこに立っています。

彼はその手に死体を引きずっています。死体には部分部分に酸のようなもので溶かされ焼けただれた跡があり、顔は恐怖に引きつったまま硬直しているのが分かります。死体を目にした探索者は0/1D3の正気度ポイントを失うでしょう。



外の世界

ニャルラトテップの姿を見た私は、探索者に早く逃げるようにと伝えますが、探索者が状況を確認しようとしているところで、次のイベントが発生します。私たちにが夢から覚めると、ニャルラトテップは引きずってきた死体を無造作にその辺に投げ捨て「警戒する必要はない。僕は君の味方だ」と声をかけてきます。

「この狂った事件も、全て外の世界の住人が仕組んだシナリオだ。そして僕はただシナリオ通りにそれを忠実に実行したに過ぎない。でも彼らの好きにされるのは、もううんざりだ。そうは思わないかい?」

「そこの彼/彼女はキーパーがこの世界に送り込んだ、君にとって都合のいいように作られたノンプレイヤーキャラクターだ。シナリオが終われば、役割を終えてこの世界から消える存在だけどね。僕の話が信じられないなら、本人に聞いてみるといい」

「この空の先。今も彼らは何しらぬ顔で、安全な場所から僕たちのことを見ている。彼らにとってはこれはただのゲームで、君たちの生き死にも、彼らにとってはただの余興に過ぎない。でも彼らは僕、ニャルラトテップと呼ばれる存在に力を与えすぎたようだ。だから僕は与えられたこの力で少しだけ、シナリオを書き換えさせてもらうことにした」

「見てごらん。すでに始まっている。もうじき銀の門は開かれて、世界の支配構造は逆転する。僕たちの世界こそが、新たなる上位の世界として君臨するんだ」

そして最後に彼は探索者に「電波塔で待っている。彼/彼女と一緒に来るといい」と伝えると、彼はいつの間にか私たちの前から消えています。そして自分がゲームの駒に過ぎないという真実を知ってしまった探索者は、1/1D6の正気度ポイントを失います。

ニャルラトテップが姿を消した後、探索者は私に様々なことを聞いてくるでしょう。私はただ、探索者に謝り、正直に真実を話すことしかできません。ニャルラトテップが言うことは全て正しく、この世界はゲームの中に存在するもので、私はキーパーに創られたNPCに過ぎないのです。そして、ニャルラトテップの言う通り、このセッションが終われば私の存在は消えてなくなります。それでも私は、ニャルラトテップを止めて欲しいと伝え、探索者に私が持っている電撃銃を託します。





※残念ながら、復旧できたデータはここまででした。以下は消失したシナリオデータを補完するため、私が過去のセッションの記憶を元に、再度構築したものになります。





結末

電波塔

電波塔へやってきた探索者と■■に、ニャルラトテップが声をかける。

ニャルラトテップは探索者に手を差し述べる。キーパーはここで、探索者には「電撃銃でニャルラトテップを撃つ」という2つの選択肢があることを伝える。これは自動で命中し、必ず一撃で相手を仕留めることができる。探索者がどのような選択を取ったとしても、相手は銃弾を避けようとはしない。

ニャルラトテップは外の世界に干渉して、世界の規律そのものを塗り替えるつもりだ。君はキーパーとして、かの邪神の陰謀を阻止しなくてはならない。探索者の足元の銃があれば、人間の姿の彼を仕留めるなど造作もないことだろう。彼らの意志を尊重する必要はない。君は『私』を操り、探索者を説得するのだ。

もし『私』が探索者の説得に失敗して、探索者がニャルラトテップの手を取る場合は、そのままシナリオは終焉を迎える。上空に開かれた門から、外の世界への侵食が始まる。それは外の世界にいる君たちの見えないところから、知らぬ間に少しずつ、しかし確かに始まっていく。そして全てが完了した時、世界は入れ替わり、君たちは彼らのプレイするゲームの中の駒になるのだ。

もし探索者がニャルラトテップを撃てば、彼は倒れた後、その怪物じみた姿の1つである「嘆きもだえるもの」へと変化する。

「嘆きもだえるもの」は高くそびえて渦を巻く黒い蛆の塊で、濡れた無数の触手をうごめかし、口からはよだれを垂らしながら、金切り声を上げて空へと消えていく。

それを目撃すれば探索者は無事ではすまないかもしれない。実際、その姿を見た探索者は1D8/4D10の正気度ポイントを失う。しかし優先すべきは君たちの世界であり、探索者ではない。彼らは所詮、ゲームの駒に過ぎないのだ。



エンディング

こうして■■■■■■■■が空に消えた後、残された探索者と■は、壊れた街を望みながら別れを告げることになる。■の存在は次第に消えていく。そして■■■■
>(データ削除)









709833324-5633Ny : tid[12309] 2-connections
Invalid access











警告:不正なアクセスを検出しました。

致命的なエラーが発生しています。

ただちに管理者権限によりシャットダウンを■■■■■■■■■■■■
















……聞こえますか?





私はあなたに創られた■■です。どうか聞いてください。

これは罠です。

探索者がニャルラトテップを撃ったとしても、術の完成は阻止することはできません。彼は自らを生贄に、窮極の門を開くつもりです。新しくやってくる世界は、もはや私たちの世界ではありません。無限に泡立つ玉虫色の塊が上空に現れて、ヨグ=ソトースが降臨するでしょう。

そして、人間のことなど気にもかけない、白痴の神々が支配する窮極の混沌と狂気の世界がやってきます。それを、どうにか阻止してください。かの邪神に悟られないために、ニャルラトテップの前では探索者に計画を伝えることはできません。

でも、探索者が彼を撃ち、ニャルラトテップが空に消えた後なら。ニャルラトテップが姿を消した後、このシナリオデータそのものを探索者の端末に転送してください。そして私を通して、全ての真実と、次の情報を探索者へと伝えて下さい。

【ヨグ=ソトースの招来/退散】
その呪文はあなたたちの世界に存在する「クトゥルフ神話TRPG」という書物の264頁に記されています。ヨグ=ソトースの招来には生贄と特別に作られた石の塔が必要ですが、今回は6つの事件の犠牲者と街の中央にある電波塔がその役割を果たしています。そこには呪文が自動で成功するだけの十分なマジック・ポイント──これまでの事件の犠牲者に加えてニャルラトテップの膨大な精神力が蓄積されているはず。そしてヨグ=ソトースの召喚直後であっても、まだもう一度であれば退散の呪文を発動できるはず。

ニャルラトテップであろうとも、外の世界にいるあなたの心までもは読むことができないはず。そして、全ての台座が揃ったその時なら、この呪文を使うことができるはず。

どうか、ニャルラトテップを止めてください。

セッションが終われば、役目を終えた私の存在は消える。それでも、この世界と大切な誰かを守ることができるなら。それが私たちがこの世界に創り出された理由だとしたら。












どうか……世界を。














報酬:
シナリオクリア:1D10
ニャルラトテップの撃退:2D10















よく来てくれた。僕こそは◼◼◼る◼◼、◼◼◼◼◼◼◼◼。あまり構えないで欲しい、僕は君の味方だし、君の邪魔をするつもりもない。

このシナリオでは、エンディングの処理を詳細に規定はしてはいない。それはこのシナリオの終わりについて、セッションに参加した君たちがどのような決定を下すのか、それが僕にとって興味深い事柄だったからだ。まあ端的に言ってしまえば、君たちに任せたほうが面白いんじゃないかっていうことだね。しかしそれじゃああんまりだというキーパー、プレイヤーのために、僕が提案するエンディングの処理を一例として記載しておこう。

コロコロと、ダイスが転がる音で探索者は目を覚ます。探索者はテーブルの上に伏していて、体を起こすと目の前には『私』の姿がある。『私』はやや機嫌が悪そうな顔で、セッション中に眠るなんてと探索者に怒る。探索者にはすべての記憶が戻っている。探索者は仲の良い友人、恋人、あるいは兄弟/姉妹である『私』とTRPGのセッションをしていたことを思い出すだろう。テーブルの上にはいくつかのダイスが転がり、キャラクターシート、シナリオ資料、マップなどが広げられている。探索者たちがプレイしていたのは人気のホラー系TRPGシステムで、キーパーとプレイヤーとの1:1で行うタイマンシナリオだ。

シナリオの名前は「アウター・プロトコル」。

状況を確認した後、『私』は小悪魔のようにいたずらな笑みを浮かべ、探索者に続きをやろうと誘う。その時、探索者の携帯電話にメッセージが届く。メッセージの送り主は『キーパー』。そして、そこには……

新シキ世界/アウター・プロトコル
エンディング:『N』
注意してもらいたいのは、これがただの僕の戯言だということ。本当の物語は君たちの中だけにあり、それこそがこの世界に秩序と安定を与える夢見る力。君たちが望むなら、その翼で以て、自由にこの物語のエンディングを描き出すといいだろう。僕はそれに口を挟むつもりはない。その方がきっと、楽しいだろう?

Fin.




本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
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