シナリオ概要

観光で山奥にある温泉を訪れた探索者。露天風呂を舞台に繰り広げられる恐怖の惨劇。
探索者は無事、生きて湯船を出ることができるのか…!

推奨人数:2〜4人
想定プレイ時間:1〜2時間(オンラインのテキストセッションの場合は3〜6時間)


シナリオのフォーマット

このシナリオは通常のクトゥルフ神話TRPGではなく『1/10スケール・クトゥルフ神話TRPG』のフォーマットにインスパイアされた構成となっています。
『1/10クトゥルフ神話TRPG』シリーズは、新紀元社刊『Roll&Roll』のアーカム計画の記事などでも展開されている、TRPG未経験のプレイヤーに『クトゥルフ神話TRPG』『新クトゥルフ神話TRPG』を知ってもらうことを目的に制作されたシナリオ群で、短時間でプレイできるのにスリル満点な展開が、初心者だけでなく熟練者でも楽しめる内容となっており、今回のシナリオ作成にあたり参考にさせて頂きました。
尚、今回はシナリオの進め方のみ『1/10スケール・クトゥルフ神話TRPG』のフォーマットに合わせており、キャラクターやゲームのルール自体は「クトゥルフ神話TRPG(6版)」に従います。



本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」


※注意:以下にはシナリオのネタバレが含まれます。























このシナリオについて

舞台は現代の日本。季節はなんでもいい。 探索者たちはそれぞれ観光で「阿武馬温泉(あぶまおんせん)」という架空の温泉を訪れる。阿武馬温泉の目玉はなんといっても、人里離れた山奥にある秘湯の露天風呂だ。物語のほとんどはこの露天風呂で進行する。露天風呂は混浴なので、探索者の性別は何でもいい。露天風呂では水着を着用しても構わないし、もちろん気にしないという人はタオル1枚でも問題ない。また探索者は知り合いである必要はないが、他の探索者と協力できる協調性は必要である。

このシナリオはサークル「おまつりミート」2020年夏の本「くとぅりっぷ」に掲載されています。この本は、2019年度末からの新型コロナウィルスCOVID-19の蔓延により外出自粛の辛い日々が続く中、収束後に行きたいところを語り合いながら、あるいは収束した後、旅先で仲間と一緒に楽しんでもらいたいという思いを込めたものです。
このシナリオには、温泉の良さをアピールした描写が各所に散りばめられています。新型コロナウィルス感染症が収束した暁には、是非家族や友だちと一緒に旅行に行って、あるいは温泉につかりながら、わいわいと卓を囲んで頂ければ幸いです。それまでは政府・各自治体の指針に従い、感染症対策を取り、可能であればオンラインで楽しんでいただくようお願いいたします。

シナリオ集:
【くとぅりっぷ】クトゥルフ神話TRPGシナリオ集

音声データについて

本ページに掲載する音声データは「くとぅりっぷ」用に収録されたデータを、シナリオ集作者の「おまつりミート」肉祭様、およびナレーションボイス担当の豪龍様のご厚意により掲載させて頂いています。以下を遵守の上、ご使用頂きますよう、よろしくお願いいたします。

・当シナリオのセッション、リプレイ動画、ネット配信に限りご利用頂けます。
・改変、二次配布、別シナリオでの使用はご遠慮ください。
・リプレイ動画、ネット配信など表立った場でご利用いただく際はクレジット表記をお願いします。

豪龍様のページ:
https://gouryu.jimdofree.com


キーパー向け情報

探索者が訪れる阿武馬温泉の地底には、外なる神であるアブホースが眠っていた。さらにこの場所はクトーニアンの通り道にもなっており、何百年かに一度、巨大なクトーニアンの成虫が通過して地震を起こしていたのだった。
以前にクトーニアンが訪れたのはおよそ500年前のことで、この際に、クトーニアンが起こした地震によってアブホースが目を覚まし、アブホースの落し子たちが地上に溢れ出た。人々は現れた異形の怪物たちに恐怖するが、温泉のように地上に湧き出したアブホースが、落し子を食らい尽くした(このとき、薬師如来の化身である白い猿が、人々をアブホースの元へいざなったとされている)。
こうして落し子の恐怖は取り払われたが、今度は人々はアブホースの脅威にさらされることになる。そこへ偶然にも1人の山伏が訪れる。彼はクトゥルフ神話に関する知識を持った魔術師で、旧き印と呪文でもってアブホースを再び眠りにつかせることに成功した。アブホースが眠りについた後には、真っ白な温泉が残されていた。
時代は流れて現代。探索者が温泉につかっていた時に、再びクトーニアンが起こした地震によってアブホースが目を覚ます。果たして探索者は生きて帰ることができるのか……。


異形の怪物たち

地面から這い出してきた怪物たちは、アブホースの落し子だ。彼らはこの地に眠るアブホースが生み出したもので、クトーニアンが起こした地震によって地割れが生じ、地上へと這い出してきたものだ。
彼らは野うさぎやイノシシ、鹿、熊など、様々な野生動物をかけ合わせたような姿をしており、大きさも数十センチから人間の大人ほどまでと様々だ。主に探索者に襲いかかってくるのは、そうしたものの中でも大型の部類のものだろう。

アブホースの落し子
STR 10 CON 9 SIZ 7 INT 5 POW 4 DEX 7
耐久力 8 マジック・ポイント 4
ダメージボーナス:0
武器:噛みつき or 鉤爪 50%、ダメージ1D6
装甲:なし
正気度喪失:0/1D4
ここに掲載しているのは、阿武馬温泉に現れた個体のうち平均的な個体の数値だ。
個体によっては数値を上下させても構わない。


ゲームのはじめ方

このシナリオでは、クライマックスのシーン以外では、プレイヤーが1人ずつ順番に行動する。キーパーは次の説明文を読み上げて、プレイヤーに、まずどのようにこのゲームが進められていくかの必要最低限の内容と進め方を説明する。

ゲームが始まると、キーパーは探索者の置かれた状況を説明します。それを聞いて、みなさんは探索者の気持ちになって、これから何をしたいか行動を宣言してもらいます。
自分の探索者にどんなことをさせたいかは、キーパーに言葉で伝えてください。そうしたら、その内容に応じてキーパーがさらに状況を説明します。

まず、探索者のコマを「阿武馬温泉・露天風呂マップ」の「温泉」に置いてください。
阿武馬温泉は人里離れた山奥にある秘湯です。この露天風呂は混浴ですが、水着を着用しても構いません。もちろん気にしないという人はタオル1枚でも問題ないでしょう。
これからここで事件が起きますので、みなさんは「生き残るための努力」をしてください。ただしその過程で温泉や温泉の周りにある気になるものを調べると、後で役に立ったりするでしょう。

普通のクトゥルフ神話TRPGでは、行動の宣言は自由なタイミングで行われますが、このシナリオでは、キーパーの左隣からスタートして、時計回りに1人ずつ、プレイヤーに行動を宣言してもらいます。
また探索者は行動の宣言とは別に、マップ上の好きな場所に移動することができます。移動してから行動するか、行動してから移動するかは自由に選べます。移動しながら何かを調べることはできません。

別の場所にいる探索者が体験したことは、他の探索者も知っているとして行動して構いません。また別の探索者が手に入れたアイテムなどは、キーパーと仲間の同意が得られればすぐに受け渡すことができます。たとえ離れていても、投げて渡せます。

こうして、それぞれのプレイヤーに手番が3回めぐるか、またはゲームが始まってから40分が経過すると……いよいよゲームは阿鼻叫喚のクライマックスとなります。

尚、探索者の人数が4人以下の場合、2人なら6回、3人なら4回と、合計12回の手番になるように行動回数を増やすこと。またプレイ時間に余裕があり、ゆっくりプレイしたい場合には、40分の制限時間をなくしても問題ない。 時計を皆の見えるところに置いて、タイマーをスタートしたらゲームを開始する。


導入

ルールの説明を終えたら、タイムリミットがいつになるかを確認してから、キーパーは以下の説明文を読んで聞かせるか、付属の音声ファイルを再生して聞かせる。

あなたたちは観光のため阿武馬温泉という温泉を訪れている。目的はなんといっても、この温泉の目玉でもある山奥の秘湯、天然の露天風呂だ。あなたは今、その温泉につかっていて、他の探索者たちもいる。他には一匹の猿がいるだけのようだ。

お湯につかってくつろいでいると、突然グラグラと地面が揺れはじめる。
激しい揺れはしばらくの間続き、周囲の岩や木が倒れ、地面にも大きなヒビが入る。

ようやく揺れが落ち着いた時、あなたの目の前には、恐ろしい光景が広がっていた。
地震でできた地面の裂け目から、様々な野生動物をかけ合わせたような異形の怪物が、何匹も這い出してきて、温泉を取り囲んでいたのだ。


まず早速ではあるが、このような事態に探索者は0/1D4の正気度ポイントを失う。 キーパーは温泉の周りを囲むようにアブホースの落し子のトークンを置く。その後、プレイヤーに順番に行動を宣言してもらうこと。


温泉の描写とイベント

山奥にある、自然に囲まれた天然の露天風呂をイメージするとよいだろう。 最初からすべて目の入る範囲にあるので、どこに何があるか分かってよい。マップ上の文字が書かれている箇所が、調べることができる場所だと伝えてもいい。


onsen_map.jpg <プレイヤー資料:阿武馬温泉・露天風呂マップ>

温泉

岩を積み上げて造られた天然の浴槽を、白く濁った温泉のお湯が満たしている。
この温泉は鉱物をふんだんに含んだ炭酸水素塩泉で、逆流性食道炎をはじめとした消化器系の疾患、神経症、皮膚炎、冷え症などに効果があるとされている。

温泉にはこのように、様々な種類の効能がある。もしこのシナリオをプレイしているあなたが温泉旅行を計画しているのであれば、こうした成分や効能を調べて、温泉を選んでみるのもいいだろう。温泉に興味がなかった方も、この機会に調べてみてはどうだろうか?


そんなお告げを聞きながら湯船につかっていると、じわりとした熱が体の芯まで浸透して、まさに生き返ったような気分になってくる。この白いお湯の底には、一体何があるのだろうか…?

探索者が温泉につかるのならば、「●手掛かり:温泉」を渡す。また漠然と周りにあるものを探すのであれば、誰が持ち込んだものなのか、お盆にのって湯船に浮かんでいる「●手掛かり:日本酒セット」を発見できる。「●手掛かり:日本酒セット」を発見した場合、キーパーは以下の描写文を読み上げるか、付属の音声ファイルを再生して聞かせる。

お盆にのっている日本酒は、どうやらこの地域限定の地酒のようだ。
温泉につかりながら、あるいは風呂あがりに飲むお酒は、まさに絶品ものである。
これも温泉の楽しみのうちの1つだろう。
あまり温泉へ行かないという方も、普段とは違う特別な一杯を味わうために、温泉旅行を計画してみてはどうだろうか?
ただし飲みすぎには十分に注意してもらいたい。


また濁ったお湯でよく見えないが、温泉の底にはつるつるとした岩が敷き詰められているようだ。お湯の中を手探りで何か探す場合には〈目星〉でロールを行う。またお湯の中に潜って探すのならば〈水泳〉でロールをする。どちらの場合でも、ロールに成功した探索者は「●手掛かり:丸い石」をいくつか発見することができる。これは「●情報:退魔の湯」の内容を知った探索者が、湯船の中で「石を探す」と宣言すれば、ロールを行わず自動的に発見できる。
この石に描かれている模様は「旧き印」の亜種で、星型の中央には炎の柱のかわりに、温泉マークが描かれている。これはこの地を訪れた山伏が、アブホースを退散させるために用いたものだ。石は湯船の中に複数個沈められているため、そのうちのいくつかを持っていったとしても、この場所に再びアブホースが出現するということはない。

「●手掛かり:温泉」
様々な病気や怪我に効果がある。1回の手番を使ってお湯につかり続ければ、耐久力か正気度ポイントを1ポイント回復する。

「●手掛かり:日本酒セット」
温泉にピッタリ!

「●手掛かり:丸い石」
中央に湯気のたちのぼる泉が描かれた、星の紋様が刻まれている。


温泉の周囲

温泉の周囲には、ゴツゴツとした岩場と森が広がっている。
そのあちらこちらに、異形の怪物が潜んでいるのが見える。
どうやらヤツらはこちらの様子を伺っているようだ。

異形の怪物たちが温泉を取り囲むように待ち構えている。探索者がこの怪物の行動を観察するというのであれば、〈生物学〉やアイデアなどのロールに成功すれば、「●情報:怪物の弱点」を渡す。
この怪物たちは温泉の湯を恐れて近づこうとしない。温泉の白いお湯から、彼らの生みの親でもあり天敵でもあるアブホースが連想されるからだ。

「●情報:怪物の弱点」
彼らは温泉の湯から一定距離以内には近づいてこない。もしかしてお湯が怖いのか?


帰り道

地震による地割れのため、周辺の至るところで地面が崩れている。
帰り道も陥没していてこのままでは帰ることができない。
この亀裂は、闇に閉ざされたはるか地の底にまで続いている。
落ちたらまず助からないだろう…。

これらの地割れは、地の底を移動する巨大なクトーニアンの成虫によるものだ。特に帰るための道には大きな亀裂ができていて、飛び越えたりロープや木などを渡して乗り越えるのは不可能だ。また周辺には異形の怪物たちがうろついており、迂回路を探すのも危険が高い。

もし探索者が地面の亀裂の底をのぞくというのなら、その恐怖の片鱗を目撃してしまうことになるだろう。深淵をのぞとき、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。キーパーは以下の描写文を読み上げるか、付属の音声ファイルを再生して聞かせる。

そこには全長1kmを超えるほどの巨大な、イカのようにも芋虫のようにも見える生物がいた。
長く伸びたその体は、ぬらぬらとした黒い粘液に覆われており、頭部と思われる器官からは巨大な触肢が何本も伸びていた。
それらを巧みに操って、まるで呪文を詠唱するように奇妙な音を発しながら、それは地の底へと潜って行った。

この巨大な生物を前にしては、人間など取るに足りない存在に過ぎない。そのような怪物たちが自分たちの足のすぐ下にいるという威圧感と宇宙的恐怖を、その場にいる全ての者が感じた。


描写が終わると、探索者は全員正気度ロールを行ない、1/1D10正気度ポイントを失う。


洗い場

屋外にある秘湯であるゆえシャワーなどの設備はないものの、
体を洗い流すことのできる簡単なスペースが備えられている。

ここには重要な情報はないが、探せば「●手掛かり:桶」をみつけることができる。
漠然と探すのであれば〈目星〉ロールで発見できる。プレイヤーが具体的に「桶」や水・お湯を汲めるものがないかと宣言したら、ロールをせずに自動的に見つかるとしてよい。

「●手掛かり:桶」
お湯を汲むために使う道具。


立て札

立て札には「白猿伝説」と「退魔の湯」という2つの昔話が記されている。この温泉にまつわる開湯伝説のようだ。
開湯伝説とは、温泉が発見されたり湧き出た際の言い伝えだ。こうした伝説は日本各地の温泉に残されており、種類も様々である。 もしあなたが温泉でこのシナリオをプレイしているのであれば、あるいは温泉旅行を計画しているのであれば、その温泉の由来を調べてみるのも面白いだろう。 また温泉に興味がなかった方も、この機会に調べてみるのも一興だ。もしかしたら、行ってみたい温泉が見つかるかもしれない。


探索者が看板を調べたならば、「●手掛かり:看板」を渡す。この看板にはこの温泉にまつわる2つの開湯伝説が記されている。これらはそれぞれ1回の手番に1つずつしか読めない。キーパーは読むためのロールについて説明すること。
これらの開湯伝説には日本の昔話が書かれており、理解するには行動を宣言して〈日本語〉あるいは〈オカルト〉、〈歴史〉などの技能でロールする必要がある。成功すれば、探索者が読んだ開湯伝説に対応する情報(「●情報:白猿伝説」または「●情報:退魔の湯」)を渡すこと。
また探索者が「●情報:退魔の湯」を読んだ際に、〈オカルト〉あるいは〈歴史〉のロールに成功した場合は、そこに書かれた「薬師如来に祈る」という文面が「薬師如来の真言を唱える」ことであることも理解することができる。

「●手掛かり:看板」
「白猿伝説」と「退魔の湯」が書かれている。

「●情報:白猿伝説」
むかしむかし、地の底から異形の怪物たちが湧き出した。
村人たちが困り果てていると、皆の前に真っ白な猿が現れた。
村人の1人が猿を手厚くもてなすと、猿は人々を
ぐらぐらと煮えたぎる、灰色に濁った温泉へと導いてくれた。
すると、とつぜん温泉の湯がうごめき、村人を追いかけてきた怪物たちを貪りはじめる。
こうして怪物は温泉に食い尽くされて、村人たちは救われたのだった。


「●情報:退魔の湯」
異形の怪物を食らい尽くした温泉は、周りに瘴気を吐き出しはじめた。
そんなとき、1人の山伏が村にやってきて言った。
「この温泉を、我が法力で浄化してしんぜよう」
山伏は退魔の紋を刻んだ石を温泉に投げ入れて、薬師如来に祈った。
するとみるみるうちに瘴気は晴れて、温泉の湯は真っ白な美しい色に変わっていった。



温泉の隅には小さな社が建てられており、薬師如来が祀られている。
薬師如来は人々の病を癒やし、健康を守ってくださる仏様として信仰されている。
古くから病気や怪我の療養に用いられる温泉とは深い関わりがあり、温泉の昔話に登場する動物が薬師如来の化身であったと言われることもある。
このような温泉ならではの風習に触れられるのも、温泉旅行の醍醐味だろう。


この社には新鮮なバナナがお供えされている。探索者が1手番を使ってバナナを持っていくと宣言すれば、「●手掛かり:バナナ」を渡す。
また社には何枚かの御札が貼られており、探索者が〈目星〉あるいは〈オカルト〉ロールに成功すれば、そこに書かれた「●手掛かり:真言」を入手することができる。
この判定は「●情報:退魔の湯」の内容を知った探索者が「真言を探す」と宣言したのであれば、ロールを行わずに自動的に見つかるとしていい。

「●手掛かり:バナナ」
甘くておいしい。

「●手掛かり:真言」
オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ


一匹の年老いた猿が、気持ちよさそうに温泉につかっている。猿の毛はなぜか真っ白で、神々しさすら感じさせる。
猿はこんな異常事態にも怖じることなく湯につかっている。
このように、温泉は野生動物たちにとってもすばらしいものなのだ。
プレイヤーの諸君も、温泉へ入りたくなってきたのではないだろうか。

それはさておき、この猿は一体、何者なのだ……!


「●情報:白猿伝説」を読んだ後であれば、探索者はこの猿が、灰色の温泉への鍵を握っているかもしれないと分かるだろう。しかし猿に案内をお願いするためには、探索者が誠心誠意、猿をおもてなしして、猿の機嫌を取る必要がある。なお、「●情報:白猿伝説」を読む前に猿をおもてなししても、何も起きない。
キーパーは探索者がどのようにして猿をおもてなしするかよく聞いて、その内容に応じたロールを行わせる。〈説得〉や[APP×5]などが一般的だろう。探索者の行動がユニークであったり、納得できるものであれば、キーパーは成功率に+10〜20%のボーナスを与えてもいい。

例としては次のようなものがある。「●手掛かり:日本酒セット」や、少々バチ当たりではあるが、社の薬師如来像にお供えされていた「●手掛かり:バナナ」のうちのどちらかを猿に渡すなら、ロールに+20%のボーナスを与える。「●手掛かり:バナナ」を渡した場合は、猿がバナナを食べた後、代わりに探索者に「●手掛かり:バナナの皮」を渡す。また「●手掛かり:桶」を使って、背中を流してあげるのもいいだろう。手掛かりを2つ以上使っておもてなしする場合は、ロールを行わなくとも自動的に成功したものとする。いずれにしてもロールに成功すれば、猿は湯から上がり、探索者に『ついて来い』というようなジェスチャーをしている。まるでどこかへ案内しようとしているようだ。

キーパーは、ここですぐに猿を追いかけてもいいし、もうしばらく温泉の周囲を調べても猿は待っていてくれると探索者に伝える。猿を追いかける場合は、ここで強制的にクライマックスのイベントへと移行する。

「●手掛かり:バナナの皮」
よくすべりそうだ。


クライマックスのイベント

・探索者の手番が4週巡る。
・プレイ開始から40分が経過する。
・探索者が猿を追いかけると宣言する。

この条件のどれかを満たしたら、強制的にクライマックスのイベントとなる。ただしプレイ時間に余裕があり、ゆっくりとプレイしたい場合には、40分経過の条件をなくしても問題ない。ここからはこれまでとは異なり、キーパーは全員にどんな行動をしたいのか聞いてから、それらをまとめて処理をしていくこと。キーパーは残りの時間を使って、クライマックスを盛り上げよう。

条件が満たされると、温泉を取り囲んでいた異形の怪物たちが腹をすかせ、いよいよお湯への恐怖もいとわずに襲いかかってくる。キーパーは次の描写文を読み上げること。

再び、グラグラと大地が揺れた。そしてなんと、この地震によって温泉に亀裂が入り、お湯がみるみる減っていくではないか。
やがて温泉が完全に枯れたとき、これまで様子を見ていた怪物たちが動き出した。
彼らはまるで津波のように、君たちの方へと押し寄せてきた!!


こうして押し寄せる怪物たちに、探索者は追いやられてしまう。猿は探索者を導こうとする。猿を追いかけようとすれば、周りの怪物たちが探索者に襲いかかってくる。〈回避〉ロールに成功すれば、襲いくる怪物たちを避けながら猿を追いかけることができるが、ロールに失敗した探索者は、怪物にかみつかれたり爪でひっかかれて耐久力に1D6ポイントのダメージを受ける。
ここで探索者が「●手掛かり:桶」を使って、周りにお湯を撒き散らしたり、「●手掛かり:丸い石」を構えながら進むのであれば、怪物たちは探索者に近寄ろうとはせず、安全に猿を追いかけることができるだろう。また「●手掛かり:バナナの皮」を投げつければ、怪物たちがすべって転んでいる間に、逃げることができる。「●手掛かり:バナナ」は持っているが「●手掛かり:バナナの皮」は持っていないという場合は、その場でバナナを食べれば「●手掛かり:バナナの皮」を入手できる。

いずれにしても、猿を追いかけた探索者は灰色の源泉にたどり着くことができる。
ここにたどり着くと、白い猿はそのままどこかへ行ってしまう。その後、キーパーは以下の描写文を読み上げる。

そこには灰色がかった忌まわしい泉が、地の底から湧き出していた。
その灰色の源泉から、様々な動物や人間のような形をした生き物たちが、うめき声や悲鳴をあげ、はらわたや不完全な器官を引きずりながら這い出してくる。
そしてそれらを、泉から伸びた灰色の腕のようなものが捕まえて、引き戻す。
そんな異様な光景が、そこでは絶え間なく繰り返されていたのだ。
これこそが阿武馬温泉の地底で眠っていた外なる神にして不浄の源泉、アブホースだ。
そこで延々と繰り返される異常な光景はまさに、生命の誕生と死の全てを冒涜するものであり、底知れない宇宙的恐怖を感じさせる。


アブホースを目撃した探索者は1D3/1D20の正気度ポイントを失う。そして全員が灰色の源泉に到達したところで、さらに次の描写文を読み上げるか、付属の音声ファイルを再生して聞かせる。

その時、横たわる灰色の泉から無数の腕が伸び、異形の怪物たちを捕らえはじめた。
まるで獲物を捕食する肉食獣のように、灰色のその腕は、次々と怪物たちを泉へ引きずり込んでいく。
そしてほんの数分の間に、泉は周囲の怪物たちを食らい尽くしてしまった。
しかし、これで安心してはいけない。今度はその腕が君たちに伸びてきたのだから……。


源泉から伸びたを腕は、探索者を泉に引き入れようと迫ってくる。ここを切り抜けるには、探索者が機転を利かせる必要がある。以下は想定している解決方法であるが、他にもプレイヤーから提案があれば、キーパーは内容をよく聞いて、それらを採用してもいい。


◆ アブホースを封印する

「●情報:退魔の湯」を読み、「●手掛かり:丸い石」と「●手掛かり:真言」を手に入れていれば、目覚めたアブホースを再び眠りにつかせることができる。これが最もスマートな解決方法だろう。
そのためにはまず、「●手掛かり:丸い石」を泉に投げ入れる必要がある。これには〈投擲〉か[DEX×5]でロールを行わせる。あるいは日本の国民的アニメのワンシーンのように〈キック〉で石をアブホースに蹴り込むのもいいだろう。これらのロールに成功すればアブホースの本体にうまく投げ込むことができるが、失敗した場合はアブホースの腕に弾かれて、石はあらぬ方向へと飛んでいってしまう。この場合、石を拾って再チャレンジしなくてはならない。

石を投げ入れることに成功すれば、今度は「●手掛かり:真言」に従って薬師如来の真言を唱える必要がある。真言を詰まらずに唱えるためには〈母国語〉あるいは〈オカルト〉のロールに成功する必要がある。

この間、アブホースはラウンドの最後に、1ラウンドに2回攻撃を行う。アブホースは灰色の腕で探索者につかみかかる。この攻撃の命中率は60%で、命中したら探索者は〈回避〉ロールを行うことができる。〈回避〉ロールに失敗した場合、さらに自信のSTRとアブホースのSTR40とを抵抗表で競わせて、探索者が敗北した場合はアブホースに引き込まれて吸収されてしまう。この時、引きずり込まれそうになっている探索者の手を未行動の探索者が引っ張ることで、その探索者のSTRを引きずり込まれそうになっている探索者のSTRに加えることができる。これは何人分でも加算できる。
また呪文が完成するまでの間、他の探索者が囮になることもできる。この場合、囮になっている探索者には〈回避〉ロールに+30%のボーナスをつけてあげてもよい。

呪文が完成すると、アブホースは再び地の底へと眠りについていく。


◆ 走って逃げる

迫りくる恐怖から、とりあえず走って逃げることも可能だ。
この場合、探索者が各自、[DEX×5]あるいは[CON×5]あるいは〈回避〉などのロールに成功する必要がある。成功した探索者は迫りくる灰色の手から逃げ切ることができるが、失敗した探索者は逃げ遅れて、アブホースの攻撃に晒されることになるだろう。
アブホースの攻撃については、前述の「アブホースを封印する」を参考にすること。

前述の「アブホースを封印する」と同様に、他の探索者が逃げるまでの間、誰かが囮になることが可能だろう。また逃走に成功した探索者が[STR×5]の判定に成功すれば、逃げ遅れた探索者のうち1人の手をつかんで一緒に逃げることもできる。

「●手掛かり:日本酒セット」をアブホースに振りかけて、燃やそうと試みる探索者もいるかもしれない。火種をどうするか、火がつくほどアルコール濃度が高くないのではないかなど、少々難はあるものの、ここは優しい気持ちで許可してあげよう。往々にして探索者は何かを燃やすことが好きなのだ。この場合、アブホースを燃やし尽くすことは難しいが、誰か1人が逃げ出すくらいの隙を作ることはできる。また「●手掛かり:バナナの皮」を投げつけたり、「●手掛かり:バナナ」を腕に差し出して時間を稼ぐ探索者もいるかもしれない。こうした場合、キーパーは逃走のための判定に+10〜30%程度までのボーナスを与えたり、〈投擲〉や〈説得〉などの別の技能で判定を代用させてよい。他にもプレイヤーから面白い提案があれば、キーパーはそれらを採用してあげるといいだろう。

こうして泉からある程度離れることができれば、灰色の腕は追ってこない。


◆ 狂人の発想

アブホースを目撃して狂気に陥った探索者は、「狂人の洞察力」(「クトゥルフ神話TRPG」P.91)ロールを行うことができる。また狂気に陥っていない探索者でも〈クトゥルフ神話〉技能のロールに成功すれば、同じ結果を得ることができる。
このロールに成功した場合、キーパーは以下の描写文を読み上げる。

目の前の不浄な泉が絶え間なく生命を生み出す様子から、あなたはこの泉こそが「神様」なのではないか!と気づくことができてしまう。
そう考えた時、あなたの脳裏にこんな光景が浮かび上がる。
澄んだ青空、極彩色の花畑に囲まれて、豊かな湯気を讃える温泉郷だ。
そう、こんな楽園を作ることが、神様のお望みなのだ!
あなたはこの神様を受け入れて崇拝者となることもできるし、今ならまだ「いや、ちょっと待て」と踏みとどまることもできるだろう。あなたはどうしますか?


キーパーは探索者がどうするか答えるまで待つ。神様を受け入れない場合は特に何ごともなく、他の解決手段をとることになる。しかし神様の崇拝者となるのならば、テレパシーによって、探索者はこの泉と言葉を交わすことができるようになる。
この場合、探索者は自ら犠牲となりアブホースに取り込まれてもいいし、アブホースと交渉して見逃してもらうこともできる。ただし見逃してもらう場合には〈説得〉ロールに成功する必要がある。探索者が「信仰を広めるため」「信者を増やすため」などと上手く理由を付けるのであれば、このロールに+10〜30%の範囲でボーナスを与えてもいい。


結末


アブホースの封印に成功した場合

探索者が見事、アブホースを封印したのであれば、以下の描写文を読み上げること。

呪文は完成した。
だが、灰色の源泉から伸びた幾本もの腕は止まることなく、君たちの前後左右、あらゆる方角から取り囲むように迫ってくる。
もはや君たちに逃げ場はない……と、諦めかけたその時。
突如、不浄の泉に投げ入れられた石から、白い閃光が天高く放たれた!
泉は悲鳴のような断末魔をあげる。同時に、目の前まで迫っていた腕たちは動きをとめて、まるで灰が風に飛ばされるように消えていく。


やがて溢れ出した光が消えていくと、後には白く湯気をあげる、美しい温泉が残されていた。宇宙的恐怖は去ったのだ!
無事に生還した君たちは、やがて日常へと帰っていくだろう……しかしその前に、今はとりあえず温泉につかり、戦いの疲れを存分に癒やすといいだろう。



アブホースを封印せずに逃げた場合

こちらのパターンでは、クトーニアンの脅威は去ったものの、アブホースは阿武馬温泉の支配者として、覚醒したままこの地に留まり続けることになるだろう。
この場合、生還した探索者は全員が[CON×5]のロールを行う。成功した探索者は何ともないが、失敗した探索者は逃走中に吸い込んでしまったアブホースの瘴気の影響を受けることになる。キーパーは次の描写文を読み上げる。

かくして、君たちは追いかけてくる腕から、どうにか逃げ切ることができた。
しかし、あの悍ましい灰色の源泉はこれからも温泉地に留まり続け、次の犠牲者を待つのだろう。あるいは、獲物を求めて人の世界へにじり出てくるか……それは分からない。
ともあれ、今は生還を喜ぶべきなのだ。


([CON×5]ロールに失敗した探索者について)
数日後、君はふと、自分の体の異変に気づく。
腕や足の表面にわずかに浮かびあがった、カビのようなもの。それは体の内側から生えてきたようにも見え、その色は、あの忌まわしい泉と同じ灰色をしていた。
果たして自分はどうなってしまうのだろうか……。



アブホースの崇拝者になった場合

崇拝者となってアブホースに見逃してもらった場合には、前述の「アブホースを封印せずに逃げた場合」で[CON×5]ロールに失敗した場合と同じ扱いとする。この場合、ロールは行わずに自動的に失敗したとみなして、キーパーは前述の「アブホースを封印せずに逃げた場合」の描写文を読み上げる。


クリア報酬

無事に生還した探索者は1D10正気度ポイントを獲得する。さらにアブホースを封印した場合、探索者はボーナスとして+1D10正気度ポイントを獲得する。
探索者がアブホースの瘴気の影響を受けたか否かは獲得できる正気度ポイントに影響はしないが、探索者は今後、不安を抱えて生きていくことになる。

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