眠り霊クラゲの夢を見るか?

シナリオ概要

少女は眠る。痛みの果て。
少女は夢を見る。憎しみに心を歪ませて。
笛の音が響く時、復讐のゴーストが夢に舞い降りる。

赦さない、絶対に─

推奨人数:1〜4人
想定プレイ時間:2〜3時間(オンラインのテキストセッションの場合は6〜9時間)




本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」


※注意:以下にはシナリオのネタバレが含まれます。






















プレイヤー向け情報

シナリオの時代設定は現代の日本。探索者の通う高校を中心にシナリオは展開する。探索者は同じクラスに所属する仲の良い友人同士とする。高校生の探索者は、EDUを[年齢-6]固定とし、EDU以外は他の探索者と同じように作成する。職業は親の職業・将来目指している職業・得意分野といった扱いで自由に選択してよい。ただし社会的には一介の「高校生」として扱い、刑事だからと捜査に関する権限を持っていたり、「医者」だから医師免許を持っているということはない。


主なNPC

◆ 夢野 千佳(ゆめの ちか)、探索者の友人、双子の姉

探索者たちの同級生で、双子の姉。明るく勝ち気な性格で、誰とでもすぐに打ち解けることができる行動派。双子の妹である遥佳とは仲がよく、同年齢ではあるものの、引っ込み思案な性格の彼女のことを年下の妹のように可愛がっている。

年齢:※歳 職業:学生
STR 11 CON 14 SIZ 10 INT 12 POW 10 DEX 12 APP 13 EDU ※
正気度 50 耐久力 12
技能:投擲 40%、聞き耳 50%、目星 60%、言いくるめ 60%
※年齢・EDUは探索者の学年に合わせて決定する。


◆ 夢野 遥佳(ゆめの はるか)、双子の妹

千佳の妹。社交的な姉とは逆に、内向的で大人しい性格だが、根はしっかり者で誰よりも姉のことを大切に思っている。姉と同様に探索者たちと同級生で、仲が良い。

年齢:※歳 職業:学生
STR 10 CON 14 SIZ 10 INT 13 POW 13 DEX 9 APP 13 EDU ※
正気度 65 耐久力 12
技能:回避 30%、聞き耳 70%、博物学 40%、目星 50%、歴史 50%、精神分析 45%
※年齢・EDUは探索者の学年に合わせて決定する。


◆ 奥村 和志(おくむら かずし)、最初の犠牲者

探索者たちと同じ高校に通う男子生徒。3年生。探索者たちとは別のクラスで、金坂を筆頭とする不良グループに所属する。夢野遥佳の事故の際、金坂の車に同乗していたが、金坂には逆らえず、彼女を助けること無く放置してしまった。最初の犠牲者。


◆ 高牧 慎二(たかまき しんじ)、臆病な生徒

探索者たちと同じ高校に通う男子生徒。探索者たちとは別のクラス。金坂の友人で、いわゆる素行の悪い生徒。普段は金坂に媚びへつらいながら威張り散らしているが、根は臆病もの。夢野遥佳の事故当時、奥村と同じく金坂の車に同乗していた。

年齢:18歳 職業:学生
STR 13 CON 12 SIZ 12 INT 15 POW 8 DEX 13 APP 13 EDU 12
正気度 40 耐久力 12
技能:信用 1%、運転(自動車)25%、隠す 40%、値切り 50%、法律 30%、心理学 40%


◆ 金坂 明也(かねさか あきや)、不良グループのリーダー

探索者たちと同じ高校に通う男子生徒。探索者たちとは別のクラスで、不良グループのリーダー格。実業家の父親を持ち、探索者たちが通う高校にも多額の寄付を行っているため、それを盾に好き放題をやっている。バスケットボール部の主将(探索者と重複する場合は、別の部活に変更する)を務めるが、練習もせず毎日部室に入り浸っている。
取り立ての免許で父親に買ってもらった車を運転中、よそ見をしている間に夢野遥佳をひいてしまい、そのまま逃走する。彼は他の同乗者である奥村和志と高牧慎二にこの事を他言しないよう脅しをかけている。

年齢:18歳 職業:学生
STR 13 CON 12 SIZ 12 INT 15 POW 8 DEX 13 APP 13 EDU 12
正気度 40 耐久力 12
技能:信用 1%、運転(自動車)25%、隠す 40%、値切り 50%、法律 30%、心理学 40%


◆ アンティークショップの店員

探索者たちが訪れたアンティークショップの店員。店ではイギリス諸島の古い遺跡などから発掘された調度品を扱っている。その正体はドリームランドに住む魔女。現世の人間に対して友好的な彼女は、探索者たちの力になってくれるだろう。


導入

導入はシナリオ本編の一週間前から始まる。探索者たちは共通の友人で同級生の夢野千佳、その双子の妹の遥佳と共に街へ遊びに行く。遊びにいく先はどこでも良い。キーパーは探索者たちの意見を取り入れながら、平和な日常を演出するとよいだろう。やがて探索者たちはその先で一軒の古いアンティークショップを発見する。店には様々な古い調度品や書物が並んでいる。〈考古学〉や〈歴史〉または〈オカルト〉などに成功した探索者は、それらがイギリス諸島のもので、少なくとも18世紀より前に作られたものではないかと分かる。
そこで千佳は皆に、お揃いのお土産を買わないかと提案する。彼女が指す先には、不思議な黄色に似た色の、卵の欠片のようなものが取り付けられたキーホルダーが売られている。
探索者たちが話をしていると、女性の店員が話しかけてくる。彼女は物静かでどこかミステリアスな印象を受ける。彼女はそれが、とある遺跡で発掘された卵型の石の破片から作られたもので、個数限定の珍しい品だと説明する。キーホルダーは丁度、遥佳と千佳、探索者の人数を合わせた分だけ残っている。これは後のキーアイテムとなるものであるので、キーパーは探索者がこれを買うように誘導する。千佳が半ば無理やりに、全員分を買わせてしまってもよい。キーホルダーを購入した後、彼女はここで「ずっと皆で仲良くしたい」「友達でいたい」といった願望を口にする。
そして遊びに行った3日後、探索者たちは交通事故のニュースを目にする。この事故により千佳が重症を負い、病院で意識が戻らないことが分かる。


<事故のニュース>

次のニュースです。市内の高校に通う夢野遥佳さんが道路で血を流して倒れているのが発見されました。彼女は病院に運ばれましたが意識不明の重体。警察はひき逃げの可能性が高いとみて調査を開始しましたが、目撃証言がなく捜査は難航している模様です。

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一週間後

次のシーンは事故から一週間の放課後、探索者が学校の教室にいる場面から始まる。この間、逃げ去った車は未だ見つからず、遥佳は未だ病院で意識が戻らない。医者によると、大量に出血したまま長時間道路に放置されたことで、脳へのダメージが大きく、再び彼女が目を覚ます可能性は極めて低いということらしい。
学校での授業は終わり、皆が帰り支度をしているなか、千佳は窓際の彼女の机に座ったまま、外をぼーっと見ている。探索者が声をかけたり気分転換にでもと誘っても、彼女は「ごめんなさい」と小さく断る。このシーンでキーパーは、妹の事故に大きなショックを受ける千佳の様子を印象付ける。やがて彼女は立ち上がり、今はまだ1人でいたいと言い残して教室を出ていってしまう。


飛び降り事件

探索者が学校から帰ろうと校舎を出ると、校舎の周りに人だかりができているのに気づく。生徒がざわつき、教師が「やめるんだ!」などと声を上げながら、皆校舎の上を見上げている。見れば、学校の屋上に1人の男子生徒の姿があるのが分かる。
男子生徒は安全策を乗り越えて、今まさに地面に向けて飛び降りようとしている。〈目星〉または〈心理学〉に成功した探索者は、これから自殺しようというのに、彼の顔に浮かんだ恐怖の表情に気づく。彼は必死に何か呟いていて、まるで自分の意思に反して動く体に必死に抵抗しているようにも見える。
途端、探索者の頭の中に、千佳、あるいは病院で眠ったままの、遥佳に似た声が響く。

「憎い、憎い憎い憎い憎い……
赦さない、おまえたちだけは…絶対に」

直後、屋上の生徒は屋上から地面を目がけて飛び降りる。数秒後、グシャリと何かが潰れる音が響き、生徒たちは悲鳴を上げ、教師たちが慌てて駆け寄る。そして男子生徒の自殺を目撃した探索者は0/1D3の正気度ポイントを失う。

そんな中で、探索者は一瞬ヒューヒューと奇妙な笛のような音を聴く。〈アイデア〉または〈聞き耳〉ロールに成功すれば、音は以前に皆で買ったキーホルダーから発せられており、キーホルダーの先に取り付けられた卵の破片のような石が微かに発光していることが分かる。さらに探索者は屋上にいる人物に気づく。その人物は漆黒のローブを身にまとい、頭にはフードを被っている。その姿はまるで死神を思わせる。探索者は、そのフードの奥にある顔をはっきりと見ることができる。地面に倒れたまま動かない男子生徒をぞっとするような冷たい表情で見下ろす彼女の顔は、千佳、あるいは未だ意識が戻らず、病院で眠っているはずの遥佳に瓜二つだった。屋上にいる彼女の姿について、周りにいる生徒や教師たちは誰も気づいていない様子で、まるで探索者たちにだけ、彼女の姿が見えているようである。

そのとき、探索者の背後で誰かが「ひっ」と声を上げる。声を上げたのは近くにいた男子生徒で、彼は「なんで…違う、俺じゃない…俺は、悪くない」などとつぶやきながら、青ざめた顔で振り向いて校舎の外へ走り去っていく。周りの人だかりのせいで彼に追いつくことはできないが、探索者は彼が去り際に落としていった生徒手帳に気づくことができる。生徒手帳から彼が3年F組の「高牧 慎二(たかまき しんじ)」という生徒であることが分かる。 やがて救急車が到着すると、救急隊員たちが駆けつけて男子生徒は病院へと運ばれていく。

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探索

導入はここまでで終わり、ここから探索者は自由に探索を行うことになる。キーパーは、学生である探索者には時間に限りがあるため、目安として1日につき1〜2箇所、または1〜2つの事柄についてのみ探索を行うことができると予め伝える。本シナリオでは、探索者の行動によって調査の進行が大きく異ってくる可能性があるが、全体としてはおおよそ次のような流れを想定している。

導入

↓

学校内での情報収集、高牧慎二の自宅、病院

↓

金坂明也、アンティークショップ、千佳への追求

↓

襲撃

↓

エンディング


探索者が飛び降りた生徒や慎二についての調査を行えば、いずれ遥佳の事故の真相や、その主犯である金坂にたどり着く。また病院での千佳や遥佳の様子を伺いながら、やがてはキーホルダーについて知りたがるかもしれない。そしてキーホルダーについて調べるならば、アンティークショップの店員が探索者の力になる。やがて遥佳の事故、そしてキーホルダーの真相を知った探索者は、双子の姉妹を救うため、彼女たちと対峙することになる。

nemurihime_map.jpg <プレイヤー資料:マップ>


夢野 千佳

学校へ登校してくる千佳は、1人で殻に閉じこもり、誰とも話をしようとしない。探索者が話を持ちかけても、彼女は「ごめん、今は放っておいて」などと答えるだけだ。彼女は事件の真相を全て知っているが、彼女への説得はクライマックスのシーンまで行うことはできない。それ以外で、探索者が彼女に深く入り込もうとする場合、彼女は探索者から逃げるように教室から出ていってしまう。


奥村 和志と3人組

学校の生徒や先生などから飛び降りた生徒のことを探る場合は、〈言いくるめ〉や〈信用〉などの交渉系技能、あるいは〈幸運〉、[APP✕5]などのロールを行う。成功すれば、彼が3年F組の「奥村和志(おくむら かずし)」という生徒であることが分かる。また彼は同じ3年の高牧慎二、金坂明也らと仲が良いことを聞き出すことができるだろう。
奥村、高牧、金坂はお世辞にも素行の良い生徒とは呼べず、同級生からもあまり評判がよくはない。なかでも金坂は、父親が学校に多額の寄付を行っており、教師も彼に逆らうことができない。彼はそれを盾に、これまでも随分と好きにやってきたようだ。


高牧慎二の自宅

奥村の飛び降りの後、高牧は学校を休んでいる。学校で情報を集めるか彼の手帳を確認すれば、彼の自宅の住所が分かる。彼の家は2階建ての一軒家で、彼の家を尋ねると、玄関の鍵は開いているようだが、インターフォンを押しても誰も出てこない。そして探索者が家の中の様子を伺っていると、突然、家の2階から大きな悲鳴が聞こえてくる。

<2階へ駆けつける>

2階へと駆けつけた場合、扉の開いた部屋を1つ発見することができる。部屋の前まで来ると、探索者は中からヒューヒューと笛のような音を聞く。部屋には高牧慎二と向かい合う、黒ずくめの格好をした死神の姿がある。無表情に慎二と対峙する彼女の顔は、遥佳によく似ている。〈聞き耳〉または〈目星〉に成功すると、彼女の腰には以前一緒に買ったキーホルダーがくくられていて、口笛のような音はそこから聞こえてくることに気づく。
死神は右手を上げ、窓の外を指さすと、慎二は部屋の窓に向かって歩きはじめる。彼は自分で窓に向かいながらも「やめろ…、体が、勝手に」「たのむ、止めてくれ」などと叫んでいる。 慎二を止めるには探索者のSTRと彼のSTRを抵抗表で競わせ、勝利する必要がある。成功すれば、彼を寸でのところで押しとどめることができる。しかし敗北した場合や、彼を止めようとせずに様子を見ていた場合、慎二は探索者を振り切り、やがて窓に足をかけて外に向かって飛び降りる。窓の外は車道になっていて、彼が飛び出すと、丁度そこにトラックが走ってくる。大きな衝突音と共に、彼の体が宙を舞い、やがて頭から地面に落下する。地面には慎二の頭から流れた血が赤い水たまりを作っていく。死神の姿はいつのまにか消えている。この様子を目撃した探索者は0/1D3の正気度ポイントを失う。

<2階へ向かわない>

悲鳴を聞いてもその場に留まる場合、やがて彼の家の裏の方から、けたたましいブレーキ音と衝突音が聞こえてくる。向かえばフロントガラスにひびが入ったトラックが止まっており、その数十m先に慎二が頭から血を流し倒れている。トラックの運転手は、彼が突然飛び込んできたのだといい、周りを確認すれば彼女の家の2階の窓が開いているのが分かる。


高牧慎二の死

慎二を救うことができなかった場合、彼はその場ですぐに死亡する。〈応急手当〉や〈医学〉に成功すれば、キーパーは彼が息を引き取る前にいくつかの情報を探索者に与えてもよい。また事故現場には、彼の携帯電話が落ちている。画面は割れているが、まだ動いているその電話に着信が入る。画面に表示された名前を見れば、そこには「金坂 明也(かなさか あきや)」とある。
その名前を見た探索者が〈知識〉ロールに成功した場合、金坂明也が同じ高校に通う3年の生徒で、バスケットボール部の主将をしていることを思い出す。彼はいわゆる素行の悪い生徒で、評判は極めて悪く、家が金持ちであることを盾に傍若無人を繰り返している。部活についても、普段は部室に入り浸るだけで活動は一切していない。
放置していればすぐに電話は切れてしまうが、もし探索者が電話に出れば、彼は最初慎二が電話に出たと考えて、遊びにいく約束を取り付けようとしてくるが、すぐに違うことに気づく。彼はどうして別のやつが電話に出るんだと聞いてくるが、もし慎二に起きたことを正直に話せば「なんであいつに続いて慎二まで。まさかあの時の、いや、そんなはずがない」と震える声で話したあと、電話を切ってしまう。
やがて救急隊と警察が駆けつけ、慎二は病院へと搬送されていく。探索者は警察の現場検証に付き合うことになる。警察は現場の状況と探索者、運転手たちの証言に不思議がりながらも、事故と自殺の両面から捜査を開始するといい、探索者は夜になって解放される。


高牧慎二の証言

高牧慎二を救うことができた場合、彼からは遥佳の事故の真相を聞くことができる。

■1ヶ月前の事故

彼らは同級生の「金坂 明也(かねさか あきや)」が取り立ての免許と親に買ってもらった車でドライブ中、よそ見をした隙に横断歩道を横断していた夢野遥佳をはねてしまう。車を運転していたのは金坂明也で、さらに奥村和志、高牧慎二が同乗していた。すぐに車を止め救急車を呼ぼうともしたが、交通量の少ない道で周りに目撃者もなく、金坂はそのまま逃げ、そして彼は黙っているようにと他の2人を脅す。彼らは逆らうことができないまま、金坂に従っていたのだった。

■夢

遥佳の事故の後、黒い装束に身を包んだ彼女が夢に現れるようになった。彼女は何を言うでもなく、ただじっと冷たい目で見つめてくる。慎二には屋上に現れた遥佳の姿が見えており、夢の中だけの存在だった遥佳がついに現実世界に現れたのだと怯える。


金坂明也

バスケ部主将である彼は、放課後に部室に行けば会うことができる。彼らは真面目に活動をすることなく、部室に女生徒を連れ込んではダラダラと過ごしている。
彼はやってきた探索者に不機嫌そうに対応する。彼も高牧と同じく遥佳が現れる夢を何度も見ており、さらに奥村の飛び降りの件もあって気が立っているのだ。彼は探索者が何を訪ねようとも、知らない、関係ないと吐き捨て、さっさと出て行けと怒鳴りつける。


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アンティークショップ

アンティークショップには、探索者が以前訪れたと同じ女性店員がいる。探索者が彼女の元を訪れたものの、何から話せばよいか迷っている様子であれば、キーパーは彼女の方から、以前に訪れた探索者たちを覚えているように話しかけ「あの時の友人はお元気ですか?」「何かあったのですか?」など探索者が話を切り出しやすいように誘導する。
探索者が死神となって現れる友人や事の顛末を話せば、彼女は探索者に協力し、次のことを教えてくれる。

■キーホルダーについて
・探索者が買ったキーホルダーは”夢のクリスタライザー”と呼ばれるものの破片。
・”夢のクリスタライザー”は本来、眠っている人の意識を異なる次元に転送する力を持つ。
・破片となって力を失ったはずだったが、何らかの不具合を起こして、精神を夢ではなく現実世界に転送しているのかもしれない。

■クリスタライザーの守護者
・”夢のクリスタライザー”を使い続けると「守護者」がやってくる。
・「守護者」は使用者の精神を夢と現実の狭間の世界へと連れ去ってしまう。
・このため、一刻も早く使用を止めなければならない。


その後、女性店員は早く遥佳を元の体に戻す必要があるといい、店の本棚から一冊の本を取り出しページをめくる。そこには夢の世界から来た者を元の世界へと返すための呪文が記載されている。そのページを読んだ探索者は《夢への放逐》の呪文を習得し、1D3正気度ポイントを失い、失った正気度ポイントと同じ数値分の〈クトゥルフ神話〉技能を獲得する。

夢への放逐(DISMISS INTO DREAM)

夢の世界からやってきた生物を、来た所へ返すための呪文である。この呪文をかけることにより、1D6の正気度ポイントを失う。この呪文は、呪文の参加者が全員で2ラウンドの間、一緒に呪文の詠唱を行わなければならない。参加するものは任意のMPを消費して、対象のPOWと消費したマジック・ポイントの合計で抵抗ロールを行う。この呪文の効果を効かせるためには、対象の近く、少なくとも10〜20m範囲以内のところにいなければならないだろう。


「ただし、この呪文はあくまで相手を一時的に相手を退散させるものに過ぎません。
そのことをゆめ、お忘れなきよう。私に手助けできることはここまで。あとは貴方がた次第…」

彼女がそう言うと、探索者たちは、気が付けばいつの間にか商店街の中の何もない空き地に立っている。辺りを見渡せば、さっきまでのアンティークショップも女性定員も、まるで最初からそこには何もなかったように消えてしまっている。また道行く通行人に尋ねても、昔は古い骨董品屋があったが、もう何十年も前から空き地で何もないと言う。不思議な現象に遭遇した探索者は0/1の正気度ポイントを失う。


病院:遥佳の病室

友人である探索者は遥佳が市内の大学病院に今も入院していることを知っている。彼女は事故で脳に損傷を負い、未だ目を覚まさないのだという。探索者が病室に入ると、遥佳の眠るベッドの横には千佳が椅子に座っている。彼女は寂しそうな様子で、毎日見舞いに着ていたこと、遥佳が目を覚ます可能性は極めて低く、自分がどうすればよいか分からないでいることなどを話す。

<キーホルダーについて尋ねる>

千佳にキーホルダーのことを聞くと、自分のものは今も持っていると答えた後、少し間をあけてから、妹のものは事故の際にどこかへ行ってしまったようだと話す。〈心理学〉に成功すれば、彼女が何かしらの嘘を付いていることに気づく。


<学校での飛び降りについて尋ねる>
奥村や死神の話を出した場合、キーパーは探索者に〈目星〉〈心理学〉〈精神分析〉のいずれかでロールさせる。成功した探索者は、彼女が一瞬だけ浮かべた憎悪の表情に気づく。しかし彼女はすぐに俯いて無関心を装うように「そう、そんなことがあったんだ」などとだけ返す。
やがて、話を続けていると、千佳はどうして遥佳がこんな目に合わないといけないのか、すぐに救助していれば助かったかもしれない、犯人が赦せないといった事を口にする。その時、探索者はヒューヒューという断続的な、笛の音のようなものが聞こえてきて、探索者の頭の中に声が響く。

『憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い』

その瞬間、視界にノイズのようなものが走り、眠っている遥佳の姿に、屋上で見た、あの黒装束を着た死神のような彼女の姿が重なって見える。強い頭痛と幻覚に、探索者は0/1の正気度ポイントを失う。


<千佳を追求する>

探索者が死神の件について遥佳や千佳が関係していると考え、彼女を不用意に追求してしまった場合、次のイベントが発生する。最初は静かに「知らない」「分からない」と否定するだけの彼女だが、それでも探索者が諦めない場合、彼女は探索者に対して、強い不快感をあらわにしていく。

「どうして?それがいけないことなの!?
あいつらのせいで、遥佳は!
痛くて、苦しくて、それでも長いあいだ1人にされて」

さらに追求するなら、千佳はさらに強く探索者たちを拒絶していく。
そしてそんな千佳の声に重なるように、遥佳の声が聞こえてくる。

「あいつらが、遥佳を」
「だれか、たすけて。どうしてだれも、きてくれないの」
「「赦さない…赦さない、赦さない赦さない赦さない赦さない……絶対に、赦さない!」」

彼女の言葉と憎悪の感情が、探索者の頭の中に響き渡る。探索者は意識を保てないほどの激しい頭痛を感じる。霞んでいく視界に映ったのは、遥佳が眠るベッドから起き上がる『死神』の姿だった。探索者は1D3/1D6の正気度ポイントを喪失し、そのまま意識を失っていく。

しばらくして探索者は遥佳のベッドにもたれかかった形で目を覚ます。気を失っていた時間は2〜3分ほどだが、そこには既に千佳の姿はなく、ベッドには眠ったままの遥佳が横たわっている。いつの間にか窓が開いていて、病室のカーテンがゆらゆらと風に揺れている。病室の外にいる看護師などに聞いても、遥佳を見たものはなく、彼女の行方は分からない。


イベント


千佳の襲撃

このイベントは探索者が事故とキーホルダーの真実をある程度把握したタイミングで発生させる。目安としては、高牧慎二からの情報収集、アンティークショップでの呪文の入手、千佳が病室から姿を消す、などのイベントのうち2つ以上が発生した後がよい。探索者たちが金坂明也または高牧慎二に会いに行くと、会話の途中にキーホルダーから再びヒューヒューと笛のような音が聞こえて、遥佳の姿をした死神が現れる。そして、千佳の声が響く。

「赦さない……赦さない赦さない赦さない」

気が付けば、知らない間に金坂(または慎二)と探索者たちはいつの間にか学校の屋上にいる。周りに他の生徒の姿はなく、目の前には黒装束に身を包んだ遥佳と、その背後には制服姿の千佳の姿がある。千佳は金坂を殺すために邪魔をしないでと探索者たちに言い放つ。そして、死神の姿をした遥佳が金坂に向かって手をかざすと、金坂は屋上の縁に向かって進み始める。彼は青ざめて、体の自由が効かないといい、探索者たちに助けを求める。

ここからは戦闘と同様に、探索者1人1人の行動を処理していく。金坂は4ターンほどで金網を乗り越え、飛び降りる。彼はたとえ攻撃を加えられ気絶しても、まるで操り人形のように立ち上がり、意識がないまま屋上の外へと歩いて行く。これを止めるには、遥佳と千佳の姉妹を言葉で説得する必要がある。尚、アンティークショップで教えられた呪文については、後述の理由のため、効力を発揮しない。これについては「キーパー向け情報」を参照する。
彼女たちを説得するには〈説得〉÷2、〈精神分析〉÷2、またはPOW✕2のロールに成功する必要がある。この際キーパーは、探索者のRPに応じて判定にボーナスがあることを明示する。RPの内容については様々だが、キーパーはおよそ+10〜+30の範囲でボーナスを与える。この際の裁定は必要以上に厳しくはせず、プレイヤーの能力に合わせて行うよう心がける。重要なのは、探索者の「姉妹を救いたい」という気持ちを持っているかどうかだ。また説得のロールでは、一度誰かが失敗する毎に、次のロールに+10%の修正が加わっていく。このボーナスは累積する。 もし、探索者たちが彼女たちを止めることができず、4ラウンドが経過して金坂が屋上から落下すれば、エンディングDへと進む。

キーパー向け情報

実はこの世界は病院で眠る夢野遥佳が見る夢の中の世界である。探索者たちは”夢のクリスタライザー”の効力で、彼女の夢の世界にいる。探索者たちが彼女の見舞いに訪れた際、自身が持つ”夢のクリスタライザー”の効果によって、彼女の夢の世界に転送されてしまったのだ。 このため《夢への放逐》では、元々の夢の主である遥佳を追放することはできない。


クリスタライザーの守護者

説得が聞き入れられると、千佳は涙を流し、その場に泣き崩れる。遥佳はそんな千佳の側に何も言わずに立ち、優しく彼女の頭に手を置く。ここでキーパーは探索者たちに自由にRPをさせ、危機を脱してシナリオをクリアしたかのように演出する。そしてプレイヤーたちが安心し切ったところで、タイミングを見て次のイベントを発生させる。

その時、探索者はヒュウヒュウと、断続的で奇妙な笛の音を耳にする。
そして千佳と遥佳の真横、空間に黒い渦のようなものが出現する。
その中から現れたのは黒い影のような、大きなクラゲのような生き物で
猫のように黄色い目と長い触手を持ち、フワフワと空中に浮いている。
それは旧き神ヒプノス、夢の大帝に従えられた秘宝の『守護者』──

”夢のクリスタライザーの守護者”を目撃した探索者は0/1D6の正気度ポイントを失う。

夢のクリスタライザーの守護者
データは割愛。詳細を知りたい場合は「キーパーコンパニオン(改訂新版)」64ページを参照。
クリスタライザーの守護者はあらゆる物理的な攻撃を受け付けず、INTかPOWに影響する魔法のみがダメージを与えることができる。クリスタライザーの守護者はラウンド毎にランダムに選んだ1人に対して触手(35%)を絡ませてくる。守護者の触手に捕まった犠牲者は、次のラウンドに守護者のPOW12と自身のSTRを抵抗表で競わせる。判定に敗北すると、犠牲者は夢と現実の狭間にあるヒプノスの宮廷へと引きずり込まれてしまい、二度と覚めることのない眠りのなかで苦しみ続けることになる。1人でも犠牲者を引きずり込めば、守護者はそのまま彼の世界へと帰っていく。
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アンティークショップで店員から《夢への放逐》を教えられていた場合、《夢への放逐》を発動し、呪文に費やしたマジック・ポイントと守護者のPOW12を抵抗表で競わせて判定に勝利すれば、守護者をヒプノスの宮廷へと押し返すことができる。守護者は空中に出現した黒い渦に吸い込まれるように、探索者たちの前から消えていく。この場合はエンディングAへと進む。
しかし呪文の詠唱中に誰か1人でも守護者に捕まり、そのままヒプノスの宮廷へ引きずり込まれてしまった場合、エンディングBへと進む。

探索者が《夢への放逐》を入手していなかった場合、またはマジック・ポイントを使い切ってしまった場合、対抗する手段を持たない探索者に守護者がその触手を伸ばす。しかしその時、探索者たちを遥佳が庇う。守護者の触手は彼女を捕らえ、そのまま空間に開いた歪の中へと彼女を引きずり込もうとする。
彼女を助けるには、守護者のPOWと探索者のSTRの合計値を抵抗表で3回競わせ、勝利する必要がある。ただしこの時、探索者のSTRの合計値によらず、96〜00は失敗となる。判定に3回とも無事勝利すれば、遥佳を守護者の触手から引き剥がし、守護者だけが空間に現れた渦の中へと消えていく。その後、エンディングAへと進む。
しかし途中で1度でも敗北してしまった場合、遥佳は守護者と共に、渦の中穴の中へと引きずり込まれて消えていく。その後、エンディングCへと進む。


エンディング


エンディングA

守護者が消えると、遥佳の声が探索者たちに聞こえる。

『……ありがとう』

その時、ズズズ、と地鳴りのような音と共に、空や地面、校舎、周辺の景色、この世界を構成する全てのものが崩れ始める。それと同時に、探索者や千佳の体が徐々に薄くなって消えてゆく。そしてどこからともなく、アンティークショップの店員の声が聞こえてくる。彼女はここが夢野遥佳の夢の中の世界であること、彼女が眠りから覚める時が来たことを告げ、それに伴い、この世界が崩壊すると共に、探索者たちの意識が元の体へ戻っていくのだと教える。

探索者たちは遥佳の病室で、彼女のベッドに伏した格好で目を覚ます。彼女の見舞いに来ている途中、夢のクリスタライザーの力で眠ってしまったのだ。側には姉の千佳も一緒に目を覚ましている。そして探索者たちが意識を取り戻すと、ベッドで眠る遥佳の瞼がゆっくりと開く。
こうして遥佳は奇跡的に一命を取り留める。しばらくは治療とリハビリが必要ではあるものの、やがては回復することができるだろう。彼女をひき逃げした3人は現実の世界では何事もなく生きているが、その後、遥佳の証言によって犯行がばれ、警察によって逮捕されることになる。

姉妹を救い、現実に戻ることができた探索者たちは1D6の正気度ポイントを獲得する。さらに全員で生還できたことのボーナスとして、追加で1D6の正気度ポイントを獲得する。


エンディングB

犠牲者と共に、守護者はヒプノスの宮廷へと帰っていく。その時、その時、ズズズ、と地鳴りのような音と共に、空や地面、校舎、周辺の景色、この世界を構成する全てのものが崩れ始める。それと同時に、残された探索者や千佳、遥佳の体が徐々に薄くなって消えてゆく。
探索者と千佳は、遥佳の病室で彼女のベッドに伏した格好で目を覚ます。しかし、連れ去られてしまった探索者は眠ったまま目を覚まさない。目を覚ました探索者たちは、遥佳の見舞いの最中に、笛のような音を聞き、眠ってしまったことを思い出す。
そして、ベッドで眠る遥佳の瞼がゆっくりと開く。目を覚ました遥佳の頬を、涙が伝う。

姉妹を救い、現実に戻ることができた探索者は1D6の正気度ポイントを獲得する。


エンディングC

最後の言葉を残して、遥佳は探索者たちの目の前から完全に消失する。

『私はいいの。最期にみんなに会えたから』
『ありがとう』


翌日、探索者たちは病院で遥佳が息を引き取ったとの連絡を受ける。医者はここまで保ったのが奇跡であると言う。千佳は涙を流しながら、それでも最後に彼女が自分や探索者たちに会えてよかったのだと伝え、思い出の品であるキーホルダーを握りしめる。

……

場面は変わり、病院の暗い病室。探索者らの両親が、深刻そうな様子で医者と話をしている。

「○○(探索者の名前)は目覚めるんですか?」
「我々も手は尽くしたのですが、今の医学では…」

泣き崩れ、あるいは落胆する家族。ベッドには様々な計器やチューブが接続された探索者の姿がある。長らく眠ったままであるその手足は痩せ細り、骨と皮だけになっている。主である遥佳が消えた後、探索者たちは彼女の夢の世界に取り残される。彼らは二度と覚めることのない眠りの中で、夢を見続けるのだ。


エンディングD

屋上に、狂気に染まった千佳の笑い声が響いていく。彼女は涙を流しながら、復讐をやり遂げたことを遥佳へと報告する。そんな千佳を、遥佳は満足そうな表情で見つめる。
後日、学校には教室へ元気に登校してくる千佳と遥佳の姿があった。千佳は遥佳が無事退院できたことを喜び、遥佳は心配をかけてごめんと探索者たちに謝る。彼女たちは探索者たちと楽しげに談笑する。以前と変わらぬ日常がそこにはあった。

……

場面は変わり、病院の暗い病室。探索者らの両親が、深刻そうな様子で医者と話をしている。

「○○(探索者の名前)は目覚めるんですか?」
「我々も手は尽くしたのですが、今の医学では…」

泣き崩れ、あるいは落胆する家族。ベッドには様々な計器やチューブが接続された探索者の姿がある。長らく眠ったままであるその手足は痩せ細り、骨と皮だけになっている。彼らは狂気に染まった千佳、遥佳と共に、二度と覚めることのない眠りの中で、夢を見続けるのだ。

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