All or Nothing

シナリオ概要

飛行船で行われる大金をかけたギャンブル。知略と策略の裏に見え隠れする怪盗と宇宙的恐怖の影。
全てを得るか、失うか。果たして栄光は誰の手に──

推奨人数:2〜4人
想定プレイ時間:3時間(オンラインのテキストセッションの場合は9時間)




本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」


※注意:以下にはシナリオのネタバレが含まれます。























キーパー向け情報

このシナリオでは、探索者は様々な理由により飛行船「ノーザン・アルウィン号」で行われるギャンブルに参加することになる。このイベントは本来、金持ちのセレブをターゲットとしたもので多額の金を賭けて行われる。さらにこのギャンブルの勝者には特別な賞品が送られることになっている。

探索者はライバル同士として別々にギャンブルに参加してもいいし、仲間同士としてこれに参加してもいい。仲間同士として参加する場合は1人の探索者がメインの参加者としてギャンブルに参加し、他の探索者は近くでサポートしたり相談に乗ったりする形になる。キーパーはあらかじめプレイヤーと相談をして探索者がこの催しに参加する理由を決めておく。参加理由は重複してもいいしバラバラでも構わない。また各探索者の参加理由を他の探索者には秘密にしておいても面白い。例としては次のようなものが考えられるだろう。

  • 探索者自身が資産家であり主催者から特別に招かれた。あるいは知り合いに大金持ちのNPCがおり、都合が悪くて参加できなかったそのNPCの代理として探索者が参加することになった。またはそうした探索者の仲間として一緒に参加した。
  • 今回のギャンブルでは『ウェイディゴの像』と名付けられたアーティファクトが賞品として勝者に送られることになっている。クトゥルフ神話に関わる品物を収集している依頼主によってこの像の回収を依頼され、探索者は参加することになった。
  • 希少価値の高い品々を狙って窃盗を繰り返す正体不明の怪盗『怪盗キャット』から賞品を守るため、探索者は主催者に雇われて参加者の中に紛れ込んでいる。
  • 探索者には多額の借金がある。人生大逆転を賭けての参加、あるいはこの借金を返済するために債権者から今回のギャンブルに強制的に参加させられることになった。
  • ギャンブラーである探索者はNPCの桜田さくらと宿命のライバルであり、彼女との勝負のため飛行船に乗り込んだ。彼女にだけは絶対に負けられない。

  • このシナリオはギャンブルが行われる飛行船を舞台とした自由度の高いシナリオとなっている。シナリオの序盤では他の参加者や会場の下調べを行いながら、ギャンブルに勝利するための様々な工作を行うことができる。参加者は探索者以外に人気映画女優やプロのギャンブラー、莫大な財産を持つ投資家にエジプト王家の血を引く者など個性の強い者が揃っている。彼らにはそれぞれ隠された秘密がある。さらには怪盗からの挑戦状や冒涜的な信仰の影がゲームの裏に見え隠れする。
    その後に行われるギャンブルにおいては、NPCの何人かがイカサマや暴力行為といったトラブルを引き起こし、それはクライマックスで起きる大きな事件に繋がっていく。このシナリオには1本の大きな流れはあるものの、その間に発生するNPCとの関係性やギャンブルの展開には複雑な要素が絡み合って様々な展開が起こりうる。このためキーパーは事前に各種の背景をよく把握して準備をしておく必要がある。ここに掲載するNPCたちの行動はその一例だ。キーパーは自由にそれぞれのNPCについて味付けをしたり行動を追加してもいい。




    登場人物たち


    ◆ カネモト

    今回のギャンブルを仕切るメインディーラー。タキシードに身をつつみ、常に白地の無表情な仮面をかぶっているために素顔や年齢は分からない。ルールの説明や司会・進行などは全て彼が行う。

    事実と手掛かり
  • 彼は飛行船に積み込んだはずの本日分の新聞が無くなったことについて、理由が分からず不思議そうにしている。参加者に尋ねられると申し訳そうに事情を話す。
  • 彼はスタッフルームの金庫の鍵を預かっており、それを常にタキシードの内ポケットに大事そうに持っている。
  • ギャンブル時の暴力や不正行為については規定に従い厳罰を持って対処する。ルール違反者を見つけた時は、屈強な従業員たちに指示をしてメインホールから退場させる。

  • ギャンブルの手口
  • ルール違反の報告を受ければ、彼は確認を行う。不正が発覚すればその場で処罰する。
  • 彼はあくまで進行役としてこの場におり、ゲームには参加しない。

  • キーパーへの注意
    彼は主催者に雇われた人間であり、忠実に職務をこなすことを生業としている。しかし突発的なトラブルの対処には慣れておらず、何かが起きた場合には、他の従業員たちと共にその場でうろたえるだけだろう。こうした事態は探索者が対処しなければならない。

    年齢:36歳 職業:エンターテイナー
    STR 10 CON 10 SIZ 13 INT 13 POW 10 DEX 8 APP 12 EDU 80
    正気度:50 耐久力:12
    DB:0 MP:10 移動:7
    武器:こぶし、50%、ダメージ1D3
    技能:聞き耳50%、芸術(司会を務める)80%、説得40%、信用50%、回避50%


    ◆ シャロン・ミシェル(怪盗キャット)

    彼女の正体は、クトゥルフ神話に関わるアーティファクトを専門に収集する神出鬼没の怪盗だ。彼女は”怪盗キャット”という名で世界中の人々に知られている。
    彼女にとってこの仕事はスリルと知識の探求が目的であり、決して神話的事象から人間を庇護するといった善良な目的のためのものではない。彼女は古いプロヴィデンスの家系の出身で、祖先から受け継いだ呪文をいくらか心得ており、それらを駆使することによって常人には不可能と思われるような盗みを実行する。
    彼女は今回、レッドカーペットのスターダムに燦然と輝くハリウッドの人気女優、シャロン・ミシェルに変装してこの催しに参加している。本物の彼女は輝く金髪に左右の色が異なる瞳、完璧なプロポーションを持つ彼女の美しさは老若男女を問わず魅了し、高い演技力とそれを支える知性を兼ね備えた完璧なスターなのだ。彼女はかねてから古物収集が趣味であることを公然の事実としており、今回も珍しい品を目当てに参加したとしている。

    事実と手掛かり
  • 彼女は『ウェンディゴの像』がクトゥルフ神話に関わる物品であることを知っているが、知らないふりをして詳しく語ることはない。
  • 彼女は古物収集家として賞品をぜひ欲しいと意気込む振りをしている。
  • 不都合な事実を隠すため、キャットは飛行船内から全ての新聞を盗んで自分の部屋に隠している。それらにはこの日、本物のシャロンはアメリカで新作映画の発表会に出席するという記事が掲載されている。
  • 彼女の正体を暴くことが出来れば、探索者に興味を持った彼女とギャンブルにおいて協力関係を結ぶことができる。またクライマックスのシーンでも探索者の助けになってくれる。
  • エンディングまでに彼女の正体を暴けなかった場合、エンディングのシーンで彼女に『ウェンディゴの像』が盗まれてしまう。
  • 正体を暴かれた場合、彼女は『ウェンディゴの像』を盗まず1人で飛行船から逃げていく。探査者は窓の外にハンググライダーを操り飛び去っていく彼女の姿を目撃する。

  • ギャンブルの手口
  • 彼女には勝敗へのこだわりはない。彼女の目的は盗みにある。
  • 彼女は持ち金をなるべく温存し、無理な勝負はしないだろう。
  • 彼女のプレイングは『ウェンディゴの像』を欲しがっていたわりに消極的である。
  • 協力関係を結んだ場合、彼女の側から裏切ることはない。しかし探索者が嘘を付くのなら、彼女は容赦しない。

  • キーパーへの注意
    彼女の正体を暴くには、推測だけではなく明確な証拠を突きつける必要がある。ギャンブルが始まるまで、彼女はメインホール付近にいる。証拠となる盗まれた新聞は、彼女の部屋を探索すれば発見することができる(『シャロンの部屋』を参照)。
    彼女の正体を暴くことが出来れば、彼女の好奇心を刺激して好感を得ることができる。クライマックスのシーンでは、探索者を助けてくれることだろう。

    年齢:30歳(真の年齢は不明) 職業:怪盗
    STR 10 CON 16 SIZ 13 INT 17 POW 18 DEX 17 APP 18 EDU 80
    正気度:90 耐久力:15
    DB:0 MP:18 移動:8
    武器:こぶし、70%、ダメージ1D3
    ナイフ 50%、ダメージ1D4+2
    技能:変装90%、操縦(ハンググライダー)85%、隠れる90%、鍵開け80%、言いくるめ75%、目星70%、心理学70%、クトゥルフ神話3%、回避80%
    呪文:《門の創造》、《ヴールの印》、《布石》など。


    ◆ 桜田さくら

    彼女は黒い髪を腰まで伸ばし和風の振り袖を着こなしている。常に礼儀正しく振る舞う彼女は育ちのよいお嬢様のように見えるが、その実は根っからのギャンブラーだ。彼女はマジシャンの家系に育ち、様々なトリックからイカサマまで、他人を騙す手段については事を欠かない。彼女は身につけたテクニックを駆使して大金を手に入れるために、今回の企画に参加している。彼女は賞品については興味はなく、どんな価値や意味を持つのか知りはしない。

    事実と手掛かり
  • 彼女はジャック・ジュリスについて怪しんでいる。
  • ジャックの部屋の前を通りかかった時、彼が「いあ……くふあやく…なんたら」と奇妙な呪文めいた言葉を呟いている声を聞いていたのだ。彼女には知るすべはないものの、これは彼がイタクァに祈る時の言葉だ。
  • 彼女の服装は袖の中にイカサマ用のカードを隠し持つためのものだ。また彼女の部屋を探索した場合にも、イカサマ用の道具を発見することができる。

  • ギャンブルの手口
  • 一番最初のゲームでは静観しているものの、2回目以降のゲームからはタイミングを見てイカサマに打って出る(〈隠す〉でロールを行う)。イカサマに成功すると、彼女の幸運ロールの出目は常に1(クリティカル=ロイヤルフラッシュ)になる。
  • 探索者は〈心理学〉ロールに成功すれば、彼女のイカサマに気づくことができる。その後、次のゲームでカードが配られたタイミング(幸運ロールを振ったタイミング)で、〈目星〉のロールに成功すれば、イカサマを暴くことができる。
  • イカサマを看破された彼女は必死に否定するものの、確認されると衣装の袖からパラパラと隠し持っていたカードが出てくる。その後、屈強な従業員たちによって会場の外へと連れ出されていく。
  • 彼女と協力関係を結んだ探索者は、いざという時に裏切られる。彼女は協力関係を結んだ探索者に、常に嘘の手札を教える。

  • キーパーへの注意
    ギャンブル開始までの間、彼女は積極的に他の参加者に接触して自分が有利になるよう工作をする。探索者にも一見親切に接するが、それも全て策略のうちなのだ。彼女の方から探索者に協力を持ちかけてみるのも面白いだろう(そして当然、彼女は裏切るのだが)。
    彼女は2回戦以降、イカサマを使う。彼女は白々しく「勝ってしまいました」「運がよかったです」などといった発言をする。これは彼女がイカサマを使っているというヒントにもなるだろう。

    年齢:25歳 職業:ギャンブラー
    STR 8 CON 12 SIZ 9 INT 16 POW 14 DEX 14 APP 15 EDU 16
    正気度:70 耐久力:10
    DB:0 MP:14 移動:8
    武器:キック、40%、ダメージ1D6
    技能:隠す70%、言いくるめ80%、心理学50%、聞き耳70%、回避60%


    ◆ ジャック・ジュリス

    カナダ出身のアメリカ人。鍛えられた体の中年男性。投資で成功して莫大な財を築き上げたという彼は、彼は誰にでも気さくに話しかけ、女性が相手であれば口説こうとするが、シャロンには相手にされることなく追い払われてしまう。趣味は旅行であるといい、手にした金で世界各地を飛び回っているという。
    そんな彼は15年ほど前、元々住んでいた北の大地において遭遇した恐ろしい経験を通してイタクァを信仰するようになった。当時彼にはイタクァを信仰する祖父がおり、その祖父の儀式によって招来したイタクァを間近で目撃してしまったのだ。祖父はその場でイタクァに連れ去られ、数ヶ月後に森の中で遺体で発見された。遺体は全身に強い衝撃を受けており、まるではるか上空から落下したかのようだったという。
    以来、彼は人智を超えた存在に憧れを抱くようになり、投資で手に入れた金で世界各地を飛び回り、かの存在につながる情報を探し集めてきたのだった。

    事実と手掛かり
  • 彼の表向きの参加理由は、セレブが集まる今回のギャンブルを純粋に楽しむためにやってきたというものだ。しかし『ウェンディゴの像』を目にした彼は、アーティファクトから感じる神々しさや素晴らしさに興奮してしまう。
  • 『ウェンディゴの像』を見た後、ゲームが始まる間、彼は自室に籠もりイタクァへの祈りを捧げている(『ジャックの部屋』を参照)。

  • ギャンブルの手口
  • 彼は他の誰よりも『ウェンディゴの像』を欲している。
  • 彼は勝利に執着するあまり、2回目のゲーム以降では自分の手札の強弱に依らず、レイズできる上限ぎりぎりまでチップを上乗せする。
  • 彼がゲームで大負けすると、イカサマだと大騒ぎをして勝者に殴りかかる。このイベントは1回目あるいは2回目のゲーム終了時に発生させるといいだろう。
  • 暴力行為を行った彼は、屈強な従業員たちに部屋の外へと連れ出されていく。

  • キーパーへの注意
    彼は最初こそ女性参加者に手当り次第声をかけるが、いつの間にかメインホールから出ていってしまう。これは自室で彼が狂信する神に祈りを捧げるためだ(「ジャックの部屋」の項目も参照すること)。
    彼は根っからの狂信者だ。彼が『ウェンディゴの像』を手に入れられなかった場合には、強硬手段に出ることになるだろう。ゲームの勝敗に関わらず、像を前にして神への信仰心が最高潮に達した彼は、クライマックスでイタクァの招来を試みるだろう。

    年齢:34歳 職業:狂信者
    STR 15 CON 14 SIZ 14 INT 15 POW 8 DEX 10 APP 14 EDU 18
    正気度:0 耐久力:14
    DB:+1D4 MP:8 移動:7
    武器:こぶし、50%、ダメージ1D3
    ショットガン、40%、ダメージ4D6/2D6/1D6
    技能:オカルト70%、聞き耳50%、目星45%、オカルト70%、信用60%、クトゥルフ神話4%、回避25%
    呪文:《イタクァの招来》


    ◆ マハード(ニャルラトテップ)

    真っ黒な肌に整った顔立ちをした、エジプトの王族の血を引くという男。黄金の装飾品を全身に身に着け、周りの人間に対しては常に見下した態度を取るだろう。彼が今回参加したのは純粋に余興を愉しむためだ。しかしそれは飛行船の旅でもなければ、この場で行われるギャンブルでもない。彼はこれから起きる事件のことを予め知っているのだ。

    事実と手掛かり
  • 彼は他の参加者に対し、常に尊大な態度で接する。
  • 彼から話を聞き出そうとしたり協力関係を結ぼうとすると「ならば何か面白いことをやってみせよ」と言ってくる。ここで探索者が特別な才能(変わった技能や見た目、あるいは面白いと思えるような言動など)を示すなら、彼は興味を示して「我の配下になれば、世界の半分をくれてやろう」などと持ちかける。
  • 探索者が拒んだり警戒するようであれば、彼は面白がって探索者のことをよりいっそう気に入るだろう。彼は探索者を配下にすることを諦め、気に入ったことへの褒美として探索者が知りたがる情報について1つだけ、ヒントを1教えてくれる。
  • これは恐らくは他の参加者に関することで、直接的な答えではなく、どこを調査するべきかといったヒントの方がいいだろう。必要があれば、対象となるNPCの部屋の鍵のコピーを(創り出して)探索者に与える。
  • 探索者が彼に忠誠を誓う場合、彼と協力関係を築くことができる。これは主従の関係であるので、言動に気をつけなければ見捨てられることもある。

  • ギャンブルの手口
  • 彼は傍観者に徹しており、ゲーム中に目立った行動は起こさない。賞金や賞品も彼には興味ないものだ。
  • 彼は他の参加者が行うイカサマを全て(技能ロールなどの必要なく)見抜くことができる。他人のイカサマに気づいた彼は楽しそうに笑うだろう。
  • 探索者が気づかなければ、高慢な態度で「気づかないのか?間抜けめ」などとヒントになるような言葉を発してもいい。
  • 最後のゲームでは、彼は「我はこのままでいい」と言って自分の手札を見ず、幸運ロールを行わない。手札交換も行わず、代わりに公開するタイミングになって始めて幸運ロールを行う。この回で彼はフォールドすることはなく限界までレイズを行う。場合によってはチップ以外に何十億もの大金をさらにレイズして、探索者には代わりに魂をかけさせてもいいだろう。

  • キーパーへの注意
    彼の正体は外なる神々のメッセンジャーにして数千の顔を持つニャルラトテップの化身だ。この世界で起きることはすべて彼の手中にある。しかし如何に彼であろうとも、ゲーム外の”プレイヤー”に操られる探索者の行動は予測することができない。探索者はどのようにしてこの難局を乗り越えるのか、あるいは乗り越えることができず、悲惨な末路を迎えることになるのかもしれない。彼にとって、その結末を見届けることは非常に興味深い。
    探索者が行き詰まった場合、彼は気まぐれでヒントを教えてくれるかもしれない。場合によっては、対価や代償を求めるのも面白い。
    彼がその気になれば、どのような危機もすぐに切り抜けることができる。しかしそれではゲームとして面白みがない。重要な場面では、キーパーは彼には何もさせず傍観者に徹しさせること。彼が見たいのは、探索者がどうやってその危機を乗り切るかなのだ。
    彼に忠誠を誓った探索者がシナリオ後にどんな奇妙な運命をたどることになるかは、キーパーとその探索者のプレイヤーで相談して決めるといいだろう。

    データは「クトゥルフ神話TRPG」P.221-222
    「ニャルラトテップ、這い寄る混沌」の「人間」の値を参照。


    ◆ ウェンディゴの像

    今回のギャンブルで優勝者に送られるこの像は、北極圏に住む先住民族が持っていたもので、イタクァに連れ去られた者が持ち帰ったものである。
    イタクァに遭遇した人間はどこかへ連れて行かれると言われている。連れ去られた者はしばらくしてから氷漬けの遺体で発見されることがある。この遺体には高所から落下したような痕跡が残されていて、さらに見知らぬ物品を所持していたりする。この像はそのような結果、地上にもたらされた物の1つなのだ。

    事実と手掛かり
  • この像にはイタクァを招来するための力が宿っている。
  • この像に祈りを捧げることで、像は半径数十メートルの範囲を極低音に凍てつかせる。これによってイタクァに適した環境が整う。
  • その後、さらに祈りを捧げることでイタクァが招来する。イタクァを完全な状態で招来させるには地球の重力圏外で行うのが望ましいが、地上からなるべく離れた場所──例えば空の上であれば、短い時間だけ姿を現すことができる。




  • ギャンブルの進行


    概要

    今回参加者が行う競技はポーカーである。これは次のように行われる。
  • 参加者は主催者から1枚1000万円のチップを10枚=合計1億円分を貸し付けられる。参加者たちはこのチップを賭けあう。
  • 貸し付けられた金額はゲーム終了後に主催者に返却する必要がある。手元に残ったチップはその場で現金に交換してもらえる他、最も多くのチップを勝ち取ったプレイヤーには賞品として『ウェンディゴの像』と呼ばれるアーティファクトが送られる。
  • ただしチップが足りず返却できなかった場合には、1枚あたり1000万円を支払う必要がある。
  • このゲームは3ゲームが終了した時点で終了する。もし所持チップ数が1位の者が2人以上いた場合には、幸運による抵抗ロールを行い決着をつける。それでも引き分けの場合は、決着がつくまで双方がロールをやり直す。
  • 各ゲーム終了時にチップが0枚になった者は、その場で退場となり次のゲームには参加できない。
  • イカサマがばれたり暴力行為を行った場合は即座に失格となる。チップは全て没収となり、他の参加者に分配される。違反者は従業員によってホールから連れ出され、自室に閉じ込められてしまう。さらに〈信用〉技能が永続的に20%減少する。

  • <どどんとふ用プレイングシート:サイズは23x13>


    ポーカーのルール

    シナリオ中では実際にトランプを用意してプレイするのではなく、ダイスロールと探索者の能力・技能を使って行う。セッションの進行をスムーズにするために、ここでは実際のポーカーよりもルールを簡略化している。キーパーは以下のルールをプレイヤーに提示して、このルールに沿ってゲームを進行する。

    ①参加費として全員がチップ1枚を賭ける。

    ②参加者は全員、幸運ロールを行う。この幸運ロールの結果は他の参加者には見せないこととし、探索者は自分の幸運ロールの結果と実際の数値をキーパーにだけ伝える。このロールの結果は次のようなポーカーの役に対応しているイメージだ。

  • ファンブル:ブタ
  • 失敗:ワンペア
  • 通常の成功:ツーペア
  • 幸運の1/2(端数切り上げ)以下:スリーカード
  • 幸運の1/5(端数切り上げ)以下:ストレート、フラッシュ、フルハウス、フォーカードなど
  • クリティカル:ロイヤルフラッシュ

  • ③カード交換。ここでは先ほどの幸運ロールの数値のうち、1の位、あるいは10の位、あるいはその両方を1度だけ振り直すことができる。どう振り直すかは参加者全員に伝える必要がある。ロールの結果はキーパーにだけ伝え、他の参加者には分からないようにする。

    ④次に賭けを行う。順番は最初のゲームはイニシアティブ順で行い、2回目のゲームではイニシアティブの2番目のキャラクターから行う、という形でゲームが進むにつれて順番を変えていく。この時、各プレイヤーは次の行動を選ぶことができる。

    <現在の賭け金の最大値よりも、自分の賭け金が小さい場合>
  • コール:現在の賭け金と同じ額を賭ける
  • レイズ:現在の賭け金にチップを上乗せする
  • フォールド:賭けを降りる

  • <現在の賭け金の最大値が、自分の賭け金と同じ場合>
  • チェック:何もしない
  • レイズ:現在の賭け金にチップを上乗せする
  • フォールド:賭けを降りる

  • またチップが足りない場合は、オールイン(全チップを賭ける)を宣言することで賭けに参加することができる。
    フォールドした場合、それまでに自分が賭けていたチップは没収される。没収されたチップはゲームの勝者が獲得できる。
    最後に誰かがレイズしてから一周したら、次のステップに進む。

    ⑤幸運ロールの結果を公開して勝者を決める。引き分けの場合には数値がより小さかった方が勝者となる。それでも引き分けの場合には、互いに再度1D100を振り、小さい数値を出した方が勝者となる。勝者は参加者が現在賭けているチップをすべて獲得し、他の参加者は賭けたチップを失う。チップが0枚になった者は、次のゲームには参加できない。


    NPCの行動

    NPCの参加者には幸運ロールの結果に応じてレイズする確率とフォールドする確率が設定されている。この確率はNPCによって異なり、探索者には開示されない。一般的に、幸運ロールの結果がよければNPCはレイズしやすくフォールドしにくい。逆に幸運ロールの結果が悪いとレイズしにくくフォールドしやすい。

    <キーパー向け情報>
    キーパーは各NPCの行動時、まず1D100でロールを行い、それがフォールドする確率以下であればフォールドを選択する。その後、もう一度1D100をロールし、それがレイズする確率以下であればチップを1D3枚レイズする。ただし、1D3の結果がレイズできる上限を超えていた場合は上限枚数までとなる。レイズしなかった場合はコールまたはチェックをする。
    NPCは自分以外の誰かがチップ1枚をレイズをする度に、フォールドする確率が10%上昇する。ただし役を決める際の幸運ロールがクリティカルだった場合には、値は変化しない。

    ただし2回目のゲーム以降、さくらとジャックは特殊な行動を取る。さくらはイカサマを使い、彼女の幸運ロールの結果は常に1(クリティカル=ロイヤルフラッシュ)に固定される。この場合、彼女は決してフォールドをしない。ジャックは勝ちにこだわり、2回目のゲーム以降では自分の幸運ロールの結果によらずフォールドしない。さらに彼は常に上限いっぱいまでレイズを行う。
    さらに最後のゲームでは、マハードは手札を伏せたまま見ようとしない。彼の幸運ロールは手札を公開する時になってから行う。彼はそれまでの間、限界までレイズをする。

    <シャロン・ミシェル>
    フォールド レイズ
    ファンブル 100% 0%
    失敗 70% 5%
    レギュラーの成功 50% 25%
    ハードの成功 25% 50%
    イクストリームの成功 5% 70%
    クリティカル 0% 80%


    <桜田さくら>
    フォールド レイズ
    ファンブル 85% 5%
    失敗 50% 25%
    レギュラーの成功 25% 50%
    ハードの成功 15% 65%
    イクストリームの成功 5% 80%
    クリティカル 0% 100%


    <ジャック・ジュリス>
    フォールド レイズ
    ファンブル 70% 5%
    失敗 50% 50%
    レギュラーの成功 15% 65%
    ハードの成功 5% 80%
    イクストリームの成功 0% 95%
    クリティカル 0% 100%


    <マハード>
    フォールド レイズ
    ファンブル 95% 0%
    失敗 60% 5%
    レギュラーの成功 50% 25%
    ハードの成功 25% 50%
    イクストリームの成功 5% 70%
    クリティカル 0% 80%



    他の参加者と協力する

    参加者は他の参加者(探索者、あるいはNPC)と協力関係を結ぶことができる。協力関係にある相手とは、互いの幸運ロールの結果を教え合うことができる。実際のセッションではメモなどを書いて渡すといいだろう。これは停戦協定のようなもので、相手との争いを避けることができるだろう。しかし当然、裏切られて嘘を教えられる場合もある。


    探索者がイカサマを使う

    探索者がイカサマを使う場合は〈隠す〉でロールを行う。成功すれば幸運ロールの結果を1(クリティカル=ロイヤルフラッシュ)にすることができる。しかし失敗すればイカサマがバレてしまう。さらに他の参加者は〈目星〉あるいは〈隠す〉でロールを行うこともできる。成功した者はイカサマを暴くことができる。




    飛行船「ノーザン・アルウィン号」


    メインホール

    ギャンブルが行われる場所。中央にポーカーテーブルが設置されており、周囲にもいくつかのテーブルや椅子が配置されている。ホールには常に数名のスタッフがおり、参加者が望むなら軽食やドリンクを用意してくれる。

    <盗まれた新聞>
    ホールの端にはブックシェルフが置かれており、雑誌がいくらか用意されているものの、数は少なくやや隙間が目立つようにも思える。アイデアロールに成功した探索者は、そこに新聞が置かれていないことを妙に感じる。スタッフに尋ねれば、出発前に最新の新聞を並べていたはずが、いつの間にかなくなっていたらしい。しかも用意していた予備の新聞まで、スタッフルームから消えていたというのだ。
    これはシャロンに扮した怪盗キャットが正体がばれることを防ぐために盗み出したもので、彼女の部屋を探せば盗まれた新聞を発見することができるだろう。


    各自の部屋

    ギャンブルが始まるまでの間、シャロンとさくらは部屋にいない。部屋の鍵を開けるには部屋の鍵を入手して使用するか〈鍵開け〉ロールに成功して鍵をあける、あるいは〈機械修理〉ロールに成功して鍵を分解する必要がある。マハードは1/2の確率でホールか自分の部屋のどちらかにいる。


    シャロンの部屋
    シャロンの部屋の中を探索するなら、クローゼットの中からかき集められた新聞を発見する。これは飛行船内から盗まれたもので、開いて見ればシャロン・ミシェルが本日アメリカで新作映画のプロモーションに出席するとの記事が書かれている。これは機内にいるシャロンが偽物であることを示しており、彼女の正体を暴く証拠となる。


    桜田さくらの部屋
    さくらの部屋に置かれている荷物からは、本日のギャンブルで使用されるものとよく似たトランプを発見できる。これは彼女がイカサマに使うためのもので、よく見れば裏面の模様がやや違う。探索者はこれを盗み出すこともできるし、細工をすることも可能だろう。その場合、彼女のイカサマに関わるロールに-20%のペナルティを与えることができる。


    ジャックの部屋
    彼は自室にこもり、内側から鍵をかけて神への祈りを捧げている。彼はトランス状態で呪文を唱え続け、部屋の中は窓が閉まっているにも関わらず突風が吹き荒れている。
    探索者が彼の部屋の前で〈聞き耳〉ロールに成功すれば、部屋の中から聞こえてくる獣めいた祈りの声と猛り狂う風の音を聞くことができるだろう。この恐ろしい音声を聞いた探索者は0/1の正気度ポイントを失う。彼の部屋を直接開けて、こっそり中を覗き見た場合には、直接その光景を目にしてしまい0/1D3の正気度ポイントを失う。
    彼の部屋をノックすれば、彼は儀式を中断して顔を出すだろう。しかしゲームに向けて誠心を集中していただけだといい、部屋の中から聞こえていた音については、空調かエンジンの音ではないか、などとしらを切る。

    <イタクァの詠唱>
    イア! イア! イタクァ!
    クフアヤク・ヴァルグムー、イア!メフ!
    クトゥルフ・フタグン!
    シュブ・ニグラス! イタクァ・ナフルフターン!


    マハードの部屋
    彼の部屋には終始、彼の護衛が1名以上待機している。マハードの不在に部屋をたずねても追い返されるだけだろう。彼の部屋には特段目立ったものは見つからない。


    スタッフルーム

    従業員用の部屋で、常に数名のスタッフがいる。通常はスタッフ以外は入ることができない。奥には大きめの金庫があり、その中にはギャンブルで使用するチップや現金、そして賞品である『ウェンディゴの像』などが厳重に保管されている。金庫の鍵はカネシロのみが所有している。この鍵は非常に特殊で複雑な構造をしており、鍵なしで開けるには2時間をかけてイクストリームの〈鍵開け〉ロールに成功する必要がある。


    デッキ

    船の操縦を行う場所。操縦士と副操縦士がいる。コックピットは軽飛行機に似たもので、各種計器類や通信機器が並んでいる。平常時は、探索者はここに立ち入ることはできない。

    <プレイヤー資料:ノーザン・アルウィン号>




    シナリオの進行


    オープニングセレモニー

    参加者は全員がメインホールに集められる。探索者が集まると、カネモトがスタッフルームから出てくる。「ようこそお集まりいただきました。今回のゲームのメインディーラーを務めさせていただきます、カネモトと申します」。その後、彼はこれから行うゲームについて説明する。このタイミングで、キーパーは「ギャンブルの進行」と「ポーカーのルール」の内容をプレイヤーに提示すること。

    その後、防弾性のガラスケースに厳重に入れられた状態で、賞品である『ウェンディゴの像』が運ばれてくる。カネモトは「こちらは今回の優勝者への賞品です」と紹介する。その像は2本の足で立っており、人間の姿にも似ているが、手と足は異様に長い。そして目があるべき場所は空洞になっている。がらんどうの瞳がなぜか一瞬、空の星のように光り輝いて見え、言い知れぬ不気味さと獣めいたおぞましさを感じる。この石像を見た探索者は0/1D3の正気度ポイントを失う。
    カネモトはこの像を、北極圏に接する地域の先住民族たちが祀っていたものだと説明する。彼によるとその先住民族たちの間で祀られていたもので、彼らはこれが神によってもたらされたものだと語っていたらしい。実際に分析した結果、この石像は地球上には存在しない未知の鉱石によって造られていることが分かっている。

    〈心理学〉ロールに成功すれば、『ウェンディゴの像』を目撃したNPCたちの反応から次のようなことを感じ取ることができる:
  • シャロンは興味深そうに石像を眺めている。得に驚いた様子はない。
  • さくらは石像には興味がなさそうだ。
  • ジャックは石像を見た途端、目を見開いて息を荒げている。彼からは興奮している様子が感じ取られる。
  • マハードは不敵な笑みを浮かべている。ロールに成功したとしても、彼が何を考えているのか分からない。

  • 『ウェンディゴの像』が披露されたところで、突然部屋の後方から、コロコロと黒い球体が転がってくる。これには導火線が付いていて、その先端には火が灯っている。NPCたちは「爆弾だ!」と叫ぶ。導火線は瞬く間に短くなって、激しい光と音を発して爆発する。
    この爆弾は怪盗キャットが仕掛けたもので、被害は出ないように調整されている。そして光が晴れると床には次のようなメッセージカードが残されている。

    <挑戦状>
    今宵、飛行船ノーザン・アルウィン号にて
    『ウェンディゴの像』を頂きに参上致します。
    怪盗キャット

    会場は騒ぎになる。ジャックは大慌てで像を確認しようとする。ショーケースを確認すれば、『ウェンディゴの像』が無事であることが分かるだろう。カネモトは念の為、像を金庫に閉まっておくと宣言する。彼はこの金庫が、彼が持つ特殊な鍵がないと開かない仕組みになっているといって、参加者を落ち着かせようとする。
    こうして像はスタッフルームの金庫へと引き上げられていく。カネモトは「それでは、多少のトラブルはありましたが、ギャンブルの準備が整うまでの間しばらく空の旅をお楽しみください」とこの場をお開きにする。


    飛行船の探索

    オープニングセレモニーが終わると、参加者たちはしばらく自由に行動できるようになる。この間、探索者は1人につき2〜3回まで、どこかを調べたり、誰かから情報を聞き出したり、あるいは他の参加者と協力関係を結ぶといった工作を行うことができる。ここでは戦闘ラウンドと同じように、各プレイヤーには各ラウンドに1回、DEXの順に手番が回ってくる。ここで探索者は自分が行いたい行動(誰かと話したり、どこかを探すといった内容)をキーパーに伝え、キーパーはその行動に対応する結果を演出する。
    キーパーはNPCや飛行船「ノーザン・アルウィン号」の項目を参考に、またプレイヤーのロールプレイやロールの結果を考慮して処理をするといい。この時、ほとんど何もない場所を調べようとしたりちょっとした挨拶を交わしただけだったりなど、探索者がごく短時間で終わるような行動を取った場合は、キーパーはもう一度だけ続けてそのプレイヤーに行動することを許可してもいい。ここではプレイヤーは行動できる回数が限られているため、キーパーはなるべく何らかの結果が伴うようにするのがいいだろう。
    情報収集が順調に進み、途中で探索者にやることがなくなってしまった場合には、キーパーはプレイヤーにやり残したことがないかを確認した上で早めに切り上げ、次に進んでも良い。


    ギャンブルを行う

    探索のパートが終わると、ギャンブルの準備が整い参加者はメインホールへと集まってくる。ここでのゲームは「ギャンブルの進行」に従って行う。さらにゲームに参加している登場人物たちはイカサマを行ったり暴れたりと、ゲームを盛り上げる様々な行動を起こす。キーパーは自由にさらなる事件や探索者を惑わす怪しげな行動を付け加えてもいい。



    結末


    風の中を歩むもの

    ゲームが終了すると、表彰式が行われることになる。勝者となった者に『ウェンディゴの像』が手渡される。ここでジャックが行動を起こす。彼がゲームの勝者となっていたのなら、彼は手にいれた『ウェンディゴの石像』を使って、さっそくイタクァを招来する。
    別の者が勝者となっていた場合や、彼が暴力行為によって会場の外へ連れ出されていた場合、彼はショットガンを持って会場に現れ、近くにいる者を人質にして像を渡すようにと脅してくる。探索者が像を渡せば、彼は人質を開放する。そしてさっそく像を使ってイタクァの招来を唱えようとする。
    探索者が何らかの方法で彼を無力化した場合でも、彼は最後の力を振り絞ってイタクァの招来を試みるだろう。たとえ彼の手に像がなくても、呪文に呼応した『ウェンディゴの像』がイタクァを呼び寄せるのだ。
    これらの結果は同じように見えるものの、彼の手に像が渡った場合には像を破壊するためにもう一度彼からそれを取り戻す必要が生じてくる。彼を先に無力化していれば、像は探索者や他の参加者の手にあるため、より簡単に破壊することができるだろう。
    ジャックが『ウェンディゴの像』に捧げる祈りは身の毛もよだつような原初の咆哮、あるいは獣の雄叫びにも似た奇怪で恐ろしい、意味不明な音の羅列となって船内に響き渡る。

    イア! イア! イタクァ!


    イタクァ! アイ! アイ! アイ!


    イタクァ・クフアヤク・ヴルグトム!


    ヴグトラグルン・イタクァ・フタグン!


    ユフ! イア! イア!


    アイ! アイ! アイ!


    彼の祈りに応じるように、『ウェンディゴの像』の瞳には星々の輝きにも似た光が灯る。
    次の瞬間、凍てつく冷気と強烈な突風が襲いかかる。熱を持たない物体は、瞬く間に白く凍りついていく。ジャックの体はみるみると獣のようなそれに変わっていく。手足は異様な長さにまで伸び、白い体毛が全身を覆っていく。目は窪み、その奥に2つの光が、『ウェンディゴの像』のそれと同じように、赤々とした輝きを放つ。
    さらに突如として船が激しく揺れ始める。探索者は窓の外に、飛行船につかみかかる巨大で獣めいた腕を目撃する。そしてその腕の根本の方角、飛行船を囲む雲の中には、恐ろしく巨大で真っ赤な光が2つ、こちらをにらみつけるように瞬いている。

    変異したジャックと姿を現しつつある巨大な神を目撃した探索者は1D3/1D20の正気度ポイントを失う。ジャックはこのような姿になっても、ひたすら呪文を唱え続けている。この呪文は5ラウンドをかけて完成し、イタクァの招来は完全なものとなる。そうなればこの神は雲の中から姿を現し、探索者らを飛行船ごと空の彼方へと連れ去ってしまうだろう。この場合、探索者は完全に顕現したイタクァを目撃したことで、追加で1D10/1D100の正気度ポイントを失う。

    それを防ぐには、探索者が制限時間以内にジャックを倒して詠唱を止めるか、『ウェンディゴの像』を破壊するしかない。ジャックは事前に倒されていたとしても、耐久力を最大耐久力の半分(端数切り上げ)まで回復して起き上がる。『ウェンディゴの像』は15耐久力ポイントを持つ。
    ジャックは呪文を詠唱する以外に他の行動は行わない。一見彼を倒すのは容易なようにも思えるが、『ウェンディゴの像』が彼の手にある場合は、これはより困難なものになる。
    『ウェンディゴの像』は絶えず冷たい冷気と激しい風を発している。この風はあらゆる弾丸を弾き返し、接近して攻撃するには、毎ラウンドのはじめにSTR×5のロールに成功しなければ彼に接近することができない。また探索者が周りの障害物などを利用して風除けにしたり、この場面で利用できそうな技能を提案する場合、キーパーは適宜ロールにボーナスを与えたり他の技能でこのロールを代用させてもよい。
    また『ウェンディゴの像』の冷たい風は探索者の体力を奪い、毎ラウンドの終了時にCON×5のロールに失敗した探索者は1D4耐久力ポイントを失う。
    ジャックの足元には彼が持っていたショットガンが落ちており、探索者はこれを拾って使うこともできる。『ウェンディゴの像』が彼の手元を離れていれば、ジャックへの射撃は有効となり、近づくためのSTR×5ロールも不要となる。ただし『ウェンディゴの像』から吹き付ける冷気のダメージは、戦闘が終了するまで続くだろう。
    像を破壊するかジャックの詠唱を止めることができれば、ジャックの体は崩れ、まるで氷のように溶けていく。その様子を目撃した探索者は0/1D4の正気度ポイントを失う。窓の外のイタクァの姿は消え、機内には平穏が戻ってくる。


    さらにドラマチックに盛り上げる

    キーパーはジャックとの戦闘の後、次のような展開を続けることもできる。
    イタクァの召喚を止めるとホールに静けさが戻るものの、しばらくすると突然飛行船が上下に激しく揺れて蛇行を始める。これはイタクァを目撃した操縦士たちが発狂して操縦桿をめちゃくちゃに操作しているためだ。このままでは飛行船は墜落してしまうだろう。飛行船自体に異常はなく、アイデアロールに成功した探索者はデッキで操縦士たちに何かあったのかもしれないと気づくことができる。
    この危機を脱するためには、デッキに行って〈精神分析〉などで彼らの正気を取り戻させるか、探索者が操縦桿を奪い取り、〈操縦:航空機〉ロールに成功する必要がある。また操縦席では飛行船の操縦マニュアルを発見することができる。〈図書館〉ロールに成功すれば緊急時の操作方法や緊急着陸についての記載を発見し、その後にINT×5あるいはDEX×5ロールに成功すれば飛行船を安定させて無事に着陸させることができるだろう。他にも探索者からの提案があればキーパーの裁量でそれらを採用してもいい。


    エンディングと報酬

    無事に難局を乗り切って生還した探索者は、1D10の正気度ポイントを回復する。また所持金を増やすことができたり、ゲームに参加した目的(『ウェンディゴの像』を入手したり、怪盗キャットから賞品を守った、など)を達成した探索者は、追加で1D6の正気度ポイントを獲得できる。
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