銀に輝いて The Silver Shining Starry Sky

シナリオの概要

1930年、アメリカ・マサチューセッツ州。
アーカムの小学校に通う探索者は、夏休みを利用して友人と共に山奥の村、ダニッチへと探検に行くことになる。
そこは数年前に恐ろしい事件の起きた、呪われた地であった──。

推奨人数:3人
想定プレイ時間:3〜4時間(オンラインのテキストセッションの場合は9〜12時間)




本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」


※注意:以下にはシナリオのネタバレが含まれます。























キーパー向け情報

舞台は”ダニッチの怪”の2年後である1930年のアメリカ、マサチューセッツ州アーカムの小学校に通う探索者は、友人であるアレンの家で発見した古い手紙からダニッチにあるという魔術の存在を知り、夏休みにこっそりとダニッチを目指す旅に出ることになる。このため、このシナリオでは探索者をアーカムの小学校に通う12歳の少年・少女として作成する必要がある。小学生探索者の作成には「クトゥルフ神話2010」に掲載された学生探索者作成ルールを適用するか、後述の「選択ルール」を適用することができる。

小学生の探索者は作成時に銃器などの武器を所持することはできないが、キーパーはプレイヤーにシナリオの途中で拳銃やダイナマイトなどといった火気を入手できる機会があることを伝えておくとよい。探索者作成にあたって推奨される技能は〈目星〉、〈投擲〉、〈登攀〉などである。またこのシナリオでは降りかかる災厄に対して、逃げるのではなく立ち向かおうとする強い意志と勇気を持った探索者を作成するよう、キーパーは事前に説明して、プレイヤーがシナリオに挑むスタンスの共有化を図ること。

またこのシナリオは正気度ポイントやマジック・ポイントの消耗が激しいため、POWやSANの数値がシナリオの難易度に影響する。難易度が高いと感じるキーパーは、探索者のPOW10以上を推奨することをプレイヤーに伝えておくといいだろう。


<選択ルール>
探索者のSTRとSIZを2D6で決定する。またEDUは6固定とする。その他の能力値は通常の探索者の作成方法と同じようにダイスで決定する。職業は選択せず、職業によって割り振ることが出来る技能ポイントは任意に好きな技能に割り振ってよい。ただしどんな技能も最大で80%を越えてはいけない。さらに〈回避〉、〈隠れる〉、〈忍び歩き〉には+30%のボーナスが付与される。



NPC

◆ アレン・ウィリアム、12歳、探索者の友人
探索者の友人。気さくで目立ちたがりな12歳。彼の祖先はダニッチに住んでいたが、その後1890年代にアーカムへと移住してきた。両親が広い農場を営む比較的裕福な家庭に育ったために、あまり苦労というものを知らず、好奇心旺盛で時おり慎重さを欠く行動に出ることもある。彼は収穫の終わった土地で父親から車の運転のレクチャーを受けた経験があり、いつかそのドライビングテクニックを同級生に自慢したがっている。

年齢:12歳 職業:小学生
STR 10 CON 12 SIZ 8 INT 13 POW 15 DEX 13 APP 11 EDU 6

正気度 75 耐久力 10

ダメージ・ボーナス:0

武器:こぶし 50%、ダメージ1D3+db
キック 25%、ダメージ1D6+db
技能:ナビゲート 20%、運転 30%、言いくるめ 40%、目星 40%、跳躍 30%、登攀 45%


◆ ジョー・オズボーン、雑貨屋の店主
ダニッチの中心部で雑貨屋を営む気さくな髭面の中年男性。彼の雑貨屋はダニッチでも唯一の商業施設で、食品、日用雑貨から爆薬まで品揃えは様々。たまに張り切りすぎてしまうことがあるものの、ダニッチへやってきた探索者に親身になって協力してくれる。原作「ダニッチの怪」にも登場する人物だが、データはこのシナリオのオリジナル。

年齢:35歳 職業:雑貨屋の店主
STR 11 CON 12 SIZ 14 INT 14 POW 10 DEX 9 APP 10 EDU 15

移動 9 耐久力 13

ダメージ・ボーナス:0
武器:こぶし 50%、ダメージ1D3+db
20ゲージ・ショットガン(二連式) 50%、ダメージ2D6
技能:投擲 65%、経理 75%、投擲 50%、信用 70%、登攀 40%、運転(馬車) 60%


◆ マザー・ビショップ
年齢は120歳以上。ダニッチ渓谷で最高齢の彼女はダニッチで信仰される自然崇拝の秘密カルト、信じる者たちの高位のメンバーの1人でもある。高齢のためほとんどを自宅で過ごし、白内障を患った目はほとんど見えていない。気難しい性格で、彼女から助言をもらうには、気に入ってもらうための何らかの贈り物をする必要がある。
彼女はニャルラトテップと会話をした数少ない信じる者たちの1人であり、その危険性を熟知している。彼女の他にニャルラトテップに会った者のほとんどは悲惨な最後を遂げており、信じる者たちの指導者となって以来、彼女はニャルラトテップへの接触を望む者たちを思い留まらせている。


◆ 角を持つ少女、ニャルラトテップの化身
ダニッチで崇められるニャルラトテップの化身。ドルイズ・グロウヴの最奥で会うことができる。彼女はあらゆることを知っている知識の神で、それがどんな者であろうと望むどのような知識も与えてくれる。その危険性をマザー・ビショップは”邪神よりも邪悪な無関心の神”と評している。通常は角の生えた大人の男性の姿をしているが、探索者の前には探索者と同年齢で浅黒い肌に整った顔立ちの、額に2本の小さな角が生えた女の子の姿で現れる。

年齢:該当なし 職業:邪神
STR 12 CON 46 SIZ 6 INT 86 POW 100 DEX 20 APP 18 EDU 3

移動 9 耐久力 9

ダメージ・ボーナス:0
武器:こぶし 100%、ダメージ1D3+db
頭突き 100%、ダメージ1D4+db

装甲:なし。ただし1マジック・ポイントを消費するごとに自分の耐久力を1D10耐久力ポイントを回復できる。
技能:いかなる技能も100%
呪文:クトゥルフ神話のあらゆる呪文を全て知っている。シャンタク鳥、忌まわしき狩人、外なる神の従者を召喚する場合には、1マジック・ポイントを消費するだけで召喚できる。


◆ ウィルバー・ウェイトリー、甦ったヨグ=ソトースの息子
ウィルバー・ウェイトリーは1913年、ダニッチで生まれる。ラテン系の黒く大きな瞳を持ち、異様な早さで成長すると、15歳になったころには大人顔負けの知性を有していた。しかし祖父である魔術師ノア・ウェイトリーの死後、古のものを復活させて地上のすべてを一掃するという彼の邪悪な教えに従い、ネクロノミコンを手に入れようとミスカトニック大学図書館に忍び込んだところで、猟犬に襲われ命を落とす。1928年、ダニッチに怪物が現れる1ヶ月前の出来事だった。

年齢:15歳(体は12歳) 職業:??
STR 10 CON 18 SIZ 8 INT 21 POW 20 DEX 14 APP 11 EDU 15

正気度 0 耐久力 13

ダメージ・ボーナス:0

武器:こぶし 65%、ダメージ1D3+db
キック 45%、ダメージ1D6+db
この他のデータは「クトゥルフ神話TRPG」P.248「ウィルバー・ウェイトリー」に従う。


NPCの立ち絵画像について

NPCの立ち絵画像をご利用の際は、以下をお守り頂くようお願い致します。

・本シナリオページに掲載しているNPC立ち絵画像の著作権はおまつりミート@NIPque様に帰属します。 ・改変、二次配布、別シナリオでの使用はご遠慮ください。
・リプレイ動画、ネット配信などでご使用の際は著作権者を表記お願いします。
・営利目的の使用はご遠慮ください。


導入パート


導入

時に1930年。アメリカ、マサチューセッツ州はアーカム。物語は夏休みを前にしたとある日、探索者が友人のアレンの家に集まり一緒に遊んでいる場面から始まる。アレンの家には古い倉庫があり、探索者は皆で面白い掘り出し物がないかを漁っているのだ。

錆びて建付けが悪くなったドアを皆で力をあわせてこじ開けると、何年も使われていなかった倉庫には、長い年月で堆積したチリとホコリが充満している。この倉庫の中には雑多な物が押し込まれている。

倉庫内を探す場合は〈目星〉で判定を行う:
成功した探索者は、倉庫の中で拳銃(32口径リボルバー)、ファイティング・ナイフ、バールのようなものなど、探索者が望む武器や道具を発見することもできる。

拳銃には装弾数と同じだけの銃弾が装填されている。他にもキーパーの裁量でこの倉庫で入手できるものを決定してよい。ただしダイナマイトだけは後で別途入手できるチャンスがあるため、このシーンでは手に入れることができない。

やがて倉庫を探っていると、アレンは倉庫の奥から古い木箱を発見して中から封筒に入った何かを取り出す。「おい、見てみろよ。古い手紙みたいだ」。彼が取り出した封筒には子供の字で宛名が書かれている。インクが滲んでよく見えないものの、ウィリアムという名字からアレンの祖先に宛てたものであることが分かる。この手紙はアレンの祖先に、アーカムからダニッチへと移住した友人が宛てたものだ。

<アレンの祖先への手紙>
18XX/5/12
親愛なる友人へ

こんにちは。そしてあなたの元気な妹にもこんにちは。元気にしていますか?こっちはダニッチに引っ越して、新しい土地で毎日が大変だけれども、元気にやっています。今日の大きなニュースは、この間は森の奥のモノリスであの子に会えたこと。あの子は何でも知っていて、マザー・ビショップは無関心の神だとか悪い神様だと言うけれど私たちはそうは思わない。今日はあの子に魔法を見せてもらった。空を飛ぶ馬も、羽が生えた蛇もラッパ吹きも、皆最初は驚いたけれどもとてもいい子たちだった。

この町には魔法があふれている。信じる者たち、ウェイトリーの一族は錬金術で金を作っているというし、マザー・ビショップも色々なことを知っていて、皆に尊敬されている。こっちに来て新しい友だちもたくさんできたけれど、今でも夢の中でみんなとの日々を思い起こすことがある。またいつか会える日が来ることを。

手紙を読んだ探索者は〈歴史〉あるいは〈オカルト〉で判定を行うことができる。

〈歴史〉に成功した場合:
探索者は手紙にかかれていた「信じる者たち」について、元はセイレムの一部で信仰されていた農耕的自然崇拝者の秘密カルトであることを知っている。彼らは1690年代にセイレムで起きた大規模な魔女狩りが行われた際に、魔女狩りの標的にされることを恐れてセイレムを逃れ、ミスカトニック川上流の渓谷にダニッチを作ったのだ。

〈オカルト〉に成功した場合:
探索者は2年前にダニッチで恐ろしい怪物が現れて、村人を襲うという事件が起きたことを知っている。それ以来、ダニッチへの道を指し示す道標などが取り去られ、今やそこに住む住人はほとんど残ってはいない。

手紙を読んだ後、アレンはウキウキとした様子で探索者に提案する。「そうだ!夏休みが始まったら、行ってみようぜ。そのダニッチに」。彼は手紙に書かれた精霊に魔術を教えてもらうんだと張り切っている。アレンの計画は両親が寝静まる深夜に皆でこっそり抜け出して、彼がこっそり借りてきた車でダニッチへ向かうというものだ。「車の運転なら任せてくれ!」。アレンの家は農場を営んでいて、彼はそこで父親から車の運転を習ったのだという。こうして来る夏休み、探索者はアレンと共に夜中に自宅を抜け出してダニッチを目指すことになる。



作戦決行までの日々

ダニッチへと向かう作戦結構の日までに、探索者はダニッチに行くための準備をすることができる。ここでは装備品や持ち物を整えたり、ダニッチについて調べることができる。ダニッチの場所について地図などを調べた場合は、ダニッチがアーカムから西に50km近く離れた場所にあることが分かる。

さらに文献などを調査する場合は、〈図書館〉で判定を行う:
成功すると2年前にダニッチで起きた事件についての情報を手に入れることができる。

この情報は両親や学校の先生などから聞き出すこともできるだろう。プレイヤーが他の調査方法を提案するのであれば、キーパーはプレイヤーのアイデアを参考にして自由に採用してよい。探索者が情報の入手に成功した場合、キーパーは「ダニッチの顛末」の資料をプレイヤーに開示する。

<ダニッチの顛末>
ダニッチにはかつてノア・ウェイトリーという魔術師が住んでいた。ノア・ウェイトリーにはラヴィニアという名の娘がおり、さらにラヴィニアには2人の息子がいた。兄はウィルバーと名付けられ、色々な意味で人間的であったが不可視の力を持つ、“父親似”の弟は秘密にされ、屋根裏部屋に閉じ込められて育てられた。

ウィルバーは驚くべき早さで成長し、1924年に魔術師ノア・ウェイトリーが死ぬと、ウィルバーは本気でこの世界と別の世界との間の空間を開く方法を捜し求め始める。1928年にウィルバーは、ミスカトニック大学にある「ネクロノミコン」を盗もうとした。彼は、本には入り口を創造するのに必要な秘密が記されていると信じていたが、彼の企ては失敗し、彼は図書館の番犬に殺された。

数日後、兄がいなくなって空腹となった弟は、閉じ込められていた場所から抜け出すと餌を探しはじめ、ある家族が一掃され、次に5名の州警察官が失われた。その後センティネル・ヒルに向かった不可視の巨大な怪物はセス・ビショップの家を襲い、破壊した上で、住人を貪り食った。

ダニッチへ向かったアーミテッジ博士とライス教授、モーガン博士はセンティネル・ヒルで怪物と対峙し、魔術によってダニッチと世界を救ったのである。



探索パート


ダニッチへの道

夏休みに入ると作戦の決行日がやってくる。探索者は深夜の1時過ぎにこっそりと家を抜け出して、待ち合わせの広場へと集まることになる。探索者が広場に集まりしばらく待っていると、遠くから車のエンジンの音が近づいてくる。「へっ、待たせたな!どうだ?俺のドライビングテクニックは」。車に乗って現れたアレンは運転の腕を自慢している。挨拶を済ませて探索者が車に乗り込むと、アレンはダニッチに向けて車を発進させる。

探索者を乗せた車はアーカムの都市部を抜けてて、ミスカトニック川を上流に、真っ暗な山道を進んでいく。道中にダニッチを示す道標などはなく、アレンは「たぶんこっちだ」と勘を頼りに車を走らせていく。しかしいくら進めども、それらしい場所にはたどり着かない。やがてアーカムを出発して数時間。車を運転するアレンは迷ってなんかいない、たぶんもうすぐだと必死に否定してみせる。

探索者は〈目星〉或いは〈ナビゲート〉で判定を行う:
成功した探索者は、周りの景色に見覚えを感じ、先ほど通過した場所に戻ってきてしまったことに気づく。

そのまま進もうとすると、突然、目の前の道路に1人の少年が現れる。少年は顔つきから15歳ほどの年齢であると推測できる。しかし彼の背丈はそこらの大人たちより一回りも二回りも大きい。

探索者は〈目星〉で判定を行う:
成功した探索者は、彼の黒く大きい瞳を持つ、特徴的な眼にしていることに気づく。

アレンは慌ててブレーキを踏み込んでハンドルを切るが、車はバランスを崩して山道を外れ、そのまま谷を転がり落ちていく。車に乗っていた探索者は激しい揺れと強い衝撃で耐久力に1D3ポイントのダメージを受ける。このダメージは〈跳躍〉に成功すると無効化することができる。やがて車は谷底の木に正面から衝突し、ダメージの有無によらず、衝撃で探索者は意識を失ってしまう。



アレンの異変

探索者が意識を取り戻すと、東の空には既に日が登っている。探索者が乗ってきた車は衝撃で屋根やドアがひしゃげ、前方の部分は木に衝突して潰れてしまっている。意識を取り戻した探索者は、一緒に乗っていたアレンの姿がないことに気づく。

探索者が車の外に出て周りを探すと、アレンのものと思われる足跡が車の運転席から深い森の奥へ向かって続いているのが分かる。足跡を追いかけて森の奥へと進んでいくと、頭上の木々の枝で、黒く醜い鳥たちが耳障りな鳴き声を上げている。

・〈博物学〉〈生物学〉などに成功した場合:
探索者は、それらがウィップアーウィルと呼ばれる夜鷹の一種であることが分かる。

・〈オカルト〉に成功した場合:
鳥の名前に加えて「人が死を迎える時、ウィップアーウィルが周囲に集まって、その魂を捕え拐っていく」という言い伝えがあることを思い出す。

しばらく進んだ先にアレンが静かに立っているのを発見する。彼は探索者たちに背を向けていて、その後ゆっくりと振り返る。アレンの顔には表情はなく、青いはずの彼の瞳は黒く染まり、普段より一回りも二回りも大きく見える。そして探索者が見る前で、アレンの姿はまるで煙のように消えていく。

友人が眼の前で消える瞬間を目撃した探索者は0/1D3の正気度ポイントを失う。

アレンが消失した先には森の出口があり、その先は深い渓谷に並ぶいくつかの集落が見える。

探索者は〈アイデア〉ロールを行う:
成功した探索者は、この集落が目指していたダニッチであると気づくことが出来る。



ダニッチ西部/マザー・ビショップの家

森を抜けて村の街道へと出ると、探索者は周囲を包む古びた腐敗の空気、地中の深くから湧き上がる不浄なカビの放つ臭いを感じ取る。街道の近くの家々はそこらじゅうが傷んで、ペンキもすっかり剥げてしまっている。割れた窓は補修もされずに放置されている。そんな中、探索者は森の手前にある手入れの行き届いた農家を発見することができる。家の軒先には老婆が1人、安楽椅子に座っている。細い目が目は半ば閉じられていて、起きているのか眠っているのか分からない。探索者が老婆に話しかけても、彼女は眠ったままの様子で一切の反応を示さない。

探索者は〈アイデア〉ロールを行う:
成功した探索者は、彼女が眠ったフリをしていること気づくことができる。しかし彼女は探索者から話しかけられたり、何をされても決して眠ったフリをやめることはない。

そうしていると探索者の背後から新鮮な魚の入った木箱を抱えて、ひげを携えた1人の中年男性が声をかけてくる。
「君たち、見かけない子だね。どこから来たんだい?」
「ダメだよ。マザーは贈り物を持ってこない人には相手をしてくれないんだ」

彼は探索者に老婆と話をするには贈り物が必要であることを伝えながら、自分がオズボーンという名でこの村で雑貨屋を営んていること、商品の配達のためにここまでやってきたことなどを探索者に教えてくれる。彼の背後には様々な野菜やパンケーキなどの食品を積んだ馬車があるのが分かるだろう。彼女はマザー・ビショップと呼ばれており、120歳を超えるダニッチでも最高齢の女性で、村のことなら何でも知っているのだとオズボーンは説明する。

オズボーンは魚が詰まった箱を老婆の座る椅子の横に下ろす。すると椅子に座っていた老婆は薄っすらと目を開けて、しわがれた声で「最近の子は礼儀がなっていないね」と苦言を言う。

〈医学〉で判定を行う:
彼女の瞳は白く濁っており、成功した探索者は彼女の目が白内障でほとんど見えていないことに気づく。

彼女は贈り物を持ってこない相手の話を決して聞こうとはしない。彼女から情報を引き出すには何らかの贈り物をする必要がある。贈り物は何でもいいが、キーパーはプレイヤーの提案をよく聞いて、面白いものがあれば採用する。探索者が贈り物をすると、マザーはようやく探索者の話を聞いてくれる。アレンについてマザーに尋ねると彼女は首を横に振る。「通ったかもしれないけれど、私はもうこんな目でね。だがその子のことを知っている者のことなら知っている」などとマザーは答え、代わりに「知識の神」についての言い伝えを教えてくれる。

マザーは目を閉じると、ゆっくりと優しい声で語り始める。
「その者は知りたいと望むことを何でも教えてくれる、知識の神だ」
「その善悪に寄らず、その者が欲しがる知識を全て教えてくれる。その結果、どんな悲劇が起きたとしても」
「あれは邪神ではない。邪神よりも悪い神、無関心の神なのだ。もはや如何なる者も、あの者に会わせるわけにはいかない」

マザー・ビショップは角を持つ者や魔術の力を危険過ぎると感じている。彼女は探索者がそれらについてさらなる情報を知りたがる場合、すぐに眠ったふりをしてやり過ごそうとする。これはかつてこの村では、その魔術によって幾多の悲劇が繰り返されてきたからだ。
探索者からアレンの話を聞いたオズボーンは「この村のことは村長に相談するのがいいだろう。僕が連れて行ってあげるよ」などと村長のところに行くことを提案する。



村長の家

探索者は馬車に揺られて古い壊れかけの民家が立ち並ぶ、村の中心部にやってくる。朽ちた集会所の横を通り過ぎ、黒ずんだ古い橋を渡ると村長の屋敷が見えてくる。屋敷の前に数人の大人の男たちが集まって話し込んでいる。

馬車を留めてオズボーンが何があったのかと尋ねると、ダニッチの村長である年配の男性、スクワイア・ウェイトリーが「見知らぬ子供がコールド・スプリング・グレンの谷に入っていったらしいのだ」と答える。ここではしばらく、探索者と村人たちとの間でコミュニケーションを通じていくつかのやり取りが行われるだろう。会話の流れは様々だが、おおよ想定される質問と回答の例を以下に記載する。

<村人たちからの質問>
■君たちは誰だ?どこから来たのか?
■どうしてダニッチへ来たのか?
■もしかして、あの子(コールド・スプリング・グレンで見かけられた子供)のことを知っているのか?

<探索者からの質問と、村人の答え>
■どんな子供だった?
・君たちと同じくらいの年の男の子だ。
・大声で声をかけても無反応だった。
■コールド・スプリング・グレンとは?
・北部にある渓谷だ。あそこは何か恐ろしいものが潜んでいる。
・かつて5人の警官が失踪者を探しに行ったことがあったが、誰も帰っては来なかった。彼らは後日、死体で発見された。彼らは原型も分からないほどバラバラの肉片になっていた。
■ダニッチに出たという怪物の仕業か?
・事件が起きたのは、怪物が退治されたよりも後の話だ。
・分からない、あのは怪物は確かに退治されたはずなのだ。
■ミスカトニック大学を頼ってはどうか?
・ダメだ。前回の戦いで、彼らは小さくはない代償を支払ったのだ。
・再び彼らを頼ることはできないだろう。
■これからどうする?
・村の者たちで子供を探しに行く。
・あそこは危険な場所だ。放っておくことはできない。



捜索隊への参加

いくつかのやり取りの後、彼らはコールド・スプリング・グレンへ入っていった子供の捜索に出る運びとなる。村長はオズボーンに子供の捜索を依頼する。「すまないが人手が足りていないのだ。手伝ってはもらえないか?」。オズボーンは村長の申し出に「え、でもあそこはちょっと…」と困ったような顔をして、仲間になって欲しそうに探索者の方をじっと見つめる。村長はさらにコールド・スプリング・グレンは危険な場所ではあるものの、どうしても人手が足りないとしきりに人手不足をアピールして畳み掛ける。キーパーは彼らを通じてその後もしつこくアピールし、探索者が捜索に加わるように誘導する。

探索者がオズボーンにアレン探しに協力を申し出れば、彼は礼を言いながらも「危険な場所だけど、本当に大丈夫?」などと探索者のことを一応心配してくれる。村長は先発隊の大人たちが先に向かっているので後ろをついていくだけなら危険はないだろう、何かあったらすぐに逃げるように、と伝えて捜索隊への参加を許可してくれる。

<オズボーンの馬車>
探索者が武器や道具などの準備を望む場合は、オズボーンが馬車に秘密兵器を積んでいると教えてくれる。そしてオズボーンの馬車の積荷から、握りやすい筒状で片側の先端には短いヒモが生えた、大きな花火のようなものを1D3+1本入手することができる。データは「クトゥルフ神話TRPG」P.71のダイナマイトを参照。尚、このダイナマイトを入手するタイミングはここに限らず、以降の馬車があるシーンであればいつでも手に入れることができる。馬車には他にもロープや食料、雑貨、武器になりそうなものなど様々なものが積まれている。ここではキーパーの裁量で、探索者が望むものを入手できることにして構わない。それが入手困難と思えるものや強力な武器などの場合は〈幸運〉や〈目星〉で判定させてもよいだろう。



ダニッチ周辺

探索者はオズボーンの馬車で町の中心部から北に、コールド・スプリング・グレンを目指す。馬車に乗っていると、周囲にはいくつかの小高い丘が並ぶ景色が見える。探索者はそれらの丘の頂上部に並ぶ奇妙な環状列石に気づくことができる。オズボーンはそれらが昔から存在するものだが、何のためのものかはよく分からないと説明する。

やがてそれらの丘の横を通り抜けながら進むと、いくつかの無人の家や、倒壊して瓦礫の山となった家が数件見受けられる。これは2年前にダニッチの怪物が出たとき、怪物によって破壊されたものだ。やがていくつかの丘を通り過ぎて開けた場所に出たたところで、オズボーンは遠くに見える廃墟となった家を指して探索者に声をかけ、恐ろしい声で「向こうに見えるのが、ウィルバー・ウェイトリーの家だ。あの家から恐ろしい怪物が現れたんだ」と探索者を怖がらせようと茶化してみせる。そこには丘の麓にある瓦礫の山となった家の跡が見える。探索者がさらなる情報を知りたがるならば、キーパーはオズボーンとのコミュニケーションを通して次のように伝える。

■ウィルバー・ウェイトリーについて
・ウィルバー・ウェイトリーのおじいさんはノア・ウェイトリーといってね。もう何年も前に亡くなったんだけど、魔術師だったって噂だ。
・その孫のウィルバーは不気味な男で、大きくて黒い、どこか不気味な目をしていてた。彼は異常な早さで成長して、15歳になることには大人顔負けの知性を持っていた。
・しかし彼は怪物が出る1ヶ月前に死んでしまった。ミスカトニック大学の図書館に盗もうと忍び込もうとして番犬に襲われたらしい。

■どうして忍び込もうとしたのか?
・何でも、大学の図書館にあった貴重な本を盗もうとしたらしい。

■どんな本だったのか?
・確かネク・・・ネコ何とか、みたいな名前の本だった。
・彼がしていた研究のためらしいけど、詳しいことはよく知らない。
・探索者が〈オカルト〉に成功するか、事前に「ダニッチの顛末」についての情報を得ていたならば、オズボーンが言おうとしている本の題名が『ネクロノミコン』のことではないかと推測できる。



コールド・スプリング・グレン

馬車は深く暗い木々の生い茂った渓谷へとやってくる。周辺を調べれば、先発隊の大人たちのものらしき足跡がシダ植物などの樹木が密生する急な斜面を谷底へと下っているのを発見することができる。足跡を発見した探索者は自分たちも斜面を降りて行こうと考えるだろう。オズボーンも探索者に手を貸して、一緒に谷底へ向かおうとする。

<急な斜面>
斜面は非常に急で、周辺の木々をつたっていけば問題なく降りることはできるものの、登る場合には〈登攀〉技能のロールが必要になる。〈アイデア〉ロールに成功すると、あらかじめロープなどを垂らしておけば斜面を登るのが楽になることに気づくことができる(具体的には斜面を登る際の〈登攀〉の成功率に+30%の修正を得ることができる)。〈アイデア〉ロールを行う前にプレイヤーが気づいた場合は〈アイデア〉ロールを省略してよい。探索者が馬車の中を探せばロープを発見することができる。ロープの代わりに周囲の植物のツタを使うことも可能だ。他にも探索者の提案があれば、キーパーの裁量でそれらのアイデアを採用してもよい。

谷底はじめじめと湿った空気が漂い、巨大な木々の陰に覆われた岩の間を、2〜3mほどの浅い川が小気味良い音を立てて流れている。オズボーンは「気をつけて進むんだ。何が出てくるか分からないからね」などと探索者に声をかけながら進む。

しばらく進んだところで、探索者は〈聞き耳〉の判定を行う。
成功すれば、ガサガサと茂みをかき分けて何かがやってくる音に気がつくことができる。

やがて探索者の近くの茂みから、様々な昆虫や動物をかけ合わせたような歪な姿の怪物が2体襲いかかってくる。いち早く音に気づいた探索者は、襲いかかる怪物よりも1ラウンド早く反応し、反撃を行うことができる。

怪物の姿を目にした探索者は1体につき0/1D3の正気度ポイントを失う。

<アブホースの落とし子たち>

這いずる昆虫
STR 10 CON 15 SIZ 8 INT 5 POW 6 DEX 9

移動 7 耐久力 12
ダメージ・ボーナス:0

武器:かぎ爪 40%、ダメージ 1D3

装甲:なし

正気度喪失:0/1D3

はばたく眼
STR 8 CON 10 SIZ 8 INT 5 POW 6 DEX 12

移動 4/飛行 12 耐久力 9
ダメージ・ボーナス:-1D4

武器:かみつき 45%、ダメージ 1D3

装甲:なし

正気度喪失:0/1D3

これらの怪物はダニッチの地下に住むアブホースの落とし子で、地下に眠っていたヨグ=ソトースの息子が地上に出てくる時に、一緒についてきてしまったものだ。怪物たちは探索者に襲いかかり、かぎ爪や牙で攻撃を行う。怪物から逃げるには、怪物のDEXと探索者のDEXを抵抗表で競わせて探索者側が勝利する必要がある。また怪物は耐久力が半分以下になると逃走していく。



ダニッチの怪物

やがて探索者たちが谷間の底に到着した頃、先に進んでいた大人たちの悲鳴が聞こえてくる。悲鳴が聞こえたその先に向かくと、探索者は小川の岸にアレンの姿を発見する。彼は大きな黒い瞳を探索者に向ける。探索者は彼の瞳と事前にオズボーンから聞かされた話から、ウィルバー・ウェイトリーを連想することができるだろう。さらに探索者は彼の周辺には奇妙なものが浮かんでいることに気づく。先に向かったはずの大人たちが、何かにぶら下がったように宙に浮かんでいて、苦痛と恐怖に顔を歪ませているのだ。

アレンは何か呪文のようなものをぶつぶつと唱える。それは大半が探索者がこれまで聞いたことがないような語句を組み合わせたものだが、一部に『ヨグ=ソトース』『我が父』『弟』といった言葉が混じっている。そして探索者はコポコポとホースの中を水が流れるような音に気づく。見れば、見えない何かに宙吊りにされた大人たちから大量の真っ赤な血液が、奇妙な筋状の軌跡を描きながら空中に流れ出し、脈を打つように彼らの背後にある透明な何かへと集まっていく。そして彼らから吸い出された血によって、そこに存在する見えないものの姿が部分的に浮かび上がってくる。

それはタコのようなクモのような怪物の下半身の一部分で、そこから太くうねる触肢が伸び、大人たちに食いついて血を吸っている。見えるようになった部位からは、この怪物が周辺の木々よりもはるかに巨大であると推測される。その怪物の姿は部分的ではあるものの、見た者に人智の及びしれない窮極の存在がもたらす宇宙的恐怖を想起させるには十分なもので、探索者は1/1D8の正気度ポイントを失う。

怪物は探索者の存在に気づくと、大人たちを宙吊りにしたまま身じろぎをする。大きな振動が地面を揺らして、周りの木々が押し倒される。オズボーンは青ざめた顔で探索者に向けて「あの怪物だ…今すぐ逃げるんだ!」と叫ぶ。



谷底からの脱出

ヨグ=ソトースの息子は4人の大人を掴み上げている。ヨグ=ソトースの息子に捕まっている村人の能力は、キーパーあるいはプレイヤーが1D6を4回振り、以下の表に従って決定する。最初のラウンドで、ヨグ=ソトースの息子は彼らに押しつぶしによる1D6耐久力ポイントのダメージを与える。そして次のラウンドから、ヨグ=ソトースの息子は吸血によって彼ら全員に毎ラウンド1D10耐久力ポイントのダメージを与える。これらのダメージは1人ずつ別々にダイスを振り決定する。

<村人のステータス>


<谷底からの脱出>
探索者がこの場から逃れるには、1ラウンドをかけて斜面まで走り、その後急な斜面を登って馬車まで戻る必要がある。斜面を登るには〈登攀〉技能のロールが必要で、判定に成功すれば1ラウンドで斜面を登り切ることができるが、失敗した場合は次のラウンドで再び判定に挑戦しなければならない。事前に斜面の上からロープなどを垂らしていれば、この〈登攀〉ロールの成功率は+30%上昇する。先に斜面を登りきった探索者は、斜面の下にいる探索者をロープなどで引き上げることもできる。この場合は引き上げる探索者のSTRと相手のSIZを抵抗表で競わせて、引き上げる側が勝利すれば、無事に相手を斜面の上まで引き上げることができる。さらに探索者は襲いかかってくるヨグ=ソトースの息子を妨害することもできるだろう。ヨグ=ソトースの息子には物理的な攻撃でダメージを与えることはできないが、ダイナマイトなどを投げつけて命中させることができれば爆発の衝撃で次ラウンドの怪物の行動を1ラウンドだけ阻害して、何もできないようにできる。この他にも探索者からの提案があれば、キーパーの裁量でそれらを採用してもいい。

既に捕まった村人たちが1人でも生きているうちは、ヨグ=ソトースの息子は捕まえた犠牲者たちから血を吸うことに集中する。しかし捕らえた全員が死亡した場合、ヨグ=ソトースの息子は探索者に襲いかかる。探索者が斜面の手前まで逃げている場合は、ヨグ=ソトースの息子は全ての村人を吸い尽くした後、1ラウンドをかけて探索者の元まで移動する。もし近くにオズボーンがいれば、最初に彼を狙うことにしてもいい。

オズボーンが死亡した場合、彼の非業の死を目的した探索者は0/1D6の正気度ポイントを失う。

無事に斜面を登りきれば、ヨグ=ソトースの息子はそれ以上追っては来ない。全員が斜面を登りきったところで戦闘は終了となる。コールド・スプリング・グレンを脱出すると、オズボーンは村長へ報告に行こうと探索者を馬車へ乗せる。もしオズボーンが死亡していた場合は、彼の代わりに谷の上に残っていた捜索隊の大人が事情を聞き、探索者を村長のところへ連れて行く。いずれの場合も、この後「ダニッチを巡る騒動」のイベントへと進む。



ダニッチを巡る騒動

空は嵐の到来を予感させる黒い雲で覆われて、風に揺れる木々ではウィップアーウィルの群れが耳障りな鳴き声をあげている。村長の屋敷に戻りダニッチの怪物が復活したことを報告すると、村長のスクワイヤ・ウェイトリーは青ざめた顔をして震えた声でこう話す。

「一体何が起きようとしているのだ。また、あのような惨劇が繰り返されるのか」

再び怪物が現れたとの連絡を聞いて駆けつけてきた村人たちも不安そうな表情を浮かべている。彼らはかつてダニッチに現れた怪物の恐怖をまだ覚えており、怪物は死んだのではなかったのか、今度はどれほどの被害が出るだろうか、もうお終いだ、などと口々に語る。

この時、ダニッチには東の方角から大きな嵐が近づいている。この嵐によって、アーカムへと続く道ではがけ崩れが発生し、外との連絡手段が断たれてしまっている。もし探索者が外部に連絡を取ろうとしたり、ミスカトニック大学に協力を要請してはどうかなどと提案すると、突然1人の村人が慌てた顔をしてやってきて「嵐がやってきてがけ崩れが起きた。アーカムへの道が塞がれてしまった」などと告げ、嵐によってダニッチが隔離されてしまったことを知ることができる。

そうしているところに、村人たちに支えられながら1人の老婆がやってくる。探索者は彼女がダニッチに最初にやってきた時に出会った老婆、マザー・ビショップであることに気づくことができる。彼女は集まった村人たちに次のように告げる。

「邪悪な者が蘇ったのだ。あの怪物はただの触媒に過ぎない。あの男は怪物の魔力を使って、空の上から大いなるものたちを呼び寄せようとしている」
「もしこのまま我々が何もできなければ、すべてのものは一掃され、地上には何も存在しなくなるだろう」

「あの男は犬に噛まて死んだはずだった。しかし邪悪な魂は滅びてなどいなかった」
「そしてあの少年の体を借りて、このダニッチに帰ってきたのだ」

「その者の名前は『ウィルバー・ウェイトリー』」

マザー・ビショップは話の後、探索者の方を向いて言う。「それを阻止できるのはおそらく……。お前たちにからは何か、強い運命のようなものを感じる。純粋な子供たち。お前たちであれば、あるいは可能なのかもしれない」。ここでキーパーはプレイヤーに、彼女が探索者からの答えを待っているようだということを伝え、探索者が覚悟を決めるのを待つ。探索者が覚悟を決めてマザー・ビショップに協力することを申し出ると、彼女は探索者の頭の上にそっと手を置いて、その強い意志を称える。村長やオズボーンたちは探索者のことを心配しながら、声をかける。

村人たちとのコミュニケーションが一区切りついた段階で、マザーは彼女を支える村人を伴いながら「ついておいで」と探索者を馬車へと誘導する。すると馬車へ向かう探索者に村長が声をかける。彼は手に何かの粉が入った小瓶を持っている。彼はその瓶に入っている粉がかつてダニッチを怪物から救ったミスカトニック大学のヘンリー・アーミテッジ教授が残していったもので、怪物を見えるようにするための魔法の粉だという。「必要になるかもしれない。私にはこんなことしかできないが、持っていって欲しい」彼はそういって、イブン=グハジの粉を探索者に託す。

イブン=グハジの粉
「クトゥルフ神話TRPG」P.252
瓶には既に調合された、5回分の使用量に相当するイブン=グハジ粉が入っている。この粉を不可視のものに吹きかけると、心臓が10回鼓動を打つくらいの時間の間、見えるようにすることができる。



精霊の森

ダニッチでは嵐による雨風が吹き荒びはじめる。探索者は村人たちに連れられて巨大なナラの木の生い茂る森の入り口へとやってくる。そこはダニッチ中心部から西に進んだ小さな渓谷に位置する森で、村人たちからは「ドルイズ・グロウヴ」と呼ばれている。馬車を降りると、マザー・ビショップは探索者に説明する。

「この森は昔、ドルイドたちが彼らの神を慰撫するために使った場所だ」
「そしてこの森の奥に、大きな石を削った石柱が立っている。あの者はそこにいるだろう。」

森の奥へは探索者だけが入ることを許される。他の大人たちは心配そうに声をかけながら探索者を見送る。大きな木々に遮られてなのか、不思議なことに森の中は嵐の影響はなく、静まり返っている。奥へと進んでいくと、やがて高くそびえた古いナラの木に囲まれた場所にたどり着く。やや広めの円形の空き地になっていて、周囲の木々には恐ろしくねじれた人の顔のようなものが彫られている。そして中央には巨大な石のモノリスが立っていて、そこに探索者らと同じくらいの年齢の少女が1人、モノリスにもたれかかるようにして眠っている。彼女は浅黒い肌に整った魅力的な顔つきをしているが、よく見れば額に小さな角のようなものが生えていることに気づく。彼女の姿を見た探索者は0/1の正気度ポイントを失う。



知識の神

少女は探索者がやってきたことに気づくと薄っすらと目を開けて、伸びをしながらゆっくり立ち上がる。探索者が彼女に声をかけると、彼女は「お前たちが来ることは知っていた」と返し、探索者が何を望むかと尋ねる。探索者はウィルバー・ウェイトリーや怪物を阻止する、倒す、あるいはアレンを救うといった方法を知りたいと彼女に伝えるだろう。あるいは何でも知っている彼女に対して「知っているのだろう?」などと返す場合もあるかもしれない。いずれにしろ、それがウィルバー・ウェイトリーと怪物を排除することにつながるものであれば何でもいい。探索者が望みを伝えると、角を持つ少女は探索者にそのための呪文を教えるという。

「ならば、お前たちにはこの呪文を授けよう」

彼女が探索者に向けて手のひらをかざすと、膨大な量の知識が探索者の頭の中に流れ込んでくる。あまりの情報量に、探索者は0/1D4の正気度ポイントを失う。そして探索者は【狩人?の召喚/従属】、【馬?の召喚/従属】、【従者?の召喚/従属】、【ヨグ=ソトースの招来/退散】の呪文を習得する。ただし【狩人?の召喚/従属】、【馬?の召喚/従属】、【従者?の召喚/従属】の3つについては、覚えられるのは探索者1人につき1種類のみで、同じ呪文を複数の探索者が習得することはできない。【ヨグ=ソトースの招来/退散】は全員が習得することができる。

探索者が呪文を習得すると、彼女は探索者の元にゆっくりとした歩調で近づいてくる。

「あの男は強大な魔術師。お前たちだけでは敵わない。だから私もついていく」

彼女はそう告げると、その後は探索者らの仲間に加わって行動を共にすることになる。彼女は自分の名前を聞かれると、自分には決まった名前はないと答える。キーパーは探索者に彼女の名前を自由に付けることができると伝え、探索者に名前を考えさせるといい。

■狩人?の召喚
1マジック・ポイントと1D3正気度ポイントを消費して、狩人?を呼び出す。

■馬?の召喚
1マジック・ポイントと1D3正気度ポイントを消費して、馬?を呼び出す。

■従者?の召喚
1マジック・ポイントと1D3正気度ポイントを消費して、従者?を呼び出す。

<特殊な召喚>
これらの呪文はそれぞれ「忌まわしき狩人の召喚/従属」(「クトゥルフ神話TRPG」P.282)、「シャンタク鳥の召喚/従属」(「クトゥルフ神話TRPG」には非掲載)、「外なる神の従者の召喚/従属」(「クトゥルフ神話TRPG」P.282)に該当するが、キーパーはそれをプレイヤーに教える必要はない。

本来、これらの奉仕種族の召喚/従属には5分間の詠唱と呪文の成功率10%につき1マジック・ポイントが必要であるが、本シナリオではニャルラトテップの化身である角を持つ少女の力を借りることで、1マジック・ポイントを消費するだけで判定は自動成功となり即座に召喚することができる。ただし召喚には角を持つ少女が一緒にいる必要があり、このシナリオをクリア後は彼女がいなければ使うことはできない。召喚された奉仕種族は呪文の使い手に従属した状態で到着する。呪文の使い手は通常通り1D3の正気度ポイントを失う。

彼らの能力値は「クトゥルフ神話TRPG」に掲載された各データの「平均値」と同じである。平均値に幅がある場合は最も大きい値とする。ただし「外なる神の従者」は「クトゥルフ神話TRPG」のデータとは異なり、毎ラウンド1d4回(「クトゥルフ神話TRPG」のデータでは2d6)まで、それぞれの触肢で攻撃を行うものとする。彼らが現れた場合、探索者は彼らを目撃したことにより正気度ポイントを喪失する。失われる正気度ポイントの値は「クトゥルフ神話TRPG」の各データを参照すること。

(データの参照先)
『忌まわしき狩人』:「クトゥルフ神話TRPG」P.169
『シャンタク鳥』:「クトゥルフ神話TRPG」P.180
『外なる神の従者』:「クトゥルフ神話TRPG」P.182

■ヨグ=ソトースの招来/退散(CALL/DISMISS YOG-SOTHOTH)
「クトゥルフ神話TRPG」P.264を参照。
神格を呼び寄せ、あるいは退散させるための呪文であるが、本シナリオにおいてはヨグ=ソトースの息子であるウィルバー・ウェイトリーの魂、およびその弟を退散させるために使用することができるものとする。この場合、呪文の使い手が4マジック・ポイントを消費することで退散に成功するチャンスが5%与えられる。その後、呪文の使い手、またはほかの参加者がマジック・ポイントを1ポイント消費するごとに退散に成功するチャンスが5%ずつ上昇する。呪文の成功率に関わらず、00は必ず失敗となる。

退散のためには生贄や特殊な儀式は必要なく、正気度ポイントは失われない。ただしこの呪文を発動するためには、呪文の使用者から対象の姿が完全に見える状態である必要がある。一度呪文が発動すれば、視界の範囲内にいる対象全てに効果を及ぼすことができる(対象が2体以上いたとしても、必要なマジック・ポイントの量が増えることはない)。



センティネル・ヒルへ

探索者は角を持つ少女と共に森の出口へと向かう。上空にはどす黒い雲が渦を巻いていて、風雨は激しさを増している。森を抜けた探索者はなぜか入ってきた場所ではなく、センティネル・ヒルの山頂付近に到着している。

角を持つ少女は探索者に声をかけ、山の頂を指さす。その先を見るとセンティネル・ヒル山頂上空の雲に直径200mほどの穴が空いていて、隙間からは夜空に美しい星々の瞬く様子が見える。山頂周辺だけは雨が降っていない。その雲の裂け目の真下には石で出来た祭壇のようなものがあり、怪物の到着を待つアレンの姿を発見できる。

〈目星〉に成功した場合:
探索者は、彼が探索者たちがいる位置とは別の方角の山の斜面をじっと見つめていることに気づく。そして彼の視線の先を見ると、山の中腹あたりに雨をはじく巨大な透明の空間が、大きな足跡を残しながらセンティネル・ヒルの山頂を目指して斜面を移動していることに気づく。



山頂の決戦

センティネル・ヒルの山頂ではアレンの体に憑依したウィルバー・ウェイトリーが自分の片割れである怪物を待っている。探索者が到着するとウィルバー・ウェイトリーは振り返り、探索者に視線を向ける。その直後、彼の背後に周りの木々を打ち倒しながら不可視の怪物が姿を現す。ウィルバー・ウェイトリーは探索者のことなど気にもせず、空を仰いで呪文の詠唱を始める。彼の呪文に呼応するように周囲の大地や上空からは地鳴りのような音が聞こえてくる。

魔術師ウィルバーの呪文が完成するまでの時間制限は特にないが、キーパーは探索者にそれを伝える必要はない。キーパーはプレイヤーに見えないようにダイスを転がす振りをして、次第に地鳴りが大きくなってくる、空の星々が次第に輝きを増してくるといった演出を加え、緊迫感を演出するといいだろう。

〈天文学〉に成功した場合:
探索者は夜空の瞬きが星によるものではないことに気づくことができる(これらはひとつひとつが太陽のように輝く球体で、今まさに地球に飛来しようとしているヨグ=ソトースの本体そのものだ)。

呪文の発動を阻止するためには、呪文が完成する前に『イブン=グハジの粉』で怪物を見えるようにしてウィルバー・ウェイトリーと怪物を共に『ヨグ=ソトースの退散』の呪文で打ち払う必要がある。怪物が見える状態にあれば、1度の呪文の発動で同時に彼らを退散させることができる。怪物に『イブン=グハジの粉』を吹きかけるに技能ロールは必要ないが、『イブン=グハジの粉』を吹きかけられた怪物はその冒涜的な真の姿を探索者の前に現す。

姿を現したのはタコのようなクモのような怪物で、卵のような形状の体から幾多の巨大な足と触手が生えている。全身がぶよぶよとしたゼリーのような皮膚に覆われていて、そこにいくつもの大きな目が開いたり閉じたりしている。そして頂部には半分人間のような形をした頭がついているが幅は何メートルもあり、漆黒の瞳は魔術師ウィルバーのそれに似ている。その姿は見る者の正気を削り、精神の全てを打ち壊していく。

ヨグ=ソトースの息子の真の姿を目撃した探索者は1D8/3D10の正気度ポイントを失う。

探索者の『ヨグ=ソトースの退散』の呪文が発動すると、ヨグ=ソトースの息子たちは苦しみ始める。彼らからは黒い煙が立ちのぼり、断末魔の悲鳴を上げながら彼らは必死に呪文を唱えて抵抗する。〈アイデア〉に成功した探索者は、それが空の彼方からやってくる彼らの父親への、助けを求める祈りの言葉であることに気づくことができる。彼らの祈りは届くことはなく、やがて怪物は活動を停止して、アレンも憑依していたウィルバーの魂が退散したことで意識を失いその場に倒れる。

探索者が倒れたアレンにかけよると彼に怪我や異常はないことが分かる。〈医学〉や〈応急手当〉の判定に成功すれば、彼が極度の疲労で気を失っていることが分かる。彼はマジック・ポイントが枯渇している状態なので〈応急手当〉などでは意識を回復することはできず、しばらく休息をとる必要があるだろう。キーパーはこのタイミングで、探索者に〈精神分析〉などによる狂気の回復を行わせるといいだろう。



最後の戦い

探索者が安心しきったタイミングを見計らい、キーパーは次のイベントを発生させる。突然、大きな獣の雄叫びにも似た声が響き渡り、周辺の大気を震わせる。そして活動を停止していたはずのダニッチの怪物が、巨大な体をゆっくりと起き上がらせる。呪文によって弱った怪物は不可視になる力を失っており、見えるようになった状態のまま暴れ始める。角を持つ少女は、あの怪物がもはや呪文では退散させることはできず、戦って倒すしかないと探索者に告げる。

ここからは探索者とダニッチの怪物、ヨグ=ソトースの息子との最後の戦いが始まる。戦闘に入る前に、探索者には1ラウンドだけ戦闘の準備をするための時間的な猶予を与えられる。この間、ヨグ=ソトースの息子は探索者を攻撃することはない。探索者はこのラウンドの間に、角を持つ少女から教えられた呪文を使ってニャルラトテップの奉仕種族たちを召喚することができる。

探索者が奉仕種族を召喚するための呪文を唱えると、角を持つ少女も一緒にくるくると踊るように回りながら呪文を唱える。彼女によって開かれた門から、銀に輝いて、召喚された奉仕種族が登場する。召喚された彼らは呪文の使い手である探索者に従属した状態で現れるが、彼らが登場した際には、それぞれの奉仕種族を目撃したことによる正気度喪失が発生する。キーパーは彼らの行動や判定、ダメージなどのダイスロールを彼らの呪文の使い手である探索者のプレイヤーに任せると良いだろう。

ヨグ=ソトースの息子
「クトゥルフ神話TRPG」P.246、あるいは「クトゥルフ神話TRPG ダニッチの怪」P.99を参照。
「クトゥルフ神話TRPG ダニッチの怪」掲載のデータの方が、「クトゥルフ神話TRPG」掲載のデータよりダメージボーナスの数値がやや高くなっている。難易度を上げたい場合は「クトゥルフ神話TRPG ダニッチの怪」のバージョンを用いるといい。

ヨグ=ソトースの息子には物理的なダメージは通用しないが、召喚された奉仕種族の攻撃であればダメージを与えることができる。ヨグ=ソトースの息子は召喚された奉仕種族を優先して狙い、触肢で掴みかかる。この攻撃は攻撃が命中した最初のラウンドで押しつぶしによる1D6耐久力ポイントのダメージを与え、その後ラウンド毎に吸血による1D10耐久力ポイントのダメージを与える。押しつぶしには奉仕種族の装甲が有効であるが、吸血の攻撃は装甲を無視するものとする。またヨグ=ソトースの息子の攻撃は「外なる神の従者」にもダメージを与えることができる。ヨグ=ソトースの息子の耐久力が0になれば、探索者の勝利となる。



銀に輝いて

ヨグ=ソトースの息子の耐久力が0になると、上空から銀色の光の柱がヨグ=ソトースの息子に向かって降り注ぐ。怪物の姿は眩い閃光に飲み込まれて、消失していく。光が晴れて探索者が気がつくと、嵐は過ぎ去り雨は止んでいる。いつの間にか召喚した奉仕種族たちの姿はなく、また角を持つ少女も見当たらない。流れていく雲の隙間からは夜空の星々が、静かにその光をたたえている。

やがてセンティネル・ヒルの麓から、オズボーンや村長を含むダニッチの住人たちがやってくる。オズボーンはなぜか、ショットガンやダイナマイトで完全武装をしている。彼らは探索者の無事に安堵して、ウィルバーと怪物が退治されたことを喜ぶ。そしてしばらくすると意識を失っていたアレンも目を覚まし、探索者はダニッチと世界の危機を退けることができたのだと実感する。


もうひとつの結末

もし探索者がヨグ=ソトースの息子に敗北した場合、ヨグ=ソトースの息子の呼びかけに応じて、その父親が地球上へと飛来する。そして次には、ヨグ=ソトースが開いた門によって、古のものたちが目を覚まし、外なるものたちが地上へと押し寄せてくる。

「イグナイイ イグナイイ トゥフルトゥクンガァ ヨグ=ソトース!
イブトゥンク フヘイエ ングクドゥルフ!」

大きな地鳴りと共に現れた彼らは、やがて人類と地上の全てのものを一掃していく。その後、世界がどうなっていくのかは想像に難しくはないだろう。その中で人類が彼らにどう抗うか、あるいは抗うことが出来ないかは、別のシナリオと別の探索者に委ねられる。しかし残念ながら、探索者の命運はここで尽きることになる。



クリア報酬

・シナリオクリア:3D10
・探索者が全員生還:+1D4
・オズボーンが生存:+1D3
・新しい友だちができた(角を持つ少女と仲良くなった):+1D4

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