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冬の花

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呪われた血筋

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母子の愛

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神の御心は無慈悲にて

それでも求むるは人の業か

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人の心か

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クトゥルフ神話TRPG オリジナルシナリオ

「雪花 -sekka-」

──雪に咲く桜は、美しい…

「……さようなら、愛しい友たち、お露さまのために死ねる私は、

 幸せだったと思い出して下さい」

 ──お袖(ラフカディオ・ハーン著/小林幸治訳「乳母桜」より)

シナリオの背景

今から400年ほど昔、村には1人の豪族がおりました。彼は善良な男でしたが、若くして妻を亡くし、以来40を迎えても父親になる幸せを知りませんでした。そこで彼は無夜様に願かけを行い、シュブ=ニグラスとの間に娘を授かります。娘は「露」と名付けられ、彼女のために「お袖」という名の乳母が雇われます。やがて露はたいそう美しい少女へと育ちますが、15の歳に病に倒れ、医者からは死が近いことを告げられてしまいます。

母親同然の愛情で露を育てたお袖は、無夜様に自らの命と引き換えに露の命を助けてほしいと願います。するとほどなくして露の病気が全快しますが、代わりにお袖は病に倒れ亡くなってしまいます。彼女は亡くなる直前、皆が悲しみに暮れる中で全てを打ち明け、自分が死んだら屋敷に桜の木を植えて欲しいと伝えました。こうして彼女の死後、屋敷の庭には桜の木が植えられました。その桜は人々から乳母桜と呼ばれ、その花が満開となる時、”等価の代償と引き換えに病を癒やす”と云われるようになりました。

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……かくして、シュブ=ニグラスの呪われた血は、露の子孫である桜塚家の者へと紡がれます。桜塚家の女性は成長して15歳になると必ず病に倒れ、死の淵を彷徨います。これはその血に流れるシュブ=ニグラスの因子が覚醒して「膿の母」へと変異を遂げるためであり、やがて彼女は完全に「膿の母」へと変異を遂げ、地球上に数日間顕現した後死を迎えます。これを止めるには、変異が完了する前に彼女を殺害するか、彼女を救いたいと願う者が満開の乳母桜に願をかけ、自らの命と引き換えに彼女の変異を止めるしか手はありません。

探索者の作成について

今回の導入は2つのグループに分けて開始されます。探索者はHO1、または2のどちらかを選択して作成してください。ただし、各グループとも少なくとも1人は探索者がいる必要があります。進行を円滑にするために探索者は事前に全員が何らかの形で知り合いであり、導入後は分散せず常に行動を共にするものとしてください。また本卓の探索者は「誰かが困っていれば助け、謎を解き明かし事件の解決に努めよう」とする性格の持ち主であることが望まれます。よく利用されるもの以外で推奨される技能は《心理学》、《生物学》or《博物学》、《信用》or《言いくるめ》、《歴史》などです。

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■HO1: 探偵、およびその協力者

あなたはある事象の調査を依頼される。

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■HO2: 高校生、またはそのクラスを担当する教師

あなたは桜塚洋子(高1)の友人、または担任である。彼女との関わりが深いほど良いでしょう(幼馴染、従姉妹など)

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※学生探索者について

学生探索者については「クトゥルフ2010」P.140の学生探索者のルールを適用するか、また簡略化のため次のハウスルールを適用しても良い。

職業は既存職業を将来の職業得意分野などという扱いで自由に選択

能力値は通常通り、ただしEDUだけは1D6+6で決定する

主なNPC

桜塚 結衣子(さくらづか ゆいこ)、呪われた血脈

年齢:秘密 職業:資産家

STR 10  CON 12  SIZ12  INT 21  POW 23  DEX 12  APP 16  EDU 25

正気度 25  耐久力 12

呪文:《膿汁の呪印》《黒い仔山羊の召喚/従属》

洋子の母。桜塚家の呪われた血を継ぎ、シュブ=ニグラスに通じる力を持つ。彼女の呪詛は周囲の者から命を奪い、それを乳母桜に捧げることで開花を促進させるものである。そして花が満開となった時、自身の母がそうしたように、自らの命を引き換えに最愛の娘を救うことを願うだろう。

桜塚 洋子(さくらづか ようこ)、宿命付けられた死

年齢:15歳 職業:高校1年生

STR 11  CON 7  SIZ 10  INT 14  POW 15  DEX 9  APP 12  EDU 10

正気度 75  耐久力 9

幼いころガンで父親を失い、現在は唯一の肉親である母と2人で暮らし。この秋から原因不明の病に倒れ、現在自宅で療養している。肺の病気で症状は風邪に似ているが、体は衰弱し医師からはもう長くないと言われている。

古田 幸三郎(ふるた こうざぶろう)

年齢:51歳 職業:刑事

STR 9  CON 12  SIZ 11  INT 17  POW 15  DEX 9  APP 13  EDU 16

正気度 75  耐久力 12

技能:目星70%、聞き耳65%、心理学81%、追跡45%、言いくるめ40%、法律50%

HO2探索者の知り合いで熟年の刑事。「桜坂1丁目」で多発する自殺精神疾患に不審を感じ、HO1探索者に調査を依頼する。

アリッサシャトレーヌ、魔女、銀の黄昏教団のマスター

年齢:300歳以上(外見は17歳)

本名:アンシャトレーヌ。復活した銀の黄昏教団のマスターであり魔女。

桜塚家の血の秘密を知っており「膿の母」を地上に顕現させるべく、「しろがねクリニック」の理事長の娘として暗躍。「膿の母」の復活を阻む結衣子を探索者に殺害させようと目論む。

細かいデータは必要ないと思いますが、気になる方はクトゥルフカルトナウ P.21を参照下さい

オリジナル呪文

本シナリオでは、桜塚結衣子が使う特殊な呪文として、次の呪文が登場します。この呪文は探索者が覚えることは出来ません。この呪文は「膿の母(マレウスモンストロルム P.146)」の能力を元に設定しています。

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《膿汁の呪印》

この呪詛は半径2km圏内に足を踏み入れた者を対象に発動する。犠牲者にはじくじくした潰瘍性の傷が体のどこかに現れて、その傷は次第に体全体へと広がり、犠牲者のHPを吸い取っていく。一度に吸い取るHPの量は任意。さらに犠牲者は悍ましい悪夢を見るようになり、耐えられず発狂する者も現れる。犠牲者たちから奪われたHPは乳母桜に与えられ、合計(探索者の人数×80)点に達した所で花は満開となる。

シナリオの進行について

今回のシナリオは閉鎖空間を舞台としたものと異なり行動範囲は広く、探索者の行動によって物語の展開が大きく変化します。そこで以下では想定される大まかなストーリーラインを提示します。キーパーはこれを参考にイベントの管理と物語の進行を整理してください。

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依頼

 探偵探索者(HO1)は最近になって自殺や精神障害が相次ぐ地域の調査を依頼される。

 向かった先で、探偵探索者は冬に咲く桜の花を見つける。

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桜塚家

 洋子の知り合いである探索者(HO2)は病欠中の彼女の家を訪れる。

 そしてそこに、捜査中の探偵探索者(HO1)がやってくる。

 屋敷では結衣子から、洋子の病気の話を聞かされる。

 その屋敷では、雪の降る冬であるにも関わらず桜の花が咲き始めていた。

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悪夢

 探索を始めると、探索者は白昼夢を見るようになる。

 桜の花の舞い散る幻想的な空間で、黒い子山羊に遭遇し、

 夢と現実を行き来しながら、探索者の正気は徐々に削られていく。

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事件の捜査

 事件の捜査を進めるうち、共通点として

 現場付近に現れるアリッサシャトレーヌの噂を耳にして

 やがてしろがねクリニックへと行き着く。

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しろがねクリニック

 捜査を進めるうち、しろがねクリニックに行き着いた探索者は

 そこでアリッサシャトレーヌという人物に出会う。

 彼女は探索者たちに、結衣子を殺害するようにと依頼をする。

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選択

 最終的に結衣子に疑いを持った探索者たちは彼女を問い詰める。

 彼女は真相を打ち明け、あと1日だけ待ってほしいと探索者に懇願する。

 罪なき者たちの命か、母の愛か、それとも……。

 探索者たちは最後の決断を迫られる。

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探索パートでは探索を進める毎に時間経過が生じます。おおよそ次の目安で進めて下さい。

1日目:桜塚家を訪れた後、もう12箇所

2日目:34箇所+しろがねクリニック

3日目:桜塚家

シナリオ 導入

導入:HO1

季節は冬。時間は金曜日の昼下がりとしてください。雪が降りしきるこの日、HO1探索者の事務所に知り合いの刑事、古田がやってきます。彼は「桜坂1丁目」という地域でここ数週間前から多発する自殺精神疾患患者に疑問を抱き、裏に何かの事件が絡んでいるのではと睨んでいます。証拠が見つからず警察では事件性なしと処理されているため、彼はこの件を捜査することが出来ません。そこでこの謎を解明するため、彼は探偵である探索者の力を借りたいと言うのです。ここで探索者は古田より次の情報を教えてもらうことが可能です。

●桜坂1丁目の自殺者

ここ2週間で3件。いずれも公園や河川敷などで木に縄をかけ、首を吊っていたといいます。これは日本の自殺者率と比較して突出した数値です。古田からは自殺者の住所と自殺場所を教えてもらえます。

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1人目:栄田 一郎(39)、会社員、2週間前、河川敷

2人目:日島 幸太(27)、フリーター、1週間前、無夜神社

3人目:椎名 茜(19)、美大生、桜坂公園、3日前

●精神疾患患者

症状は人によって様々である。

具体的には「クトゥルフ神話TRPG」P.90の一時的狂気表(短期、長期)に従う。

古田は今ここで分かる情報は以上であり、あとは現地で直接調査をする必要があると言います。雪の降る中現地に赴いた探索者は、雪に混じって舞う桜の花弁に気づきます。そして近くの屋敷の庭に咲く五分咲きの桜の木が目に入ります。ここでHO1の導入シーンは終了です。

導入:HO2

HO2探索者には、高校の友人または生徒である桜塚洋子がいます。彼女は1ヶ月ほど前から体調を崩し、現在自宅で療養中ということです。そこでHO2探索者は彼女の見舞いにと、彼女の家へと訪れます。彼女の自宅は「桜坂1丁目」という場所にある大きな日本屋敷で、庭には立派な桜の木が植えられています。探索者が屋敷に近づくと、雪に混じって白い桜の花びらが舞っているのに気づきます。《生物学》《博物学》などに成功すれば「エドヒガン」という白い花弁が特徴の品種であることが分かります。屋敷の庭には、冬にもかかわらず五分咲きの桜の木がありました。屋敷の呼び鈴を鳴らすと、結衣子が出てきて玄関先で簡単な世間話をします。ここでの会話で得られる情報には以下のことがあります。

●洋子の容態について

1ヶ月ほど前から、風邪のような症状であるが医者にも原因は分かっていない。現在は離れにある自室で休んでいる。

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●家族構成について

父親は洋子が幼いころガンで他界し、現在は結衣子と洋子の2人暮らしである。先祖からの財産があるため生活にこまることはないが、屋敷は2人で暮らすには広すぎると感じている。

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●庭の桜について

昔、先祖の手によって植えられたものである。しかし詳細については伝え聞かされておらず、何も知らない。花をつけ始めたのは数日前のことで、このようなことは初めてである。

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※ここでの結衣子は嘘をついており、彼女は乳母桜の言い伝えを知っています。心理学に成功すれば彼女が何かを隠していることが分かりますが、指摘されてもはぐらかし、彼女は決して口にすることはありません。さらにここで不用意に彼女に踏み込む探索者がいた場合、彼女の警戒心を仰ぐこととなり、その探索者への《膿汁の呪印》の効果が強化されます。

そして話を聞いている途中、この付近の調査のためHO1探索者がやってきて合流となります。結衣子は探索者たちをせっかくなのでと屋敷へ招き入れて、洋子の元に案内します。

桜塚 洋子

洋子の部屋は屋敷の離れにあります。彼女はベッドの上に横になっており、結衣子が探索者たちが見舞いに来たことを告げると、弱ってか細い声で、しかし嬉しそうに了承します。洋子は自分の病気について少し風邪をこじらせただけだからと気丈に振る舞い、早く治して学校に行きたい皆と遊びたいといったことを探索者に告げます。洋子に対して《心理学》に成功した場合、彼女は本心でそう言いながらも長引く病気を不安に感じていることが分かります。

さらにここで《目星》または《心理学》に成功すると、そんな洋子を見ながら物憂げな表情を浮かべる結衣子に気づくことが出来ます。しばらく世間話をした後、疲れた洋子を休ませることにして探索者たちは屋敷を後にすることになります。結衣子はここで、探索者たちに来てくれたことに対する礼を言い、さらに「これからも洋子のことをお願いします」と深々と頭を下げます。《心理学》に成功すれば、彼女からは娘に対する深い愛情と何かの覚悟のようなものを感じ取ることが出来ます。

●RPの指針

桜塚邸のシーンでは、母子の心理的な描写が重要になります。そこでここでは彼女たちのRPに関する指針を記載します。

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・桜塚 結衣子

この時点で母、結衣子は自身の経験から洋子の体に起こっていることを全て知っています。彼女はこのままでは洋子の命がないこと、そして彼女を救うためには《膿汁の呪印》により乳母桜の開花を促し、満開になったところで自分の命を乳母桜に捧げるほかないことを知っています。彼女は全てを犠牲にしてでも娘を救う覚悟を決めており、ただ自分の死後、身寄りのない洋子のことを憂いています。

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・桜塚 洋子

一方で洋子は自分の体に起きていることについて、風邪としか知らされてはおらず、詳しいことは何も知りません。長引く症状に、徐々に自分が何か重大な病気を抱えているのではないかと考え始めていますが、母や友人、教師に心配をかけまいと可能な限り明るく振る舞います。

導入はこれで終了です。この後、地図を公開して探索パートへと進みます。

<資料1>桜坂1丁目

探索パート

夢ヴィネット

以降の探索中に、探索者はいくらかの頻度で夢を見ることになります。まるで幻のように、現実から突如迷い込むように、探索者は気づかないうちに悪夢の世界に入り込み、そしてイベント後に目を覚まします。キーパーは探索中に、以降に記すイベントを差し込んで下さい。これはおおよそ次の目安で発生します。

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夢ヴィネット1:1日目の探索終了時

夢ヴィネット2:2日目の探索中に突然

夢ヴィネット3:しろがねクリニックのイベント後、外に出た所でいつの間にか

●夢ヴィネット1:桜の木の枝に

1日目の探索で、12箇所程度を回った後に次のイベントを差し込んで下さい。探索者たちが気づくと、いつの間にか周りに人通りがなくなっています。そして降りしきる雪に混じって、白い桜の花弁が舞っていることに気づきます。

開花した桜の木の太い枝にロープのようなものが垂れ下がり、その先に何か黒いものが

ぶら下がってゆらゆらと揺れている。

よく見ればそれが人であることが分かるだろう。

それは首をゆっくりと曲げ、血走った目玉があなたたちをじろりと見る。

その顔は、手や足の露出した皮膚は、おぞましい潰瘍性のじくじくとした傷に覆われており

そこから血にまみれた膿をにじませて、辺りに強い悪臭──腐肉が放つもの──を漂わせている。

そしてそれがあなたを見ると、腐って自重を支えきれなくなった首がちぎれて落ちる。

転がり落ちたその首は、あなた自身のものだった。

この光景を見た探索者はSANチェックを行い0/1D3の正気度を失います。探索者は自室のベッドで目を覚まし、今見たそれが夢であったことを自覚します。索者は昨夜は翌日集まる約束をして一旦解散、皆それぞれの自宅に帰ったことを思い出します。ここで探索者は自身の腕(右か左、どちらでも)に違和感を覚えます。確認してみるとそこにはじくじくとした潰瘍性の小さな傷があることが分かります。探索者は1点のダメージを受けます。またもし桜塚家で不用意に結衣子の警戒を煽っていた探索者がいた場合、その探索者は1点ではなく1D3点のHPを失います。このダメージは《医学》や《応急手当》では回復出来ません。

●夢ヴィネット2:膿汁の呪い

このイベントは、2日目の捜査中、2箇所程度を回った所で差し込んで下さい。探索者の周りでは、いつの間にか寒さが増し、まるで白い花びらのような雪がしんしんと降りしきっています。探索者が手のひらに舞い落ちた雪を見ると、それが雪ではなく桜の花弁であることに気が付きます。気がつけば探索者たちの視界は真っ白な花弁に覆われて、その幻想的な白い闇の向こうから何かの声を聞きます。

それはまるで子供をあやす子守唄のようで、その声は優しく唄う。

───「いあ しゅぶにぐらす」と。

声を聞いた途端、腐敗した肉の塊のような強い悪臭を感じ、ボトリと何かが落ちた音に気づく。

それは自分の腕だった。

ずり落ちた肉片はじくじくとした潰瘍性の傷に覆われていた。

見れば降りつもる桜の花弁が付着した部位から穢れた泥のような膿が広がっていく。

それは悪臭を放ちながらあなたの体全身を蝕んで、

やがて残った方の腕と両の足も腐り落ち、

あなたは白く降り積もった花弁の上に為す術もなく倒れ込んだ……

気がつくと探索者たちは無事で、元いた場所にいます。この恐ろしくリアルな幻に探索者はSANチェックを行い、0/1D3の正気度を失います。さらに目を覚ました探索者は腕の膿んだ傷が前日より大きく広がっていることに気づきます。探索者は1点のダメージを受けます。またもし桜塚家で不用意に結衣子の警戒を煽っていた探索者がいた場合、その探索者は1点ではなく1D3点のHPを失います。このダメージは《医学》《応急手当》などで回復することは出来ません。

●夢ヴィネット3:シュブ=ニグラスの黒い仔山羊

このイベントはしろがねクリニックでアリッサの話を聞いた後に差し込みます。外に出た所で探索者は辺りを覆う雪に白い花弁が混じっていることに気づき、そして辺りに漂う悪臭を感じます。いつの間にか周りに人影はなく、探索者はじわりと膿んだ傷が広がるのを感じます。

白い花弁が舞い散る先にはあの女性、桜塚結衣子がいた。

物憂げな表情を浮かべる彼女の横、一本の黒い木がそびえている。

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──彼女は再びあの言葉を唱える。

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木がゆっくりと動き始める。そして探索者たちは気づく。

よく見ればそれは木ではなく、黒く長いロープのような枝が何本も生えた悍ましい怪物で、

4本に分かれた太い根のようなものは蹄がついた脚だった。

ネバネバしたゼリー状の木、蹄と口と蛇のような腕を持つその怪物は

ホウホウと唸りるような声を上げ、その長くしなる触肢を探索者に伸ばす。

ここで探索者は「黒い仔山羊」を見たことによるSANチェックを行います。減少値は1D3/1D10です。そしてその後「黒い仔山羊」との戦闘を行います。

黒い仔山羊、シュブ=ニグラスの仔

STR44 CON 17 SIZ 44  INT 14 POW 18 DEX 16 耐久力31

ダメージボーナス:+4D6

武器:触肢 80% ダメージ DB + STRの吸収(ラウンドごとに1D3)

踏みつけ 40% 2D6+DB

正気度喪失:1D3/1D10

その他、詳細は「クトゥルフ神話TRPG P.177-179」を参照下さい。

「黒い仔山羊」は1ターンに4回攻撃を行います。キーパーは容赦なく触肢で探索者に攻撃を仕掛けて下さい。もし桜塚家で不用意に結衣子の警戒を煽っていた探索者がいた場合、「黒い仔山羊」はその探索者を優先的に狙います。ある程度探索者側に被害が出たところ(12ターン程度を想定しています)で探索者は自分のベッドの上で目を覚まし、夢を見ていたことを自覚します。目を覚ました探索者は戦闘で受けたダメージを回復し、気絶死亡なども解除されます。ただし夢の中の戦闘で死亡した探索者は、そのリアルで恐ろしい体験にSANチェックを行います。減少値は0/1D4+1です。さらに目を覚ました探索者は、腕の膿んだ傷が前日より大きく広がっていることに気づきます。探索者は1点のダメージを受けます。このダメージは《医学》《応急手当》などで回復することは出来ません。

自殺者たちについての調査

彼らはいずれも結衣子の《膿汁の呪印》によって発狂した形です。彼らは様々な夢の痕跡を残し、そして彼らを辿るうちに、暗躍するアリッサシャトレーヌの姿が見え隠れします。

●栄田 一郎の自宅

平凡なサラリーマンであった彼の家は河川敷の近くにあり、探索者が訪ねると彼の妻、仁美が対応します。彼女は焦燥して疲れ切った表情をしています。彼女から亡くなった夫のことを聞くと、彼女はおどおどとした様子で探索者に視線を合わせようとせず夫が2週間ほど前から突然おかしくなり、普段から何かに怯えるようになっていったことを話し「なぜそうなったのか私には何も分かりません。何も話すことはありません」とだけ伝えます。《心理学》に成功すると、彼女が何かを隠しており、そしてそのように隠すことに対して後ろめたさを感じていることを推測することが出来ます。

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ここでそのことを彼女に問い詰める場合は《言いくるめ》を目標に判定に成功すると、彼が生前「しろがねクリニック」に通っていたこと、そして「体中が腐っていく。黒山羊がやってくる」と口にしていたこと、彼の遺体の腕には直径15cm程度の膿んだ傷があったことを探索者に教えてくれます。さらに彼女は1週間ほど前、ある人物から同じことを尋ねられ、他の者には口外しないようにと言われていたことを探索者に話します。彼女の前に現れた人物はアリッサシャトレーヌです。彼女は今回の件が表に出ることを隠すため、裏で暗躍していました。アリッサは仁美の夫が生前通っていた「しろがねクリニック」の理事長の娘であると称し、仁美に同情したフリをしながら近づくと「自分までおかしくなったと周りに思われないよう、この事は他の人には言わない方が良い」と忠告していたのです。

●日島 幸太のアパート

日島はアパートで一人暮らしのフリーターで、自殺した後、既に彼の部屋は引き払われています。周囲で聞き込みを行えば、彼の死後、外国人風の若く美しい女性が流暢な日本語で「彼が自殺する前、何かを言っていなかったか?」と聞いて回っていたことを知ります。

●椎名 茜のアパート

一人暮らしだった彼女のアパートへ行くと、丁度そこを片付けている大家、藤沢トネ(72)に会うことが出来ます。椎名茜について訪ねると彼女のことは集金くらいでしか顔を見ることはなく詳しくは知らないと返します。そして現在は彼女の部屋を片付け中で、家具や家電などの大きなものは遺族が持っていってくれたものの、最後の掃除が残っており、年寄りには堪える作業だと愚痴っています。ここで探索者は彼女の掃除を手伝うよう申し出ることが出来ます。そして掃除を手伝いながら《目星》の判定に成功すると、彼女のスケッチブックと、病院で処方された薬を発見します。

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スケッチブック

スケッチブックには、ここ数週間に彼女が書いたと思われる絵が書かれています。そこには恐ろしく膿んだ傷を持つ人間の顔、花の咲く桜の木に吊るされた腐乱死体など、悍ましい光景ばかりが描かれています。そして最後のページには、黒く巨大で何本ものロープのような枝をくねらせた木のようなものの姿が描かれています。その絵は何かぞっとする悪夢を見ているかのようにも思え、この絵を見た探索者はSANチェックを行います。ここでの減少値は0/1です。

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病院の薬

薬は何の変哲もない睡眠薬のようです。《薬学》や《医学》で判定しても不眠症などの折に処方される一般的なものであることが分かるだけです。探索者が薬の袋を確認すると申し出るか《目星》に成功すると薬の袋に記載された病院の名前に気づきます。そこには「しろがねクリニック」と書かれています。《知識》や《医学》《精神分析》などに成功すれば、この病院がこの近くにある心療内科のクリニックであることを思い出します。

自殺現場の調査

●河川敷、桜坂公園

この2箇所については同じ情報が得られます。栄田一郎、椎名茜の遺体が発見された河川敷、桜坂公園では《知識》《生物学》《博物学》または周辺から聞き込みを行うことが可能です。成功した場合、彼らが首を吊ったというのが桜の木であることが分かります。また《生物学》《博物学》などに成功すれば、それらが「エドヒガン」と呼ばれる白い花弁が特徴の品種であるとも分かります。当然、冬なので葉は落ち花などは咲いていません。またさらに近辺で聞き込みを行うと、彼らの死後、これらの場所で若く美しい外国人風の女性を見かけたという証言を得ることが出来ます。《幸運》に成功すれば、この女性が「しろがねクリニック」の理事長の娘である「アリッサシャトレーヌ」であるとの証言も得ることが出来ます。

●無夜神社

古く寂れた神社です。近くに人の姿はありませんが、境内には神社の歴史を記す立て札を見つけることが出来ます。そこにはこの神社が300年ほど昔に一度焼け落ち、その際にご神体が紛失していることが書かれています。その後この神社は近辺の人々によって建て直されています。《歴史》に成功すれば、300年前の火事の際に多くの文書が消失し、以来この神社の由来が不明になっていることを思い出します。また《目星》に成功すれば境内には根本に花が供えられた木を見つけることが出来ます。それが日島幸太が自殺したであろう木であることが分かります。さらに《知識》《生物学》《博物学》などに成功すれば、それが冬になって葉の落ちた桜の木であることが分かります。また《生物学》《博物学》に成功した場合は、それらが「エドヒガン」と呼ばれる白い花弁が特徴の品種であるとも分かります。

聞き込みや文献調査などによって入手可能な関連情報

これらは聞き込みや図書館、インターネットなどの調査によって得られる追加情報です。キーパーは自殺者の調査を進める過程で、タイミングを見図らないながらこれらの情報を差し込むことが可能です。

●化膿した傷

この情報は、自殺者たちの調査を行う過程で人々から聞き込みを行うシーンの途中などに差し込むことが可能です。通行人や町の住民から話を聞いている途中で《目星》ロールを行います。成功すると探索者は彼らの手や顔にある、小さく膿んだ傷に気が付くことが出来ます。彼らにそのことを指摘すると、それは数日数週間前くらいにいつの間にかでき始めたものだと言います。さらに彼らは「そういえばその頃から変な夢を見るようになった」といいます。夢の詳細は「夢ヴィネット1」と同じものです。夢の内容について尋ねれば「桜の木で首を吊っている人を見つけて近寄るんだ。よく見ると、それは膿んだ傷が全身に広がった自分なんだ。まったく気味の悪い話だよ」といった内容を語ります。

●30年前の開花

聞き込みには《信用》やAPP×5など適当な判定を行って下さい。この地域の年配者に聞き込みを行うことで28年前の地方紙で「冬に桜塚家の桜が咲いた」という証言を入手することが出来ます。さらに聴き込めば、およそ2030年ほどの周期で桜塚家の桜が冬に咲いていることが分かるでしょう。この情報は図書館などで昔の新聞記事などを探すことでも判明します。この場合は図書館で判定を行います。また同様にこの時期の他の地方紙を調べると、桜坂一丁目で数件の自殺者が出たという記事を見つけることも出来ます。

●乳母桜

桜塚家の桜について調べる場合は、図書館にて《図書館》で判定を行います。この判定に成功すれば、この地域にまつわる伝承が書かれた本を発見することが出来ます。そこには桜塚家の桜について次のようなことが書かれています。

今から400年ほど前、村に1人の豪族がおりました。彼は善良な男でしたが40の歳を迎えても父親になる幸せを知りませんでした。そこで無夜様に願かけを行ったところ、ようやく娘を授かります。娘は「露」と名付けられ、彼女のために「お袖」という名の乳母が雇われます。やがて露はたいそう美しい少女へと育ちますが、15の歳に病に倒れ、医者からは死が近いことを告げられてしまいます。

母親同然の愛情で露を育てたお袖は、無夜様に自らの命と引き換えに露の命を助けてほしいと願います。するとほどなくして露の病気が全快しますが、代わりにお袖は病に倒れ亡くなってしまいます。彼女は亡くなる直前、皆が悲しみに暮れる中で全てを打ち明け、自分が死んだら屋敷に桜の木を植えて欲しいと伝えました。こうして彼女の死後、屋敷の庭には桜の木が植えられました。以来その桜は人々から乳母桜と呼ばれ、その花が満開となる時、”等価の代償と引き換えに病を癒やす”と云われるようになりました。

この話を読んだ探索者は《歴史》で判定を行うことが可能です。成功した場合、この話にいくつかの違和感を覚えます。「乳母桜」の話はラフカディオハーン(日本では小泉八雲として知られる)の「怪談」に掲載された話が有名であり、またこれは大宝寺という寺に伝えられる昔話を元にしたものです。しかし、これらの話で男やお袖が願をかけたのは「不動明王」や「薬師如来」とされており、「無夜様」などというものは聞いたことがありません。また元の話には彼の妻の話が多少なりとも含まれているはずなのですが、この話の中には一切登場していません。それはなぜなのか。彼に妻がいなかったとしたら一体どうやって娘を授かったのか。さらに最後の「等価の代償と引き換えに病を癒やす」という点。それは従来の「乳母桜」の話にはないものです。

●しろがねクリニック

「しろがねクリニック」についてはインターネットや周辺の住人からの聞き込みから情報を入手することが可能です。心療内科を専門とするこの病院は、つい2ヶ月ほど前に「銀の黄昏教団」という宗教団体に売却され、現在はラタナシアシャトレーヌという人物によって運営されています。「銀の黄昏教団」についてはヨーロッパをルーツとする宗教団体であることは分かりますが、その教義や信仰の詳細は信者でなければ分かりません。ただ世界的に活動を展開し、様々な企業、学園の運営から慈善団体への寄付、社会奉仕活動などまでも余念なく行っていることが分かります。

しろがねクリニック

探索者は捜査を進めるうち、やがて「しろがねクリニック」へと行き着きます。探索者が「しろがねクリニック」を訪ねると看護師が対応した後、美しい17歳ほどの外国人風の少女がやってきて「その件に関しましては、わたくしが対応致します」と探索者に声をかけます。彼女が「アリッサシャトレーヌ」です。探索者たちは、奥の応接室に通されます。探索者たちが応接室のソファーに腰をかけたところで、アリッサが丁寧な言葉使いで話を切り出します。

「そろそろ皆さんのような方がいらっしゃる頃だと思っておりました。

 この近辺に蔓延する病と、そしてあの桜のことですね。

 実は私からも、皆さんに話があります。」

●桜についての伝承

アリッサは「まずはこちらを御覧ください」と一冊の古い書物を差し出します。それはこの付近の伝承を書き記したものです。そしてその中を読み進めると、次の内容が書かれています(尚、この内容は図書館で桜塚家の桜について調べた場合と同じ内容になりますので、既に調査済みの場合は省略も可能です)。

今から400年ほど前、村に1人の豪族がおりました。彼は善良な男でしたが40の歳を迎えても父親になる幸せを知りませんでした。そこで無夜様に願かけを行ったところ、ようやく娘を授かります。娘は「露」と名付けられ、彼女のために「お袖」という名の乳母が雇われます。やがて露はたいそう美しい少女へと育ちますが、15の歳に病に倒れ、医者からは死が近いことを告げられてしまいます。

母親同然の愛情で露を育てたお袖は、無夜様に自らの命と引き換えに露の命を助けてほしいと願います。するとほどなくして露の病気が全快しますが、代わりにお袖は病に倒れ亡くなってしまいます。彼女は亡くなる直前、皆が悲しみに暮れる中で全てを打ち明け、自分が死んだら屋敷に桜の木を植えて欲しいと伝えました。こうして彼女の死後、屋敷の庭には桜の木が植えられました。以来その桜は人々から乳母桜と呼ばれ、その花が満開となる時、”等価の代償と引き換えに病を癒やす”と云われるようになりました。

この話を読んだ探索者は《歴史》で判定を行うことが可能です。成功した場合、この話にいくつかの違和感を覚えます。「乳母桜」の話はラフカディオハーン(日本では小泉八雲として知られる)の「怪談」に掲載された話が有名であり、またこれは大宝寺という寺に伝えられる昔話を元にしたものです。しかし、これらの話で男やお袖が願をかけたのは「不動明王」や「薬師如来」とされており、「無夜様」などというものは聞いたことがありません。また元の話には彼の妻の話が多少なりとも含まれているはずなのですが、この話の中には一切登場していません。それはなぜなのか。彼に妻がいなかったとしたら一体どうやって娘を授かったのか。さらに最後の「等価の代償と引き換えに病を癒やす」という点。それは従来の「乳母桜」の話にはないものです。

●真相

「乳母桜」の話を読んだ後、アリッサはこの伝承についてさらに補足を行います。彼女が語るのは桜塚家の先祖、露の出生と桜塚の家系に流れる血に関する悍ましい真実でした。

この話には、一部不完全な部分があります。我々の調べではこの話に出てくる男、つまり桜塚家の先祖の妻は子を授かる前に病で亡くなっていることが判明しています。では「露」の母親は一体何者なのでしょうか……。

ここで1つ、真実の話を致しましょう。皆様は普段から『理性』を持ち、自らを律し、他者を思いやり、正しく毎日を送られていることでしょう。しかしご存知でしょうか。この大宇宙全体で見れば、人間の『理性』なるものは極めて異質で異常な存在であるということを。この世界には、みなさんが想像もつかないような真実、人間のことなど気にもかけない白痴の神々、巨大な怪物たちが存在しているのです。

そして「露」の母親もその1柱。桜塚家の者には今も、人間と女神シュブ=ニグラスとの冒涜的な交配で生み出された祖先…その忌むべき血が紡がれているのです。しかし人の器に余るその力は自らの身をも滅ぼす…故に、彼女たちは15歳で命を落とすよう宿命付けられているのです。

そしてアリッサは探索者に語ります。伝承にある「等価の代償と引き換えに病を癒やす」という話。桜塚家の人々はその力によって自らの命を犠牲に自分たちの子の命を紡いできました。しかしそれには「桜が満開である」必要があります。このため桜塚結衣子は次の呪文で周囲の住民から生命の力を奪い、それを乳母桜に与えることで開花を促進させていたのだと言います。これは人間とシュブ=ニグラスの交配によって生まれた「膿の母」に通じる能力によるものです。

《膿汁の呪印》

この呪詛は半径2km圏内に足を踏み入れた者を対象に発動する。犠牲者にはじくじくした潰瘍性の傷が体のどこかに現れて、その傷は次第に体全体へと広がり、犠牲者のHPを吸い取っていく。一度に吸い取るHPの量は任意。さらに犠牲者は悍ましい悪夢を見るようになり、耐えられず発狂する者も現れる。犠牲者たちから奪われたHPは乳母桜に与えられ、合計(探索者の人数×80)点に達した所で花は満開となる。

※探索者に提示する場合、()内は計算後の数値を提示して計算式は提示しないでください。またこれは桜塚の家系の特殊能力のようなものであり、探索者は内容を知ることが出来ても使うことは出来ません。

ここまでの話を聞いた探索者は世界の真実、冒涜的な知識に接したことで0/1D6の正気度を失い《クトゥルフ神話》技能を+5%獲得します。

●アリッサからの依頼

ここまでの話をした後、アリッサは探索者に「実は、皆様にお願いがあります」と言い、一振りの銀の短剣を取り出します。この短剣は彼女が魔力を込めたものであり、神の血を引く桜塚の家系の者であっても命を奪うことが出来るものだと言います。

「彼女は自分の娘を救うため、これからも邪悪な法で人々の命を吸い続けるのでしょう。

 そして桜の花が咲ききるまでに一体何人の、罪のない人々が犠牲になるのでしょうか。

 私からのお願いです。そうなる前に、彼女を殺害してください。

 もちろん皆様が警察に捕まることなどのないよう、後の始末は私が致します。」

彼女の依頼を受けるか受けないかは探索者に委ねられます。依頼を受けない場合も彼女は探索者を止めることはしません。どちらの場合も、探索者が望めば彼女は短剣を探索者に手渡します。このナイフのデータは「クトゥルフ神話TRPG」P.70の「小型ナイフ」と同一ですが、魔力が付与されており、物理攻撃が通用しない神話的存在に対してもダメージを与えることが可能なものです。そしてこの短剣は桜塚の家系の者に対して、通常の命中判定の代わりにDEX×5で判定を行い、成功すれば一撃で死に至らしめることが出来ます。尚ここで彼女に対して《心理学》ロールに成功すると彼女が言っていることに嘘はありませんが、他に何か重要なことを隠しているように感じ取ることが出来ます。しかし彼女はそれを指摘されてもぞっとするような冷たい表情を浮かべながら「私の話をどう受け止められるかはあなた方の自由です」とだけ答えます。

●アリッサへの攻撃

探索者の中には(過去に彼女と因縁がある場合など)彼女に危害を及ぼそうと攻撃をしかけるケースも考えられます。しかしこの場合、どのような攻撃も彼女の手前で見えない壁のようなものに阻まれ、届くことはありません。そして彼女がその探索者に向けて手をかざすと、見えない拳で殴られたかのような衝撃を受けて後方に吹き飛ばされ1D4のダメージを受けます。彼女は無駄だから大人しくするようにと言いますが、愚かにもさらに向かってくるようならば探索者が気絶するか大人しくなるまで同じ攻撃を繰り返します。

クライマックス

桜塚家

桜塚の屋敷へ再び足を運ぶと、庭の桜は七分咲きになっています。《生物学》または《博物学》のロールに成功すれば、桜の満開とは八分咲きのことであり、あと1割程で桜が満開になることが分かります。

​

※キーパー向け情報:

桜の開花状態は、これまでに捧げられたHPに対応しています。満開(八分咲き)になるまでに必要なHPは(探索者の人数×80)点であるため、残りはその1/8である(探索者の人数×10)点のHPを捧げることで、満開になる計算となります(ただ残りどれだけ必要かはプレイヤーに公開しないでください)。

​

入り口の門の鍵は開いていて、その先の庭に桜塚結衣子がいるのが分かります。彼女は桜の木の下に立ち、彼女の周囲を桜の花弁と雪が舞っています。再びやってきた探索者たちを彼女は悲哀の感情が篭った笑みを浮かべて迎えます。その表情は何もかもを受け入れて、覚悟を決めたものであるようにも見えます。探索者が問い詰めれば、彼女は自らの行いを釈明することなくただ懇願します。

「明日には全てが終わる予定です。

 どうか、あと一晩だけ見逃して下さい。」

この時点で彼女にとっての選択肢は桜の開花を促した後、自らの命を捧げることしかありません。ここでは、どのような感情的な説得にも彼女は応じることはないでしょう。この先の展開としては次のものが考えられます。

●結衣子を見逃す

彼女は静かに探索者に対して礼を言います。そして自分の死後のことを考え「洋子のことをお願いします」と探索者たちに伝えた後、エンディングAへと進みます。

●結衣子を殺害する

アリッサシャトレーヌに言われた通りに彼女を短剣で殺害する場合、彼女は必死の思いで探索者たちに抵抗します。彼女にとって、娘のために捧げる命をここで失うわけにはいかないのです。彼女は可能な限り回避に専念しながら、隙があれば《黒い仔山羊の召喚》を唱えます。呪文が成功した場合、次のターンに黒い仔山羊が出現し、さらにその次のターンから探索者に襲いかかります。結衣子にはアリッサシャトレーヌから渡された銀の短剣以外ではダメージを与えることは出来ませんが、銀の短剣の攻撃が命中すれば一撃で彼女のHPを0にすることが可能です。彼女のHPが尽きると、召喚された黒い仔山羊も消失します。彼女は洋子への謝罪の言葉を残し、息絶えます。この後、エンディングBへと進みます。

●自らのHPを差し出す

(探索者の人数×10)点のHPを結衣子に差し出すことで、桜の開花を促進して八分先(満開)の状態にすることが可能です。この時、差し出すことが可能なHPは、現在のHPによらず最大HPの2倍までです(現在のHPを超えて差し出す場合、HPがマイナスとなり死亡します)。ただし、探索者が命を落とすような提案は、彼女が拒みます。死なない程度にHPを提供し、少しでも被害を軽減したいと言えば、彼女は探索者たちに礼を述べてその提案を受け入れるでしょう。KPはアイデアロールに成功することで、探索者は満開には足りずとも、自らのHPを差し出すことで、少しでも被害を軽減出来るのではないかと思いつくことにしても構いません。

エンディング

●エンディングA

翌日、桜塚家の乳母桜は満開を迎えて結衣子の願いは成就します。洋子の病は完治して、彼女は遠い親戚に引き取られることとなります。ただしその代償として失われたものもあります。新聞には自殺した栄田一郎の妻栄田仁美、椎名茜のアパートの大家である藤沢トネを始め数人の自殺者の名前が連ねられるでしょう。結衣子は最愛の娘のため、他者と、そして自らの命を犠牲にその願いを遂げたのです。

●エンディングB

結衣子を殺した探索者は、0/1D6の正気度を失います。彼女が倒れた後、探索者は後ろから物音を聞きます。そこにはこの様子を偶然見ていた洋子が立っています。彼女はフラフラとした足取りで母親の傍へやってきて、涙を流します。そして彼女の中で何かが砕けます。目の前で母親を失い、発狂した彼女は急速に「膿の母」へと変異していきます。その体は不快な粘着質と悪臭を放つ液状の泥へと代わり、急激に膨張して辺り一面を飲み込みはじめます。探索者は即座にSANチェックを行います。減少値は1D3/2D10です。この時点で探索者には1度だけチャンスがあります。洋子が完全に変異する前に、銀の短剣で彼女を突くのです。攻撃が命中すると洋子は即座に死亡して「膿の母」への変異を止めることが可能です。しかしこれに失敗した場合、彼女の変異は完了し、やがて不浄な膿の化身と化した彼女は周囲の全てを飲み込んでいきます。

●エンディングC

HPを差し出した探索者は、結衣子の呪詛によって探索者の化膿した傷が一挙に体全体へと広がっていきます。そしてそれと同時に、桜が満開を迎えます。舞い散る白い花弁の中、結衣子は桜に願いをかけます。そして探索者たちに向き直り、深く頭を下げて礼を言うと、その場に倒れます。彼女が倒れると急速に桜の花が散り始め、雪のように舞う花弁の中で、探索者の体に広がった傷が急速に消えていきます。こうして結衣子の願いは成就して彼女は命を落とし、洋子の命は救われます。

彼女は最後に、探索者たちに伝えます。「洋子をお願いします。あの子のために死ねる私は、幸せだった」と。

クリア報酬

シナリオクリア:1D10

洋子の生存:1D6

・「膿の母」を撃退した:1D10

被害を食い止めた(エンディングB,C): 1D6

【参考文献】

[1]『乳母桜』、著:ラフカディオ・ハーン、訳:小林幸治、「怪談 妖しい物の話と研究」http://yakumotatu.com/kwaidan/kwaidan.htm

・冒頭に使用した「お袖」の言葉を引用。

・「乳母桜」の伝承の参考にした。

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[2]『クトゥルフ神話TRPG』、著:サンディ・ピーターセン/リン・ウィリス他、訳:中山てい子/坂本雅之(2004)

・「シュブ=ニグラス」神話生物の設定について、P.216-217を参考にした。

・「黒い仔山羊」神話生物の設定・データについて、P.177-178を参考にした。

・その他、シナリオ作成にあたり必要なルールは本書を参考にした。

​

[3]『マレウス・モンストロルム』、著:スコット・アニオロフスキーほか、訳:坂本雅之、立花圭一(2008)

・「シュブ=ニグラス」神話生物の設定について、P.178を参考にした。

・「黒い仔山羊」神話生物の設定・データについて、P.43を参考にした。

・「膿の母」オリジナル呪文の設定にあたり、神話生物の設定について、P.146を参考にした。

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[4]『クトゥルフカルト・ナウ』、著:坂本雅之、内山靖二郎、坂本真紅郎ほか/アーカム・メンバーズ(2013)

・「アリッサ・シャトレーヌ」「銀の黄昏教団」の設定について、P.15-21を参考にした。

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[5]『キングスポートのすべて』、著:ケビン・ロスほか、訳:坂本雅之/アーカム・メンバーズ(2016)

・夢のギミックについて、本書P.70の解説、およびP.147、149、153、155を参考にした。

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