13番目の黙示録

The Revelation XIII






















"かくして、イゴーロナクは人の世を歩むために帰還し、待機するのである。すなわち、この地上から邪魔者が一掃され、クトゥルーが緑なす墓所から立ち上がり、グラーキが水晶の跳ね上げ戸を押し開け、アイホートの眷属が白昼に生まれ、シュブ=ニグラスがムーン・レンズを砕くために歩みを進め、バイアティスが獄舎を破り、ダオロスが幻影を引きはがして背後に隠されている真実を露呈させるときが来るまで。"


ラムジー・キャンベル著、野村芳夫訳、「コールド・プリント」より






















シナリオ概要

8月末。都内で奇妙な連続猟奇殺人事件が発生する。 この異様な事件の共通点は3つ。

1、被害者の名前に数字が含まれていること

2、事件現場には『グラーキの黙示録』と呼ばれる書物が 1巻ずつ残されていること

3、被害者の殺害状況が、書物の内容になぞらえたものであること

捜査を開始する探索者だったが、この時はまだ誰も知る由はなかった。 事件の裏に潜む”グラーキの使徒”が、狂気と復讐の棘を研いで、 その尖端を人類の喉元に突きつけようとしていることに──


推奨人数:3〜5人
想定プレイ時間:5〜6時間(オンラインのテキストセッションの場合は12〜18時間)




本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『新クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「新クトゥルフ神話TRPG ルールブック」


※注意:以下にはシナリオのネタバレが含まれます。























プレイヤー向け情報

このシナリオで探索者は刑事たちと共に事件を追っていくことになるため、警察関係者として事件に関わっていく探索者が1人はいた方がよい。その他の探索者については、職業は何でもいいが、これまで警察に協力して事件解決の手助けをしてきたなど、捜査に関わりやすい背景を持っている必要がある。名探偵や大学教授、弁護士、警察とコネのある金持ちのお嬢様、持ち前の推理力で何となく事件を解決してしまう家政婦や頭脳が大人の小学生、その保護者など、推理小説やドラマの主人公のような立ち位置を想像するといいだろう。
終盤には戦闘も発生する。このシナリオは日本を舞台としているが、物語の流れの中で拳銃を入手できる可能性もある。〈回避〉技能なども、生き残るための助けになるだろう。



キーパー向け情報

17年前、日本全土を震撼させるカルト教団による事件が発生する。この事件ではカルト教団『聖なる啓示』が日本各地で生物兵器を使ったテロを計画。いち早く察知した警察による教団施設の一斉摘発によって、彼らの計画は未然に防がれた。
この事件では数百人にのぼる信者と警官隊が衝突、多くの死傷者を出し、その様子は地上波を通じて中継され、反響を呼ぶ。
実はこの事件では、公にされていない事実がある。『聖なる啓示』の教祖・六道輪廻はグラーキの従者だったのだ。その彼がこの日本で進めていたのが、グラーキの黙示録に記された大いなるものたちを地上へと呼び戻すという恐るべき計画だ。
彼らを復活させるためには膨大な魔力が必要であることを知っていた六道は、人間をグラーキの従者に変える恐るべき力を持ったグラーキの棘を使い、信者を増やすと共に、さらなる強大な魔力を求めて13人の子供を作り出す。彼らはグラーキの従者と成り果てた自身と、外なる神シュブ=ニグラスの混血児であった。

しかし邪悪な方法で信者を増やしていくうちに、計画が公安警察によって察知され、彼らとの衝突が発生する。邪悪なシュブ=ニグラスの混血児たちはその場で殺害されてしまうが、人間に近い外見を持っていた幼い2人、透次とひとみは保護されて児童養護施設「ななほし学園」で暮らすことになる。

事件の後、彼らを待っていたのは過酷な環境、世間からの誹謗や中傷、そしてそれらに付け入る悪意だった。妹のひとみが中学を卒業する頃、明倉三千夫が彼女の里親になることを申し出る。彼はIT企業の社長を務める裕福な男であったが、裏では彼らのように身寄りのない子供を自宅に監禁し、非道を繰り返す邪悪な人物であった。また施設に残った兄も、養父である神山九郎に引き取られるまでの間、ななほし学園での虐待や学校でのイジメに晒されていく。それらは全て、彼らが外なる神から受け継いだ、邪悪な素質を呼び覚ますのに十分なものであった。

そして現代。成長し、十分な力を得た彼らは動き出す。刑事となった透次は警察のデータベースを利用して妹の居場所を突き止め、父親に成し遂げられなかった計画を実行に移す。彼らは自身が恨みを持つ者、邪魔な者たちをグラーキの黙示録になぞらえて殺害していく。これは一種の儀式のような意味も持っており、黙示録の啓示を現実のものとすることで、やがて最後に行われるグラーキの召喚により水晶の扉が開かれて、大いなるものたちが復活を遂げるのだ。
探索者はその前に犯人たちへとたどり着き、彼らを阻止しなければならない。

NPC

一ノ瀬マリ
一ノ瀬 マリ(いちのせ まり)

47歳。第1の事件の犠牲者。テレビ局に務める元アナウンサーで、アナウンサーとしての一線を退いてからも、タレントや女優としてバラエティ番組などでも活躍していた。
かつては地味で落ち目の地方局アナウンサーであったが、17年前、アナウンサー時代に発生したカルト教団「聖なる啓示」によるテロ事件の報道を担当すると、教団への過激な批判、元信者やその家族へのプライバシーを軽視した突撃取材などを繰り返し、世間の共感を得ることで一躍名を馳せた。


田川仁
田川 仁(たがわ じん)

53歳。第2の事件の犠牲者。カルト教団「聖なる啓示」の元幹部で、全国に指名手配されていたものの、行方は分かっていなかった。警察による一斉捜査が行われる直前に姿をくらまし、顔を変えてひっそりと生活していた。
教団に所属していた頃にグラーキの棘をその身に受けて生ける屍であるグラーキの従者と化していた。このため、第2の事件では太陽の下に引きずり出されたことによってグラーキの従者となったものの宿命である緑の崩壊を起こし、ドロドロに溶けて死亡する。


明倉三千夫
明倉 三千夫(あきくら みちお)

37歳。第3の事件の犠牲者。非常に優秀な人物で、一代で成り上がったIT企業の社長である。
そんな彼の裏の顔は異常なサディストで、都内の高級住宅街にある自宅には牢獄のような地下室を建造していた。彼はそこに身寄りのない者や金に困窮した者を連れ込んで監禁し、人知れず犯行を繰り返していた。
彼は児童養護施設「ななほし学園」で出会った六道輪廻の娘に興味を抱いて彼女を養子に迎え入れることにしたのだったが、結果的にそれは自身に破滅をもたらすことになった。


四谷厚
四谷 厚(よつや あつし)

24歳。第4の事件の犠牲者。ゲーム配信者。神山透次とは高校時代の同級生であり、彼の父親がテロ事件を引き起こした首謀者の六道輪廻であることを知って仲間と共にいじめを働いていた。こうした経験は彼の過去の動画でも武勇伝のように語られている。
動画配信中に腹に植えつけられていたアイホートの雛が孵化したことにより死亡する。


吾妻星弥
吾妻 星弥(あがつま せいや)

44歳。第5の事件の犠牲者。御津門大学の民俗学教授。世界各地の信仰、とりわけイギリス・セヴァン谷を中心としたカルト宗教の研究を専門としている。
その信仰における関連性から、日本で17年前に起きた「聖なる啓示」の事件についても熱心に調査を行っており、いくつかの研究論文や書籍も執筆している。


六道輪廻
六道 輪廻(りくどう りんね)

61歳。第6の事件の犠牲者。カルト宗教団体「聖なる啓示」の教主。17年前、「地上の真の支配者である大いなるものたちの目を覚まして、人類を駆逐する」との思想の元、生物兵器を使ったテロを計画するも、警察に阻まれて未然に防がれる。尚、表向きは”生物兵器”とされているが、実際にはこのテロは魔術によるものだった。
彼には番号で呼ばれる13人の子供たちがいたが、事件の際に起きた教団と警官隊との衝突により11人までが死亡。事件の首謀者として逮捕された後、死刑が確定。刑務所の特別区画に収監されている。
事件時には既に正気を失っており、事件の正確な動機はつかめていない。現在は監獄の中で言葉を発することも少なく、1日のほとんどを瞑想しながら過ごしている。


七海鈴花
七海 鈴花(ななみ すずか)

33歳。第7の事件の犠牲者。児童養護施設「ななほし学園」の職員。
表向きは身寄りのない子供たちの面倒を見る優しい職員のように見えるが、心の内には恐ろしい残虐性を秘めている。
幾人かの子供たちは彼女の残忍な行ないの犠牲になっている。しかし八木沢海里によって改ざんされた記録のため、そうした子供は養子として誰かに引き取られたか、独立できる年齢になり施設を出たことにされており、事件が明るみに出ることはない。
シャッガイからの昆虫に寄生されており、今やほとんどの人間性を失っている。


八木沢海里
八木沢 海里(やぎさわ かいり)

35歳。第8の事件の犠牲者。区役所の事務員として勤めてきた物静かでまじめな男だが、明倉三千夫、七海鈴花の非道な行ないに加担したために、彼の命運は尽きてしまった。
八木沢はもはや彼らの命令に忠実に従うだけの隷属と化しており、彼の立場を利用して七海鈴花に寄生したシャッガイからの昆虫、明倉三千夫の養子となった13番目の娘の存在に関わる情報は改ざんされている。


神山九郎
神山 九郎(かみやま くろう)

65歳。第9の事件の犠牲者。カルト宗教団体「聖なる啓示」摘発に関わった元刑事。刑事を引退した後、妻を亡くし、現在は神奈川県箱根山の麓に1人で暮らしている。
強い正義感と刑事としての長年の勘から、「聖なる啓示」が引き起こした事件の裏に何かを感じ取った彼は、捜査終了後も六道の元に幾度か足を運んでいた。
妻との間に子供はおらず、事件後に身寄りのなかった六道の12番目の息子を引き取り、透次と名付けて育ててきた。彼を引き取った理由も1つには事件の真相を探り当てることが目的であったが、「普通の子供」のように見える彼に次第に気を許し、本当の息子のように思うようになっていた。


十文字真
十文字 真(じゅうもんじ まこと)

42歳。警視庁刑事部捜査第一課所属のベテラン刑事で、ノンキャリアからの叩き上げ。階級は警部。警察関係の探索者がいた場合は、その探索者の同僚や先輩になる。またそうでない探索者に関しても、彼の知り合いであるとするといいだろう。
強面ではあるが、根は優しく仲間思い。「聖なる啓示」の事件は彼が刑事になる前に起きたものであるため、17年前の事件については詳しくない。
シナリオの序盤においては探索者の協力者として、必要に応じて彼にサポートをさせるといいだろう。しかしシナリオ終盤では第10の事件のターゲットにされる。窮地に陥った彼を救うことができるか、それは探索者の行動次第だ。

年齢:42歳 職業:刑事
STR 50 CON 60 SIZ 70 INT 55 POW 70 DEX 75 APP 65 EDU 70
正気度 70 耐久力 13 幸運 30
DB:0 ビルド:0 MP:14 移動:7
近接戦闘(格闘) 60%、ダメージ 1D3+DB
射撃(拳銃) 40%、ダメージ1D8
回避 40%
技能:目星70%、聞き耳65%、信用25%、心理学55%、
運転(自動車)50%、説得60%


霜月士
霜月 士(しもつき つかさ)

38歳。東京大学卒のエリートで、警視庁刑事部捜査第一課強行犯係の管理官。階級は警視。一ノ瀬マリの殺害事件から、本事件の捜査本部の指揮を取ることになる。
自分の能力に絶対の自信を持っており、現場の刑事たちを格下の駒としてしか考えていない。日頃から他人の意見は聞かず、周りに対して高圧的な態度を取ることもある。
常識や机上の理論にとらわれて、超常的な事象の絡む今回の事件では犯人に翻弄される。第10,11の事件では、そんな性格が犯人に利用されることになるだろう。

年齢:38歳 職業:刑事
STR 60 CON 50 SIZ 65 INT 75 POW 50 DEX 45 APP 60 EDU 80
正気度 50 耐久力 11 幸運 45
DB:1D4 ビルド:1 MP:10 移動:7
射撃(拳銃) 35%、ダメージ1D8
技能:信用35%、心理学40%、図書館70%、威圧60%、経理70%


神山透次
神山 透次(かみやま とうじ)

23歳。警視庁刑事部に配属された若手刑事。外観は中肉中背にこれといった特徴のない顔、どことなく頼りなさげな平凡な若者。
その正体は17年前にテロ未遂事件を起こしたカルト宗教団体「聖なる啓示」の教祖、六道輪廻の12番目の息子「トゥエルブ」こと六道十二(りくどう とうじ)。
事件の後、児童養護施設「ななほし学園」に引き取られていた彼は、中学卒業と同時に神山九郎が養子にむかえられて今の名前に改名している。彼の出自は伏せられており、警察内でも彼の過去を知る者はいない。
彼らはシュブ=ニグラスの混血として産み落とされた邪悪な存在だ。やがて成長した彼は生き残った妹と共に教団の意思を継ぎ、大いなるものたちを再びこの地上に呼び戻すための計画を実行に移す。

年齢:23歳 職業:刑事
STR 60 CON 75 SIZ 55 INT 60 POW 85 DEX 75 APP 70 EDU 65
正気度 0 耐久力 13 幸運 60
DB:0 ビルド:0 MP:17 移動:9
近接戦闘(格闘) 40%、ダメージ 1D3+DB
射撃(拳銃) 50%、ダメージ1D8
回避 50%
技能:目星65%、聞き耳70%、信用18%、クトゥルフ神話15%、
オカルト50%、言いくるめ70%、威圧80%、追跡60%
呪文:門の創造、神格との接触/アイホート、神格との接触/ムナガラー


神山ひとみ
神山 ひとみ(かみやま ひとみ)

20歳。本名は六道一十三(りくどう ひとみ)。「サーティーン」と呼ばれた六道輪廻の13番目の娘で末っ子にあたり、教団に作られた混血児たちの中で最も強大な魔力を持っている。黒いロングヘアの儚げな美人。喋り方はやや幼く、兄の前では純真な子供のような笑顔を浮かべて話す。
17年前の事件の際はまだ3歳。事件の後は兄と共に「ななほし学園」で暮らしていたが、やがて明倉三千夫に引き取られ、屋敷の地下室に長らく監禁されることになる。
その自我は不安定で人間には理解のできないものだ。兄の神山透次には異常なまでに依存しており、計画の最中であっても、仕事にかかりきりの兄の元へ手作りの弁当を届けに来たりもする。

年齢:20歳 職業:狂信者
STR 40 CON 55 SIZ 45 INT 80 POW 100 DEX 60 APP 75 EDU 55
正気度 0 耐久力 10 幸運 50
DB:0 ビルド:0 MP:20 移動:8
技能:クトゥルフ神話10%、オカルト60%、魅惑70%、心理学50%
呪文:グラーキの招来/退散、シュブ=ニグラスの招来/退散、神格との接触/ダオロス、神格との接触/バイアティス





導入

探索者が通報を受け、事件現場であるマンションの一室にやってきたところからシナリオは始まる。探索者は刑事であるかもしれないし、過去に警察に協力していくつも事件を解決してきたような探偵、あるいはその知り合いかもしれない。同じく事件を担当する刑事の十文字真と神山透次は先に現場に到着しており、後からやってきた探索者に対して今回の事件の概要を説明する。

<第一の事件>
被害者は都内のテレビ局に務める元アナウンサーで、現在はタレント・女優としてバラエティ番組やドラマなどで活躍する一ノ瀬マリ(46)。
第一発見者は彼女のマネージャの女性で、彼女を迎えに行ったところインターフォンの呼びかけに反応がなく、ドアには鍵がかかっていなかったため部屋の中を確認したところ、 リビングで血まみれになって倒れている彼女の「上半身」を発見した。

一ノ瀬マリの部屋は凄惨な有様で、遺体は既に片付けられているものの、周囲は飛散した血で赤く染まっている。リビングの床には白いテープが人の形に貼られており、そこで遺体が発見されたことが分かる。そしてテープが貼られたその床には、被害者のものと思われる血液で直線や角度を組み合わせた複雑な図形が描かれている。
〈オカルト〉ロールに成功した者はそれが何らかの魔術的な意味を持ったものであることに気づくことができるだろう。また〈科学/数学〉に成功した探索者は、この図形が高度に数学的な図形であることにも気がつくことができる。
さらに現場を確認している探索者の元に神山透次がやってきて「現場にこんなものが残されていました」と言いながら奇妙なものを見せる。それは古びて黄色く変色した紙を何枚か綴った手描きの手稿で、1枚目には『The Revelation of Gla'aki I』と記されている。〈英語〉ロールに成功したり、機械翻訳などを用いれば、これが日本語で『グラーキの黙示録 第I巻』という意味だと分かる。この手稿は全て英語で書かれており、この場で全て読むことはできないが、パラパラとページをめくって見た場合、その中に床に描かれたものと同じ図形が記されていることに気づくことができる。



I. タフ・クレイトゥールの逆角度

やがて現場の検証が終わると、警察署に設立された捜査本部で、探索者は捜査会議に参加することになる。捜査の指揮を取るのは警視庁刑事部捜査第一課強行犯係の霜月士。彼は何人もの部下を引き連れて、物々しい雰囲気で会議室へとやってくる。会議が始まると、今回の事件について現時点で分かっている情報が開示される。

<事件の情報>
被害者は一ノ瀬マリ。死亡推定時刻は死体発見の1時間前で、死因は失血死。現場には奇妙な図形と手描きの手稿が残されていた。この手稿は英語で書かれており、タイトルは『グラーキの黙示録 第I巻』と訳すことができる。また現場の床に描かれていた図形と同じ図形が、この手稿の中に記されていた。
さらにマンションの部屋で一ノ瀬マリの上半身が発見された同時刻、山梨県の山中で彼女の遺体の下半身が発見された。
発見したのは付近に住む住人で、農作業に向かう途中のヤブの中に横たわっていたという。さらに地面にはマンションで発見されたのと同じ図形が彼女の血で描かれていた。
しかしここで疑問が残る。彼女の死亡推定時刻は遺体発見の1時間前であるにも関わらず、上半身が発見されたマンションから下半身が発見されたその場所までは少なくとも3時間以上がかかるのだ。これは何かのトリック、あるいは非現実的な話ではあるが、超常的な力によって彼女の下半身だけが現場のマンションから3時間離れた場所に移動させられたことを示している。
こうして状況の確認が終わり、会議が終了して各自が捜査に乗り出そうとしていたその時、署内に設置されたスピーカーから新たな事件発生の知らせが流れる。都内にある公園で事件が発生、男性1名が死亡したというものだ。 有名人の殺人事件で手柄を上げたい霜月は「そこのお前たち、行って来い」というように探索者に頭ごなしに命令をして、新たに起きた事件の現場に向かわせる。

<キーパー向け情報>
探索者が第2の事件現場に向かう際は神山透次と別行動となるようにしなければいけない。彼は探索者が第2の事件現場に向かっている間、並行して発生する第3の事件現場に向かってもらわなければいけないためだ。
もしも探索者が彼を連れて行こうとした場合は、一ノ瀬マリの事件についての報告書をまとめなければならないなどと、適当な理由を付けて別行動するようにすること。



II. 緑の崩壊

第2の事件が起きたのは都内のとある公園。現場に到着した探索者が事件の目撃者からは事件の概要を聞くことが出来る。

<第二の事件>
事件が起きたのは昼の2時。公園にスーツを着た中年の男がフラフラとやってきて、突然その場で苦しみ始めると同時に、ぐずぐずと崩れて緑色のドロドロした液体に溶けてしまった。現場には異臭を放つ緑色の液体と男が着ていた衣服が残っているだけで、かけつけた救急隊も打つ手がなく困惑している。
緑色に溶けた異様な男の亡骸を目撃した探索者は〈正気度〉ロールを行い、0/1D3の正気度ポイントを失う。死体の周囲をさらに調べるのであれば、ボロボロの紙を綴った手書きの手稿が近くに落ちていることに気づく。手稿の表紙には『The Revelation of Gla'aki II』と記されており、日本語に訳せば『グラーキの黙示録 第II巻』と読むことができる。
男は身分を証明するものは何も持っておらず、この時点では身元を知る術はない。ここでできることは、溶けた男のサンプルを採取し、解析に回す程度のことだろう。これは後に警察が男の正体を突き止める手掛かりとなるため、探索者がサンプルを採取しない場合は同行していた鑑識などがサンプルを採取する。



III. バイアティスの幽閉

やがて第2の事件現場を捜査をしていると、警察署から第3の事件発生の緊急連絡が届く。

<第三の事件>
被害者は明倉三千夫という上場企業の社長で、自宅の地下に作られた牢屋のような部屋で死亡していた。
第一発見者は神山透次。直前に警察に匿名の通報があり、かけつけたところ死体を発見したのだ。この時の通報者の正体は分かっていない。
探索者は第2の事件現場の検証は残りの者に任せ、現場へ向かうよう伝えられる。現場に行くと数人の捜査官の中に神山の姿がある。
死体は地下室に残されたままで、牢獄のように鉄格子で仕切られた部屋の奥に倒れている。体中に蛇に巻きつけられたような跡があり、死因は首を絞められたことによる窒息死と思われる。また神山によると、牢屋の鍵は何者かにこじ開けられた形跡があり、被害者以外の指紋も検出されたことから、直前まで誰かがここに捕らえられていたと分かる。
さらに現場を調べるのであれば、牢屋の奥に落ちている『The Revelation of Gla'aki III』、すなわち『グラーキの黙示録 第III巻』を発見することができる。



2日目の捜査

2日目。探索者が警察署にやってくると、緊急の会議に呼び出される。
会議では、第4の事件が起きたという知らせを受ける。事件が起きたのはこの日の深夜2時。インターネット動画サイトで配信中のゲーム実況者が突然苦しみはじめて死亡したというものだ。被害者の名前は四谷厚。現場には『グラーキの黙示録 第IV巻』が残されていたことから、これまでの事件との関連性が疑われている。
また会議の参加者らには『グラーキの黙示録』の1〜3巻をそれぞれ日本語にした概要が捜査資料として配られる。
捜査を指揮する霜月は、これまでの事件が『グラーキの黙示録』の内容に従った見立て殺人の可能性があるとして、『グラーキの黙示録』に関する情報を集めるために、御津門大学の民俗学教授、吾妻星弥という人物が協力を名乗り出ていることを説明する。



グラーキの黙示録に関する資料

1時間をかけて、前日までに入手したグラーキの黙示録に関する資料を読むことができる。これらは数枚のプリントに日本語に翻訳されて簡潔にまとめられ、それぞれの事件現場との相違点が指摘されている。

<第I巻>
はるか彼方の星より地球へ到来した、グラーキと呼ばれる神の存在が示唆されており、この神を地球へと運んだ『タフ・クレイトゥールの逆角度』と呼ばれる呪文についても言及されている。この呪文に用いられる魔法陣が、第一の事件現場に描かれていた魔法陣と同一のものであることが現時点で分かっている。

<第II巻>
グラーキによって作り出されたアンデッドの怪物と、その末路について記されている。 グラーキは背中に無数の棘を持ち、その棘に刺されて死んだものはグラーキの従者となってよみがえる。彼らは光には弱く、日光のような強い光を浴びると『緑の崩壊』を起こして緑色に溶けてしまうことが説明されており、第2の事件状況と一致する。

<第III巻>
バイアティスという大いなる存在について言及されている。この存在は古い城に幽閉されているとされており、牢獄のような部屋で発見された明倉三千夫の死亡状況を示唆していると考えられる。



神山ひとみとの遭遇

捜査に出かけるタイミングで、1人の若い女性が警視庁のロビーに待っているのを見かける。彼女は神山ひとみと名乗り、兄の神山透次に弁当を届けに来たと説明する。
探索者にとって、彼に妹がいたということは初耳だ。また他の刑事に尋ねても、十文字を含めて知っていた者は誰もいない。しかしINTロールに成功した探索者は、どことなく似た雰囲気からたしかに兄妹だと感じることができる。
彼女は「お仕事がんばって」「でもあまり危ないことはしないでね」などと兄とにこやかに会話をする。神山は照れたような表情を浮かべて応対する。探索者が茶々を入れるのなら、神山透次は「勘弁してくださいよ」などと焦ったり困ったりした顔を浮かべる。
この後、探索者は第4の調査を行うか、あるいはグラーキの黙示録に関する情報を集めるために御津角大学の吾妻教授のところに向かうことができる。
プレイ時間を節約するため、この日は前述のうちどちらか一方しか行うことができないものとしてもいい。この場合、探索者が調査しなかった情報については、夕方、警察署に戻ったタイミングで他の刑事から報告が上がってきて知ることができるものとする。



VI. 迷宮の神

四谷厚は都内のマンションの一室に住んでいる。年齢は24歳。1人暮らしで、ゲーム配信やブログの広告収入などを頼りに生活している。事件が起きた際の動画はインターネット上に多数アップロードされており、パソコンやマートフォンなどでサイトにアクセスすれば見ることができる。
動画の中で四谷の凄惨な死亡シーンを目撃した探索者は0/1D3の正気度ポイントを失う。また動画を見た探索者が〈目星〉ロールに成功すれば、彼が持っていた書物の表紙に『The Revelation of Gla'aki IV』と記されていたことに気づくことができる。部屋の中をくまなく探すのであれば、死体があったパソコンの近くにグラーキの黙示録の第4巻を発見することができる。

<動画の内容>
内容は最近人気のFPSの実況動画で、中央にはゲーム画面、左隅には四谷の姿が映し出されている。太り気味の体型はお世辞にも健康そうには見えず、髪はぼさぼさで目の下には深いクマができている。

「ふっふっふ、愚民どもが僕に勝とうなんて100年早いからね…」
男は腕はそこそこなようで、それなりに勝っていく。
やがてしばらくすると、ゲームの中で銃声が響いて、画面が真っ赤に染まる。
敵に撃たれたようだ。
「あー、もうやられた。なんだかイライラしてきたな。フン」」
ゲームの画面が終了して、男の正面にカメラが切り替わる。
男は立ち上がり、よろよろと部屋を出ていく。カメラはそのまま回り続ける。
しばらくすると男が無言のまま戻ってくる。
右手には古い紙の束あるいは薄い書物のようなものを持っている。
「う……うぐ……」
おぼつかない足取りで、席へとゆっくり戻ってくる。表情はどこか虚ろだ。
「ぐ・・・!はぁ、はぁ。う・・・!」

ガタタ!

男が倒れこみ、カメラが倒れて画面が激しく揺れる。
次に男の顔がアップになる。目は異様に血走っている。
「腹…が、たすけ………救急……あああ!」
男が後ずさる。全身が画面に映る。
次の瞬間、何かが破裂するような音と共に、男の腹が血飛沫を上げた。
膝から崩れ落ち、地面に倒れる。
男の中から現れた無数の白く小さな何かが、
床を這い回って、カメラの死角へと消えていく。


<グラーキの黙示録 第IV巻>
研究には3週間かかり、シナリオ中では完全に理解することはできない。代わりに全体に軽く目を通す場合、〈英語〉ロールに成功するか機械翻訳などを使用してハード難易度の〈母国語〉ロールに成功すれば、そこに記されている「アイホート」と呼ばれる存在が、小蜘蛛にも似た子供を人間の腹に産み付けるという記述に気づくことができる。


四谷の動画

四谷の動画を見た探索者は0/1D4の正気度ポイントを失う。さらに彼に関して〈図書館〉ロールに成功すると、彼が過去にアップロードしていた動画を確認することもできる。また現場で彼のパソコンを入手した場合は、〈コンピュータ〉技能に成功してパソコンの中身を調べることでも同じように情報を入手することができる。

<四谷の動画>
これらの動画の中で、彼のかつての中学の同級生にいじめを行っていたと武勇伝のように語っている。相手はテロ事件を引き起こした「聖なる啓示」というカルト教団の指導者、六道輪廻の息子で、他の同級生たちと一緒に彼をいじめていたという話が、正義の味方気取りの武勇伝のように語られており「今思えばやりすぎだったかもしれないけど、まあ、自業自得だよね」などという言葉で締めくくられている。

「聖なる啓示」に関しては〈知識〉ロールに成功すると、かつて存在したカルト教団で、17年前、日本で生物兵器を使ったテロを計画して警察に摘発される様子が大々的に報道されていたことを思い出す。さらに詳しく調べる場合、探索者が〈図書館〉ロールに成功したならば、キーパーは後述の「17年前の事件」の情報を開示する。



V. 先触れにして造物主

吾妻星弥の研究室は、御津門大学民族学教室の一角にある。探索者が彼の研究室に行くと、ネームプレート横のマグネットの表示は教授が在室であることを示しているものの、部屋は明かりが消えていて薄暗い。部屋の入り口には鍵がかかっておらず、ノブを回せば簡単にドアが開く。
部屋の中には資料、書籍などを納めた本棚、窓際には教授のものと思われるデスクがあり、そして吾妻星弥は天井から吊るしたロープで首を吊って死亡している。彼の周りにはなぜか、クリスマスツリーなどに使われるような星型の飾りが8つ、天井から吊り下げられている。星飾りは7つが黄色、残り1つだけが赤い色をしている。そのような場面に遭遇した探索者は0/1D3の正気度ポイントを失う。
〈天文学〉またはハード難易度のINTロールに成功した探索者は、黄色い星の飾りが太陽系の惑星の配置、中心にある吾妻の死体の位置は太陽を表しているのではないかと気づくことができる。そして赤い星飾りだけが、太陽系のどの惑星にも該当しないものであることが分かる。
教授の机の上には1冊の古びた綴じ本が置かれており、タイトルを見れば、それが『グラーキの黙示録 第V巻』であることが分かる。

<グラーキの黙示録 第V巻>
研究には3週間かかり、シナリオ中では完全に理解することはできない。代わりに全体に軽く目を通す場合、〈英語〉ロールに成功するか、機械翻訳などを使用してハード難易度の〈母国語〉ロールに成功すれば、そこに記された「先触れ」「造物主」「赤い星」、そして「グロース(Ghroth)」という単語を拾い上げることができる。

本棚を調べると、そこには各地のカルト的な宗教に関する資料が並んでいることが分かる。〈図書館〉ロールに成功した探索者は、その中で最近貼られたものであろう、真新しい付箋が貼り付けられた書物を発見することができる。
中身は日本語で記されており、世界中の様々なカルトについて取り扱ったもののようだ。付箋の貼られた箇所には「聖なる啓示」という日本のカルト団体と、そのカルトが起こした事件、そして彼らの信仰の対象について記されている。キーパーは後述の「17年前の事件」と「グラーキの黙示録」の情報を開示する。
この後、他の警察官も現場にかけつけ、現場の調査が行われることになる。一方探索者の元には、新たな事実が判明したとの本部からの連絡が入り、本部に呼び戻される。



17年前の事件

「聖なる啓示」について書籍やインターネットや当時の資料などを調べる場合、探索者が〈図書館〉ロールに成功したなら、以下の情報が開示される。

<17年前の事件>
17年前、「聖なる啓示」を名乗るカルト教団が国家転覆をもくろみ、生物兵器を使ったテロを計画していることを公安警察が察知。教団施設への突入が行われ、その際、暴徒と化した信者たちと警察隊が衝突。教団幹部や教祖・六道輪廻の子供たちを含む数百人の信者が犠牲になった。彼らが信仰に用いていた教典が『グラーキの黙示録』と呼ばれるものであったとされている。
この教団の教祖である六道輪廻という人物が首謀者として逮捕され、死刑が確定し、現在は刑務所に収監されている。
六道には当時13人の息子・娘がいた。彼らの母親は分かっていない。そして事件の際には11番目の子供までが死亡、残る「トゥエルブ」と呼ばれていた息子と「サーティーン」と呼ばれていた娘が都内の「ななほし学園」という児童養護施設に引き取られたことになっている。

<グラーキの黙示録>
イギリス南東部、セヴァン谷のカルトにより執筆された彼らの崇拝、儀式の記録。リバプールで出版された全9巻のフォリオ判の他、11巻までの写本の存在が確認されている。「聖なる啓示」が所有、信仰したのは、そのうち11巻までの写本で、その概要が次に記されている。

<I巻>グラーキに関わる魔女のカルトとその儀式
<II巻>グラーキの不死の従者と、緑の崩壊
<III巻>幽閉されしバイアティス
<IV巻>迷宮の神、アイホート
<V巻>先触れにして造物主たるグロース
<VI巻>ムーン=レンズとその守護者
<VII巻>シャッガイからの昆虫
<VIII巻>ザイクトロルからの怪物
<IX巻>ヴェールを剥ぎ取る者、ダオロス
<X巻>ムナガラー、膨れ上がって触肢のついた内臓の塊
<XI巻>夢のクリスタライザーと称される、夢の世界へと誘うアーティファクト


インターミッション

1日の捜査を終えて警視庁に戻ると、鑑識からの鑑定結果が上がってくる。それによればDNA鑑定の結果、第2の事件で死亡した人物がカルト教団「聖なる啓示」の幹部であったことが分かる。また第3の事件で死亡した明倉三千夫の戸籍や家族構成などに関する情報がすべて消去されていることが警察の調べにより分かる。これらの情報を管理していたのは役所の担当者である八木沢海里という人物だが、数日前から仕事を無断欠勤しており連絡がつかないことが分かる。
さらにこの事件ついて他の被害者との関連性を調べたならば、その事件をセンセーショナルに報道していたのが第1の事件で死亡したアナウンサー、第4の事件で死亡した四谷厚も、自身の動画やブログの中で面白半分に事件のことを取り上げていたことが分かる(四谷厚に関しては前述の「四谷の動画」を参照)。
探索者が特に指定をせずに漠然と事件についてさらに調べようとした場合は、〈図書館〉ロールに成功したならば、同じ情報を手に入れることができる。
また警察署内の資料などを調べるのであれば、六道の子供たちが預けられた児童養護施設「ななほし学園」の住所、連絡先などが判明する。



3日目の捜査

3日目は前日までの情報を元に、それらに関わる調査が主軸になると想定される。この日の捜査によって、探索者は神山透次が事件に絡んでいることを知ることになる。彼はこの日は探索者に同行せず、警察署にも姿を現さない。彼について他の刑事に尋ねれば、この日は朝から警察署に来ておらず、連絡がとれないことが分かる。
さらに「十文字からの連絡」のイベントにつなげるために、十文字も探索者とは別行動を取るものとする。彼は朝から書類の整理や報告書の作成に追われているため、現場の捜査に関しては探索者に任せる形にするなどして、キーパーは探索者と彼が別行動となるように調整すること。

この日の主な探索場所としては、以下のようなものが挙げられる。

・刑務所で六道と面会する
・六道の子供が預けられた童養護施設を訪れる
・八木沢の自宅を訪れる

探索者は必ずしもこれら全ての調査を行う必要はない。これらのうち2箇所までを調査して、事件が神山透次につながっていること、および彼の義父である神山九郎の住所が判明した時点で、キーパーは「十文字からの連絡」のイベントを発生させ、事態を最終局面へと移行させる。もちろんプレイ時間に余裕があるのであれば、3箇所全てを回った後で「十文字からの連絡」のイベントを発生させてもいい。



VI. ムーンレンズを守護する者/東京刑務所

探索者が職員に事情を伝えて手続きを行えば、六道との面会を許可してもらうことができる。職員は探索者を仕切りのアクリル板の1m以内に決して近づかないようにと注意をしながら面会室へと案内する。職員は次に六道を呼び出しに行くのだが、ここで監獄に向かった職員の悲鳴が聴こえてくる。
探索者が向かうと、そこでは六道が死んでいる。彼はどこからか入手したナイフで首をかき切り、流れ出た血液で壁に奇妙に歪んだ人々の絵を描いている。それは人間のようにも見えるものの、手足の尖端や頭部の一部は山羊のそれのように変異しており、集団で何かの儀式を行うように踊っているようにも見える。
彼の死体の近くには『グラーキの黙示録 第VI巻』が残されており、近くにはそれが入っていたと思われる封の切られた封筒を発見することができる。
封筒の送り主を見ると「神山九郎」と記されている。神山九郎は17年前のカルトの捜査にも関わっていた刑事で、現在は引退しているものの、現役時代からこれまでも何度か六道とのやりとりをしており、職員も送られてきた封筒に不審を抱かなかったのだ(しかし実際には、これは神山透次が父の名を騙って送ったものだ)。
探索者が封筒の人物について職員にたずねたならば、神山九郎の名前と住所などを教えてくれる。また古くからの警察関係者に聞き込みを行ない(〈説得〉、〈魅惑〉、APPなど、対人関係のロールを行わせてもいい)、神山が既に引退したベテランの刑事であり、17年前の事件の捜査に関わっていたことが分かる。 もし知識ロールに失敗しても、後から他の者にたずねたり、神山九郎について調べれば、同じ情報を手に入れることができる。

<グラーキの黙示録 第VI巻>
研究には3週間かかり、シナリオ中では完全に理解することはできない。代わりに全体に軽く目を通す場合、〈英語〉ロールに成功するか、機械翻訳などを使用してハード難易度の〈母国語〉ロールに成功すれば、いくつかのキーワードを拾い上げることができる。
成功した探索者はムーン=レンズと呼ばれるものとその守護者、そしてシュブ=ニグラスという単語がたびたび登場することに気づくことができる。
ムーン=レンズの守護者は地下に住み、犠牲者はシュブ=ニグラスの祝福を受けしものとして様々な変異を起こした姿で復活するとされている。


VII. シャッガイからの昆虫/児童養護施設「ななほし学園」

ななほし学園では七海鈴花が対応する。彼女は2人がこの施設で皆と仲良く、とても楽しそうに暮らしていたのだと何度も強調する。そして彼女から2人が既に別々の家庭に引き取られたことが分かる。
彼女の話によると、彼らの1人は第3の事件の被害者でもある明倉三千夫で、もう1人は神山九郎という元警察官の男だ。神山九郎については年配の警察関係者に聞き込みを行えば、前述の『VI. ムーンレンズを守護する者』と同じ情報を入手することができる。
話を聞いている途中、彼女は毒の入ったお茶を飲ませようとする。このお茶を飲んだ探索者はCONロールを行う。失敗すると体がしびれて意識を失っていく。成功してもしばらくの間は肉体的な行動を伴う判定にペナルティダイス1個が与えられる。
探索者がお茶を飲んだか否かに関わらず、2人が引き取られたという話の後、彼女の様子は徐々におかしくなっていく。キーパーは彼女の言葉として次のセリフを読み上げる。

それにしても、2人がいなくなって寂しかったわ。
他のみんなも、おかげでいじめる相手がいなくなってしまったって。
もっともっと、いたぶって、苦しめて、あの2人を…
あれ、私はどうしてこんな話を……
違う、あの子たちには、本当に、私は幸せに苦しんでデ…デ……
アレは…バケもの……助け………

しゃべるうちに彼女は頭を抑えて苦しみはじめる。彼女の言葉は彼女の本位ではなく、脳に寄生したシャッガイからの昆虫が言わせているものだ。次第に彼女は白目を剥き、しかし口元は狂ったように葉をむき出しにして笑いだして、やがて悲鳴を上げるとその場に倒れてしまう。
彼女が倒れると、彼女のエプロンのポケットから『グラーキの黙示録 第VII巻』の切り抜きが床に転がり落ちる。
〈聞き耳〉ロールに成功した探索者は、どこからともなく聞こえた「ブン…ブーン」という、巨大な虫の羽ばたく音を聞く。倒れた彼女の後頭部は、砕けた頭蓋骨がむき出しになっており、そこからは既にぐちゃぐちゃになっている中身が見える。このような異常な現場に遭遇した探索者は1/1D4+1の正気度ポイントを失う。

<グラーキの黙示録 第VII巻>
研究には3週間かかり、シナリオ中では完全に理解することはできない。代わりに全体に軽く目を通す場合、〈英語〉ロールに成功するか、機械翻訳などを使用してハード難易度の〈母国語〉ロールを行う。成功した探索者はいくつかのキーワードを拾い上げ、シャッガイという星に住む昆虫、そして彼らが信仰するアザトースという神について言及されていることが分かる。さらにこの巻には、この退廃的な昆虫が星々を彷徨い、異なる種族の精神に巣食い、奴隷にし、拷問や殺戮を繰り返すことが記されている。


VIII. ザイクトロルからの怪物/八木沢の自宅

八木沢海里は市内の一軒家に住んでいる。結婚はしておらず、両親は既に他界しており1人暮らし。自宅には数日前まで生活していた様子はあるものの、人の気配はない。
探索者が家の中をくまなく調べるのであれば、彼の書斎で紛失していた明倉三千夫に関する資料を発見することができる。

<明倉三千男に関する資料>
明倉は児童養護施設から多くの子供を養子にしており、さらにそのうちのほとんどが既に死亡している。最後に養子にされて現在も生存している人物は明倉一十三(ひとみ)、7年前に養子にされており、現在の年齢は20歳。彼女はカルト教団「聖なる啓示」の教祖、六道輪廻の娘だったとされている。

さらに裏手にある庭では八木沢の変わり果てた姿を発見できる。彼の体は庭にある大きなブナの木に、植物の蔦のようなもので縛り付けられている。遺体はところどころが欠損しており、それらは細かくきざまれて、木の枝や葉の上に散りばめられている。それはまるで、遺体が木に捕食されているかのようにも見える。
その木には彼の死体と一緒に『グラーキの黙示録 第8巻』が縛り付けられている。

<グラーキの黙示録 第VIII巻>
研究には3週間かかり、シナリオ中では完全に理解することはできない。代わりに全体に軽く目を通す場合、〈英語〉ロールに成功するか、機械翻訳などを使用してハード難易度の〈母国語〉ロールを行う。成功した探索者はいくつかのキーワードを拾い上げ、シャッガイからの昆虫の奴隷である灰色の丸い葉を持つ植物のような怪物と、その母星であるザイクトロルついての言及がされていることに気づくことができる。


十文字からの連絡

3日目の捜査によって、探索者はやがて神山の周りに何かがあると考えて行動を起こそうとすることが想定される。探索者が警察署や神山の自宅などに移動をしようとしたところで、探索者の元に十文字から電話が入る。彼は息が切れていて、慌てた口調で探索者に次のように伝える。

「3番目の事件、明倉三千夫が死亡していた地下室から、お前たちの指紋が検出された。
 はめられたんだ、何者かに。霜月はお前たちを容疑者としてお前たちを追っている。
 そして、俺は今、お前たちをはめたその何者かに……」

ドゴッ

電話越しに鈍い音が聞こえる。直後、電話が切れる。
そして彼の言葉を裏付けるように、遠くからサイレンの音が聞こえてくる。




最終局面へ

十文字からの電話を受けて、探索者はその場から逃げ出し、神山九郎の自宅へと向かおうとするだろう。彼の自宅は神奈川県箱根山の近くの静かな土地にある。神山九郎は警察を引退後、この家に夫婦で暮らしていたのだが、2年前に妻を亡くして以来は1人で住んでいる。
彼の自宅に向かう途中、探索者はラジオから流れてくる、第6,7,8の事件発生のニュースを耳にすることだろう。ニュースの中ではそれぞれの被害者の名前や、これまでの事件と同じ書物が置かれていたことから、昨日から続く一連の事件と関係があるとみて警察が捜査を進めているとの内容が報道されている。

やがて箱根の街に入ると、いくつかの看板を目にすることになる。それは今日の夜、芦ノ湖の湖畔で音楽イベントが開かれるというものだ。よくみれば普段は人通りの少ない田舎に多くの若者が往来している様子に気づくことができる。これはクライマックスのシーンの伏線となるため、キーパーは忘れないように情報を提示すること。



IX. ヴェールを剥ぎ取る者/神山九郎の自宅

しばらく車で移動すると、神山九郎の自宅に到着する。彼の自宅は2階建ての一般的な日本家屋で、玄関先は手入れの行き届いた庭木で飾られている。
しかし家の中に人の気配はなく呼び鈴を押しても反応はなく、玄関の扉に手をかければ、鍵はかかっていないことが分かる。家の中を調査するのであれば、探索者は2階にある書斎の奥の机の前に、1人の男が椅子に座っているのを発見する。よく見れば男は干からびて乾燥し、半ばミイラのように成り果てている。ここで死んでいる彼は、9番目の犠牲者となった神山九郎だ。
さらに彼の死体はなぜか両目がえぐり出されており、そこにはぽっかりと穴が空いている。そして彼が座る机の上には奇妙な形をした、複雑な直線が様々な角度で組み合わさったような幾何学的なオブジェが置かれている。これは”ヴェールを破るもの”ダオロスを形取った像で、後述する呪文「真実の眼」を使用する際に用いることができる。さらにその下には 『The Revelation of Gla'aki IX』と書かれた綴じ本、即ち『グラーキの黙示録 第9巻』が置かれている。
また書斎の机は1つだけ開きかけた引き出しがある。そこには何も入っていないように見えるものの、〈目星〉あるいは〈隠密〉、〈手さばき〉、INTなどのロールに成功した探索者は、この引き出しが二重底になっていることに気づくことができる。そして二重になっている底を外すと、そこに隠された神山の日記を発見することができる。

<グラーキの黙示録 第IX巻>
研究には3週間かかり、シナリオ中では完全に理解することはできない。代わりに全体に軽く目を通す場合、〈英語〉ロールに成功するか、機械翻訳などを使用してハード難易度の〈母国語〉ロールに成功すれば、いくつかのキーワードを拾い上げることができる。
成功した探索者は、この巻がダオロスという名の大いなる存在について言及したものであると理解する。異次元に住むこの神に出会った者は、ヴェールの裏に包まれた世界の真実を見通す力を手に入れることができるとされている。
さらにこの手稿を調べた探索者は、この書物の最後のページに残された神山九郎のダイイング・メッセージを発見することができる。そこには震えた文字で「LAKE」、つまり湖と文字が書かれていることに気づくことができる。これは芦ノ湖を指し示すもので、勘の良いプレイヤーであれば、神山透次たち兄妹が、芦ノ湖で行われる音楽イベントで何かをしようとしていることに気づくことができるだろう。

<神山九郎の日記>
日記には六道の息子、六道十二を引き取ることにしたことが書き記されている。
幼くして事件に巻き込まれ、世間からの敵意に晒されつづけてきた彼が人間不信に陥っていたこと、そんな彼を妻と共に懸命に育ててきたこと、透次と改名したことや、やがて心を開き、自分と同じ刑事を志すと言ってくれた時の喜びなどが書かれている。
しかし次第に神山九郎は時おり息子が見せる表情や言動に、不安を感じ始める。今までの透次の行動、それらすべては演技だったのではないか。彼は自分や妹の過ごしてきた地獄のような日々、社会の仕打ち、人間の愚かさを心底恨み、それらすべての復讐を遂げるためにこれまで生きてきたのではないか。
そして、彼が別の親元に引き取られて離れ離れになった妹を探すために刑事になったことに気づき、彼らの恐ろしい計画を知ったのだ。
彼は最後に、この日記を読んだ者に向けて、次のように記している。

"浅はかだった。彼らは本物の化け物だったのだ。
変わるはずがない、あれは人ではないのだ。黒山羊に産み落とされた、怪物だ。
私は彼を止めなくてはならない。そのために、あの書物に手を出したのだ。
全ての真実はこの先にある。それを手に入れなくては…。
おそらくは、君たちがこれを見ている時、私は既にこの世にはいないだろう。
多くの代償が付きまとう。
もしも私が失敗した時、願わくはどうか、彼ら2人を止めて欲しい。"

次のページには、神山九郎によって翻訳された呪文が残されている。

この呪文を習得するには、探索者がハード難易度のINTロールに成功する必要がある。プッシュ・ロールに失敗した場合、探索者は黙示録に刻まれた真実に深くのめり込んでしまうことになり、1D6の正気度ポイントを失う。

真実の眼(神格との接触/ダオロス)
ダオロスとの接触呪文の亜種。呪文のコストや効果などの詳細は「新クトゥルフ神話TRPG」P.246、『神格との接触呪文』を参照。
呪文の詠唱に成功すれば、探索者は”ヴェールを剥ぎ取るもの”ダオロスとの交信を開くことに加え、このシナリオではその報酬として、術者は1D6ラウンドの間、『真実を視る』眼を手に入れることができる。またこの呪文を使用する際、ダオロスの姿を形どった像を用いることで、呪文を唱える際のロールの成功率を元の2倍にすることができる。


真実の眼

「真実の眼」の呪文はこの場で即座に使用してもいいし、後述する「XI. 夢のクリスタライザー」のイベント中など、任意のタイミングで使用することができる。呪文を唱えると、探索者はダオロスとの交信を開き、1D6ラウンドの間、真実を視る目を手に入れる。この際、神山九郎の机に置かれていたダオロスの像を用いることで、呪文の成功率を2倍にすることができる。
この探索者の瞳にはこれまでヴェールによって隠されていた世界のおぞましい真実が映り込む。風景や建物は多角形に複雑に絡み合い、またドロドロと溶けた肉の塊や幾多の触肢がそこから伸びている。周囲にいる人間たちも歪んだ黒い影にも似た恐ろしい怪物のように見えるようになる。
このように、世界の真実を目撃してしまった探索者は1/1D6の正気度ポイントを失う。しかし一方で、この真実の世界を見た者にはただちにPOWロールを行うチャンスが与えられる。このロールに成功すると、ヴェールの剥ぎ取られた瞳で、世界に隠された深層の呪文を発見する。この呪文は発見者の精神に焼き付けられるように深く刻まれて、自動的に習得できる。このロールでプッシュ・ロールを行う場合、左右どちらかの目が永続的に虹色に輝くダオロスの眼に置き換わることになる。

神格の退散/グラーキ
呪文のコストや効果などの詳細は「新クトゥルフ神話TRPG」P.247-248、『神格の退散』を参照。
最初に代表者が5マジック・ポイントを消費することで、グラーキを退散させるための道を開くことができる。この時点で呪文の成功率5%が与えられる。そして追加で1マジック・ポイントを消費するごとに5%ずつ呪文の成功率が上昇する。 このマジック・ポイントは呪文の参加者であれば誰でも支払うことができるが、マジック・ポイントを支払う者1人につき追加で1ラウンドの時間がかかる。


X. 膨れ上がって触肢がついた目と内臓の塊/湖畔の幻

芦ノ湖では、今夜開かれる音楽フェスティバルのための準備が進んでおり、若者たちでごった返している。祭りに湧く会場ではあるが、ここには神山透次が仕込んだトラップが探索者を待ち受けている。これは探索者を夢の世界へといざなう「夢のクリスタライザー」という名のアーティファクトで、グラーキの黙示録11巻にその存在が示唆されているものだ。この効果により夢の世界に誘いこまれた探索者は、神山によって作り出された恐ろしい幻視を体験することになる。

探索者は警備員に駐車場へと誘導される。車を降り会場に急ぐ探索者は突然ヒィィンという音叉が響くような音を聞く。そして気がつけば、目の周りの光景が一片しているのだ。
探索者はいつの間にか音楽フェスティバルの会場などではなく、古い教会の礼拝堂のような場所にいる。探索者は近くからうめき声を聞く。見ればそこには十文字が倒れていて、額と肩から血を流している。彼には意識があり、探索者がやってきたことに驚く。そして早くここから出なければ行けないと探索者に告げる。
その時、正面にある祭壇の前に、虚ろな表情をした霜月が現れる。両手には『グラーキの黙示録 第10巻』と『グラーキの黙示録 第11巻』が握られている。彼の目は焦点が定まっておらず、口からはヨダレを垂らしたまま、天を仰ぐように2冊のグラーキの黙示録を頭上にかかげ、ぎこちなく次のように語る。

人類への…審判……さ、ささ…最後の啓示が、
くだ……くだった、のだ…。
13の……けい、啓示に、よって、
今こそ聖なる、湖畔に我らが…がが…神を。

すると突然、ガシャン!!!と教会の周囲の窓が割れて、外からは触肢の生えた血みどろの内臓の塊が押し寄せてくる。その塊にはうねうねと蠢く触肢が生えていて、至るところに眼があって、霜月を飲み込むと、そのままの勢いで礼拝堂を満たすように膨張を始める。このようなおぞましい肉塊を前にした探索者は1D4/1D10の正気度ポイントを失う。
キーパーは、このままでは探索者が大きく膨れ上がった内臓に押しつぶされてしまうだろうと伝え、不安と危機感を演出する。
礼拝堂の出口の扉は外側から鍵がかけられているが、どうやっても開くことはできない。探索者には、この危機を脱するための時間が3ラウンドだけ与えられる。



XI. 夢のクリスタライザー

1ラウンド分の行動を使って〈聞き耳〉ロールに成功した探索者は、部屋の片隅から聞こえるヒィィンと響く音に気づき、目には見えないものの、そこにこの世界を作り出している何かがあることに気づくことができる。この装置に1ポイント以上のダメージを与えれば破壊することはできるが、見えない物体に攻撃を命中させるには、攻撃技能にハードの難易度で成功する必要がある。

この状況を打破するもう1つの手段は「神格との接触/ダオロス」を使用することだ。招来の呪文とは異なりダオロスを呼び出すことにはらないが、代わりに探索者はダオロスとの交信を開き、しばらくの間、真実を見通す眼を手に入れることができる。ダオロスの眼を得た探索者は部屋の片隅に置かれた卵型の装置、夢のクリスタライザーを発見することができる。その装置がかすかに振動しながらヒィィンという音叉が共鳴するような音を発している。
この場合、装置に攻撃を命中させるためのロールは必要ない。探索者が宣言すれば、この卵型のアーティファクトを地面に叩きつけるなどして、簡単に破壊することができる。
ただしこの方法には副作用がある。それはしばらくの間、探索者の瞳が世界の真実を見通してしまうということだ。探索者には周囲の世界が異様に歪んだように見え、また他人の姿がまるで恐ろしい化け物に見えることになる。そのような世界の本当の姿を直視した探索者は、1/1D6の正気度ポイントを失う。

いずれにしても夢のクリスタライザーを破壊すると、ガラスにヒビが入ったように周囲の空間がひび割れて崩れ始める。そして同時に霜月の背後に黒い渦のようなものが現れて、その中から伸びたクラゲの触肢のようなものが彼の体を巻き取って、渦の中へと引きずり込んでいく。こうして探索者は目を覚ました探索者は、音楽フェスティバル会場の入り口に立っていて、さらに足元に落ちている『グラーキの黙示録 第10巻』と『グラーキの黙示録 第11巻』を発見することができる。

もし礼拝堂で3ラウンド以内に扉を開けることができなければ、違う展開になる。探索者は膨れ上がっていく触肢のついた目と内臓の塊、グレート・オールド・ワンであるムナガラーに押しつぶされて意識を失っていく。この場合も探索者は元の現実世界で目を覚ます。探索者自身は無事であるものの、その傍らには体の内側と外側が裏返しになって、内臓をぶちまけて死んでいる十文字の姿がある。このようなおぞましい霜月の死に様を目の当たりにした探索者は1/1D6の正気度ポイントを失う。



黙示録の時

クリスタライザーの見せる夢の世界から帰還すると、周囲は既に夜になっている。そして異様な光景が探索者の目に映る。
周囲には意識を失った来場客たちが倒れている。天球には大きな赤い星が頭上に輝き、足元を数百もの蜘蛛の子たちが闇の中へと走り去り、黒い昆虫が頭上を飛んでいく。
月の光は黒山羊のような影を作り出し、周囲の建物は複雑に歪み、木々は奇妙に丸い葉を揺らし、赤い肉片や内臓が悍ましく脈打ちながら蠢いている。
そして湖畔に建設されたステージの上には、神山透次と神山ひとみの姿がある。2人はそれぞれ、古びた手描きの手稿を手にしている。探索者が近づくと、透次は静かに探索者に向かって語り始める。キーパーは次のセリフを読み上げる。

もうすぐだ。もうすぐ黙示録の時が訪れる。
グラーキが水晶の跳ね戸を押し開け、大いなるものたちがこの地上に帰還するまで。
誰にも僕たちの邪魔はさせない。

もちろん時間が許す限り、ここで探索者と彼との間でやりとりをさせるといいだろう。彼はわざわざ生贄になるためにやってきてくれた探索者に感謝を述べる。彼の目的は17年前に兄姉を殺害し、自分や妹を散々な目にあわせてきた人類への復讐と、本来自分たちが生み出された目的である、大いなる存在を世に知らしめ、地上の真の支配者たらしめることだ。
注意するべきは、彼らはもはや人ではなく、彼らを説得するようないかなる言葉も彼らの心を動かすことはできないだろうということだ。彼とのやりとりが終わると、神山ひとみが『グラーキの黙示録』を広げて、唄うように呪文の詠唱を始める。そしてそれに応えるようにステージの背後にある湖の水面が山のようにもりあがり、グレート・オールド・ワン、グラーキが姿を現す。キーパーは以下の描写文を参考に、描写を行う。

湖から現れた巨大な怪物は背中に無数の棘を生やしていた。楕円形の体に、棘の生えていない頭部の中央には分厚い唇のある口があり、その少し上から生えている3本の触角の尖端には眼があって、闇の中で不気味に黄色く発光している。
それこそは湖畔に潜むグレート・オールド・ワンにして、水晶の戸を開く者──グラーキ。
グラーキはそびえるような巨体を起こし、咆哮とともに耳をつんざくような振動音を発生させた。

探索者はグラーキを目撃したことで〈正気度〉ロールを行い、1D3/1D20の正気度ポイントを失う。グラーキが完全に召喚されるまではここから5ラウンドを必要とする。それまでの間、グラーキは毎ラウンド、1D4本の棘を周囲に振らせて、観客をグラーキの従者に変える。そして5ラウンドが経過した以降は、その棘を容赦なくその場にいる者たち全員に投擲してくる。探索者はそうなる前に、グラーキの召喚を止める必要がある。
さらに神山透次も見ているだけではなく、拳銃を抜いて、その銃口を探索者へと向ける。また周囲に倒れている1D4人の来場客たちがふらふらと起き上がる。彼らは既にグラーキの従者(データは「新クトゥルフ神話TRPG」P.283のグラーキの従者の平均的な数値を用いる)にされており、グラーキの召喚を阻止しようとする探索者に襲いかかる。
十文字は怪我のため戦闘に加わることはできないが、代わりに探索者に自分が持っている拳銃を渡す。また地面には倒れた霜月の近くにも、彼の拳銃が落ちている。これらはデータ上は「新クトゥルフ神話TRPG」P.402の32口径リボルバーとして扱う。
グラーキの召喚を止めるには、次のような方法が考えられるだろう。これらはシナリオが想定する展開であるが、他にもプレイヤーから提案があれば、キーパーはプレイヤーの話をよく聞いて、それらに対する結果を描写すること。

■ グラーキを退散させる:
おそらくこれが最もスマートな解決方法だ。ダオロスとの接触を果たし、退散の呪文を獲得した探索者は、それを用いて彼らに対抗することができるだろう。
呪文が完成すると、芦ノ湖の湖面が白く光りはじめる。そして「キィィィィィン」という耳をつんざくような音と共に、その光がそびえる巨体を飲み込んでいく。開かれつつあった水晶の扉が再び閉ざされ、グラーキが元の住処へと帰っていくのだ。
探索者が気がつけば、周囲を覆っていた邪悪な気配は消え去り、異様な怪物たちの姿は消え、空には月が静かに光を讃えている。グラーキの従者にされていた者たちは、緑の崩壊を起こして、緑色のどろどろの液体に溶けてしまう。グラーキの召喚に失敗した神山ひとみは意識を失ってその場に崩れ落ち、計画の失敗を悟った神山透次は呆然と佇んでいる。

■ 神山ひとみを戦闘不能にする:
グラーキの召喚を止めるもう1つの方法は、術者である神山ひとみを気絶、あるいは死亡させることだ。この場合、神山透次は命がけで妹を守ろうとする。彼は探索者と彼女の射線上に立ちふさがるため、拳銃などで神山ひとみを狙うことは難しいだろう。近接攻撃であっても、彼女の元に行くためには神山透次に対してSTRあるいはDEXの抵抗ロールに勝利する必要がある。神山ひとみは呪文に集中しているため、回避や応戦などは行わない。彼女が意識を失うか死亡すれば、呪文の詠唱は止まりグラーキは帰っていく。
もしこの時点で神山透次に意識があった場合、妹が倒れる様を目撃した神山透次は探索者に対して絶対に許さないと怒り狂う。彼は手にしたグラーキの黙示録を広げて読む。その時、探索者は彼の体はまるで内側から張り裂けるようにみるみると膨張する様を目撃する。そしてそこにはなぜか頭部のない、ずんぐりとした巨体が姿を現す。黙示録に記されたグレート・オールド・ワン、イゴーロナクが神山透次の体に憑依したのだ。
神山透次がイゴーロナクに変異する姿を目撃した探索者は、ただちに〈正気度〉ロールを行なう。そしてその結果によって1/1D20の正気度ポイントを失う。
しかし、彼の体は白熱し、すぐさまボロボロと崩れ始める。神山透次に流れるシュブ=ニグラスの血がイゴーロナクに対して拒絶反応を起こしたのだ。
彼は3ラウンドの間、その場にいる探索者に対して左右の手のひらにある口で攻撃を行うことができる。しかし3ラウンドの終了時には、白熱した体が炎に包まれる。「ウォォォォン」という断末魔の悲鳴が彼の手の平から響き、炎に包まれた彼の体は、みるみるうちに崩れていく。やがて跡には真っ黒な灰だけが残されて、辺りには静寂が戻ってくる。


結末

全てが終わると、やがて駆けつけた警官や救急隊たちが後始末をしていく。意識を失っていた来場客たちは病院へと運ばれて、やがて目を覚まし日常へと帰っていく。
神山透次は今回の事件の容疑者として捕らえられて拘置所に留置されるが、超常的な能力によって引き起こされた事件に、犯行方法など不明な点も多く、取り調べや究明が今後も続いていくことになるだろう。
また妹のひとみは逮捕時点で完全に精神が崩壊しており、警察病院に入院することになる。彼女が今後、意識を取り戻すことがあるかどうかは分からない。
ともあれ、彼らの計画を阻止することができた探索者は、自分たちにかかっていた容疑も無事に晴れ、日常へと帰っていくことができるだろう。
もし時間に余裕があるならば、その後の後日談などを演出してもいいだろう。探索者が望むなら、神山透次と面会をすることもできる。彼は拘束衣に包まれて、拘置所の奥にある厳重に警備された個室に留置されている。彼は探索者の問いかけに対して、探索者が望む答えを返すようなことはない。ただじっと話を聞いた後、まだ全ては始まったばかりであること、自分のような存在は今後も現れることを忠告し、「果たして、いつまで抗うことができるでしょうか」と探索者にその覚悟を問う。
また入院中の彼の妹に会いに行くこともできるだろう。彼女は未だ意識は戻らず、白いベッドの上で眠っている。十文字と共に、神山九郎の墓前に事件の顛末を報告しに行くといった後日談も考えられる。
こうして神山兄妹の計画を阻止した探索者は2D10正気度ポイントを獲得できる。また呪文を唱えてグラーキを退散させた探索者は、追加で1D10正気度ポイントを獲得できる。

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