君は何を祈り
そして僕達は何を願うのか?

シナリオ概要

人口数千人の小さな村──探索者はそこで生まれ、大切な仲間に出会い共に成長していく。
しかしそんな彼らの元に、運命の日が訪れる。

推奨人数:2〜4人
想定プレイ時間:4〜5時間(オンラインのテキストセッションの場合は9〜12時間)



19/5/31 第二版:探索パートを明確化して、シナリオをリニューアルしました。
キーパーの裁量やよりロールプレイを重視する場合は、過去のバージョンも参照ください。
過去のバージョンはこちら


本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」


※注意:以下にはシナリオのネタバレが含まれます。























キーパー向け情報

G県の山間部に位置する人口数千人の小さな集落、上白沢村。シナリオの舞台となるこの村では古くから「無夜様」と呼ばれる神様が信仰されている。「無夜様」はこのシナリオに登場するニャルラトテップの化身の1つで、こぶし大ほどの黒い奇妙な鉱石の姿をしている。「無夜様」は上白沢神社の御神体として”精霊の森”と呼ばれる場所の最奥に祀られていて「どんな願いでも叶えてくれる」という言い伝えだ。”精霊の森”は神社の裏にある聖域で、樹齢数百年の木々が立ち並んでいる。

探索者はこの村で生まれ育っていく。小学4年生になった頃、足が不自由な少女、鳥待志保と出会う。友人となった探索者と彼女は長い時間を共に過ごしていくが、高校に上がる頃、障害を持つ彼女は探索者たちとは別の、設備が整った都会の学校へと進学することになる。そんな中学最後の夏祭りの夜、「無夜様」の言い伝えを思い出した探索者と志保は”精霊の森”へと足を踏み入れるが、その時、村の中心部に巨大な隕石が落下する。

志保はとっさに探索者の無事を祈り、それを聞き入れた「無夜様」の力によって探索者は一命を取り留めるが、祈りの中に含まれなかった彼女の命と村は失われてしまう。さらに「無夜様」を目撃した代償として精神崩壊を起こした探索者は、療養施設へと運ばれる。そしてそこから、失ったものを取り戻すための戦いが始まっていく。

このシナリオはロールプレイを重視した内容になっている。戦闘は発生しないが、代わりに探索者は最後の場面で大きな選択に直面することになる。キーパーは時間に余裕をもたせながら、探索者同士やNPCとの交流を楽しんでもらうといいだろう。

NPC

◆ 鳥待 志保(とりまち しほ)、探索者の幼馴染
上白沢村に暮らす足の不自由な少女。小学4年の春に探索者たちに出会い、探索者たちと友人になる。しかし15歳の夏。上白沢神社の夏祭りの日に、村に落下した隕石により命を落とす。

年齢:10-15歳 職業:学生
STR 8 CON 12 SIZ 10 INT 12 POW 10 DEX 3 APP 12 EDU 4-9(年齢による)
正気度 50 耐久力 11
技能:目星50%、聞き耳65%、操縦:車椅子30%、芸術:金魚すくい60%
志保

◆ 須藤 正則(すどう まさのり)、精神科医
隕石落下の後、探索者たちが入院することになる北里医院の医院長。自身も上白沢村の災害により妻と娘を失う。しかし他の村人が命を落とす中、生存者として「精霊の森」で発見された探索者たちに興味を持ち、生き残った理由を知ろうとしている。しかし、7年の月日に彼は疲弊していく──。

年齢:53-60 職業:精神科医
STR 11 CON 13 SIZ 12 INT 17 POW 15 DEX 9 APP 11 EDU 18
正気度 75 耐久力13
技能:医学60%、精神分析80%、薬学60%、信用60%、心理学75%、目星55%


NPCの立ち絵画像について

NPCの立ち絵画像をご利用の際は、以下をお守り頂くようお願い致します。データは以下からダウンロード頂けます。

・NPC立ち絵画像の著作権はもりそば@morimoritntn11様に帰属します。
・改変、二次配布、別シナリオでの使用はご遠慮ください。
・リプレイ動画、ネット配信などでご使用の際は著作権者を表記お願いします。
・営利目的の使用に関してはご相談ください。

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プレイヤー向け情報

このシナリオは、山間の小さな村で生まれ育った探索者の小学生時代から始まり、中学時代、そして大人へと成長へと成長していく過程での、それぞれ時代の異なるシーンで構成されている。探索者は同年齢の幼馴染として新規に作成する。

シナリオの進行に従って探索者の年齢は10歳から22歳の範囲で変動していくが、年齢毎に探索者のデータを作成するのはプレイヤーにかかる負担が大きいため、22歳の時点でのデータのみを作成し、全ての年齢で共通のデータを使用してよい。ただし年齢によって使用できそうにない技能は使うことができない(22歳時点で車の運転ができるからと言って、小学4年生でこの技能を使うことはできない)。

探索者の職業は何でもいい。シナリオを通して必須となる技能は特にないが、〈目星〉〈聞き耳〉〈図書館〉などは役に立つ場面が多いだろう。また〈精神分析〉を持っている探索者は、活躍する機会があるかもしれない。










第一幕 追憶、或いは泡沫の幻想のように


追想

シナリオは成人した探索者が病室にいるシーンから始まる。探索者は薄水色の病院着を着て各々のベッドに横たわり、あるいは腰を掛けている。意識は依然として曖昧で夢の中にいるようにも感じる。鉄格子の付いた窓からは見慣れた形の山の頂が見える。部屋の入口には白衣姿の中年の男が立っている。白髪交じりの髪、陰を帯びた下瞼からは濃い疲労の色が伺える。男は二言三言の挨拶を交わした後、探索者に問いかける。

「今日で7年か──本当に長かった」
「教えて欲しい。7年前の今日。あの日、君たちは一体何を見たのか」
「君たちはなぜ……」

探索者が記憶を手繰り寄せようとすると、こめかみに強い痛みが走る。そして正体の分からない恐怖が心を蝕み、体が震えだす。そしてゆっくりと、探索者の脳裏に過去の記憶が蘇ってくる。

このシーンは北里医院で探索者が須藤の診察を受けている場面だが、キーパーはこの時点ではまだ彼の名前をプレイヤーに明かさない。ここからは探索者が自分の記憶を1つ1つ思い出していくという格好で過去に遡りながら物語が進んでいく。キーパーはプレイヤーにこのことを説明し、それぞれ記憶の中のシーンに登場する探索者としてロールプレイや行動を行うよう伝えること。

出会い

探索者は小学4年生に上がったばかりのことを思い出す。探索者が昼休みに皆で一緒に廊下を歩いていると、廊下の先から「邪魔なんだよ!」といった男子児童の怒鳴り声が聞こえてくる。見ると女の子が2人ほどの上級生に絡まれ、尻もちをついた状態で怯えているのが分かる。近くには彼女のものらしい車椅子が倒れている。

探索者には彼女が今年から同じクラスになった「鳥待志保」であることが分かる。探索者は彼女は足が不自由でいつも車椅子に乗っていることを知っていてよい。彼女は引っ込み思案な性格のため、探索者もまだあまり彼女とは話したことがなかったものの、先生からは彼女を助けてあげるように言われていたことを思い出す。

探索者は彼女に対して自由に救いの手を差し伸べることができる。言いがかりを付ける上級生に対して、そちらが間違っていると対立してもいいし素直に謝ってもいい。またケンカに自信がある探索者なら力で撃退することもできるだろう。

探索者が望むならいくらか適切な技能で判定を行わせてもいい(口論をするなら〈言いくるめ〉や〈説得〉、ケンカで片を付けるなら何らかの戦闘系の技能など)。

いずれにしてもやがて上級生は劣勢に立たされて恨み節を言いながら立ち去り、志保は何度も心から感謝を述べる。探索者が倒れた車椅子を起こそうとしている彼女を助け、車椅子に乗せるといったシーンを演出してもいいだろう。そしてこの時以来、探索者と彼女はかけがえのない友達になっていく。

「無夜様」に関する言い伝え

次のシーンは志保との出会いから2年後の7月の初旬。小学6年生になった探索者が、志保の家の庭先で一緒に遊んでいるところから始まる。何をして遊んでいるかについては、キーパーはプレイヤーと相談し自由に演出していい。

しばらくしたところで彼女の祖母が「スイカを食べないか」と言って、切ったスイカを皿に乗せて縁側へと運んでくる。やや不揃いの大きさのスイカは彼女の家の畑で取れたものらしい。スイカを食べていると、セミの鳴き声に混じって神社の方から笛の音が聞こえてくる。

笛の音を聞いた探索者は全員〈アイデア〉ロールを行う:
成功した探索者は、1週間後の毎年7月18日が村の夏祭りの日であることを思い出す。この笛の音はその練習をしているのだろうと気づく。

もし探索者が全員〈アイデア〉ロールに失敗した場合は、志保の祖母が近々行われる夏祭りの練習をしているのだと教えてくれる。そして夏祭りの話題になったところで、志保の祖母がこんな話をする。

「村の神社の奥にはね。『精霊の森』と呼ばれる場所があって、そこには『無夜様』の御神体が祀られているんだ」
「だからその森には決して入ってはいけない」
「無夜様はどんな願いでも叶えてくれる偉い神様だ。それがどんなに正しい願いでも、どんなに悪い願いでも」
「それはとても危険なことなんだ」

無夜様の話を志保の祖母から聞いたところでこのシーンは終了し、次は中学時代へとシーンを進める。


中学3年の夏祭り

次のシーンは中学3年の夏。探索者は来年の春には中学を卒業することになり、近隣の町の高校へと進学する。しかし足が不自由な志保は村を離れ、遠く離れた都会にある設備が整った学校へと進むことになっていた。そこで思い出作りにと、探索者たちと志保は毎年恒例の夏祭りに一緒に出かけることになっていた。

そして7月18日の夜。祭りの日。祭り囃子が鳴り響く上白沢神社の鳥居をくぐると、境内には決して多くはないものの、金魚すくいやお面屋、りんご飴といった祭りに定番の出店がいくつか並んでいる。客引きの声に振り返ると、かつて志保に絡んでいた上級生たちがはっぴ姿で射的屋の店員のアルバイトをしている。
「お前らもやっていけよ、1人1発だけならタダにしてやってもいいぜ」
景品が置かれた台の中央には羽の生えたタコのようなキャラクター、「くとぅるー君」の巨大なぬいぐるみが鎮座している。
〈目星〉あるいは〈心理学〉などに成功した場合:
志保がくとぅるー君のぬいぐるみに目を輝かせていることに気づく。

探索者が挑戦するなら、上級生は先端からコルクを発射する空気銃を探索者に渡す。射的は〈ライフル〉で判定を行う。尚、無料でチャレンジできるのは1人1回までだが、探索者がお金を払うと言うのなら何度でも挑戦することができる。そして〈ライフル〉に成功すれば、大きな「くとぅるー君」のぬいぐるみを射落として入手することができる。探索者が途中で諦めた場合は、志保が残念そうな顔を浮かべる。そんな彼女や探索者を見て、上級生は「仕方ねえな。残念賞だ。持っていけ」といって手のひらサイズの小さな「くとぅるー君」のぬいぐるみをくれる。

こうして中学最後の夏祭り、探索者たちと志保の間では穏やかな時が流れていく。この他にもプレイ時間が許すなら、キーパーは祭りの屋台の様子を自由に設定して、楽しい時間を演出してもいいだろう。そしてしばらく時間が経過して日も暮れた後、次のイベントを差し込む。

歩いている間に、探索者はいつの間にか志保が遅れていることに気づく。振り返ると立ち止まっている志保がいる。彼女は目をかすかに赤くして「この時間がずっと続いて欲しい。もし、この足が治ったら…」と心の内を打ち明ける。彼女との会話の途中、キーパーはタイミングを見計らって次の判定を行わせる。

探索者は〈アイデア〉ロールを行う:
成功した探索者は今いる場所のすぐ先に「精霊の森」へと続く小道があることに気づく。

この後の探索者の行動としては探索者は森の奥へと向かおうとする、或いは志保の祖母の言いつけを守って思い留まろうとするなどが考えられる。キーパーはここでしばらくの間、探索者と彼女の間でコミュニケーションの時間を作る。その後、森に向かうにしろ思い留まるにしろ、探索者が次の行動を起こそうとするタイミングで次のイベントを差し込む。

混沌の影

突然に探索者の記憶は途切れてしまう。そして気がつけば探索者は真っ暗な空間にいる。体を引き裂くような激痛を感じ、指先一つ動かすことができない。意識が朦朧として、消えかけていく視界の中に次の光景を目撃する。


……その後の記憶は曖昧だった。ただ探索者たちはどこか暗い場所にいて、遠くに志保がいる。目の前には、石で出来た祭壇の上に黒く輝く多面体の結晶が祀られている。体は硬直して声が出ない。そして探索者は強い悪臭を感じる。わずかな光すら届かない闇の中から浮かび上がったのは、黒い3本の足と鉤爪のついた手のような器官を持つ巨大な人影。顔のあるべき場所には赤い血の色をした長い触手がうねる。その姿は不定形の、原初の宇宙より出て這い寄る混沌───。

探索者は1D10/1D100の正気度ポイントを失う。

失った正気度ポイントの数値に関わらず探索者の記憶はここで途切れてしまう。この結果、探索者の精神は完全に崩壊する。
<狂気の傷跡>
精神が崩壊した探索者は長期の一時的狂気(「クトゥルフ神話TRPG」P.90)の中からランダムで、失った正気度ポイントの数値に応じた数の狂気を永久的に負う。
・正気度を全て失った:長期の一時的狂気からランダムで3つ
・正気度ポイントの1/5以上(端数切り上げ)を失った:長期の一時的狂気からランダムで2つ
・上記以外:長期の一時的狂気からランダムで1つ

これらの狂気は平常時には発現しないが、探索者が恐怖症の対象に遭遇したり、夢や連想、フラッシュバック、正気度ポイントの喪失といった極度の緊張状態に陥った場合に症状が現れる可能性がある。症状が現れた場合は〈精神分析〉を行うことで症状を抑えることができるが、再び同じ状況に陥ると再発の可能性がある。セッション中、この効果を完全に消すことはできない。










第二幕 残酷な真実が僕達を責め苛む


目覚め

探索者は白い病室のベッドの上にいる。他の探索者は同じ部屋にいるが、志保の姿はない。これは冒頭の白衣の男との会話シーンの続きにあたる。

探索者は耐久力ポイントを最大値まで回復し、失った正気度ポイントの1/2を回復する(端数切り上げ。SANが0の探索者は元のSANの1/2まで回復する)。ただし「狂気の傷跡」の効果は継続したままで、普段は正気でいられるものの極度のストレスに晒された場合などに発作的に再発して一時的に狂気に陥ることがある。

ここは探索者が入院している北里医院という名の病院で、探索者の村と山を1つ隔てた場所にある。探索者は須藤から説明を受け、次のことを知っているものとする。

探索者は祭りの日に上白沢神社の裏の森の付近で倒れているところを発見されて、この病院に運ばれた。
病院に運ばれた時、探索者の精神は完全に崩壊しており、正気を失っていた。
鳥待志保はあの日以来、行方不明。
その後探索者がどうにか正気を取り戻し、日常的な生活が送れるようになるまで7年が経過。
現在探索者たちは22歳になっている。
家族や他の友人たちは諦めてしまったのか、意識を取り戻した頃には探索者を訪ねてくる者は誰一人としてなかった。

あの日以来、探索者たちはこの病院でお互い支え合いながらこの日までを過ごしてきたのだった。探索者の話を聞いた後、須藤は優しい口調で言う。

「すまない。無理に思い出させてしまった。後は休んでいるといい」
「ゆっくりと治療していこう。時間は十分にあるのだから」

そして彼は「今日は夕方まで近くの市民病院で会議があってね。私は少し病院を空けるが、何かあれば看護師に伝えてくれ」と言い残すと病室を後にする。

須藤に対して〈心理学〉ロールに成功した場合:
探索者は須藤が何か隠し事をしていることに気づく。さらに「近くの病院で会議がある」という彼の言葉が嘘ではないかと感じることができる。しかし何を問われても答えることはなく、まずは治療が優先だとしてはぐらかしてしまう。


あの日起きたこと

この情報はまだプレイヤーに開示するべきではない。ただキーパーがシナリオの進行を進める上で知っておくべき内容としてここに記している。

あの祭りの日、上白沢村の中心部に巨大な隕石が落下してくる。「精霊の森」の近くにいた探索者は森の奥へと逃げようとするが、やがて隕石落下の衝撃波に飲み込まれてしまう。しかし「無夜様」の祭壇の近くにまで吹き飛ばされた志保が、とっさに探索者の無事を祈ったことにより、それを聞き入れた「無夜様」の力によって探索者は一命をとりとめる。探索者は翌日隣町から駆けつけた救急隊に発見されて北里医院に運ばれるが、志保を含む他の村人は全員、帰らぬ人となったのだった。

北里医院の医院長の須藤は探索者たちがまだ真実を受け入れることができないと判断してこの事実を隠しており、探索者は未だ村で起きた災害を知らないでいる。探索者が彼に村や家族、志保のことを質問したとしても彼は「今は治療に専念しなさい」とはぐらかし、優しい口調で諭すだけだ。

そしてこの須藤もまたあの祭りの日、上白沢神社へ遊びに行った自分の妻と娘をこの災害で失っている。彼はその日は病院で仕事があり、結果として家族のなかでただ1人生き残ることになってしまった。彼はなぜあの大災害で探索者たちだけが無事だったかという理由を知りたがっている。あの大災害にも関わらず探索者たちがかすり傷ひとつ負っていなかったことに彼は疑問を抱いている。

彼は焦る気持ちを抑えながら慎重に事を運んできたものの、しかし長い歳月の間によって彼の心は疲弊し『今更それを知って自分はどうするのか?』という葛藤が生まれ始めている。そしてこの日彼は「会議がある」と言って嘘を付いて病院を出ると、真実を打ち明けるべきか否か決断するために、家族が眠る地へと墓参りに向かう。


病院の探索

須藤は病室を後にした後、車で外へ出かけていく。この時点で時刻は朝の10時を指している。探索者は彼が帰ってくる夕方までの間、病院の敷地内を自由に行動することができる。

map_1F <プレイヤー資料:北里医院 2Fマップ>

map_2F <プレイヤー資料:北里医院 1Fマップ>


窓の外・病院の敷地内

病院の窓から覗いたり外に出て周囲を眺めると、サナトリウムの白い建物を囲む白く高い壁が見える。入口の門は鍵が閉められており、探索者たちは敷地内から外へ出ることを許されてはいない。壁の向こうにはかすかに近辺の山々を臨むことができる。見覚えのある山の形から、探索者たちにはそれらの向こう側に自分たちが生まれ育った村があることが分かる。


病室

白い清潔なベッドが人数分用意されている。白いカーテンの敷かれた窓には落下防止のための鉄格子が付いている。病室にはテレビやパソコンなどは置かれていない。また須藤からはスマートフォンなどの使用も禁止されており、探索者には今のところ外部と連絡する手段はない。現在この病院に入院しているのは探索者たちだけで、他の病室は空室になっている。


デイルーム

入院患者のためのラウンジだが、現在は探索者らが社会復帰に向けて勉強するためのスペースとしても使われている。いくつかの机や椅子が並び、給茶機が置かれている。本棚には須藤が探索者のために準備してくれた教科書や参考書などが収められている。

本棚に対して〈図書館〉に成功した場合:
探索者は「天体観測ずかん」と題された子供向けの図鑑を発見する。星座や天体の動きに関する内容が写真や図表と共に分かりやすく書かれているが、特にこれといって変わった情報はない。

図鑑を読んだ探索者は〈アイデア〉ロールを行う:
成功した探索者は、その何の変哲もない図鑑の内容に胸がざわつくような感覚と恐怖を感じる。探索者は0/1の正気度ポイントを失う。正気度ロールに失敗した探索者は、<狂気の傷跡>の効果が再発して、一時的に発狂する。この効果は〈精神分析〉を受けるか1D10+4ラウンド経過するまで続く。


スタッフステーション

ここには常に2人の看護師がいる。長期入院している探索者とは既に顔なじみだ。探索者が発狂した場合はここの看護師たちから〈精神分析〉を受けることができる。この時の〈精神分析〉の成功率は65%だ。この看護師たちは7年前に上白沢村で起きたことについて須藤から口止めされている。このため探索者が質問をしても「無理はしないでくださいね」などとはぐらかし、上白沢村のことについて口を割ることはない。

看護師への〈心理学〉ロールに成功した場合:
看護師たちが何かを隠していることに気づく。さらに追求するなら〈言いくるめ〉または〈説得〉などで判定を行う。 成功すると「ごめんなさい、私たちからは言えないんです。どうしてもというなら院長に直接聞いてみて下さい」と教えてくれる。


診察室・処置室

医療用の器具が入った棚や診療用ベッドが設置されている。探索者は診察室の中央に置かれた大きな診察用のデスクが目に止まる。

デスクに対して〈図書館〉または〈目星〉、〈医学〉などで判定を行う:
成功した探索者は須藤が記した探索者らのカルテを発見することができる。カルテの診断は心的外傷後ストレス障害とされているが、そこに1枚の付箋が貼り付けられ、須藤によるメモ書きが添えられている。

<カルテの付箋>
強い精神的衝撃により発症する症状はいくつか挙げられるが、彼らの症状は一般的なそれらの症状よりもはるかに重い。まるで精神が完全に崩壊し、我々が自我を持った一己の存在として自己と他者と世界を認識するための機能の全てが失われているかのようだ。一体何が彼らの心をここまでの状態に至らしめたというのか。


ロビー・受付

普段は外来の患者が診察を待つスペースであるが、この日は患者の姿は見当たらず静まり返っている。受付には「本日休診日」の張り紙がされている。

部屋に対して〈目星〉に成功した場合:
探索者は受付に置かれたカレンダーが目に止まり、今日が7月18日であることに気づく。日付を見てプレイヤーが思い出せない場合、続けて〈アイデア〉ロールに成功すれば、今日が夏祭りの日であることに気づいたことにしてもよい。

電話をかける
事務室には外部と連絡を取ることができる電話が置かれている。しかし探索者が自宅の番号に電話をかけても「現在この番号は使われておりません」という音声メッセージが返ってくるだけで自宅には繋がらない。


資料室

様々な資料や書類が収められた棚が並んでいる。

〈図書館〉あるいは〈目星〉で判定を行う:
成功した場合、須藤が探索者の症例を調べていたファイルを発見する。

【須藤の調査ファイル】
世界中から集めた資料の中に、彼らの症状と類似する症例をいくつか発見することができた。
(次のページからは、いくつかの論文の切り抜きが貼り付けられている)


<事例1:プロヴィデンスの作家>
1935年、アメリカ合衆国ロードアイランド州プロヴィデンスに住んでいたロバート・ブレイクという若い作家が自室の窓際で恐怖に引きつった表情を浮かべたまま、硬直して死んでいるのが発見された。彼に目立った外傷はなく死因は落雷現象などによる神経性ショックとされた。しかし彼の部屋の窓には落雷の痕跡がなかった事など不自然な点も多かった。

<事例2:・・・>
以下、同じような事例が十数件に渡り掲載されている。

・・・(中略)・・・
これらの症例に共通して言えるのは、一晩のうちに人間の精神を破壊し尽くすほどの何かが、この世界には存在しているかもしれないということだ。私が求めている答えが存在しているのか。もしかしたらそれは私の妄想に過ぎないのかもしれない。或いは私は既に狂っているのか。彼らが全ての記憶を取り戻し、彼らの口から真実を知った時、私は何をしようというのだろうか。


院長室

院長室の中央には来客に対応するための高級そうなソファとガラスのテーブルが中央に鎮座しており、その奥には須藤のデスクがある。デスクの上には1台のノートパソコンとフォトフレームが置かれているのが分かる。フォトフレームには1枚の写真が収められている。そこには小学生ほどの女の子と、その子の母親らしい女性、そして若い男が仲睦まじく手をつないでいる様子が映っている。

写真に対して〈アイデア〉ロールに成功した場合:
写真の男が若かりし頃の須藤であることに気づく。まだ白髪が混じる前の彼の姿から、おそらくは10年近く前に撮影されたものだと予想できる。

須藤のノートパソコンにはロックがかかっていて、中身を調べるには4桁の暗証番号を入力する必要がある。この暗証番号は彼の娘と妻の命日である7月18日から「0718」に設定されている。探索者がこのパスコードを入力すると、ロックが解除されてデスクトップ画面が表示される。そこには須藤が集めていたと思われるニュースのクリップがフォルダにまとめられていて、7年前の7月の日付でいくつかのファイルが保存されている。キーパーはまず1つ目のファイルの内容を探索者に公開し、それを見た探索者全員に〈アイデア〉ロールを行わせる。

7月18日
『今夜、世紀の天体ショー』
今日の夜19時から19時30分の間で、彗星が地球の近傍を通過する。政府の発表によれば衝突の可能性はないとのこと。今夜の天気は晴れの見込みで彗星が通過する際には彗星本体とこぼれ落ちた塵によって、世紀の天体ショーを見ることができる。

探索者が〈アイデア〉ロールに成功した場合:
探索者は7年前の祭りの日、同じニュースをテレビあるいは新聞で見たことを思い出す。

さらに探索者が読み進めると、次のニュースが目に止まる。

7月18日 号外
『上白沢村に、巨大隕石が落下』
本日19時過ぎ、G県上白沢村に巨大な隕石が落下した。懸命な救出活動が行われているが、落下地点から半径15km圏内は壊滅的な被害を受けており住人の生存は絶望的とみられる。

7月19日
『生存者を発見』
昨夜上白沢村に隕石が落下した災害で、初めて生存者が発見された。生存者の名前は(探索者たちの名前が並べられている)。生存者が運ばれた病院の発表によると、未だ意識は戻らないものの外傷はなく命に別状はないとのこと。

そして以降にはさらに、死亡が確認された者の名前が一覧で記されている。

〈目星〉あるいは〈図書館〉に成功した場合:
探索者は死亡者のリストの中から自分の家族、そして「鳥待志保」の名前を発見することができる。大切な人々の死を知った探索者は1/1D6の正気度ポイントを失う。正気度ロールに失敗した探索者は、<狂気の傷跡>の効果が再発して、一時的に発狂する。この効果は〈精神分析〉を受けるか1D10+4ラウンド経過するまで続く。

さらに上記の後、再度〈目星〉に成功した場合:
探索者は死亡者リストの中に「須藤 美佐」「須藤 あやか」という名前を発見する。キーパーは明示する必要はないが、彼女らは上白沢村の隕石落下により命を落とした須藤の妻と娘の名前だ。


須藤の帰還

このイベントは探索者が院長室のパソコン内のファイルを読み終わったところで差し込む。探索者の背後で院長室のドアが開く。探索者が振り向けばそこには須藤が立ちすくんでいる。

「隠していてすまない………しかし君たちに教えるわけにはいかなかったのだ」
「それを知った時、君たちが何を思い出すのか……或いは思い出すよりも前に、君たちの精神が壊れてしまうのか」
「私は恐れていたのだ。そうなれば二度と私は真実を手に入れる機会を失ってしまうからだ」

須藤はゆっくりと話す。彼の顔には疲れ、諦め、或いは7年の間続いた呪縛からの解放といった類の表情が浮かんでいる。ここでキーパーは探索者に2つの選択肢を提示する。1つは真実に目を背けること。その場合、探索者は仲間と共にこの病院で治療を受け続けることになる。そしていずれは回復して社会に復帰し、平穏な日常を送っていくことができる。この場合、探索者は失った正気度ポイントを全て取り戻し<狂気の傷跡>の効果は終わる。そしてキーパーは探索者がこの選択肢を選んだ時点で、シナリオが終了することをプレイヤーにはっきりと伝えること。そしてもう1つは須藤から真実を知ることだ。ただしこの選択肢を選んだ場合は、その結果として探索者がどのような影響を受けるかは分からない。

須藤は瞼を閉じて探索者の答えを待つ。探索者が1つ目の選択肢を選ぶなら、この時点をもってシナリオはクリア扱いとなる。探索者はやがて過去を克服し、それぞれの人生を歩んでいくことになるだろう。しかしそれでも探索者が知ることを選んだ場合、須藤は探索者にゆっくりとあの日のことを話し始める。

探索者たちは『精霊の森』と呼ばれていた場所の奥で発見された。発見された時、あの場所には探索者の他に志保もいた。しかし彼女は隕石落下の衝撃によって死亡していた。須藤は村で唯一生き残った探索者たちに疑念を抱く。彼はそこに『どんな願いも叶える』という神が祀られているという話を知っていたからだ。

「あの日。私も妻と娘を失った。だから知りたかったのだ。なぜ彼女たちは死ななければならなかったのか」
「なぜ隕石が落ちてきたのか。君たちが、あるいは彼女があの場所で何を願ったのか」
「だが……もう疲れた。今更それを知ったところで、私にはもう何も残されてはいない……」

キーパーはもう一度探索者の意志を確認する。村に戻らずに病院で治療を続けるなら、シナリオはそこで終了し、やがて探索者は失った正気度ポイントと<狂気の傷跡>を回復してそれぞれの人生を歩んでいくことになる。しかし探索者が望むなら、須藤は探索者を上白沢村まで車で送り届けてくれると申し出る。











第三幕 君は何を祈り、そして僕達は何を願うのか?


上白沢村

探索者を村の入口まで送り届けると、須藤は「ここからは君たちだけで行くべきだ」と伝えて引き返していく。7年ぶりに帰ってきた上白沢村は変わり果て、中央に大きなクレーターが口を開けている。いくらかの倒れた建物の残骸には雑草や蔦が巻き付いている。その風景には当時の面影が残っているものの、村を歩き回るうちに探索者はかつての穏やかな日々が過去のもので”すべてが終わった後”なのだという現実を実感する。

その光景を目の当たりにした探索者は0/1の正気度ポイントを失う。
失敗した探索者は「狂気の傷痕」の効果が発現する。


過去の幻影

やがて日が暮れかかった頃。探索者が村の中を歩いていると、探索者の横を子供時代の自分たちの姿をした幻が通り過ぎていく。彼らは浴衣姿で車椅子に座った志保を代わる代わる押しながら、楽しそうに談笑して上白沢神社へと向かっていく。彼らが向かう先からは、祭ばやしの笛の音が聞こえてくる。

彼らを追いかけて社をくぐり抜ける。隕石によってなぎ倒されたはずなのに、かつてと同じ神社の景色が目に映る。気がつけば探索者は中学3年生の姿で「精霊の森」の前にいて、目の前には涙ぐむ志保の姿がある。探索者はそれが祭りの日の最後に、彼女と会話を交わしたシーンの再現であることに気づくことができる。ここから先しばらくは7年前の中学時代の探索者の視点で物語が進行する。

「私、みんなと離れ離れになりたくない……!」

彼女は探索者に心の内を打ち明ける。7年前と同じように。そして志保はすぐ近くに「精霊の森」の奥へと続く道があることに気づき、訴えかけるような視線を探索者に向ける。ここで探索者は志保としばらく会話を交わす。探索者は彼女を励ますかもしれないし、彼女の視線に同調して、森の奥へ向かおうと思うかもしれない。いずれにしてもしばらくの間、キーパーは探索者に志保と語り合うための時間を与えること。そしてタイミングを見計らって、キーパーは次のイベントを差し込む。

或いは隕石が落下することを知っている探索者は、志保との会話を早く切り上げて彼女と一緒に逃げることを提案したり、他の村人に危険を知らせに行こうとしたりするかもしれない。その場合は探索者が行動に移そうとしたタイミングですぐに次のイベントへと進む。


流星

キーパーは探索者に〈目星〉ロールを行わせる。

・〈目星〉の判定に成功した場合:
探索者はいくつもの星が空を流れていくことに気づく。

・全員が〈目星〉に失敗した場合:
「あれを見て」。志保は空を指差す。ここで先ほどの〈目星〉に失敗した探索者も、彼女の言葉に空を流れていく明るい星々に気づくことができる。

日が沈み、辺りが暗くなっていくに従って夜空にはいくつもの星が浮かび上がる。その星空を東から西へ青白い光が横切っては消えていく。探索者は幻想的な光景に目を奪われる。しかしそんななかで探索者は異変に気づく。大気が唸るような音を立て、振動するのが伝わってくる。

最初は小さな破片から、空を流れる流星群のうちいくつかが村に向かって降り注いでくる。神社の境内から、悲鳴が聞こえてくる。続けてさらに大きな岩が落ちてきて、探索者たちがいる付近の地面にも衝突する。衝撃波が探索者たちを襲い、志保は車椅子から投げ出される。そして上空から真っ赤な炎に包まれながら、巨大な隕石が上白沢神社に向かって近づいてきているのが見える。



車椅子から投げ出された志保は探索者に向かって、自分はいいから逃げるようにと必死に叫ぶ。キーパーは隕石から逃れるには、「精霊の森」の奥へと向かっていく必要があることを探索者に教える。ただし森の奥は道が不安定で、車椅子では進むことができない。

探索者はDEX順に行動を行い、2ラウンドの間、降り注ぐ隕石を避けながら森の奥を目指す必要がある。各ラウンドで探索者は次のような行動を行うことができる。
・1人で逃走する場合、DEXの5倍でロールを行う。
・志保を担いで逃げる場合は、さらに彼女のSIZと探索者のSTRを抵抗表で競わせる。

いずれの場合でも、判定に成功すれば無事に降り注ぐ破片を回避しながら進むことができる。
・判定に失敗した探索者は続けて〈回避〉の判定を行う。
失敗した探索者は、近くに落ちた隕石の欠片で耐久力に1D4ポイントのダメージを受ける。

判定の結果によらず、2ラウンドの行動の後、探索者はやがてナラの木に囲まれた円形の空き地にたどり着く。そこには石で出来た祭壇があり、祭壇の上には黄色っぽい金属製の奇妙な箱が置かれていて、そこには奇妙に角ばった黒い石が収められている。


祈りの言葉

探索者が森の奥に到達したその時、巨大な隕石がついに村へと落下する。探索者は大きな音と衝撃、身を焦がすような熱波を感じる。強烈な今までとは比べ物にならない爆風が探索者を吹き飛ばし、地面をえぐり周囲の木々をなぎ倒していく。探索者は自身の体が炎に焼かれ、衝撃で引きちぎられていくのを感じる。投げ飛ばされた志保は「無夜様」の御神体が安置された石の祭壇に叩きつけられる。そんな中探索者は、彼女の口が微かに動くのを見る。
「みんなを、助けて」

気がつくと探索者たちは元の大人の姿に戻っていて、何もない漆黒の空間に佇んでいる。周囲には原初の宇宙が広がり、過去の自分たちや志保の姿はない。そして探索者たちの前には黒く輝く結晶体──「無夜様」の御神体が宙に浮かんでいる。

志保の祖母の言葉が思い起こされる。
『無夜様はどんな願いでも叶えてくれる偉い神様なんだ。それがどんなに正しい願いでも、どんなに悪い願いでも』
それはただ純粋にどんな願いも叶える願望機──無関心の神。
そして志保の願いの中に『自分』は含まれていなかった。それだけのことだった。

「無夜様」の御神体はまるで探索者からの答えを待っているように感じられる。以降、キーパーは探索者からの答えを待つ。探索者がどのようなことを願ったとしても「無夜様」は無条件にその願いを叶えるだろう。ただしここで叶えられる願いは1つだけであるとし、キーパーは探索者が話し合って結論を出すように促すこと。それにより何が起きるか、探索者が何を取り戻して何を失うかは、この物語を紡ぐキーパーとプレイヤーたちに委ねられる。以下にはエンディングの例を上げる。ただしこれはあくまで一例であるので、キーパーは他にもプレイヤーの判断や願いを元に自由にアレンジするといい。


何も願わない、あるいはこれからの未来を願う

探索者が未来に踏みだすことを選ぼうとすると、志保の声が聞こえてくる気がする。

『ごめんね、みんな。辛い役目を押し付けちゃって』

志保の声は探索者1人1人に想いと感謝とこれからの願いを託していく。キーパーは志保の声を通じて、これまでの彼女とそれぞれの探索者との関係性に合わせた言葉をかけるといいだろう。そして最終的に探索者が答えを選べば、元の場所・時代へと戻される。探索者はかつて精霊の森だった場所に立っている。空には満天の星空が浮かんでいる。森は完全に薙ぎ払われて、地面には隕石落下による衝撃波の爪痕が残されている。

ふと探索者は地面に落ちている何かを発見する。それは7年前の祭りの日に手に入れた「くとぅるー君」のぬいぐるみだった。土にまみれてはいるものの、不思議なことに7年の歳月にも関わらず傷みなどは見られない。『いってらっしゃい』。ぬいぐるみを拾い上げた探索者は、ふと近くで志保がそう言ったような気がした。優しい笑顔を浮かべて。

やがて探索者はそれぞれの人生を歩んでいく。探索者は2D10の正気度ポイントを獲得し、「狂気の傷跡」の効果も消える。さらに探索者は〈クトゥルフ神話〉技能を3%獲得する。

新しい世界を願う

「隕石をなかったことにする」「志保を助ける」など、探索者が過去を書き換えるようなことを願う場合、因果律が塗り替えられて新たな世界が作られる。キーパーは探索者がそれを願う前に、その可能性を忠告して本当に新しい世界を願うか確認してもいい。それでも探索者が望むなら、探索者は結晶体に映り込む光景を目にすることになる。そしてそれは探索者の視界いっぱいに広がっていく。

そこにあったのは探索者が望んだもう1つの世界。神社からの帰り道、明日も会おうと約束をして帰っていく探索者たちと志保。やがて時は過ぎ、高校へと進み、志保は遠くの町へと引っ越していく。さらに彼らは高校を卒業して、それぞれの道へと進んでいく。しかし毎年の夏祭り、彼らが帰ってくるその場所にはいつもみんなや志保の姿があった。

そのような、あったかもしれないもう1つの世界を探索者たちは目にしている。どこか遠くの宇宙の彼方のような場所から──。そんな彼らを眺めながら、時間と共に探索者は自分の存在が次第に薄れて消えていくのを感じる。そして彼らが22歳を向かえた祭りの日に、再び再開する彼らの姿を見守りながら、探索者たちは完全に消えていく。
………
……



そして、ここからはもう1つの世界。流星の落ちなかった世界での探索者の視点。22歳になった探索者たちはこの日も再び、毎年の約束通りに神社の祭りに集まった。そんな探索者たちには、最近ある変化があった。

それはあるはずのない記憶。隕石の落下によって村が消滅して、両親や志保や大切な人たちがたくさん死んで、皆で助け合いながら過ごした7年間──。そして全てを救うため願ったこと。そんな記憶が、まるで自分が体験したことのように頭から離れない。

「みんな、久しぶり!」

懐かしい声のする方を見れば、神社の階段の前で志保が待っている。


キーパーは彼女との再会を喜ぶシーンを演出して、プレイヤーにゆっくりとロールプレイをする時間を与えるといいだろう。そして探索者と彼女はそれぞれ別の道を歩みながらも、大切な仲間としてこれからも人生を送っていく。このエンディングでは正気度ポイントの報酬は得られない。代わりに正気度ポイントは元の値まで回復し、「狂気の傷跡」の効果は消える。ただし消えた世界の記憶が一部引き継がれることによって、技能の成長ロールは通常通り行うことができる。
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