シナリオ概要

時は時は寛弘4年、春の平安京。
消えた光源氏、古都に渦巻く嫉妬と怨念、忍び寄る邪悪な闇──
探索者は平安京に光を取り戻すことができるのか!?

推奨人数:3〜4人
想定プレイ時間:3時間(オンラインのテキストセッションの場合は9時間)

平安時代風バージョンはこちら。



※注意:以下にはシナリオのネタバレが含まれます。





















キーパー向け情報

光を嫌うニャルラトテップは光り輝く美貌の持ち主である光源氏を消し去ろうと邪悪な計画をくわだてる。それは本物の光源氏を歴史の闇に葬り去って、代わりに自分が新たな光源氏となり紫式部にライバル心を抱く清少納言にその物語を書かせようというものだ。こうしてニャルラトテップは闇の光源氏として平安京に降り立って、光源氏を拐ってしまう。光源氏のよき理解者である頭中将は、源氏がいなくなったことに不吉な予感を感じ、探索者に彼の捜索を依頼するのだが・・・。
このシナリオはクトゥルフ神話TRPGと「平安京怪異譚」に対応している。「平安京怪異譚」は”クトゥルフ・コデックス”に掲載された平安京をテーマとした職業や技能、時代背景などの追加ルール群である。
このシナリオでは、”光源氏”あるいは”光”をテーマにした和歌を詠む場面が発生する。即席で歌を考えるのはなかなか難易度が高いため、キーパーはあらかじめプレイヤーに、和歌を詠む可能性があることを伝え、前もって考えてきてもらってもいい。新規に探索者を作成する場合は、交渉や対人関係に関する技能の他、〈芸術:和歌〉などを推奨技能として提示しておくといいだろう。


和歌

シナリオ中で交渉や情報収集などに関するロールが必要となった場合、〈説得〉や〈言いくるめ〉などのロールの代わりに〈芸術:和歌〉に成功することで、雅な歌で相手を感動させて情報を聞き出したり協力を取り付けられたことにしてもいい。プレイヤーが実際に和歌を詠んだ場合、キーパーは自身の裁量で判定にボーナスを加えてもいいだろう。


外来語禁止

このシナリオは平安時代を舞台としているため、プレイヤーが外来語を使ってしまった場合、探索者は未知の言語が自分の口から出たことに宇宙的恐怖を感じて1/1D6の正気度ポイントを失う。ここでいう外来語とは、主にカタカナで表記されるような、主として欧米諸国から日本に入ってきた言葉を指すが、細かい定義はせず、その場にいるキーパーおよびプレイヤーの裁量で、その場の雰囲気で決めたほうがセッションが盛り上がるだろう。また公平性を期すために、キーパーが外来語を使ってしまった場合は正気度ポイントが1ポイント回復する。尚、読みやすさを考慮して、シナリオ中の文章には従来どおり外来語を使用している。キーパーはセッション中にシナリオの文章を読み上げる場合にも、外来語には注意する必要がある。


主なNPC

◆光源氏(ひかるげんじ)
言わずとしれた源氏物語の主人公で、帝と桐壺の更衣との間の皇子。更衣が身分の高くない生まれであったため、身分争いに巻き込まれることを危惧した帝によって源姓を与えられ臣籍に降ろされている。光り輝くような美しい容姿から、光源氏と呼ばれている。

光源氏、光り輝く源氏の君
STR 9 CON 13 SIZ 13 INT 15 POW 18 DEX 14 APP 100 EDU 15
正気度 90 耐久力 13
ダメージボーナス:0
技能:和歌 90%、舞 90%、忍び歩き 80%、地位 70%、乗馬 70%


◆頭中将(とうのちゅうじょう)
光源氏の妻である葵の上(あおいのうえ)の兄。左大臣の子。光源氏の良き理解者。源氏と葵の上の仲はお世辞にも良いとは言えず、2人のそのような関係を心配に思っている。性格は気のいい兄貴分。

頭中将、源氏の妻の兄
STR 12 CON 11 SIZ 13 INT 16 POW 9 DEX 11 APP 13 EDU 17
正気度 45 耐久力 12
ダメージボーナス:+1D4
技能:説得 70%、地位 60%、和歌 60%、土地勘 70%、法律 70%


◆紫式部(むらさきしきぶ)
平安京中期の偉大な作家・歌人。源氏物語の作者として知られている彼女だが、実はその精神は、遥かなる過去、神話の時代より精神を交換することでタイムスリップしてきたイスの大いなる種族の1人である。彼女の目的は日本の様々な時代の情報を収集することで、これまでにもいくつかの時代を訪れ、色々な文化や知識に触れてきた。性格は内向的でオタク気質。光源氏に魅了され、源氏物語を書き始める。

紫式部、過去より来たる天才作家
STR 8 CON 9 SIZ 9 INT 24 POW 13 DEX 10 APP 9 EDU 28
正気度 該当せず 耐久力 9
ダメージボーナス:0
武器:電撃銃 80%、ダメージ 1D10
技能:博物学 95%、芸術(文学) 98%、和歌 98%、図書館 95%、漢文 90%、物理学 95%、電子工学 95%、歴史 95%


◆清少納言(せいしょうなごん)
紫式部と同じく平安中期の作家・歌人であり、現代では枕草子の作者として知られている。著名な歌人である藤原元輔の娘で、自身も高い才識に恵まれる。その博学や物事に関する深い洞察は中宮定子にも気に入られ、宮中でも人気があった。自尊心と承認欲求が高く、紫式部の才を前に感じていた焦りをニャルラトテップにつけこまれることになる。

能力の詳細は「クトゥルフ・コデックス」P.48を参照。このシナリオをプレイする上では、特に必要ない。


◆闇光源氏(やみひかるげんじ)
光源氏にまさるとも劣らない美貌を持つが、光り輝く源氏とは逆に闇を纏うようなその姿から闇光源氏と呼ばれいる。その正体は這い寄る混沌、ニャルラトテップの化身の1つ。光を苦手とする彼にとって光り輝く源氏は天敵であり、清少納言を操って光源氏を消し去る計画を企てる。

闇光源氏、ニャルラトテップの化身
STR 9 CON 13 SIZ 13 INT 15 POW 18 DEX 17 APP 100 EDU 15
正気度 該当せず 耐久力 13
ダメージボーナス:0
技能:和歌 90%、舞 90%、忍び歩き 80%、地位 70%、乗馬 70%


NPCの立ち絵画像について

NPCの立ち絵画像をご利用の際は、以下をお守り頂くようお願い致します。

・本シナリオページに掲載しているNPC立ち絵画像の著作権はおまつりミート@NIPque様に帰属します。
・改変、二次配布、別シナリオでの使用はご遠慮ください。
・リプレイ動画、ネット配信などでご使用の際は著作権者を表記お願いします。
・営利目的の使用はご遠慮ください。

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シナリオの導入

時は寛弘(かんこう)4年(西暦1007年)、春の平安京。探索者は光源氏の妻である葵の上の兄、頭中将(とうのちゅうじょう)から、3日前から行方不明になっている源氏を探してほしいと依頼を受ける。依頼を受ける経緯としては、探索者の1人が、友人あるいは仕事上の上司である頭中将から依頼を受け、そこから知り合いである他の探索者に協力を求めるといった流れが良いだろう。探索者が望む場合は、1人あたり最大で500文までの報酬を約束される。また必要な経費などはすべて用意してくれるという。
頭中将には光源氏の行き先については心当たりがない。浮気性である光源氏が新しい女の元に入り浸っていることも考えられるが、一方で頭中将は源氏が姿を消すひと月ほど前、彼から「誰かに見られているような、視線を感じる」と相談を持ちかけられたことがあり、それが気がかりになっている。彼はその人物が光源氏を拐った可能性もあると考え、犯人を見つけ光源氏を救い出してほしいと探索者に依頼する。
頭中将の話を聞いた探索者は、光源氏を嗅ぎ回っていたという人物について調査しようとするだろう。これには家人や都の人から目撃情報を探すのが手っ取り早い。この場合、探索者は対人関係に関する技能や能力値で判定を行い、判定に成功すれば、次のような情報を入手することができる。また探索者から交渉系の技能の他に何か提案があれば、キーパーの裁量で、その技能のロールで代替させてあげてもいい。

■ 中宮・藤原彰子に仕える女房・紫式部が光源氏をつけまわしていた。

■ 紫式部は物陰から光源氏の行動を監視しながら、何やら薄い書物に筆でしたためていたようだ。普段は屋敷に引きこもってばかりいる彼女が、都を出歩いているのは奇妙なことだと不思議がる人もいる。

■ さらに紫式部は近ごろ夜になると、遅くまで自室に籠もり、明かりをつけたまま何かをしているらしい。

さらにこれらに加えて、

■ ここ最近、都では漆黒の衣に身を包んだ色黒の美青年が目撃されている。光源氏に勝るとも劣らない顔立ちのこの者は、輝く美貌の光源氏に対して「闇光源氏(やみひかるげんじ)」と呼ばれている。

という怪しい噂を耳にすることができる。


紫式部

紫式部の情報を手に入れた探索者は、彼女について探ろうとするだろう。紫式部は都の東、中河の地にある屋敷に住んでいる。使用人に事情を告げて面会を求めると、「丁度、紫式部がとある事情で大変に困っており、相談に乗ってくれるというのならば、紫式部に会わせることができる」と言われる。 使用人に通されて彼女の書斎のふすまを開けると、文机に向かっていた紫式部は叫び声をあげながら、机の上に広げていた何かを大慌てで隠そうとする。〈目星〉のロールに成功した探索者は、彼女が隠したものが手書きの薄い書物だったと気づくことができる。
探索者が問い詰めると最初のうちは「こ、これは違うのだ!」などと必死に抵抗しようとするものの、対人関係に関する技能や能力値の判定に成功するか、さらに深く問い詰めたりすれば、やがて観念して「光源氏の薄い本を書いていた」と悔しそうに白状する。尚、源氏物語は物理的には決して薄くはない。ここでいう薄いとは同人誌のことを指していうような概念的な薄さを表している。
この紫式部の正体は、平安京に住む人類を調査するため精神交換によって遥かな過去からをしてやってきたイス人だ。ちなみに本来の紫式部の精神は、過去の世界でイス人の肉体におさまり、膨大な書物を内包した図書館でこの時代の出来事などを書き記す仕事に従事していることだろう。
この時代にやってきた彼女は、平安京に住む人類を調査するうちに光り輝く源氏の君の存在を知り、すっかり彼の魅力に取り憑かれてしまう。実は彼女はこれまでも何度か、様々な時代にタイムスリップした経験があり、この時代から約1000年後、2020年代の日本で同人誌というものに触れていた。彼女はその知識に基づいて、この時代の推しである光源氏の行動を同人誌風に書き残そうと、彼の行動を観察しているのである。
ところが、最近になって、彼女の元に「源氏物語を書くのをやめろ」と書かれた差出人不明の脅迫文が日に何通も届き始める。何としても物語をかきあげたい彼女はずっと手紙を無視していたのだが、しばらく後に光源氏が姿を消してしまったのだ。光源氏がいなくては物語の続きを書くことができないと困り果てていた。
実は紫式部には犯人の目星がついている。それは彼女の宿敵である清少納言だ。清少納言は自分の知識や才能を周囲に自慢してチヤホヤされることが好きな人物で、「をかし」などというけったいな価値観に基づいた様々な物事の洞察を記した書物を配布し、華やかな貴族たちの間で高い人気を誇っている。しかしそんな彼女の前に、紫式部という強大なライバルが現れた。イス人である紫式部は人間を凌駕する知性を持っており、目立ちたがりの清少納言にとっては目の上のたんこぶなのだ。「源氏物語」のことをまだ周囲には秘密にしているのだが、彼女は持ち前の人脈でどこかからかその噂を聞きつけたらしい。そして新作の邪魔をしようと手紙をよこし、それでも辞めないとみると、ついにはモデルである光源氏を誘拐してしまったのだ。


清少納言

清少納言は時の帝の皇后・中宮定子に仕えているが、現在、都で彼女の姿を見つけることはできない。探索者の中に官位を持つ役人がいれば、後宮に出入りする清少納言に親しい女房などから彼女の話を聞くことができるだろう。そうでない場合も、対人関係に関する技能ロールに成功すれば、人づてに清少納言の知り合いを紹介してもらうことができるだろう。また〈芸術:和歌〉のロールに成功して相手を感動させることができれば、相手の協力を取り付けることができる。
こうして関係者に清少納言のことを尋ねると、彼女がここしばらく屋敷に戻っておらず、主である中宮定子も心配をしているという情報を手に入れることができる。さらに彼女の行き先についての心当たりなどを尋ねると、彼女の机に残されていたという手紙を見せてもらうことができる。キーパーは次のプレイヤー資料を提示する。

春はあけぼの。
やうやう白くなりゆく山ぎは、少しあかりて、
紫だちたる雲のほそくたなびきたる。
(清少納言「枕草子」より)

これは枕草子の中の一文であるが、実は清少納言の行き先のヒントを表している。探索者が明け方に都から周囲の山際を見ると、東の山の端に朝日の光とは異なるうっすらとほのかな光が見える。さらにそこから大量に黒紫色をした雲のような煙のようなものが立ち上っているのである。やがてその雲はみるみるうちに都の上空へと広がっていき、日光が遮られて、周囲は闇に閉ざされていく。探索者は何かの謎解きかと考えて必死にこの文章の意味を探ろうとするかもしれないが、時間がかかるようであれば、山を気にし始めた段階で山ぎわの異様な事態に気づいたことにするといいだろう。さらに〈目星〉に成功した探索者は、煙が立ち上る山の端にある洞窟の入り口に気づくことができる。


山の洞窟

この場所は都から歩いて半時(1時間)ほどのところにある。ただし探索者の少なくとも1人が〈ナビゲート〉の判定に成功しないと、途中で道に迷って倍の時間がかかってしまう。洞窟に近づくと、次第に周囲が紫がかった奇妙な霧に覆われてくる。その霧はやがて完全に日光を遮り、昼間だというのに丑三つ時のような暗さになる。ここで〈聞き耳〉ロールに成功した探索者は、暗闇の中からバサバサと、鳥かコウモリのような何かが巨大な翼をはためかせるような不気味な音を聞く。この音の正体は、探索者の様子を探っていた闇光源氏だ。怪物は洞窟に近づいてくる探索者の動向を探っているだけで、襲いかかってくるようなことはしない。探索者がその存在に気づくと怪物は闇の中へと気配を消していく。もしも探索者が明かりなどで照らそうとすれば、その奇怪な生物の姿を一瞬だけ目撃してしまうだろう。それは人とコウモリをかけ合わせたような冒涜的な姿で、頭部には燃えるような3つの目が光り、巨大な翼をはためかせて闇へと消えていく。そのような怪物を目撃した探索者は1/1D10の正気度ポイントを失う。
探索者が周囲を見渡せば、闇の奥にうっすらと漏れるかすかな光を発見することができる。探索者が都から見えた光と比較しようとしたりアイデアロールに成功した場合は、都から見えた光はもっと白くはっきりとしており、異なる光であったと気づくことができる。実はあの時見えていたのは光源氏の放った光であり、今見えているのは洞窟内部に設置された松明のものである。内部は岩で出来た天然の洞窟で、昼間でも暗くじめじめしている。通路に沿っていくらかの松明が岩の壁に固定されているものの、明かりは極めて弱くどうにか足元から数m程度先までの視界を確保できる程度のものだ。探索者が望むなら、それらの松明を壁から外して持っていくこともできる。
薄暗い洞窟を進むと、やがて開けた場所にでる。そこは直径20mほどの空間で、奥には木製の格子で区切られた牢が見える。探索者が近づくと、牢の奥から「そこにいるのは誰だ。やつらの仲間か?」という男の声が聞こえてくる。その声は弱ってはいるものの、聞くだけで持ち主の整った美貌が思い浮ぶような美声だ。牢の中をよく見たり明かりで照らせば、奥でうずくまっている光源氏の姿を発見できる。光源氏は噂に違わぬ美貌の持ち主で、女性の探索者が彼の姿を見た場合には、そのあまりの美しさに0/1D6の正気度ポイントを失ってしまうほどだ。しかし長く暗闇の中に幽閉されていた影響で輝きは薄れ、ずいぶんと弱っている様子であることが分かる。彼が囚われている牢屋には扉があるものの、丈夫な錠前(海老錠と呼ばれる、奈良・平安時代の錠前)で鍵がかけられており、開けるためには〈鍵開け〉ロールに成功するか、5点以上のダメージを与えて錠前あるいは扉を破壊する必要がある。さらにいずれの場合も、実行するには3ラウンド以上の時間を要する。


闇光源氏計画

探索者が光源氏を助けに来たことを告げたり錠を開けようとすると「早く逃げるんだ。彼らに気づかれてはならない」と声を荒げていう。探索者が彼を閉じ込めた犯人に聞き出そうとすると「私に成り代わろうとしている不届き者だ。清少納言を操って、私を亡き者にしようとしているんだ」と答える。
いくらかのやり取りをしていると、背後から「そこまでよ」という女の声が聞こえる。振り向けば、洞窟の入り口を背にして立つ男女の姿がある。女は着物を羽織り、手には「枕草子」と書かれた書物を持っている。その横に立つ男は黒い衣を身に着けた色黒の美青年で、邪悪な笑みを浮かべながら静かに様子を伺っている。その美貌は光源氏をも凌ぐほどだ。これまで都で情報収集をしている探索者であれば、女が清少納言、男が闇光源氏だと分かる。
探索者が〈心理学〉や〈精神分析〉あるいは〈目星〉などのロールに成功した場合、清少納言がどこか虚ろな表情で焦点の定まらない目をしていることに気づくことができる。彼女は「やっぱり…紫式部の手の者ね……あの女に源氏物語を書かせるわけにはいかない。私の枕草子こそが最高なの……邪魔をしないで!」と探索者を狂気の視線で睨みつけるように言う。探索者が清少納言にこんなことをする理由を聞いたり、やめるよう説得しようとすると、彼女はうわ言をつぶやくように次のようなことを説明しはじめる。

■ この者(闇光源氏)は預言者で、未来の世界で紫式部の書いた「源氏物語」が、私の「枕草子」よりも高く評価されていると教えてくれた。
■ 未来の人間たちは分かっていない。枕草子こそが最高の芸術なのよ!
■ 枕草子のすばらしさを未来人に分かってもらうためには、源氏物語をこの世から消し去るしかない。
■ 源氏物語を書かせるのを阻止するために、闇光源氏の手を借りて光源氏を捉えたのに、邪魔をしないで。

また探索者が闇光源氏について清少納言に尋ねると、次のように受け答えをする。

■ ある晩に、私の力になりたいといって訪ねてきた。
■ 彼は私が知りたいことを何でも教えてくれる。
■ 正体は教えてくれないけれど、身なりからしてもきっととても高貴な方よ。

彼女の様子がおかしいことに気づいた探索者は闇光源氏を問いただそうとするだろう。闇光源氏は涼しい顔をして次のように答える。

■ 彼女とは利害が一致したから、計画に協力してもらうことにした。光源氏を消すための計画、闇光源氏計画に。
■ 私は光が苦手だから、彼のような眩しい人間は邪魔なのだ。
■ 彼の力は奪わせてもらった。もう光源氏は光らない。ただの源氏だ!
■ そして今度は私の物語を清少納言に書いてもらう。私こそが光源氏になるのだ!!

話が終わると、闇光源氏は正体を現す。全身から漆黒の闇が吹き出すと、手足が異様に伸び、その先端からは長い鉤爪、背中からは巨大なコウモリの翼が生えてくる。口は耳元まで裂けて鋭い牙が伸び、暗闇の中、燃えるような3つの目が不気味に光る。変異した闇光源氏の姿を目撃した探索者は1/1D10の正気度ポイントを失う。


闇光源氏(怪物の姿)
STR 28 CON 20 SIZ 24 INT 86 POW 100 DEX 19 APP 18
耐久力:44
DB:+2D6 MP:100 移動:8
攻撃の種類:鉤爪 90%、ダメージ 2D6
冒涜的な和歌 100%、ダメージ 和歌を聞いた者全員に1D6のダメージ+0/1D3の正気度喪失。気絶していたり歌が聞こえない探索者には効果がない。〈回避〉ロールに成功した探索者は、自分の耳を塞いでダメージを無効化することができる。
装甲:なし。ただし物理的な攻撃では傷つかない。
その他の特徴:強い光に弱く、直射日光と同程度の光を浴びると毎ラウンド10D6ポイントのダメージを受ける。ろうそくや松明程度の弱い光は、苦手ではあるがダメージを受けるほどではない。
正気度喪失:闇光源氏の化け物の姿を見て失う正気度ポイントは1/1D10

◆冒涜的な和歌
闇光源氏が詠む和歌で、5・7・5・7・7の形式にならってはいるものの、どのような言語とも似つかない奇怪な語句で構成されている。この歌を聞いた者は激しい頭痛を覚え、肉体的・精神的に消耗させられる。

にゃるしゅたん
にゃるらとてっぷ
にゃるしゅたん
にゃるらとてっぷ
くとぅるふ・ふたぐん


結末

『闇にさまようもの』に変異した闇光源氏が探索者に襲いかかろうとしたところで、探索者の背後から本物の光源氏が話しかけ、自分ならあの悪鬼を退散させられるかもしれないと説明する。しかし今はあの物の怪に力(実際にはマジック・ポイント)を奪われていて、彼本来の力を発揮することができないのだ。だがここに光源氏が短時間で力を取り戻す方法が1つだけある。それは趣のある雅な和歌によって彼の精神力を回復することだ。
現在の光源氏のマジック・ポイントは1ポイントだ。光源氏が真の力を発揮するには、”光源氏”あるいは”光”をテーマにした和歌を詠むことで、少なくとも彼のマジック・ポイントを12ポイントまで回復させる必要がある。
探索者は1ラウンドに1回、和歌を詠むことができる。和歌を詠むには〈芸術:和歌〉あるいはAPPの2倍のロールに成功する必要がある。この判定に通常成功すると、光源氏のマジック・ポイントが1D3ポイント回復する。もしこの判定にスペシャル以上の結果で成功した場合、光源氏のマジック・ポイントは倍の2D3ポイント回復する。
ここでプレイヤーが実際に和歌を作って詠み、キーパーがその和歌に感動した場合には、このロールに最大で+50%までのボーナスを与える。さらにこのロールに成功した場合には、光源氏のマジック・ポイントは2D3ポイント回復する。和歌を詠み慣れていない現代人にとって即興で歌を作るのはなかなかに困難を極めるため、キーパーはプレイヤーの努力を尊重して、とりあえず和歌を詠めたら+50%のボーナスをあげることにしてもいい。またマジック・ポイントを回復する際には、光源氏は探索者が詠んだ短歌を称えるコメントを返してあげるといいだろう。
やがて光源氏はマジック・ポイントが増加するに従って光を放ち始める。そしてマジック・ポイントが10ポイントを超えると、光源氏は立ち上がり「よき歌であった。見せてやろう。これが私の本当の力だ!」と言って、眩いばかりの輝きを放つ。するとその輝きを受けた闇光源氏の体が炎に包まれていく。闇光源氏は不敵な笑いを浮かべ「なかなかに良い歌であったぞ。だがこれで終わりではない。私は何度でも…」などと語りながら、やがて完全に焼き尽くされて跡には僅かな灰だけが残される。
闇光源氏を撃退することに成功すれば、清少納言は洗脳が解けて正気を取り戻す。彼女はなぜ自分がこんな場所にいるのかも覚えていない。光源氏は「お前たちの歌のおかげで、輝きを取り戻すことができた。感謝するぞ」と探索者に礼を述べる。こうして探索者の働きによって闇光源氏は打ち倒され、京の都には平和と輝きが取り戻された。光源氏の救出に成功した探索者は1D10の正気度ポイントを獲得する。さらにシナリオ中に良い和歌を詠んだ探索者は、ボーナスとして1D6ポイントの正気度ポイントを獲得する。



本シナリオは「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
(C)サンディ・ピーターセン/リン・ウィリス/中山てい子/坂本雅之/株式会社KADOKAWA
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